“正解のない時代”に成果を出す組織とは?『冒険する組織』の実践知を安斎勇樹氏に学ぶ

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株式会社MIMIGURI

代表取締役 Co-CEO 安斎勇樹 氏

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  • 軍事的世界観での統率型組織から、意味を探究し価値を共創する「冒険する組織」への転換が求められている
  • 成果を出し続ける組織に共通することは、多様なものの見方を許容し、それを意思決定に活かす柔軟性があること
  • 組織開発における根本原因は「相手を理解できていないこと」

かつてビジネスは市場で勝つための管理や統率についての戦略や戦術が重視されてきました。しかし、はたらく意味そのものが問われる現代において、ビジネスに対する世界観が大きく変わりつつあります。

この記事では、株式会社MIMIGURI代表・安斎勇樹氏が提唱する「冒険する組織」という視点から、軍事的世界観の限界と、これからの組織に求められるマネジメントの本質をひもときます。

冒険する組織とは何か ―「勝つための組織」から「意味を探究する組織」へ

―歴史にみる組織づくりの変化

長らくビジネスは「戦争」に例えられてきました。戦略・戦術・ロジスティクスといった軍事由来の言葉が示す通り、競合に勝ち、市場を奪い、成果を最大化することが経営の中心的な目的だったのです。

1900年代初頭の経営者の悩みは、工場における大量生産のラインが安定せず、生産性が上がらないこと。日雇い労働が基本であった当時の経営課題は、流動的な労働力をいかに統率し、安定的に成果を出させるかということで、短期間で人を育成・統率する「軍事マネジメント」の手法が効果的でした。

再現性と効率性に優れた「軍事的世界観」で組織運営を支えてきましたが、現代のビジネス環境では、その前提条件が大きく変化してきています。

―「はたらく意味」が変わった現代の組織

かつてサラリーマンは「企業戦士」などと言われ、会社に適応し、与えられた役割を全うすることが当然のことでした。背景には、終身雇用や年功序列が機能し、会社に忠誠を尽くすことが生活の安定につながっていたという事情もあります。

しかし現代は、同じやり方が通用しない世の中となりました。兼業・副業も当たり前となり、終身雇用は揺らいでいます。

ビジネスの考え方にも変化が見られています。IT化・グローバル化の中、競合より早くどうシェアを奪うかということが至上命題でしたが、現代ではいかにステークホルダーと協力し、新しい価値を探究するかが問われるようになりました。

こうした環境下では、単に指示を遂行させるだけの組織は機能しません。「なぜこの仕事をするのか」「この仕事にどんな意味があるのか」「なぜこの会社にいるのか」という問いができなければ、創造性を引き出し、新しい価値を見いだすことはできないからです。

この変化を「軍事的世界観から冒険的世界観へのパラダイムシフト」と呼んでいます。
敵に勝つための軍事的世界観から、不確実な世界で新しい価値を探究する冒険的世界観へと、組織はその転換点に立たされているのです。

とは言え、この「世界観のパラダイムシフト」は今まさに過渡期にあり、完全に移行しきってはいません。企業では、仕組みやカルチャーはトップダウンで軍事的世界観なのに、そこにいる一人ひとりには自己実現欲求があり、内発的動機を大切にしている。

この軍事的世界観と冒険的世界観のギャップをどう埋めていくかということが、今のマネジメントに求められているのです。

冒険的世界観を阻む「ものの見方の固定化」

軍事的マネジメントは、「目の前の指示を正しく遂行すれば成果が出る仕組み」をつくることであり、効率性と再現性を重視するものでした。しかし、この軍事的世界観には「ものの見方(Perspective)をこり固める」という弊害があります。

私たち人間は、同じ事実を目の前にしても、生まれや教育、興味によって解釈に違いが発生するものですが、ものの見方が固定化してしまうと、冒険的世界観を阻んでしまうのです。

社内の部門間にも「固定化」の現象が起きています。顧客対応部門は「顧客視点」。IR担当は「株主視点」。それぞれの立場での正しさが絶対化され、他の視点が排除されていく。結果として、部門間の対立や意思決定の停滞が起こります。

