採用のプロが指南する「⾃社の魅⼒の⾒つけ⽅・伝え⽅」。人事・採用担当者が自社の魅力を引き出す――、その効果的なメソッドを解説


Cast a spell合同会社
代表 青田 努(あおた・つとむ)
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働く人にどのような魅力・対価(報酬)を提供できるか、自社の魅力を見つける「7つの切り口」が必要
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メッセージ設計の5つのステップにおいて、最も重要なのは「メッセージの一貫性」
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「DO(やるべきこと)」の質を上げるためにはプランが必要。DOにおぼれないために1日10分でも「考える時間」を捻出する
人手不足と採用難に直面する企業では、自社の魅力を正しく把握し、訴求力ある情報発信の必要性が高まっています。
そのような状況を踏まえ、Cast a spell合同会社 代表の青田努氏を登壇者にお迎えし、人事・採用担当者向けの講座、「自社の魅力の見つけ方・伝え方講座」が開催されました。
講座には、さまざまな企業の人事・採用担当者が参加し、自社の魅力を発見し、魅力を伝える手法を学びました。以下に、当日の講座内容をご紹介します。

自社の魅力を見つける「7つの切り口」とは?
企業が学生や求職者に向けて自社の魅力を発信するためには、まず、自社の魅力を見つける必要があります。とは言え、「魅力」というキーワードは漠然としており、どのように魅力を認識すればよいかわからないこともあるでしょう。
そういう場合には、いくつかの切り口に分けて自社の魅力を分析し、言語化してみてください。そうすることで、徐々に魅力がクリアになっていくはずです。
働く人にどのような魅力・対価(報酬)を提供できるのか、以下の切り口から分析していきましょう。
魅力を見つける7つの切り口
01. 納得報酬 02. 浪漫報酬 03. 成長報酬 04. 関係報酬
05. 環境報酬 06. 金銭報酬 07. 安心報酬
それでは、7つの切り口それぞれを解説していきます。
01:「納得報酬」
納得報酬とは、事業内容や経営判断に説得力があり、納得感を得られることを指します。ハイパフォーマーであればあるほど、「納得報酬」を重視する傾向が見られます。
【例】
・事業内容に社会的意義を感じられる
・役に立っている実感が得られる
・経営判断や方針に納得感がある など
02:「浪漫(ろまん)報酬」
浪漫報酬とは、業務を通じて冒険心やワクワクを満たすことができることを意味します。急成長企業では浪漫報酬が高い傾向がある一方で、一定規模まで成長した企業では、安定したからこそ得られる浪漫もあり、それぞれ挑戦できることは異なります。
【例】
・会社のビジョンにワクワクできる
・エキサイティングな挑戦ができる
・変化や未知のテーマが多く、なかなか飽きない など
03:「成長報酬」
成功報酬とは、仕事や人間関係を通じて、成長を実感できること。成長支援の制度や成長を実感できる機会も、成長報酬に含まれます。
【例】
・仕事を通じて成長実感が得られやすい
・自身の成長につながる上司・先輩・同僚などに恵まれている
・成長を支援する制度や仕組みがある など
04:「関係報酬」
関係報酬とは、職場の雰囲気、人間関係、働き心地がよいことを意味します。転職理由についてのアンケート調査で常に上位にランクインしているのが、「会社の雰囲気」や「人間関係」です。
人間関係は、人と組織をつなぐ重要な要素である一方、キャリアに役立つコネクションづくりのような、打算的な意味合いが含まれることもあります。
【例】
・職場の雰囲気や関係に恵まれている。
・仕事を通じて貴重な人的ネットワークが得られる など
05:「環境報酬」
環境報酬とは働きやすい環境のことで、具体的には、社内制度などが充実していたり、自分の能力が発揮しやすい社風であったりすることなどが挙げられます。近年は、リモート勤務の可否も、環境報酬に含まれます。
【例】
・自分の能力が発揮しやすい環境が整っている
・働きやすい制度がある など
06:「金銭報酬」
「金銭報酬」はずばり、給料に関する事項です。これは潤沢な経費・出張費や、充実した内容の福利厚生も含みます。
【例】
・給料がいい
・魅力的な福利厚生・特権的扱いがある
・ステータス欲が満たされやすい など
07:安心報酬
「安心報酬」とは、業界や企業の安定性のことを意味します。出産・育児・介護などでライフステージが変わっても、安心して働き続けられる風土を表します。
【例】
・業界や企業としての安定性がある
・ライフステージに応じた働きやすさ など
自社の中で積極的に採用したい職種や、採用が難航しているポジションをイメージして、「このポジションなら何をアピールできるか?どんなことが言えそうか?」と、7つの切り口から、自社の魅力をひとつひとつリストアップしていきます。
リストアップしてみたときに魅力が弱い点が見つかった場合には、その点を直視し、改善するための機運をつくっていく必要があります。そのプロセスも含めて、健全な進歩ととらえましょう。

魅力を伝えるための5 つのステップ
自社の魅力を分析したら、魅力を伝えるための採用メッセージを設計していきます。メッセージの設計に必ず含めてほしい要素があります。以下の5ステップに従って進めてみてください。
【採用におけるメッセージ設計の鉄則】
Target・・・ 誰に興味を持ってもらいたいか?(スキル/経験/属性など)
Insight・・・「Target」が悩んでいることや、魅力を感じる点は?
