従業員エンゲージメントとは|効果的な取り組みと事例・向上のメリットを解説

d’s JOURNAL編集部

従業員が企業のために自ら貢献しようという意識を持っている状態を意味する、従業員エンゲージメント。「従業員エンゲージメントが向上すると、どのようなメリットが期待できるのか」「従業員エンゲージメントを高めるには、どうしたらよいのか」などを知りたい経営者や人事担当者の方も多いでしょう。

この記事では、従業員エンゲージメントの定義や高めることによるメリット、高める方法などを解説します。企業事例も紹介していますので、参考にしてください。

従業員エンゲージメントとは

従業員エンゲージメント(employee engagement)とは、従業員が企業の目指す姿・方向性を理解・共感し、自ら貢献しようという意識がある状態のこと。英語の「engagement」には、「約束」「契約」「積極的な関与」といった意味があるため、従業員エンゲージメントは企業と従業員との「信頼度」や「つながり」の強さを表す言葉として用いられます。従業員の会社への「貢献度」や「愛着心」「愛社精神」「帰属意識」が強い状態ともいえるでしょう。

なお、後ほど詳しく紹介しますが、従業員エンゲージメントは「理解度」「共感度」「行動意欲」の3つの要素からなります。

従業員エンゲージメントが注目される背景

日本経済の悪化や労働人口の減少、働き方の多様化などにより、正社員として採用した従業員を定年まで雇用し続ける「終身雇用制度」の維持が困難となったことが、従業員エンゲージメントが注目される背景として挙げられます。

近年、日本では人材の流動化が進んでおり、転職が当たり前の時代となっています。また、優れた成果を上げている人材ほどキャリアアップ志向が強く、よりよい環境を求めて転職を繰り返す傾向にあります。そうした状況の中、終身雇用制度に頼らずとも一人でも多くの従業員に長く組織に貢献してもらうことが、企業の成長のために欠かせないものとなっています。

そこで、組織への愛着心を高めようとする動き、すなわち従業員エンゲージメントの向上への注目が高まっているのです。

(参考:『終身雇用は崩壊?実は約半数の企業が終身雇用。その是非と次の時代への打ち手とは』)

従業員エンゲージメントと従業員満足度の違い

「従業員エンゲージメント」と混同されがちなのが、「従業員満足度」です。従業員満足度とは、「従業員が自分の働く会社についてどのくらい満足しているか」を表す指標のこと。給与や福利厚生、業務内容、人間関係、職場環境などの観点から、測定します。

従業員エンゲージメント 従業員満足度
定義 従業員が企業の目指す姿・方向性を理解・共感し、自ら貢献しようという意識がある状態 「従業員が自分の働く会社について、どのくらい満足しているか」を表す指標
指標 企業と従業員との信頼度の強さ 従業員にとっての居心地のよさ
業績との関係 従業員エンゲージメントが向上すれば、業績も向上する 従業員満足度が向上しても、業績の向上には直結しない

従業員エンゲージメントと従業員満足度では、「指標」が異なります。従業員エンゲージメントの指標は「企業と従業員との信頼度の強さ」、従業員満足度の指標は「従業員にとっての居心地のよさ」です。

「業績との関係」についても、違いがあります。従業員エンゲージメントが向上すれば業績も向上しますが、従業員満足度が向上しても必ずしも業績が向上するとは限りません。従業員満足度のみが高い場合、「普通に仕事をしていれば、十分な給料をもらえる」「これ以上、頑張らなくても問題ない」と考える従業員がある程度の人数いると想定されるためです。

「従業員満足度」も企業にとって重要ではありますが、業績との関係を考えると「従業員エンゲージメント」に重きを置いた取り組みを実行するのが望ましいでしょう。

従業員エンゲージメントの3つの構成要素

グローバルコンサルティングファームであるウイリス・タワーズワトソン社は、従業員エンゲージメントを「会社・組織が成功するために、従業員が自らの力を発揮しようとする状態が存在していること」と定義。その実現のためには、「理解度」「共感度」「行動意欲」の3つの要素が必要であるとしています。

従業員エンゲージメントの3つの構成要素について、それぞれ見ていきましょう。

理解度

理解度 (Rational)とは、組織の目指す方向性やビジョンなどを理解し、それらを支持している状態のこと。従業員エンゲージメントを生み出すためには、まずはこの「理解度」を向上させることが不可欠です。企業理念や経営理念などを明確にし、それを従業員に周知し、理解を促すようにしましょう。