人に対しても「あの人はこういうタイプだ」というラベリング・決めつけが対話を止めてしまいます。

こうした固定化により、物事の解釈が広がらず、問題解決の停滞や人間関係の膠着(こうちゃく)を引き起こす。また、「自分はこうだ」と決めつけることにより、個人のキャリアすら、その可能性を狭めてしまうのです。

冒険的世界観とは、こうした固定化を前提としません。異なる視点や解釈の存在を前提にし、それらを組み合わせることで新たな価値を生み出そうとする考え方です。

成果を出し続ける組織に共通することは、多様なものの見方を許容し、それを意思決定に活かす柔軟性だと言えるでしょう。

冒険する組織に必要なのは「対話」

―組織開発における根本原因は「相手を理解できていないこと」

仕事において「大切にしている価値基準」にはさまざまなキーワードがあります。以下はその一例です。

目の前の成果にコミットすることが大切だという人がいれば、コミュニケーションを大切に協調することだという人もいる。権力が欲しい人がいれば遠ざかる人もいる。規範を大切にする人もいれば、破りたくなる人もいる。

それぞれが異なる価値観を持ってはたらいており、それを理解し合えていないことが、組織開発における根本原因ということもよくあること。人が「仲間」になるためには、普段は見えづらい「深い情報」が必要です。そのためには対話が重要になってきます。

―対話により相手を理解する

組織課題には「技術的課題」と「適用課題」の2種類があります。

・技術的課題:解決策が明確で、既存知識や技術で解決可能な問題
・適応課題:問題の当事者が認識や関係性を変えなければ解決しない問題

技術課題はやり方を知っていれば解ける問題ですが、適応課題は自分たちが変わらなければ解けない問題です。「対話」をしなければ永久に解決しない問題となります。

スキルやノウハウで解決できる問題は研修で対応できますが、社員同士の認識や関係性が原因の問題は、対話なしには解決しません。

対話とは、「相手はなぜそう考えたのか」「何を大切にしているのか」と、背景にある価値観に光を当てて知ろうとする行為であり、これこそが組織を「仲間」へと変えていく第一歩になるのです。

―人材育成のゴールは「行動」ではなく「アイデンティティ」

人材開発の考え方も、大きく変わりつつあります。かつては「行動が変わること」が学びの定義でしたが、現在では「アイデンティティが変わること」こそが、学びの本質だと考えられています。

100年前の「学びの定義」は「行動が変わること」。逆に言うと、行動が変わっていない人は学んでいない、ということになります。間違えたらその場ですぐに正し、行動変容を求めることが正しい育成方法とされてきました。時がたつにつれ、この定義は大変視野が狭い見方であることに気がついていったのです。

現代における学びの定義は、「アイデンティティが変わること」ということに帰着しており、「自己実現」がキーワードです。どういうメカニズムで自己実現が起こるのかを知っておくことで、人の成長も捉えやすくなるでしょう。

―自己実現とは何か?

自己実現とは、内なる動機と外から求められる価値が結びついた状態です。

・内なる動機―面白いと思うこと・お金がもらえなくてもやりたいこと
・外なる動機―期待されること・報酬がもらえること

自分が好きでやっていることが結果として評価され、価値を生む。この重なりが、人の成長とエンゲージメントを高めます。

ところが、この2つを調和させることは簡単ではありません。我々人間にとって「生きる課題」と言ってもいいぐらい、難しいことなのです。

中には、内なる動機については諦めて、外なる価値に合わせて妥協するという選択肢を取る人もいるのではないでしょうか。平日は周りから求められることをするけれども、休日は自分の好きなことに没頭するというような具合です。

しかし、諦めずに調和を目指し、試行錯誤していると、やがて内なる動機と外なる価値が結びつき、両立することがあります。

「誰からも求められてなかったけど、好きでやってきたことが褒められるようになってきた」とか、「最初はいやいややっていたけど、次第に面白くなってきた」などというときに、人は「成長した!」と、自己実現感覚をもつのです。調和を模索することは、キャリアの課題解決法でもあるのです。

