中小企業にもチャンス到来!?「法人市場調査」(2023年度下期)から読み解く、転職市場の現状とネクストアクション

パーソルキャリア株式会社

クライアントP&M企画部 髙尾佳宏(たかお・よしひろ)

プロフィール
この記事の要点をクリップ! あなたがクリップした一覧
  • 中小企業では採用拡大傾向が続く一方、大企業ではコロナ禍明けからの採用充足によって「現状維持」の動きも見られる
  • 注目が集まるダイレクト・ソーシング。人材紹介サービスなど他の採用手法と併用することで全体の採用コスト削減につなげる動きも
  • 短期では企業内環境整備、中期では外国人・女性・シニアの活躍推進、長期では人的資本経営がテーマに。リモートワークにも再び注目が集まる

「転職市場が厳しさを増している」と何となく肌感覚で思ってはいても、他社の動向を含めて市場を俯瞰するのは難しいもの。なぜ採用がずっと難しいままなのか。どうすれば採用がうまくいくのか。そうした疑問に応えるため、パーソルキャリアでは半期に一度「法人市場調査」を行い、転職市場の動向把握を進めています。

この記事では2023年度下期の調査を担当したパーソルキャリア髙尾氏へのインタビューを通じて、企業の中途採用ニーズや課題、採用手法の変遷などをレポート。今求められる採用力向上へのアクションを考えます。

大企業では高止まりが見られるも、中小企業では引き続き採用ニーズが拡大

——法人市場調査結果(2023年度下期)に対して、髙尾さんはどんな所感を持っていますか。

髙尾氏:中途採用ニーズはコロナ禍明けから一気に拡大してきました。直近ではそのニーズが高止まりしつつあると感じます。引き続き中途採用自体は拡大しているものの、2022年度比に対して2023年度比ではその伸長が鈍化しているのです。全体的に採用ニーズが高い状態であることは変わりませんが、大企業の一部では一定の採用充足が見られるようになり、採用規模を現状維持とするところも出てきています。

採用難度が高い状況が続く中、既存社員のエンゲージメント向上や離職防止に向けた施策へ人事の興味・関心が移ってきている傾向も見て取れます。

出典:法人市場調査結果(2023年度下期)

——中小企業の動向は。

髙尾氏:従業員数20名未満の企業群では2022年度比で採用ニーズが5.6%伸びており、中小企業についてはまだまだ採用拡大傾向が続いていますね。コロナ禍が明けた段階で、従業員数にかかわらず多くの企業が採用活動を拡大しました。そこで採用成功できていたのは採用力のある大企業が中心。中小企業では思うような採用ができない状況でしたが、2023年度には大企業の一部が拡大を抑えたため、中小企業にもチャンスが巡ってきています。これも拡大の要因でしょう。

転職市場全体を通して言えば、2024年度以降も採用ニーズは高い傾向が続くと見ています。採用力によって、採用枠が充足する企業と充足しない企業に二極化していくのではないでしょうか。

ダイレクト・ソーシング×他の採用手法で「全体コスト削減」を図る動きも

——採用難度が高いと感じる企業が多い中、企業が新たにチャレンジしたいこととして「自社の給与形態の見直し」「採用時に提示する条件の見直し」が上位となっています。

出典:法人市場調査結果(2023年度下期)

髙尾氏:まさに市場で求められている変化でしょう。転職希望者が求める給与・待遇に自社の条件をマッチさせ、採用難度を緩和することを多くの企業が意識しています。エンゲージメント向上や離職防止を考えれば、新たな採用枠だけでなく既存社員に対しても人事制度を変え、待遇改善を続けなければなりません。これは企業にとっての中長期的な課題です。

——新たにチャレンジしたい採用手法を見ると、特に従業員数1000名以上の大企業において「ダイレクト・ソーシングサービスの導入」が増えています。この理由は何でしょうか。

髙尾氏:ダイレクト・ソーシングは以前から注目されていた手法ですが、コロナ禍以降はさらに関心が高まっていると感じます。

コロナ禍以降に採用ニーズが拡大したタイミングで採用が進んでいたのは、保有しているスキルや経験の観点で採用難度がそこまで高くない層でした。一定の採用充足が見られる企業で引き続き残っているのは、特定のスキルや経験を持つ採用難度が高い人材へのニーズ。ダイレクト・ソーシングはそうした人材へアプローチできる手法として注目されているのです。

実際にパーソルキャリアが行った別の調査結果では、人材紹介サービスや求人広告、ハローワークなど従来の採用手法と比較して、「管理職以上・役員クラス」「特定のスキル・経験を持つ人材」の採用にダイレクト・ソーシングを活用したいと考える企業が増えていることがわかりました。

——ダイレクト・ソーシングへの関心の背景には、採用コストの拡大を抑えたいという思惑もあるのでしょうか?