共感度

共感度(Emotional)とは、組織やそこで働く仲間に対して、帰属意識や誇り、愛社精神を持っている状態のこと。企業理念や経営理念などを理解してもらった上で、従業員の「理解度」を高めることが重要です。

具体的には、「企業理念や経営理念に込めた想いを伝える」「従業員と意見交換の時間を設ける」などが必要となるでしょう。そうすることで、次第に従業員の帰属意識や愛社精神が高まっていくと期待できます。

行動意欲

行動意欲(Motivational)とは、組織の成功に向け、求められる以上のことを進んでやろうとする意欲がある状態のこと。「理解度」と「共感度」に加え、「行動意欲」があることで初めて、従業員エンゲージメントが形成されます。

「行動意欲」を高めるには、「成果に対する適切な人事評価」や「仕事へのやりがいにつながるような納得感のあるフィードバック」などを実施するとよいでしょう。

従業員エンゲージメントを高めるメリット

従業員エンゲージメントを高めることにより、以下のメリットが期待できます。

従業員エンゲージメントを高めるメリット
●従業員のモチベーションが向上する
●離職率の低下につながる
●採用コストを抑えられる
●顧客満足度や企業の業績が向上する

それぞれについて、見ていきましょう。

従業員のモチベーションが向上する

従業員エンゲージメントが向上すると、会社への愛着心や信頼度が高まります。「会社のために、自分は何をすべきなのか」を自ら考え、「自分の担当業務が会社にもたらす価値」に気づき、自発的に行動できる従業員が増えるでしょう。

自分の仕事にプライドや熱意を持てるようになるため、仕事へのモチベーション向上が期待できます。モチベーションが高い従業員が増えることで、職場の雰囲気がよくなり、会社をよくするための建設的なコミュニケーションも増えていくでしょう。

離職率の低下につながる

従業員エンゲージメントが高い状態とは、「自分が今働いている会社のためにもっと貢献したい」と思っている従業員が多い状態でもあります。体調や家庭の事情などやむを得ない理由がない限り、会社に貢献できる喜びを感じられる環境から離れようとする従業員は少ないでしょう。そのため、離職率の低下につながります。

また、「転職率の低さ」は求職者へのアピールポイントになるため、人材採用がしやすくなるという効果も期待できるでしょう。

採用コストを抑えられる

従業員エンゲージメントが高まることにより、人材の定着率が向上するため、採用人数の削減が可能になります。また、従業員エンゲージメントの高い従業員は会社への貢献意欲が高いため、自社の従業員から友人や知人を紹介してもらう採用手法である「リファラル採用」なども実施しやすくなるでしょう。そうした理由から、採用コストを抑える効果が期待できます。

(参考:『リファラル採用とは?導入のメリット・デメリット、運用のポイントを紹介』)

顧客満足度や企業の業績が向上する

従業員エンゲージメントの高い従業員は、会社への貢献意欲が高いため、仕事の生産性や質が高まる傾向があります。

仕事にやりがいを感じながら意欲的に仕事をする従業員が増えれば、自社の販売する商品・サービスの質や顧客対応などが改善します。それにより顧客満足度やリピート率が向上し、よい評判が広まることで、新規顧客の獲得が期待できます。その結果、企業の業績も向上するでしょう。

日本の従業員エンゲージメントは低い傾向がある

日本の従業員エンゲージメントは、低い傾向にあると言われています。

アメリカの世論調査・コンサルティング会社であるギャラップ社が発表した「State of Global Workplace: 2023 Report」によると、従業員エンゲージメントの高い人の割合は、世界平均が23%のところ、日本は5%でした。従業員エンゲージメントに関する結果を公表している東アジア6カ国中最下位かつ全125カ国中最下位(同率でイタリア)です。

各国の従業員エンゲージメント

(参考:Gallup, Inc.『State of Global Workplace: 2023 Report』)

日本の従業員エンゲージメントが世界的に低い理由としては、他国に比べ「仕事への姿勢が消極的である」「勤務場所や仕事内容を従業員自らが選びにくい」「長時間労働により、ワークライフバランスを実現しにくい」などが考えられます。

企業側だけの努力ではこうした課題を全て解決するのは困難かもしれませんが、できる限りの対策を講じて従業員エンゲージメントの向上を図っていくことが、日本企業には求められるでしょう。

従業員エンゲージメントを調査するには

従業員エンゲージメントの調査方法は、「自社での調査実施」と「外部の専門業者に委託しての調査実施」の2つがあります。それぞれのメリット/デメリットを十分理解した上で、自社に適した調査方法を選択しましょう。

