「100人応募で1人採用」は健全か?LayerXがエンジニア採用で母集団拡大をやめた理由とその先【連載第24回 隣の気になる人事さん】
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エンジニア採用において母集団拡大のみを目的に注力すると、大量の選考対応に追われ、本当に採用したい人への対応が手薄になる。LayerXは応募数を追い求めるのをやめ、候補者体験への投資へかじを切った
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丁寧なHR面談や丸1日かける「1dayトライアル入社」。スピード重視の時代でも約6週間の選考プロセスを設けて候補者体験を向上させ、入社後のミスマッチを防止
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採用は短期的な母集団獲得競争ではない。転職潜在層とも相互理解を深め、将来的に選ばれる企業になるための長期的な関係構築を重視している
全国各地の人事・採用担当者や経営者がバトンをつなぎ、気になる取り組みの裏側を探る連載企画「隣の気になる人事さん」。
第23回の記事では、株式会社Shippio(シッピオ)の伊達雄介さん、小野寺ひびきさんにご登場いただきました。
▼Shippioの伊達さん、小野寺さんが登場した第23回の記事はコチラ
「ニッチだから応募が来ない」から脱却!Shippioの異業種人材を惹きつける採用術
お二人に「気になる企業」としてご紹介いただいたのは、バックオフィス向けAIエージェントサービス「バクラク」などを通じてAIの社会実装を進める株式会社LayerX(レイヤーエックス)です。
採用に悩む企業の多くが「まず母集団を広げよう」と考え、求人広告や人材紹介サービスの利用を拡大したり、スカウト配信数を増やしたりしている昨今。LayerXでエンジニア採用を担当する大石陽さんは、自身のnoteで「100人の応募で1人の採用は健全なのか?」という問いを投げかけています。
そして、同社では「あえて母集団の拡大を目的化しない」ことを選択。他社が入社承諾までのスピードアップを重視して選考を簡略化するのに対し、同社ではエンジニアが実際の業務を丸1日かけて体験する「1dayトライアル入社」を実施するなど選考プロセスに十分な時間をかけ、転職希望者と相互理解を深められるよう注力しているといいます。

母集団拡大を目的化した先にある「採用の負のスパイラル」
――大石さんはご自身のnoteで「100人の応募で1人の採用は健全か?」という問いを投げかけています。
大石氏:私自身も、人事として採用に携わってきた中で、以前は採用候補者の母集団を拡大することに注力していました。前職では一般的に知名度のある企業に在籍していたこともあり、一つのポジションに大量の応募をいただくことも珍しくありませんでした。
採用成功のために「まず応募数を増やそう」と考えるのは、人事・採用担当者としては自然なことだと思います。ただ、1人を採用するために100人の応募があったとすると、99人はお見送りすることになります。その構造に、だんだん違和感を覚えるようになっていきました。
――違和感を覚えるようになったきっかけは?
大石氏:LayerXに入社したことです。当社には従来「候補者体験」を最も重視する文化があり、私の上司である人事責任者も、エンジニアを束ねる開発組織のマネージャー陣も、同じ価値観を共有していました。
認知度の高い企業であれば、ある程度は自然と応募が集まります。一方で、そうでない企業ほど候補者が集まらない不安から、母集団の拡大を目指しがちです。私自身も以前は、「応募数を増やせば採用できる確率も上がる」と考えていました。
しかし実際には、採用したい方の人物像があいまいなまま間口を広げることに注力してしまうと、応募いただいたのに不採用となってしまう方だけが増えていきます。結果として大量の書類選考や面接対応が発生し、本当に向き合うべき候補者さんへの対応が手薄になってしまうんです。そして、多くの方に不採用という結果を返すことになります。
LayerXで採用に携わるメンバーはこの構造に課題を感じていて、私も強く共感しました。
採用に関わる関係者(Hiring Manager)の時間は有限であり、その限られた時間をどこに投下するかを考える必要があります。そこで私は応募数ではなく、「採用の生産性」を重視するようになりました。

