若手社員のキャリア意識を刺激する「社内報」でエンゲージメント向上!老舗インテリア企業・サンゲツの人的資本経営【連載 第18回 隣の気になる人事さん】
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人的資本強化の鍵を「社員一人ひとりの幸せの実現」と位置づけ、社員自らでキャリアを描くための制度・施策を展開
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20〜30代社員のエンゲージメント向上を目指して社内報をリニューアル。先輩社員のキャリアや商品の製造プロセスなどを紹介
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社内報での20~30代のエンゲージメント向上に向けた企画の継続により、発刊時のアンケートにて、回答「会社が好き」の割合が7%伸長
全国各地の人事・採用担当者や経営者がバトンをつなぎ、気になる取り組みの裏側を探る連載企画「隣の気になる人事さん」。
第17回の記事に登場した春日井製菓株式会社のみなさんは、愛知県名古屋市に本社を構える総合インテリア企業の株式会社サンゲツを気になる企業として紹介してくれました。
▶春日井製菓のみなさんが登場した第17回の記事はコチラ
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さらなる成長に向けて「スペースクリエーション企業」を目指す長期ビジョンを掲げている同社。鍵を握る人的資本への投資を積極的に行い、若手社員のエンゲージメント向上やキャリア形成に向けたさまざまな施策を展開しています。その中には「社内報」を通じた新たなコミュニケーションも。
エンゲージメント向上を通じて「社員の幸せ」を実現するための施策
——サンゲツグループが人的資本への投資を重視している背景をお聞かせください。
白戸氏:当社は国内向けにインテリア商品を企画・販売する事業をメインに成長してきました。しかし少子化によって国内市場が縮小していく中では、新たな事業を生み出し、顧客価値を高め続けていかなくてはなりません。それを実現するためには、これまで以上に人材の成長を支え、適切に投資していく必要があります。
とは言え、教育に力を入れるだけでは十分ではないとも考えています。大切なのは社員の意欲を高め、一人ひとりの幸せを実現し、個々の力を最大限に発揮してもらうこと。そのため人的資本経営を進める上では、社員のエンゲージメント向上に特に注力しています。
——社員のエンゲージメントはどのように測っているのでしょうか。
白戸氏:以前は社員意識調査をベースとしていました。内製したアンケートを使い、年に1度の調査を行っていたのですが、集計や分析に時間がかかってしまい、なかなか打ち手を進められないまま翌年を迎えることもありました。そこで現在は外部サービスのエンゲージメントサーベイを導入し、他社との比較なども行いながら現在地の把握に努めています。
——エンゲージメント向上の打ち手についても教えてください。
白戸氏:社員の幸せを実現するためにはキャリアオーナーシップの醸成が重要だと考えています。そこで年に1度、面談を通じて現在の仕事への適性を確認し、異動希望などを聞く場を設けています。他部署の業務内容がわからない状態ではキャリアビジョンを描くのも難しいので、他部署の仕事を体験できる「社内インターン」も実施。昨年度は挙手制で76名が参加し、ほぼ全員から「期待を上回る経験ができた」「キャリアを考える上で参考になった」という声が届いていますね。
また、当社では2021年に社内報『さんげつ』をリニューアルし、エンゲージメントスコアが低い傾向にあった20〜30代社員への情報発信を強化しています。これまではなかなか知ることができなかった先輩社員のキャリアを深掘りしたり、商品開発・製造の裏側を紹介したりして、キャリアパスを描くことや会社への愛着を高めることに一役買ってもらっているんです。
20〜30代社員をメインターゲットに「紙の社内報」を届ける理由
——社内報『さんげつ』の取り組みについて伺います。2021年にリニューアルを行うことになった経緯は?
