たった3年で従業員数約3倍を達成!!Chatworkの「アジャイル型」採用導入で採用力をアップさせる

Chatwork株式会社

ピープル&ブランド本部
HRBP&TA部・PX部・新卒採用部 マネージャー(兼)プロダクト本部 HRBP
武田 遼介(たけだ・りょうすけ)

プロフィール
core words株式会社

代表取締役
佐藤 タカトシ(さとう・たかとし)

プロフィール

労働人口の減少などにより、採用競争はますます激化しています。厚生労働省が発表した『一般職業紹介状況(令和5年2月分)について』によれば、2023年2月時点の有効求人倍率は1.34倍、新規求人倍率に至っては2.32倍です。

一方で、企業が安定して成長するためには採用も含めた、組織戦略が必要不可欠です。国内利用者数No.1(*)のビジネスチャットツールを手がけるChatworkは、明確な経営計画ならびに戦略を掲げ、従業員数を3年でおよそ3倍に拡大させています。

今回のセミナーは、同社から全社横断のHRBPなどを務める武田 遼介氏を招聘(しょうへい)。さらにIT企業から自動車メーカーまで、さまざまな業界で採用活動に携わったキャリアを活かし、同業務などを専門に手がけるcore wordsの代表を務める佐藤 タカトシ氏にモデレーターをお願いし、Chatworkの取り組みや両者の対談から、採用・組織戦略について考えます。

(*)Nielsen NetView およびNielsen Mobile NetView Customized Report 2022年5月度調べ月次利用者(MAU:Monthly Active User)調査。調査対象はChatwork、Microsoft Teams、Slack、LINE WORKS、Skypeを含む47サービスをChatwork株式会社にて選定。

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ポイントはミッション・ビジョンに共感する人材を採用・育成すること

Chatworkの事業概要
【画像内*1】Chatworkセグメント以外の事業として、ESET社提供のセキュリティ対策ソフトウェア「ESET」の代理販売事業を展開。安定的な収益貢献となっている
【画像内*2】Nielsen NetView 及びNielsen Mobile NetView Customized Report 2022年5月度調べ月次利用者(MAU:Monthly Active User)調査。調査対象はChatwork、Microsoft Teams、Slack、LINE WORKS、Skypeを含む47サービスをChatwork株式会社にて選定
【画像内*3】2023年3月末日時点

佐藤氏:まずはChatworkさんについて、私の方から簡単に説明します。現在はビジネスチャットツールをプラットフォームとしつつ、いろいろなサービスを展開していくフェーズであり、2019年に上場して以降、一気に従業員数が拡大。3年で約3倍というボリュームであり、現在も事業と併せて拡大し続けています。

Chatworkの従業員数の推移

佐藤氏:採用におけるポイントは、ミッション・ビジョンに共感してくれる人材を、いかに集めることができるか――。同時に、入社したメンバーにも、ミッション・ビジョンに沿った動きをしてもらうことが、重要になってきます。

Chatworkのミッション・ビジョン

武田氏:私には大きく3つの役割があります。1つ目は「中途採用マネージャー」です。最適な人材を採用していくことがメインですが、あくまでマネージャーですので、複数いる社内のリクルーターをエンパワーメントすることが、私のミッションになります。

先ほどのミッション・ビジョンや経営計画、企業の理念などを基に、なぜその事業に会社が取り組んでいるのか、人員はどれくらい必要なのか。これらの認識をしっかりとメンバーに伝えることが重要だと思っています。

2つ目は「HRBPとしての役割」です。Chatworkとしてどのようなプロダクトを目指すのか。実現するにはどのような組織戦略を掲げ、組織体制はどうすればよいのか。必要な人材、評価や福利厚生といった制度などを、プロダクトの事業責任者と一緒に詰めていきます。

3つ目は「PX(People Experience)マネージャー」です。HRBPと同じく、全社を横断して最適化するような企画や運営などを行います。例えばデータを一元管理できるように整備し、経営の意思決定の判断材料にしてもらうような取り組みを現在進めています。

佐藤氏:3つの役割を担うことでの相乗効果はあるのでしょうか?

武田氏:全体を把握しているので、ペインやイシューがどこにあるのか。解決すると、どこがどのように改善するのか。そのあたりが非常にわかりやすい、と感じています。

現場と人事がワンチームとなった「アジャイル・スクラム型」で採用活動を俊敏に

佐藤氏:では続いて、採用の課題感についてお聞かせください。

武田氏:人材の取り合いが激しい現在の環境では、打ち手を固定することなく、俊敏に反復して課題を解決していくことが重要です。そしてこのような姿勢が結果として、組織の急成長につながると考えています。

佐藤氏:特に業界に限らず、IT人材はどこの会社でも欲しいですからね。その中にあってChatworkさんは、開発と人事部門がワンチームでアジャイル・スクラム体制を組むことで、現場やマーケットのニーズをまさに俊敏に伝え、採用活動に反映していると聞いています。

