スクラム採用とは|リファラル採用との違いやメリット・デメリットを解説
d’s JOURNAL編集部
経営陣や人事部門だけでなく、現場の従業員が主体的に採用活動に携わる「スクラム採用」。現場のニーズなどに合致した人材を採用しやすいとして、近年注目されている取り組みです。
一方で、「リファラル採用とは何が違うのか」「スクラム採用を導入することで、どのようなメリット・デメリットがあるのか」を知りたい方もいるのではないでしょうか。
この記事では、スクラム採用の意味やリファラル採用との違い、導入のメリット・デメリットなどについて解説します。実施フローもご紹介しますので、導入を検討する際の参考にしてください。
スクラム採用は全社一丸となる採用手法
スクラム採用とは、全ての従業員が採用活動に参加する採用手法です。
従来は経営陣や人事・採用担当者のみが候補者の募集や選考などを行い、現場の従業員は候補者との接点をあまり持たないことが一般的でした。「スクラム採用」では、現場の従業員をも巻き込み、全社一丸となって採用活動に取り組むのが特徴です。現場のことを熟知した従業員が主体的に母集団形成や選考に関わりながら、自社の戦略や各部門のニーズなどを踏まえた人材マッチングを行うことで、求める人材の採用を目指します。
スクラムという語源の由来
「スクラム(scrum)」の語源は、ラグビーにおいて、選手同士が肩を組んで押し合ってボールを奪い合うセットプレーです。ラグビーから派生して、一致団結して物事に取り組むことやチーム一丸となることを「スクラムを組む」と表現します。
「スクラム採用」という言葉は株式会社HERPが2018年末に提唱した概念で、経営陣や採用・人事担当者、現場従業員を含めた全従業員がスクラムを組み、協力して採用活動を進めることを指します。同社はスクラム採用を「採用活動を経営陣と人事に閉じたものではなく、現場社員を巻き込んだ形で行うことで、最大の成果を創出していく採用手法」と定義しています。
※「スクラム採用」は株式会社HERPの登録商標です。
リファラル採用との違い
スクラム採用同様、従業員が関与する採用手法に、「リファラル採用」があります。リファラル採用とは、既存の従業員から友人や知人などを候補者として紹介してもらうこと。スクラム採用との違いは、従業員が関わるプロセスの範囲です。
リファラル採用では、従業員は主に「母集団形成」に関与します。友人や知人を紹介した後の選考は、人事・採用担当者が行うのが一般的です。一方のスクラム採用は、母集団形成だけでなく、人材要件の定義や選考、オンボーディングなど、「採用全般」に関与します。そのため、スクラム採用の一部にリファラル採用が含まれると考えるとよいでしょう。
(参考:『リファラル採用とは?導入のメリット・デメリット、運用のポイントを紹介』)
スクラム採用に必要な3つの要素
スクラム採用には、以下の3つの要素が必要です。
・採用権限の委譲
・採用目標・成果の可視化
・人事・採用担当のプロジェクトマネージャー化
それぞれについて具体的に見ていきましょう。
採用権限の委譲
まずは、採用プロセスを分解し、各過程における権限を人事・採用担当者から現場の適任者へ委譲します。各職種における採用手法の検討に関しても、PDCAサイクルを人事部門ではなく現場主導でまわすのが理想と言えます。
特に専門性の高い職種においては、候補者の面接や選考を人事・採用担当ではなく現場の従業員が実施することで、ミスマッチの削減や定着率の向上を図れるでしょう。
採用目標・成果の可視化
経営陣、人事・採用担当者、現場の従業員それぞれが、採用目標を認識しておくことも重要です。採用に関わっている全ての従業員が共通のゴールを持つことで、目標達成に向けた行動がしやすくなります。
また、定期的な進捗確認や振り返りを行い、得られた成果や課題をもとに採用活動を改善していくことで、採用の精度が向上するでしょう。
人事・採用担当者のプロジェクトマネージャー化
人事・採用担当者は、採用活動というプロジェクトのマネージャー役を担い、現場従業員が主体的に進める点もスクラム採用に必要な要素です。例えば、「基本方針の策定」や「採用・面接に関するノウハウ提供」「面接への同席」など、現場の従業員が採用に取り組みやすいようサポートします。