花澤氏:きっかけは、当時の社員意識調査で20〜30代社員のエンゲージメントに課題が見つかったことです。「あなたはサンゲツという会社が好きですか?」という設問に対して、20〜30代は40代以上よりもネガティブな回答が多い傾向にありました。当社では2010年代半ばから大規模な経営改革が進んでおり、その環境変化も要因となっていたのではないかと思います。
ちなみにこの年代で社内報を読んでくれていたのは、当時は3割程度。だからこそ社内報を強化し、興味を持ってもらえる情報を届けることで、新しいコミュニケーションの機会にしたいと考えていました。
——社内報はどのような形式で届けているのでしょうか。
花澤氏:紙媒体としての『さんげつ』は年4回の季刊、これ以外に年2回のグループ報も発行しています。さらに紙だけでなくPDFデータでも発信しているほか、社員からの投稿もできるWeb社内報も運用しています。
最近ではオンラインのみで社内報を発行する企業も増えているようですが、当社ではロジスティクス部門などで専用PCを持たない社員も働いており、誰もが読めるように紙媒体での発行を続けているんです。紙のほうが気軽に目を通すことができるという人も多いでしょうし、紙であればそれまで関心を持っていなかった記事に出会ってもらえる可能性もあると考えています。
「会社が好き」と答える人が増え、「人的資本特集にワクワクした」という声も多数
——これまでの企画の中で、特に反響の大きかった記事の例を教えてください。
花澤氏:「見せます!人気商品のレシピ」という企画の記事です。当社では社内で商品企画を行っていますが、製造の大部分は仕入れ先さまに委託しており、具体的な製造工程を見たことがない社員も少なくありません。そこで仕入れ先さまの工場を取材し、商品が形になるまでのプロセスや、つくり手の思いなどを記事にしました。
「仕事の価値を高めよう!」という企画も人気でしたね。さまざまなキャリアの社員5名に登場してもらい、仕事やキャリア形成への考え方を語ってもらったんです。記事を読んだ若手社員からは「自身のキャリアを考えるきっかけになった」という声がたくさん届きました。
——こうした記事を制作するための取材や原稿執筆にはかなりの時間がかかると思いますが、どのような体制で運営しているのでしょうか。
花澤氏:企画は全て社内で行い、取材・制作の大部分も内製で進めています。一部の記事は外部の方へお願いすることもありますが、基本的には広報IR課に所属するメンバー1名がほぼ社内報専任となって制作しています。
——実質1人で回しているような形なのですね。
花澤氏:はい。社外の方に話すと驚かれることもありますが、この体制で制作しています。外注という手段もありますが、会社への理解が深いからこそ届けられるメッセージもあると思うのです。他部署の皆さんが制作にとても協力的であることもポイントです。
——課題だった20〜30代社員のエンゲージメント向上には、どのような手応えを感じていますか。
花澤氏:定量面ではなかなか測りづらい部分もあるのですが、社内報発刊時に実施しているアンケートでは、「会社が好き」と答える人の割合が2021年冬の約79%から2022年冬には約86%に伸びています。
2024年2月の最新号では「人的資本特集」を実施。キャリア入社組と新卒入社組の座談会、社内インターン制度のレポート、人事部長メッセージなどを掲載したところ、「読んでいてワクワクした」などの前向きな声がたくさん届いて大きな手応えを感じています。
白戸氏:こうしたコメントが届いているのは、人事としてとてもうれしいですね。拠点を回っていても、社内報で発信したメッセージが届いているという感触があります。
人的資本への投資で重要なのは、社員が「未来の自分」を描けるようにすること
——今後の取り組みの展望も教えてください。
花澤氏:これまでの社内報では、社員のエンゲージメント向上につながる要素として「愛着」や「自己実現」が満たされるような企画を強く意識してきました。
現在はスペースクリエーション企業を目指すという長期ビジョンが示され、社内でも変革が重要であるという意識が高まってきています。こうした動きに応え、今後は自己実現だけでなく、自己実現と会社の成長がつながっていくような企画も考えていきたいですね。堅苦しいテーマでも、できる限り楽しく伝えていけるように工夫したいと思っています。
白戸氏:人事施策の面では、LGBTQ社員のパートナーとの生活を応援する制度を整えたり、男性社員の育休取得100%を目標とした取り組みを進めたりなど、安心して働ける環境をつくれるよう注力しているところです。
2023年7月からは本社人事部だけでなく、組織別・拠点別に人事担当者を配置する取り組みも行っています。営業やロジスティクス、デザインなどの部門・地域ごとに1名ずつ専任の人事担当を置き、現在は8名の部門人事が稼働。現場での1on1を通じて社員一人ひとりをきめ細かに理解できるように努め、上司には普段言えないようなことも気軽に相談してもらえるようにしました。部門人事の配置は、今後もさらに強化していきたいと考えています。
人的資本への投資で重要なのは、社員自身が成長へのビジョンをわかりやすく描けるようにすることではないでしょうか。サンゲツにはさまざまな才能を持つ社員が多いものの、自分の可能性に気付かず、力を持て余している人が中にはいるようにも感じています。これからも広報と連携し、「未来の自分を描く」ための情報提供を行いながら、一人ひとりのビジョンを実現できるようサポートしていきたいと考えています。
写真提供:株式会社サンゲツ
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取材後記
若手社員の興味・関心に応えてさまざまな記事を発信している社内報『さんげつ』。取材や記事制作をなりわいとしている立場から見ると、外部への取材も厭わない力の入れようで制作しているこの社内報が、実質1名で運営されていることに驚きを禁じ得ませんでした。同時に重要だと感じたのは、「社内報だからこそ自分たちの手でつくりたい」という思いを大切にし、担当者が社内報制作に専念できる体制を取っていること。作り手の気持ちが伝わる社内報だからこそ、エンゲージメント向上につながる結果が得られているのだと思いました。
企画・編集/海野奈央(d’s JOURNAL編集部)、野村英之(プレスラボ)、取材・文/多田慎介
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