あなたの会社の事業企画って、具体的に何をする人ですか?——企画職(事業企画・営業企画・経営企画)におけるハイクラス採用の基本は「要件定義の分解」から

パーソルキャリア株式会社

ハイキャリア支援統括部 エキスパート 中谷正和(なかたに・まさかず)

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ハイキャリア支援統括部 キャリアアドバイザー 梅田宅真(うめだ・たくま)

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多くの企業が新規事業展開を加速させる中、企画職(経営企画・事業企画・営業企画)の採用ニーズが急速に高まっています。パーソルキャリアによると、2019年度から2022年度にかけて企画職の新規求人は増え続けており、特にその中で年収600万以上の求人においては2倍以上に増加しています。多くの企業が企画職において、中核となる人材を求める企業が多いことがわかります。

興味深いのは、募集する企業が企画職のハイクラス人材を「異業界」から採用するケースが多いこと。レジュメだけでは見えてこない人材の可能性を察知し、自社に迎え入れるためには何が必要なのでしょうか。パーソルキャリアでハイクラス人材の企画職領域を担当するCA(キャリアアドバイザー)の中谷氏・梅田氏に、要件定義や求人票の書き方、選考プロセスにおけるポイントなどの具体策を聞きました。

獲得競争が激化する企画職。母集団形成のポイントは「要件定義の分解」

——直近の企画職の転職市場について、どのような印象を持っていますか?

中谷氏:私は2018年からこの領域に携わっています。コロナ禍の影響を受けて多くの職種で採用ニーズが減少する中、企画職についてはまったく採用ニーズが衰えませんでした。今後も、ビジネスの旗振り役である企画職の採用ニーズは高まる一方だと感じています。

梅田氏:多くの企業が本業以外の領域へ踏み出そうとしていることも、人材の外部調達ニーズが高まり続けている要因だと思います。実際に私が関わった企業でも、自社内に新規事業領域に詳しい人材が乏しいため、外部から迎え入れる動きが盛んになっていますね。フィンテックやSDGs、DXなど、多くの企業が注目する領域は特に獲得競争が激しい状況です。

——転職希望者側のトレンドについてもお聞かせください。企画職においては、異業界へ移る人も多いのだとか。

中谷氏:スキルや年齢にもよりますが、「“他”を見てみたい」という希望を持ち、異業界を志向する転職希望者が増えていると感じます。企画職としてはさまざまな事業や環境を経験することに大きな意義がありますし、ハイクラス人材は今の会社でも一定の評価を受けているため、同じ業界で働くなら無理をして転職する必要はないという人も多いんですよね。

梅田氏:企業側の視点で考えれば、想定外のフィールドにいる転職希望者にも大いに可能性があるということです。採用時にはどうしても「ど真ん中」の経験者を求めようとする傾向があり、こうした可能性に気づいていないケースも多いと感じます。

——企業が思っている以上に、母集団形成の幅を広げていけるということでしょうか?

中谷氏:そうですね。「企画」という言葉で一括りにすると、要件定義がぼんやりとしてしまいます。ぼんやりとしているがゆえに母集団が限られてしまうこともあるんです。営業企画や事業企画、経営企画といった職種は、企業によって定義がさまざま。例えば、企業によっては事業企画として戦略策定に携わるポジションもあれば、プロダクトやサービスをつくっていくポジションもあります。そのため採用時には、自社が求める企画職の定義は何なのか、そこにはどんなスキルや経験が必要なのかという「要件定義の分解」が重要になると考えています。

企画職に求める本当のスキルは事業部門のトップに聞くべき

 

——要件定義を「分解する」とは?