スクラム採用が求められる理由
スクラム採用が注目されている背景には、「採用手法・チャネルの多様化」「売り手市場への対応」「専門人材の需要の高まり」が考えられます。
採用手法・チャネルが多様化している
第一に、採用手法・チャネルが多様化していることが挙げられます。従来は「ハローワークや求人サイトへの情報掲載」「人材紹介サービス会社の利用」などを通して集まった候補者の中から選考を行うことが主流でした。現在は既存の方法に加え、「リファラル採用」や「アルムナイ採用」「SNS採用」「ソーシャル・リクルーティング」といった手法が増えています。
自社が求める人材を獲得するには、多様な採用チャネルへの対応が必要になっています。人事・採用担当者だけで全ての手法に対応するのは困難なため、全社的な取り組みとしてスクラム採用を展開し、採用活動の最適化を図っているのです。
(参考:『採用手法一覧と各手法を解説|選び方のコツや最新のトレンドも紹介』)
売り手市場への対応が求められる
労働人口の減少により、売り手市場への対応が求められるようになったことも理由の一つです。
企業は選ぶ側だけでなく、応募者から選ばれる側にもなりました。また、インターネットやSNSが普及したことで、求職者はさまざまな経路から求人情報を収集し、比較検討を行った上で応募をします。個人の価値観が変化したことにより就職・転職活動で重視する要素も多様化し、採用活動は難化していると言えるでしょう。
採用は今後も売り手市場が続くと予想されることから、企業は既存の採用戦略を見直して、売り手市場に対応できる採用手法へ転換する必要があります。自社が求める人材を採用するには、人事・採用担当者だけでなく全社で採用活動に取り組み、応募者にアプローチする新たな経路をつくることが重要です。
専門性の高い人材の需要が高まっている
IT技術の発展やサービスの多様化などに伴い、専門性の高い人材の需要が高まっていることも理由の一つです。しかし、人事部門に現場経験者がいない場合や、人事・採用担当者に専門知識がないケースでは、業務に必要なスキルや現場のニーズを踏まえた上でマッチする人材を採用するのは困難でしょう。
スクラム採用は、現場の従業員が採用に参画するため、採用の精度が向上し、入社後のミスマッチ予防につながります。例えば、職務内容を定義した「ジョブ型雇用」のような、求職者の専門性やスキルの見極めを必要とする雇用方法では、業務内容を熟知している現場の従業員が選考に関わることで、専門性の高い人材を確保できる可能性が高まります。
スクラム採用のメリット
スクラム採用を実施することで、企業にはどのようなメリットがあるのでしょうか。主なメリットは、以下の3つです。
・接点増加による採用力向上
・採用ミスマッチの防止
・従業員エンゲージメントの向上
それぞれについて具体的にご紹介します。
接点増加による採用力向上
スクラム採用では多様な採用チャネルの利用が可能になるとともに、従業員が採用活動の各プロセスに関与していくため、求職者への接点が増加し、採用力が向上します。多方面から求職者にアプローチできることで、従来の採用活動では見逃していた人材の採用につながることもあるでしょう。
採用ミスマッチの防止
従業員が応募者の専門性やスキルを現場目線で判断し、入社後のミスマッチを防止できることもスクラム採用のメリットです。人事・採用担当者が現場を熟知しているとは限らず、現場のニーズと合わない人材を採用してしまっては、入社後のミスマッチや早期離職が発生する恐れがあるでしょう。
スクラム採用は、人事と各部門の従業員が共同で採用活動を行います。選考や面接に現場の従業員が携わるため、求職者のスキルについて精度の高い見極めができ、実際の業務やチームに適切な人材の採用を実現できます。
従業員エンゲージメントの向上
従業員は自社の経営理念や業務のやりがいなどを踏まえて採用プロセスを進めるため、自社への理解が深まり、エンゲージメントの向上が期待できます。
例えば、「求人票を作成する」「求人サイトに掲載する文面を考える」「カジュアル面談で実際の業務内容を語る」などの言語化する過程は、自社の魅力を客観的に捉えるよい機会になるでしょう。また、面接に同席することで、採用当事者としての責任感も生まれます。