Benefit・・・「Insight」に対して、自社が提供できる「Benefit」は?
Fact・・・「Benefit」を信じてもらえるような「Fact」は?
Creative・・・「Benefit」や「Fact」が伝わりやすい伝え方は?
それでは、5つのステップについて説明していきます。
●STEP1:Target(ターゲット) …誰に興味を持ってもらいたいか?
まずは、どんな人材に興味を持ってもらいたいのか、ターゲット(人物像)を明確にします。ターゲットに求める保有スキル、経験、属性などを整理し、「7つの報酬」のうち、どの報酬の訴求力が高いのか考察します。
●STEP2:Insight(インサイト)…「Target」が悩んでいることや、魅力を感じる点は?
ターゲットを定めたら、ターゲットが何に悩んでいて、どんな魅力を必要としているのか考察しましょう。
特に、転職市場においては、多くの求職者は現在の職に何らかの悩みを抱えています。むしろ、悩みや不満のない人が、人材紹介サービスに登録するケースのほうが少ないでしょう。
ターゲットが転職市場に出てきた背景を考察することで、訴求力の高いメッセージにつながります。「ターゲットを見る」だけでなく、「ターゲットが見ているものを見る」ことが重要です。
●STEP3:Benefit(ベネフィット)…「Insight」に対して、自社が提供できる「Benefit」は?
ターゲットの悩みや企業に求めている魅力を分析したら、自社から提供できるベネフィットやメリットを分析します。STEP2の「Insight」のステップを踏まずに「Benefit」を押し出すと、ターゲットにメッセージが届きにくくなりますので、注意が必要です。
●STEP4:Fact(ファクト)…「Benefit」を信じてもらえるような「Fact」は?
自社が提供できるベネフィットについて、ターゲットが具体的なイメージを抱けるような実例を伝えます。
例えば、ターゲットが「裁量権」というベネフィットを求めていたとします。「裁量権」は、さまざまな会社が使用している紋切り型のキーワードで、目新しさがありません。
また、一口に裁量権といっても、濃淡があってイメージしにくい言葉です。言葉をかみくだいて、具体的な実例で伝えたほうがいいでしょう。
●STEP5:Creative(クリエイティブ)…「Benefit」や「Fact」が伝わりやすい伝え⽅は?
設定したターゲットのインサイトを分析し、求められているベネフィットを洗い出したら、ターゲットに届けるためのメッセージを構築していきます。
ポイントは、伝わる言葉で届けること。凝ったキャッチコピーを使う必要はありません。重要なのは、ターゲットにきちんと伝わることです。ターゲットが活用している媒体やサービスを選定して発信します。
メッセージ設計の5つのステップにおいて、最も重要なのは「メッセージの一貫性」です。
ターゲットを絞っていないインサイト、インサイトを踏まえていないベネフィット、ベネフィットがイメージできないファクト……。一貫性のないメッセージは、ターゲットに届きにくくなりますので、体系的なメッセージ設計を心がけることが重要です。

【Q&A】参加者からの質問に登壇者が回答
「自社の魅力の見つけ方・伝え方講座」で、受講者から寄せられたQ&Aをご紹介します。
【質問1】「7つの報酬」の話がありましたが、キャリア採用では、求職者に応じてアピールポイントを変えるべきですか?