メリット デメリット
自社での調査 ●実施方法や設問などを自由に設定できるため、自社の実情に合わせて柔軟に調査を実施で ●従業員エンゲージメントに対する知識や調査ノウハウが不十分だと、正しく調査を行えない可能性がある。
●実施方法や設問の検討、調査結果の分析など全てを、社内の担当者で担う必要がある。
専門業者への調査委託 ●従業員エンゲージメントに対する知識や調査ノウハウが豊富な専門家に調査してもらえるので、調査結果の精度が高い
●社内で行う作業の工数削減が期待できる。
●自社での調査実施に比べ、コストが大幅にかかる。
(1回あたりの調査費の相場は数十万円~100万円程度
●サービス内容が利用するサービスによって異なるため、委託前に複数のサービスを比較検討する必要がある。

d’s JOURNALでは「自社での調査実施」を予定している方に向け、「従業員エンゲージメントサーベイシート」を作成しました。無料ダウンロードできますので、自社用にカスタマイズしてご活用ください。

従業員エンゲージメントを高める方法

従業員エンゲージメントを高める方法としては、以下の6つがあります。

従業員エンゲージメントを高める方法
●従業員の特性や価値観を把握する
●企業理念や経営者の考えを伝える
●公平かつ適正な人事評価を実施する
●従業員同士の関係性を深める
●従業員のキャリア形成を支援する
●職場環境や福利厚生を整備する

それぞれについて、見ていきましょう。

従業員の特性や価値観を把握する

従業員が会社に「何を求めているか」を知らずに、従業員エンゲージメントの向上施策を考えることはできません。そのため、従業員の特性や価値観を把握した上で、従業員エンゲージメント向上に向けた施策を検討・実施しましょう。従業員の特性・価値観の調査方法はさまざまですが、短時間かつ無料で調査できるものとしては「キャリアアンカー」をおすすめします。

キャリアアンカーとは、「仕事において何を最も大切にするか」という価値観のことで、「専門・職能別能力」「経営管理能力」「自律・独立」「保障・安定」「起業家的創造性」「奉仕・社会貢献」「純粋な挑戦」「生活様式」の8タイプに分類されます。詳しくは、下記の記事をご確認ください。

(参考:『キャリアアンカーとは?診断結果の活用法を1分で解説-すぐに使えるチェックシート付-』)

併せて、定期的に従業員エンゲージメントの度合いを調査し、「現在の従業員エンゲージメントはどの程度か」「施策実施により、従業員エンゲージメントがどのくらい向上したか」を把握することも重要です。

企業理念や経営者の考えを伝える

企業理念や経営者の考えがオープンにされていないと、従業員は「会社が何を目指しているのかわからない」と感じ、従業員エンゲージメントが低下します。そのため、企業理念や経営者の考えを従業員に正確に伝え、会社として「何を目標としているか」「顧客や社会にどういった価値を提供したいか」を従業員に理解・共感してもらうことが必要です。そうすることで、自ずと従業員エンゲージメントが向上するでしょう。

企業理念や経営者の考えを伝える具体的な方法としては、「全体朝礼における社長スピーチ」や「社内報・社内用HPへの掲載」「企業理念浸透ワークショップの実施」などがあります。

公平かつ適正な人事評価を実施する

人は誰しも、必要とされていると感じることで、相手のために貢献したいと思うようになります。一方、「自分の仕事を、会社はきちんと評価してくれている」と従業員が感じられない状態では、従業員エンゲージメントの向上が困難なばかりか、モチベーションの低下にもつながるでしょう。

そのため、公平かつ適切な人事評価を実施することが必要です。「会社は、自分の仕事を正当に評価してくれている」「会社は、自分を必要としてくれている」と従業員が感じられるようになることで、自ずと従業員エンゲージメントが高まっていくでしょう。なお、「360度評価」や「コンピテンシー評価」など人事評価の手法はさまざまあるため、自社に合った評価手法を選ぶことが大切です。

併せて、上司が部下の行動について「良かった点」を評価し、肯定的な言葉を伝えることで相手の成長を促す「ポジティブフィードバック」を実施することにより、従業員エンゲージメントがより高まるでしょう。

(参考:『人事評価制度の種類と特徴を押さえて、自社に適した制度の導入へ【図で理解】』『人事考課をうまく運用するために、押さえたい目標設定と評価のポイント』『ポジティブフィードバックとは|やり方や具体例・4つのメリットを解説』)