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「たくさん会う」より「採用につながる人と会う」
――採用の生産性とは、具体的にどのような考え方なのでしょうか。
大石氏:たとえば求人媒体ごとに分析すると、15人と面談して1人採用できるケースもあれば、45人会ってようやく1人採用できるケースもあります。媒体特性や運用の方法によって異なりますが、同じ1人の採用でも、必要な工数は3倍の差が出ることがあります。
私たちは採用に関わる関係者(Hiring Manager)との定例会議の中で、こうした数字を共有していました。感覚的に「この媒体は良さそうだよね」と話すのではなく、採用決定までの歩留まりを見ながら議論していました。
――議論の結果、「この手法を使うのをやめる」と決めた例もあるのですか?
大石氏:あります。
たとえばエンジニア採用では、比較的多くの転職希望者の方と接点を持てる求人媒体もあれば、登録者数自体は多くないものの経験豊富な人材が集まりやすい求人媒体もあります。
単純に接触人数だけを見れば前者のほうが良いと感じるかもしれませんが、選考プロセス全体の生産性という視点で考えれば、後者のほうが適しているケースもあります。私たちは、そうした数字や事実を踏まえながらチャネルごとの時間配分を見直していきました。
私が担当するエンジニア採用の領域では、お付き合いする人材紹介エージェントさんもかなり少なくしています。今の採用市場では10社以上のエージェントさんとお付き合いするケースも珍しくないと思いますが、私自身は5社を上限にしています。

――転職希望者の紹介数が減ることへの不安はありませんでしたか?
大石氏:不安がなかったわけではありません。紹介数だけを見れば、お付き合いするエージェントさんを増やしたほうが短期的には増えると思います。
ただ、私たちは採用活動において、数を増やすこと自体を目的にしていません。むしろ、できるだけ少ない接点の中で、本当にお互いに合う可能性の高い方と出会える状態をつくりたいと考えています。
極端に言えば、理想は1人のご紹介で1人採用できる状態です。そのためには、エージェントの方にも深くLayerXを知っていただく必要があります。LayerXの事業や組織だけでなく、候補者の方が何を大切にしているのか、なぜ今その方にLayerXをご紹介する意味があるのかまで考えていただくことが重要です。
継続してお付き合いしているエージェントの皆さんは、そこに本気で向き合ってくださっていると感じます。単に候補者を紹介するのではなく、この方ならLayerXと良い相互理解ができそうだ、というところまで考えてくださっています。
結果として、紹介数を追わなくても、採用につながる確度の高いご縁を丁寧につくっていただけていると思います。
選考はジャッジではなく「相互理解の場」
――選考フローについても教えてください。LayerXでは、一次面接の前に行うHR面談を重視しているそうですね。
大石氏:HR面談では、大きく二つのことを行っています。
一つは転職希望者のご志向性の確認です。転職によって何を実現したいのか。何を重視しているのか。そうした背景をお聞きします。このヒアリングを通じて、「転職希望者の希望をLayerXで実現できるのか」を考えています。
もう一つ重視しているのが、選考フローそのものの説明です。LayerXのエンジニア採用には「1dayトライアル入社」という、実際の業務を1日かけて体験していただく独自のプロセスがあります。
初回の面談からオファーまでの選考期間は、平均して6週間です。エンジニア採用では、面接2~3回が世の中の主流だと思うので、当社の選考プロセスは決して短いとは言えません。だからこそ、なぜこれだけのプロセスにご協力いただくのかを最初に丁寧に説明しています。
――スキル確認よりも前に、まず認識を合わせるわけですね。
大石氏:はい。採用で一番怖いのはボタンのかけ違いです。
候補者さんは「この役割を担うと思っていた」、企業側は「別の役割を期待していた」。こうしたズレがオファー面談の段階になって発覚すると、再度の認識の擦り合わせは難しくなります。
一方で、初期段階でこのズレに気づくことができれば、面談の回数を増やしてでもすり合わせができます。これも、最初の段階で候補者さんに選考プロセスを理解してもらえているからこそできることです。
丸1日かける「1dayトライアル入社」が転職希望者の解像度を高める
――1dayトライアル入社について詳しく教えてください。丸1日かけて実際の業務を体験してもらうことには、どのような狙いがあるのでしょうか。
大石氏:目的はシンプルで、入社後のミスマッチをなくすことです。
1dayトライアル入社では、私たちが転職希望者を見極めるだけではありません。転職希望者にも私たちをしっかりと見極めていただきたいとお伝えしています。技術的なフィット感やカルチャーとの相性など、実際にはたらいてみないとわからないことはたくさんあります。
――平日の実施ということで、転職希望者によっては現職で有給休暇を取る必要もありますよね。参加のハードルは高くありませんか。
大石氏:一定のハードルはあります。ただ、1dayトライアル入社も含めて、LayerXの選考プロセスに納得いただけるかどうかも、相互理解の一部だと考えています。
むしろ、この1日があることで、本気でLayerXへの入社を考えてくださっている候補者さんだけが後半の選考に進んでいただける、とも言えます。
お互いの時間を無駄にしないためにも、必要なプロセスだと思っています。
――1dayトライアル入社を経た転職希望者の反応はいかがですか。
大石氏:シニアなエンジニアの方は特に、好意的に受け止めていただいています。
エンジニアは技術で課題を解決する仕事です。成長意欲が強いエンジニアほど、実践的な課題を面白がってくれる傾向があります。
また、1dayトライアル入社の日には当社のエンジニアリングマネージャーやテックリードなどが伴走します。
その時間を通じて、入社後に一緒にはたらくエンジニアたちのスキルや考え方に触れて、「このチームではたらきたい」と感じていただくことも少なくありません。
複数社のオファーが並んだとき、最終的に転職希望者から選ばれやすいのは、「より高い解像度で理解できている企業」です。そういう意味でも、この取り組みには大きな意義があると感じています。