アジャイル・スクラム体制

武田氏:人事が持っているマーケットのトレンドやスピード感、他社の動き、採用に対する温度感などを、現場のエンジニアにもスピーディーに理解してもらうために、このようなスクラムの体制を構築しています。

そして朝会を毎日開催し、情報の共有を行います。採用や選考の状況から、イシュー、優先順位をつけたバックログやボードなども作成し、メンバー同士の目線を毎日そろえるようにしています。

選考過程で辞退者がいた場合については、辞退理由などについてヒアリングを実施。それらのデータを集めることで、何が不足していたのか打ち手を考えます。

採用担当と現場がバラバラの体制であれば1カ月ほどかかるような取り組みが、スクラム体制とすることで、わずか1週間程度でできるようになったと、手応えを感じています。

また、毎日情報共有することで採用だけでなく広報的な視点でも、認識が同じになると考えています。

佐藤氏:毎朝コミュニケーションを取られているのが、素晴らしいと感じました。また、アジャイルはエンジニアにとって普段の開発スタイルですから、取り組みやすいというメリットもあるのでしょうね。

さらにはエンジニアの気持ち的に、自分たちの環境をリスペクトしてくれたとの想いが生まれ、人事との良き関係性の構築といった点でも大きなメリットがある取り組みだと感じました。そもそも一緒に動いた方が効率的ですしね。

武田氏:仰る通りです。エンジニアの方々にとっては受け入れやすいようです。一方で人事にとっても新鮮な体制だと感じています。まず、スピーディーであること。スクラムマスターなどの役割はありますが、メンバー同士でフラットなコミュニケーションが取れていますからね。

佐藤氏:アジャイル型の採用体制を進めるに当たって、注意したことなどはありましたか?

武田氏:スクラムはあくまで方法論であり、このような取り組みを通じて、何を達成したいのかといった目的をメンバー同士で明確にすること、共有しておくことを意識しました。

佐藤氏:採用要件や数などは変化が激しい状況ですから、情報をいち早くキャッチアップし、エージェントさんへの対応含め素早く対応することのできる体制は、とても有効だと感じました。

武田氏:変化が起きるのは当たり前だと考えており、どのような体制で臨めば対応できるのか、全社一丸となって取り組めるのか。その点が重要だと考えています。新卒・中途採用に関しても、採用サイクルこそ異なりますが採用という点では同じ考えですから、基本は一緒に動いています。


全社最適な構成や制度を経営層と議論しながら構築する

佐藤氏:続いて組織における課題ならびに、その課題に対して現在取り組まれていることを聞かせてください。

武田氏:Chatworkでは10年以上続くプラットフォーム型のチャットサービスを担当している組織がある一方で、新規のプロダクトを開発したり、共通基盤を担ったりする組織やエンジニアなどさまざまなグループ会社や職種、ポジションがあります。

そしてそれぞれの組織、ポジションごとで必要となる人材や制度が異なってきます。当然、採用も変わってきますよね。組織ごとの課題も異なるでしょう。人事としては、このようなグループ全体で一元化するのではなく、それぞれに最適な内容を把握し、制度などを構築していくことが重要だと考えています。

具体的な取り組みとしては、今まさにそれぞれの組織の共通項の洗い出しや、個別最適化を進めています。そしてその際に重要だと捉えているのは、目先の課題のみに固執せず、もっと上流であり、目指すべきプロダクトを実現するための制度・組織構成を意識しています。

佐藤氏:つまり経営計画に準じた組織構成にしようと。エンジニアは組織づくりが専門ではありませんから、武田さんが人事として現場に入り、コミュニケーションを取りながら構築している最中だということですね。

武田氏:ええ。現在は週に1度の頻度でそれぞれの組織の開発責任者とコミュニケーションし、人材の最適な配置や登用、アロケーションなどについて話し合っています。

やり取りで意識しているのは、イチ部門だけの最適化で終わらないことです。Chatworkというグループ全体でのバランスや最適化を考えながら、それぞれの組織、部門に最適な人材をアサインするようにしています。

このような考えですから、他社でうまくいっているような取り組みであっても、Chatworkに導入するメリットがあるかどうかをしっかりと考えた上で検討します。人事である私が視座を上げて物事を捉えるような感覚ですね。

また、以前は最適であったけれども、今後のビジョンを見据えてどうなのかといったことも、気にしています。

佐藤氏:Howではなく、Whyを意識して取り組むからこそ、根付く制度や組織になると。何か事例をご紹介いただけますか。

武田氏:今後のグロースを見据えた際に、等級(グレード)制度や役職定義が合わなくなっていると感じ改定を試みました。その際には経営層に提案書を提出し、レビューならびにフィードバックを多くもらいました。その結果、経営視点を深く理解でき、多くの経験値を得ることができましたね。

佐藤氏:まさにHRBPらしいお仕事をされたと――。

武田氏:そうですね。HRBPはその名の通りビジネスパートナーですから、単に採用や制度の構築だけを行うだけではありません。また、経営層に遠慮して意見を控える存在でもありません。人事領域の専門家として、しっかりと意見を提言することが重要だと考えています。