髙尾氏:あると思います。今回の調査で聞いた「取り組みたいテーマ」への回答では、コスト削減を挙げる企業も少なくありませんでした。外部コストについては「採用手法・サービスの厳選」、内部コストについては「採用にかかる工数の削減」が多かったですね。

外部コストを考えればダイレクト・ソーシングは魅力的です。一方、求める人物像の設定やスカウトメール配信などの工数が増えることで内部コストの上昇は避けられません。そのため、自社がほしい転職希望者ごとに手法を使い分け、人材紹介サービスなどのすでに活用している手法を併用することで全体的なコスト削減につなげている企業が多い現状です。

——中途採用業務における困りごとを聞いた設問では、「採用した人材が活躍しない、定着率が低い」と回答する企業も多いですね。

出典:法人市場調査結果(2023年度下期)

髙尾氏:こうした困りごとを抱える企業はコロナ禍前から多く、トレンドによって増加しているわけではありません。ただ、定着率などのオンボーディングの課題に目を向けると、コロナ禍明けの採用拡大期に大量採用した人材が定着していない現状もあるようです。

これは定性的な情報ですが、転職希望者と接するキャリアカウンセラーからは「採用バブルとなっていたコロナ禍明けのタイミングで転職した人が、新しい環境に適応できていないケースも多い」という話もよく聞きます。採用枠が拡大する企業は特に、マッチングやオンボーディングの在り方を見直してみるべきなのかもしれません。

トレンドを超えて取り組むべきテーマとは?「リモートワーク」も再び議題に

——人事・採用担当者の興味や関心は、どのように変化しているのでしょうか。

出典:法人市場調査結果(2023年度下期)

髙尾氏:短期・中期・長期の時間軸で異なる傾向があります。

短期的には、人事制度の変更・改善や適正な要員計画など、社内の環境整備を重視する傾向が強いですね。中期的には外国人・女性・シニアの活躍推進に代表される求める人物像の変化・拡大が挙げられます。DX人材の採用・育成もこうしたテーマの一環です。長期的な視点では、人材の定着・活躍に資するエンゲージメント向上やワークライフバランス拡充など、昨今の人的資本経営に絡んだテーマが多く見られるのが特徴です。

こうした質問ではトレンドに関心が集まることも多いのですが、3〜5年、あるいは5〜10年といったスパンで捉える中長期の興味・関心については、単なるトレンドを超えて企業が本気で取り組むテーマとなっているのではないでしょうか。

——興味・関心ごとに関する傾向で、髙尾さんが意外に感じたものはありますか?

髙尾氏:大企業の長期的テーマとして「柔軟な働き方(時短・フレックス・リモートワークなど)」への興味・関心が加速していることですね。少し前に言われていたテーマが改めて注目されている形です。

コロナ禍明けからは多くの企業でリモートワークが見直され、出社への揺り戻しがありました。一方、リモートワーク可否についての転職希望者の関心は非常に高く、企業を選ぶ際の絶対条件になることも珍しくありません。こうした中、企業としても再び検討事案として真正面から捉えているのだと考えられます。

また、役職別の回答傾向では、役員クラスとそれ意外で目線が異なる傾向もありました。管理職・非管理職は働き方やワークライフバランスに関心が向いているのですが、役員クラスになると「技術・技能の伝承」への関心がトップ。特に従業員数20名未満の中小企業では顕著です。少子化が進行する中、企業そのものを維持していくことへの危機感が現れているように感じました。

——今後の採用成功に向けて、人事・採用担当者は今回の調査結果をどのように活用していくべきでしょうか。アドバイスをお願いします。

髙尾氏:採用競合他社の状況や、転職市場のリアルな動向を知るのは難しいと感じている方も多いのではないでしょうか。私たちが提供する調査結果を通じて転職市場の現状をつかみ、自社の現在地を見定めていただければと思います。トレンドを知ることで自社の課題が見え、どのような手法を取るべきかが明らかになっていくはずです。

社内でアクションを起こす際にも今回の調査結果を活用していただきたいですね。多くの企業で重要課題となっている給与・待遇の改善には、人事だけでなく経営者の意思決定が必要です。昨今の賃上げトレンドを裏付ける情報として調査結果を使い、経営陣の意思決定を後押ししていただければと考えています。

取材後記

調査結果では、全体的に業績拡大傾向にある企業が多い中、コロナ禍で大きくふくらんだ採用予算を維持している傾向も見て取れました。業種別に見ればIT・通信・エネルギー関連などは特に業績拡大傾向にあり、今後さらに採用枠が拡大すると予測されています。髙尾さんが指摘した「採用力が二極化する時代」に勝ち組となるためには、最適な採用手法を選択することや、採用後のフォロー・オンボーディング強化のための人事制度改革が求められます。社内での戦略議論・施策優先度を決定する際にも、こういったデータ活用は有効なのではないでしょうか。

企画・編集/田村裕美(d’s JOURNAL編集部)、野村英之(プレスラボ)、取材・文/多田慎介、撮影/塩川雄也

法人市場調査結果(2023年度下期)

資料をダウンロード