(参考:『従業員エンゲージメントとは|効果的な取り組みと事例・向上のメリットを解説』)
スクラム採用のデメリット
スクラム採用にはさまざまなメリットがある一方で、気をつけておきたいデメリットもあります。「現場の業務負担が大きくなる」「情報管理コストが増加する」について、詳しく解説します。
現場の業務負担が大きくなる
現場の従業員が採用活動に関わることで、現場の業務負担は大きくなります。本来の現場業務に採用業務が加わるため、従業員から不満の声が出る恐れもあるでしょう。従業員が採用活動に協力的であっても、採用業務によって本来の業務に支障を来すようでは、本末転倒です。
そのため、スクラム採用を実施する際は、現場従業員の意見を取り入れながら、採用活動と通常業務とのバランスを取ることが大切です。人事・採用担当者は、人員配置や工数などに配慮しながら、採用活動全体をマネジメントする必要があります。
情報管理コストが増加する
スクラム採用では多くの従業員が採用活動に関わるため、情報管理にかかるコストが増加することも懸念点の一つです。例として、応募者に関する情報を各部門と人事部門で共有するために、採用業務を一元管理できるシステムが必要になることなどが考えられます。
また、複数の従業員が応募者の情報にアクセスするようになるため、情報漏えいを防ぐべく「個人情報取り扱いのルール策定」や「セキュリティーの強化」「コンプライアンス研修」なども必要です。
スクラム採用の実施フロー
スクラム採用の実施フローを、3つのステップに分けてご紹介します。
①社内へのスクラム採用の必要性の共有
最初に、スクラム採用の必要性を社内に周知します。人事だけでなく全従業員が採用に取り組む意義を共有しましょう。
人事がスクラム採用の導入に前向きでも、現場と温度差がある場合は現場の協力を得にくく、期待したような成果を得られない恐れがあります。経営陣や現場の管理職も含め、全員で採用活動を行うことの必要性を理解してもらい、採用が「人事の仕事」ではなく「全社一丸で進めるプロジェクト」であると思考の転換を促しましょう。
②採用担当と現場との協力体制を構築
スクラム採用の必要性を共有したら、導入の準備を進めます。スクラム採用の導入によって現場の負担が増えないよう、人事・採用担当者は部門長とよく話し合った上で協力体制を整えましょう。
通常の業務に加えて採用活動も担う従業員に配慮し、「属人化業務を解消するためにマニュアルを整備する」「現場のリソースを増やす」など、無理のない体制を構築しておきます。
③採用活動の実施と改善のサイクル
スクラム採用の必要性が全社に浸透し、現場の協力体制も整ったら、実際の採用活動を開始します。「採用チャネルの選定」「応募者の評価基準の策定」「人事部門との情報共有」などを進めていきましょう。人事・採用担当者は、採用のための研修・教育や採用計画全体のマネジメントを行い、現場の採用活動をサポートします。現場が人事と同等の採用スキルを習得するには時間がかかるため、中長期的な視点を持っておくことも大切です。
採用の成果を上げるには、現場でも改善を重ねていくことが重要です。応募者の反応や定着率などを分析して採用における課題を洗い出し、次回の採用活動に反映させましょう。
まとめ
スクラム採用では全社的に採用活動に取り組むため、「採用力の向上」「ミスマッチの防止」などのメリットが期待できます。企業が「選ばれる側」となりつつある昨今、企業はさまざまな手法や戦略を用いて採用活動を進めていく必要があると言えるでしょう。多様な経路で採用活動を展開できるようになると、今までは見落としていた人材との出会いがあるかもしれません。
一方で、スクラム採用にはデメリットも存在します。スクラム採用を導入する際には、メリット・デメリットを踏まえ、自社の採用戦略にどのような影響があるのかを考えた上で検討しましょう。
(制作協力/株式会社mojiwows、編集/d’s JOURNAL編集部)
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