採用力アップは人事と現場が定期的にディスカッションし認識を共有すること

佐藤氏:すでにお話をいただいた感もありますが、人事と現場の連携について改めて聞かせてください。

まずは採用について。これまでのお話を振り返ると、目先の採用目標ではなく、その先にあるミッション・ビジョンを、現場の採用担当者、あるいは人事がしっかりと共通認識として持っておくことが、大事だということですよね。

武田氏:そうですね。そのような共通認識のための話し合いがなく採用活動を進めてしまうと、先ほどお話ししたとおり採用目標だけを追う、Howで進めてしまうことが多いと思うからです。そうではなく、なぜ今、そのような採用活動を行う必要があるのかという解像度を上げることが重要です。

解像度を上げることで、採用ではなく社内での登用やアロケーションで良いかもしれませんし、狙っている要件や市場が違っていることなどが見えることがあるからです。現場の方々と改めてディスカッションを行い、認識を擦り合わせることは非常に有益だと考えています。

佐藤氏:採用をきっかけに人事と現場が話し合うことで、現場の方々が組織や事業、さらには人事に対して改めて関心を持つ。そのような効果もあるかもしれませんね。

武田氏:人事としても改めて会社の事業戦略や価値、ミッション・ビジョンを再認識する。自分はなぜ今、この会社で働いているのか。どのような点が好きなのか。このようなことの確認にもつながる、とも考えています。

さらには採用を通じて、候補者の方から会社の魅力を客観的に聞くことで、新たな気づきを得ることもありますからね。

佐藤氏:人事が採用で得た情報を組織にフィードバックすることで、現場が喜ぶようなこともありそうです。

武田氏:候補者の素の声を人事が社内にフィードバックすることは、非常に重要だと考えています。採用意欲が上がったり、人事に対して協力的になったりするからです。人事がハブとなり、現場と組織の情報を共有するのがポイントだと考えています。

佐藤氏:先ほどのスクラムチームの朝会のように、定期的に人事と現場がミーティングなどの場を設けることが、重要であると――。

武田氏:そうですね。解決したことを両者でフィードバックし、さらに次の課題を抽出し、再び解決する。このPDCAをスピーディーに回すことで、採用体制はより研ぎ澄まされていき、その蓄積が会社全体の採用力アップにつながると考えています。


Q&Aセッション

――新卒と中途採用の割合などについて聞かせてください。

武田氏:100名採用するとした場合、20名弱が新卒で残りが中途といった割合です。それぞれの属性のコンセプトも設定しています。新卒は中長期でコア人材となるような方。一方、中途は即戦力に近い方々です。中途においてはビジョンを実現していく上で再現性の高い方を、一定の基準としています。

どういったことを、どのタイミングまでに実現するかといった指標から、両者の比率は変えていけばよいと思います。例えば、スパンが長いのであれば新卒だけを採用する、というのもありでしょうし、逆に短いスパンで実現したいのであれば、中途の比率を増やすといった具合です。

――「アジャイル型」採用は開発以外の部署にも当てはまるのでしょうか。

武田氏:開発部門だけです。他のビジネス部門などでも同様に現場と人事が密にコミュニケーションすることは大切にしていますが、「アジャイル型」ではなくチャットベースでコミュニケーションを取りながら、採用を進めています。

ただ、これには理由があります。ビジネス職種は、採用しやすいチャネルなどが限定されがちなのに対し、開発職種は採用チャネルが多岐にわたるからです。

また日々の市場の変化により、開発部門では職種ごとに状況が変わってくるため、ご紹介したアジャイル型のスクラムチームが適用しやすいと考えています。

――「アジャイル型」採用を通じ現場と打ち合わせをする中で、一番効果的だと感じたことを教えてください。

武田氏:先ほどもお話ししたように、辞退者が続いたときは早急に分析を行い、5つほどの要因を発見しました。そしてここからが重要ですが、人事だけでは解決するのに時間がかかるところを、現場の方にも理解・協力してもらうことで、1~2週間で解決したことです。

スクラムチームの特徴は、お互いが疑問に思っていたことを共有できること。その場で解決できることです。そのため、意思決定できるメンバーを集めることが重要です。

【取材後記】

Chatworkがたった3年で従業員数約3倍を達成できた理由の一つは、アジャイル型採用手法を導入したため――。採用におけるポイントは、ミッション・ビジョンに共感してくれる人材をいかに集めることができるかです。その成功の裏には、現場と人事のスクラムチームを結成して、朝会を毎日行うなど定期的なコミュニケーションがあったのです。ただし、今回の武田氏の言葉にもあるように最初から全てうまくいくわけではありません。そこにいくつものトライ&エラーへの歩みがあってこそなのです。実践を重ねることにより採用体制はより研ぎ澄まされていき、それが会社全体の採用力アップにもつながる――。まずは自社でできるところから実践してみてはいかがでしょうか。

取材・文/杉山忠義、編集/鈴政武尊・d’s journal編集部

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