中谷氏:採用要件を「役割」と「ビジネス特性」で分解することで、採用すべき人材が明確になります。「役割」とは、担当領域やミッションなどを指しており、例えば、サービスをつくるフェーズなのか、サービスを広めるフェーズなのかによっても任せられる役割は変わってきます。また「ビジネス特性」とは、商品やサービスの特徴や顧客属性などを指しており、例えば、BtoB領域なのか、BtoC領域なのかなど、対象ビジネスの親和性で必要なスキルを定義することができます。

梅田氏:例として、電子決済プロダクトを運営する企業を挙げます。この企業は将来的に保険事業や金融事業の展開を構想しており、そのための土台として電子決済プロダクトを成長させていきたいと考え、新規事業企画のポジションを募集していました。

前述した採用背景を踏まえ、このポジションではどんなミッションを任せたいのか。採用候補者にはどんなことを期待しているのか。実際に新規事業部門へのヒアリングでこれらを深掘りしていく中で、本ポジションに求めることは「顧客体験を高めるためのサービスの仕組みを考え、最適なUI/UXを考えられるスキル」ということが明確になりました。

中谷氏:この要件に当てはまるのは、他社では新規事業企画という肩書きが付いていない人かもしれません。例に挙げたケースで言えば、保険や金融業界の既存サービスに対する課題や不満についての知見の方が重要だと言えます。何となく「新規事業企画の経験者」を求めても、合致する人は見つけられない可能性が高い。しかし分解した要件に基づいて考えれば、これまでは想定していなかった業界や職種に対象を広げて母集団を形成できます。

——それぞれの採用ポジションでこうした深掘りを行うのは、人事・採用担当者だけでは難しいようにも感じます。

梅田氏:企業によっては100を超えるポジションの採用が動いていることもあるので、人事・採用担当者だけでミクロの対応を進めていくのは難しいですよね。一つのポジションについて明確に要件定義をしていくためには、事業部門のトップに話を聞くことも重要です。

中谷氏:事業部門のトップだからこそ、求人票の情報だけでは見えてこない要件を語れるのではないでしょうか。たとえば新規事業の事業企画人材を採用したいと考えている場合、既存の人材は何ができて、何ができないのか。必要なのは企画・構想する人なのか、具体的にプロダクト開発を進める人なのか、もしくは営業・マーケティング戦略を描ける人なのか。こうした粒度で採用したい人材の要件を検討し、募集ポジションの魅力をアピールするために、私たちから「事業部門トップにお会いしたい」とお願いするケースも多いですよ。

「ゼネコン→IT業界」の異業界転職が実現した、意外な決め手とは

 

——転職希望者のうち、特にハイクラス人材は、求人票のどのような情報を重視するのでしょうか。

中谷氏:事業・サービスの魅力や将来性はとても重要な要素です。新規事業の場合は「これから」の話となりますが、狙っているマーケットやその市場規模・顧客属性といった情報も含めて、事業が目指す姿を明確に伝えていただきたいですね。

また、働く人の情報もハイクラス人材は重視しています。事業責任者やチームメンバーはどんなバックグラウンドを持っていて、事業やサービスにどんな想いを持っているのか。企画職のハイクラス人材はビジネスの側面から人を見る傾向が強いので、どのような仲間とどんなビジネスをつくっていくのかに興味・関心があります。たとえ知名度で劣っていても、この観点を強く意識し、コミュニケーションを重ねることで入社していただける可能性を高められます。

梅田氏:企業側は、言葉の抽象度を高めて求人票に記載した方がいいと考えるケースが多いかもしれません。しかしハイクラス人材は事業の具体や、自分自身に与えられるミッションの具体を知りたいと考えています。この点は、細かく分解した要件定義に基づいて伝えたいところですね。

——こうしたポイントを踏まえた採用成功事例を教えていただきたいです。

中谷氏:新規事業企画として大手ゼネコンからITサービス企業へ転職成功した、30代の方の事例を紹介します。

ITサービス関連の「新規事業企画」ポジションにて、ゼネコン出身の「事業企画」経験者の採用が成功しています。この方はゼネコン時代に事業企画の経歴と、ITアプリのサービス開発を一部担当していたこともあり、求めているITサービス関連の経験もある程度あった方となります。しかし、最終的に採用が決定した評価ポイントを伺うと「多様な年齢・属性のチームにおけるプロジェクトマネジメント」の経験が買われたことだったんです。