青田氏:変えるべきです。人によって求めている報酬や、7つの報酬の優先順位が異なります。
会社によって報酬の分布の違いがあるかもしれませんが、面接では、目の前にいる相手の考えを聞いてインサイトを探ったうえで、あらかじめ手元に準備したリストから伝えるメッセージをより分けると良いでしょう。
【質問2】「納得報酬」と「浪漫報酬」の分類についてもう少し詳しく教えてください。
青田氏:くだけた言い方をすると、納得報酬は「頭寄り(頭で納得できる)」、浪漫報酬は「ハート寄り(心がワクワクする)」という感じです。きっちりと分かれるものではなく、地続きであるかもしれません。
ここで心にとどめていただきたいことは、「7つの報酬」をリストアップする目的は魅力を把握することであり、分類することが目的ではない、ということです。
そして、考案した魅力は定期的にアップデートすることが必要であることも、ひとつ覚えておいてください。
【質問3】採用メッセージを作るときに、現場を巻き込むコツは?
青田氏:現場からの声が反映されやすいキャリア採用に対し、新卒採用では人事が主導する企業が多いと思います。
その場合、人事側から現場に対して「相談に乗ってほしい」と声をかけて情報収集をすれば、採用メッセージに現場の声を反映しやすいのではないでしょうか。
【質問4】採用業務に携わるのが初めてです。「これだけは心得ておいた方がいい」ということは?
青田氏:採用業務は、「DO(やるべきこと)」が多いのが実情です。そのため、DOをこなして仕事をした「つもり」になってしまうこともあります。
「きこりのジレンマ」の寓話(ぐうわ)を聞いたことがある人もいるかもしれません。
きこりが斧(おの)で木を切っていたけれど、斧がだんだん切れなくなっていきます。「効率が悪くなっているのに、なぜ研がないの?」と聞かれて「だって忙しいから」と答えた、という寓話です。
DOは大切ですが、大量のDOの質を上げるためには、プランが必要です。あまり効果のないDOがあったらやめる。何かをやめないと新しいことができないのなら、DOを減らす。
そして効果のあったDOの数字を計測しながら、やるべきことの優先順位をつけていきます。
今、どんな取り組みが成果に結びついているのかデータを集め、効果がないことはなくして、DOの取捨選択をしていきます。DOにおぼれないために、1日10分でも「考える時間」を捻出することも大切だと思います。
【質問5】メッセージのつくり方についてのレクチャーがありましたが、特定の求職者に向けたメッセージの訴求力を高めるには、どうしたらいいですか?
青田氏:オーダーメイドのメッセージをつくることだと思います。
例えば、スカウトサービスでスカウトしたい人がいたとします。その人のレジュメを読み込んで、魅力の伝え方のフローに沿ってその人に向けたメッセージを設計します。
インサイトとベネフィットの仮説が合っていれば、メッセージの訴求力は高まるでしょう。相手に今すぐに転職するつもりがなくても、カジュアル面談につなげていくことは効果的ですのでお勧めします。
【質問6】昨今、転職エージェントの登録者数が多くなっています。転職意欲はあるものの、実際には転職活動を行っていない潜在層に対して魅力を伝えるには?
青田氏:転職活動を行っている顕在層の採用が難しくなると、潜在層を狙いに行く組織もあるでしょう。
しかし、潜在層の採用に注力してもコストに見合わないことが多いため、顕在層の優先順位を高くしておくことが大前提です。
とは言え、何もしないというわけではなく、潜在層に対しては何かの折に「名前を覚えておいてほしい」とアピールをしておくことで後から連絡が来ることもありますから、種まきは大切です。
メルマガなど定期的に接点を増やしていくツールがあるとより良いでしょう。
【質問7】面接・面談時に求職者が何を望んでいるのかを把握するには、どのような質問が必要ですか?
青田氏:面接のときに、自社で望んでいるポジションや、他にどんな企業に応募しているのか質問してみます。可能であれば、現在の気持ちの比重も尋ねてみましょう。例えば、「自社7:他社3」「自社3:他社4:他社3」というような感じです。
なぜその比率なのかと掘り下げていくと、相手の企業選びの軸が見えてきますし、先に紹介した「7つの報酬」の中で、どこを強くアピールすべきか見えてくると思います。
取材後記
「自社の魅力は?」と問われたとき、わかりやすく魅力を表現し、伝えることは意外と難しいものです。だからこそ、多角的な切り口で自社を客観的に見つめ、魅力のネタを「ストック」して、おくことが重要であるようです。自社を分析したら、情報の受け手となる求職者の動機や求めているものを探ることが、訴求力の高いメッセージ構築につながります。募集職種やターゲットに合わせて、少しずつメッセージを変えていくことも大切とのことでした。
[取材・編集/鈴政武尊・d’s JOURNAL編集部、制作協力/シナト・ビジュアルクリエーション]
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