ただし、調和した状態を保つことは容易ではありません。悲しいことに人間は「飽きる」動物だからです。

過去の自分に飽きても新しい好奇心や得意技を見つけ、自分らしさを求めていく。諦めずに新しい自分を探し続けること。これを「探究」と呼んでいます。

「自己実現」とは一度きりのゴールではなく、終わりなき探究のプロセスです。冒険する組織とは、この探究を個人任せにせず、組織として支え、促す場であると言えるでしょう。

「やりたいことは?」と聞かれても、答えられないのが普通の時代

「将来、何をやりたいの?」という問いは、学生だけでなく、ビジネスパーソンにとっても重く感じられるものです。

かつてのように、5年後・10年後の目標を描き、その達成に向けて逆算するキャリア設計は、不確実性の高い現代では成立しにくくなっています。環境が激しく変化する時代において、明確な長期目標を持てないことは、ある意味当然のことだと言えるでしょう。

そんな現代で問題なのは、目標がないことではなく、好奇心をもたないということです。
「これ、意外に面白いな」「こっちより、こっちのほうが興味あるな」という小さな関心や違和感こそが、自己実現の出発点になるのです。

―自己実現の種は、誰の中にもすでにある

自己実現とは「内なる動機と、外から求められる価値が結びついた状態」ですが、「内なる動機」とは、最初から明確な目標として存在しているわけではありません。

多くの場合、
・なんとなく気になる
・気づくと時間を忘れて没頭している
・誰に言われなくてもやってしまう

といった、言語化されていない「関心」として心の奥に眠っており、ましてや評価や成果を意識するものではありません。

この好奇心を「将来の役に立たない」「仕事にならない」と切り捨ててしまうと、人は次第に「与えられた役割をこなすだけ」の状態に陥ってしまいます。

―「目標逆算型」から「興味探究型」へ

従来のキャリア論では、「目標→ToDo→行動」という目標逆算型が主流でした。明確なゴールを設定し、そこから必要なスキルや経験を逆算して積み上げていく考え方です。

現在は「興味探究型」のアプローチに変わりつつあります。ここでは最初に「目標」ではなく「探究テーマ」を設定します。

・本を読む
・人と話す
・体験してみる
・作品をつくる

こうした行為を通じて、「自分は何に引っかかるのか」「何に違和感を覚えるのか」を探っていく。その過程で関心が深まり、技が磨かれ、やがて外からの期待や役割と結びついていきます。結果として生まれるのが、「最初は想定していなかったキャリア」です。

―探究とは、「新しい自分」を更新し続けること

自己実現には終わりがありません。たとえ一度、内なる動機と外なる価値が重なったとしても、人はやがて飽き、環境も変わります。

そのとき必要なのは、「過去の自分」に固執しないこと。新しい関心に目を向け、再び探究を始めることです。この循環そのものが、アイデンティティを更新し続けるプロセスであり、「探究」と呼ぶものです。

「冒険する組織」とは、目標を押し付ける組織ではなく、探究を支える組織なのです。

組織変革は「内部マーケティング」から始まる

組織づくりや「人」そのものに関心がない人が多数派で、「対話を大切にしよう」というと引いてしまう人もいます。

そのような中で組織変革をスムーズに進めるためには、最初から全員を変えようとするのではなく、まずは共感する人に話しかけ、少しずつ広げていくという「内部マーケティング」が欠かせません。

組織変革を行う際、トップダウンによる指示や戦略は依然として重要ですが、それだけでは人は動かない。人間の好奇心や「意味を求める欲求」に向き合うことこそが、冒険する組織の出発点となるのです。

まとめ

講義後の交流会では、「軍事的なマネジメントと冒険的なマネジメントは両立できるのか」「人は本当に変わるのか」「エンゲージメントやキャリア自律をどう経営に説明すればよいのか」といった、極めて実務的で切実な問いが数多く聞こえてきました。

一方で、参加者の多くから「まずは自己紹介から始めたい」「気づかれない形で対話を忍び込ませたい」という声も聞かれました。

冒険する組織への一歩は、決して大げさな改革ではないということ。組織に求められていることは、社員が自己実現するために探究する姿勢や思考を応援し、促進すること。

軍事的世界観から完全に脱出するためにできることを、組織として探究していきたいものです。

[取材・編集/d’s JOURNAL編集部、制作協力/シナト・ビジュアルクリエーション]

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