その方はITアプリのサービス開発としては経験が浅かったのですが、ゼネコンでさまざまなプロジェクトをマネジメントした経験をお持ちでした。設計や施工管理、職人さんなど、職種もバックグラウンドも多様で、自分の親と同じくらい年の離れた方々をマネジメントした経験もお持ちだったのですが、業界的には珍しいことではなく、その点をご自身の強みとして一切PRしていませんでした。一方、ITサービス企業側では開発チームや運用チームがまさに同じような環境にあり、職種や年齢層がさまざまなメンバーを束ねる力が求められていたんですよね。両者の強みとニーズが合致した結果、異業界からの採用が決まりました。ITサービスなどの同業界の経験を重視していたら実現できなかったマッチングです。

このケースのように、実際の採用支援においては私たちも「このような経歴を持つ方がこの会社のこのポジションに採用されるケースもあるんだ!」と意外性を感じることがたくさんあります。企画職の採用には、レジュメだけでは測れない隠れた強みが眠っているのだと実感しています。

転職理由はキャリアアップだけではない。多様化するハイクラス人材の「転職でかなえたいこと」を理解するためには

 

——面談などの選考プロセスにおいて、応募者の入社意向を醸成するために意識すべきことは何でしょうか?

梅田氏:採用がうまくいっている企業では、カジュアル面談をうまく活用しています。自社への興味を深めてもらうには、選考要素を排して事業部門側の関係者と気兼ねなく話せる場をつくるべきだと思います。

中谷氏:ハイクラス人材は現職でもさまざまな責任を背負っているため、転職には慎重にならざるを得ません。そのため応募者側からカジュアル面談を希望するケースも増えていますね。こうした応募者の希望や要望に対して柔軟に応え、寄り添ってくれる企業は、採用決定率が高いと感じています。

梅田氏:ハイクラス人材とは言っても、応募者自身が今後どんなことに挑戦していきたいのか、必ずしも言語化できているわけではありません。また、ひたすらキャリアアップだけを目指しているわけではなく、「もう少し余裕を持って働ける職場へ移りたい」と考えるハイクラス人材も珍しくありません。応募者の意向も多様なので、カジュアル面談などの場を通じて、個々の意向を深く理解することが大切です。

——企画職のハイクラス人材が入社する際の最終的な決め手は?

梅田氏:オファー額などの待遇面はもちろん重要なのですが、それ以上に採用候補者が「事業・サービスを通じて自分はどんなキャリアを描けるのか」を明確にイメージできる状態こそ、最終的な入社意向を固めてもらうために欠かせないポイントだと思います。目の前の業務内容だけでなく、5年先、10年先のキャリアビジョンまで示せる企業は強いですね。

中谷氏:興味深いのは、最近では大手志向ではない転職希望者が増えていること。ベンチャーや中堅・中小企業に移り、自分が中心になって活躍したいと考えるハイクラス人材も少なくないんです。経営陣や事業責任者が自ら事業の展望を語り、表に出ていない情報を詳細に応募者へ伝えられれば、企業規模にかかわらず採用成功の可能性は高まると考えています。

取材後記

企業によって定義や求める要件がまったく違うのに、同じように使用している「経営企画」や「事業企画」などの職種名。抽象度が高く表面的な情報が書かれた求人票を見て選考を受け、「結局何の仕事をするのかわからなかった」という感想を残す転職希望者も少なくないそうです。ハイクラス人材を募集する背景には、事業推進に対する大きな期待・ミッションがあるはず。一方で、企業の人事・採用担当者の力だけでその全てをハイクラス人材に伝えるのも難しいと感じました。ハイクラス人材を採用する事業の責任者を巻き込み、具体性のあるミッションを熱量と共に伝えることが大事だと感じました。

企画・編集/森田大樹・白水衛(d’s JOURNAL編集部)、野村英之(プレスラボ)、取材・文/多田慎介

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