従業員同士の関係性を深める

社内におけるコミュニケーションが不足していて、従業員同士の相互理解が不十分な状態では、会社への愛着心がなかなか生まれません。従業員エンゲージメントを高めるには、コミュニケーションを活性化し、従業員同士の関係性を深めることが必要です。従業員同士の関係性が深まれば、ストレスの軽減やハラスメント防止にもつながるでしょう。

従業員同士の関係性を深める具体例としては、「サンクスカードの導入」や「オンライン交流会の開催」「社内SNSを通じての交流」などがあります。

従業員のキャリア形成を支援する

今後のキャリア形成へのイメージがわからなかったり、キャリアアップの機会が少なかったりする状態では、従業員エンゲージメントが向上しにくいでしょう。従業員エンゲージメントを高めるためには、従業員のキャリア形成を支援することも必要です。そうすることで、「会社に貢献したい」という意欲が高まり、定着率の向上も期待できます。

従業員のキャリア形成の支援方法としては、「キャリアパスの明示」や「キャリアデザイン研修・階層別研修の実施」「社内FA制度・社内公募制度の導入」などがあります。

職場環境や福利厚生を整備する

たとえ企業理念に共感したり、仕事にやりがいを感じたりしていても、「残業が多い」「有給を取得しにくい」「家庭との両立が難しい」といった職場環境では、従業員エンゲージメントは高まりにくいでしょう。一方で、ワークライフバランスを実現しやすい職場であれば、従業員エンゲージメントは向上しやすいため、職場環境や福利厚生を整備することも重要です。

職場環境や福利厚生を整える具体的な方法としては、「業務効率化による長時間の是正」「ノー残業デーの新設」「時間単位年休や計画年休、特別休暇の導入」「フレックスタイム制や在宅勤務制度の導入」などがあります。

(参考:『【3分でわかる】時間単位年休とは?導入方法は?労使協定の書き方や運用ルールを解説』『【弁護士監修】計画年休制度とは。年5日・有給休暇義務化の今こそ取得率UPの切り札』『フレックスタイム制を簡単解説!調査に基づく84社の実態も紹介

従業員エンゲージメント向上の企業事例

実際、各企業は従業員エンゲージメントの向上に向け、どのような取り組みを行っているのでしょうか。従業員エンゲージメントの向上に取り組んでいる企業の事例をご紹介します。

株式会社10X (テンエックス)

リテール領域に特化したDXプラットフォーム「Stailer」を展開している株式会社10X (テンエックス)では、仕事と家庭を両立するための新しい人事制度「10X Benefits」を2021年に導入しました。具体的には、「出産・育児休業のサポート金の前払い」や「子どもが認可外保育園に入園する際の補助」「5日間の特別有給休暇(子どもの看護休暇)の導入」などを実施しています。

また、男性社員でも育休を取得しやすいよう仕事を調整しており、男性社員の育休取得率は100%です。こうした取り組みの結果、従業員エンゲージメントの向上のみならず、仕事と家庭の両立を求める優秀な人材の入社にもつながっています。

(参考:『男性育休取得率100%が採用競争力にも。スタートアップに学ぶエンゲージメントを高める人事施策』)

株式会社アトラエ

求人メディア「Green」やAIビジネスマッチングアプリ「yenta」などを展開している株式会社アトラエでは、社員のエンゲージメントを「自主的貢献意欲」と定義し、エンゲージメントを高めることを重視しています。エンゲージメントを高めるには職務に対するミスマッチをなくす必要があると考え、採用選考では「業務内容やビジネスモデルにその人が合っているかどうか」「ビジョンに共感しているかどうか」という観点で応募者を評価。

また、入社後については、コミュニケーションを密に取り、「この会社は自分たちの会社だ」という当事者意識や責任感を感じてもらうようにしているといいます。具体的には、定期的に会社の課題についてディスカッションをしたり、抱いている疑問を創業者に直接発信したりする機会を設けています。

(参考:『「労働時間を短くするよりエンゲージメントを高める」アトラエの考える働き方改革』)

まとめ

従業員エンゲージメントを向上させることで、「従業員のモチベーション向上」や「離職率の低下」「顧客満足度や業績の向上」などのメリットが期待できます。

従業員エンゲージメントを高めるには、「企業理念や経営者の考えの周知」「公平かつ適正な人事評価の実施」「従業員同士の関係性構築の促進」「従業員のキャリア形成支援」といった方法が効果的です。

今回ご紹介した企業事例も参考に、優先順位を決めて施策を実施し、従業員エンゲージメントの向上を図りましょう。

(制作協力/株式会社はたらクリエイト、編集/d’s JOURNAL編集部)

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