タレントプールへのアプローチは「現場への運用支援」が鍵
――近年では、「今すぐに転職するつもりはないけど情報収集を進めたい」という、いわゆる転職潜在層との接点づくりを強化する企業も増えています。LayerXではどんなことに取り組んでいますか。
大石氏:私自身は、中長期的な採用計画を基に、社内の技術広報・採用広報チームと連携しています。
どのポジションでどんなエンジニアを採用したいのか。その時期はいつなのか。そうした採用ニーズと、当社が行う技術カンファレンスやイベントの予定を重ね、オウンドメディアや技術ブログなどでどのようなコンテンツを発信していくべきかを調整しています。
――タレントプールも大規模に運用されているそうですね。
大石氏:はい。現在は約9,000人規模となっており、私自身もLayerXに入社してタレントプールが充実していることに驚きました。
ただ、やっていることはすごく地道です。3カ月ごと、あるいは半年ごとにご連絡するだけ。
ご連絡の内容も、ごあいさつだけのこともありますし、「そろそろ新しい環境を検討していませんか?」と伺うこともあります。
お相手との関係性に応じてコミュニケーションを定期的に取り、接点を絶やさないことが重要だと考えています。
また、こうしたご連絡は、タレントプールに登録されている方と実際に接点を持っているエンジニアに担当してもらいます。
そのため、招待制イベントを企画したり、そこへの招待メール文面を準備して共有したりと、現場エンジニアが声をかけやすい状態をつくっています。こうした実行支援が、タレントプールの運用には欠かせません。
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大切なのは、採用活動の常識を問い直し続けること
――「あえて母集団を絞り、転職希望者にポジティブな選考体験を提供する」という考え方は、エンジニア以外の職種の採用でも活かせると思いますか?
大石氏:私はあくまでもエンジニア採用の担当なので、他職種について断言はできません。ただ、採用生産性や候補者体験を重視する考え方そのものは、ビジネス職など幅広く応用できる部分があると思います。
LayerXの場合は採用活動における人事・採用担当者一人ひとりの裁量が大きく、「How」の部分はそれぞれで自由に考えることができます。だからこそ私たちは常に、「本当にこのやり方が最適なのか」と自分に問い直しています。
面接を2~3回やってオファーを出す。いつからか常識のようになったこの流れは、本当に自社の採用にとって適切なのか。
採用が難しくなる中で、オファーを出すスピードを上げるために選考プロセスを簡略化していくことは本当に正しいのか。
固定観念を疑い、自らに問い直すことが必要なのだと思います。
そもそも採用とは、応募数を競う活動ではありません。転職を希望される方と企業との間で、どれだけ深く相互理解を築けるか。その積み重ねが、最終的に選ばれる企業につながっていくと考えています。

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【取材後記】
採用がうまくいかないとき、つい応募数を増やすことばかりにとらわれてしまう人事・採用担当者は多いと思います。しかしLayerXの取り組みから見えてきたのは、「応募数を増やすこと」と「採用がうまくいくこと」は必ずしもイコールではないという事実でした。限られた採用リソースを、本当に会うべき人との相互理解のために投資する。その発想こそ、これからの採用活動に求められることなのかもしれません。
企画・編集/海野奈央(doda人事ジャーナル編集部)、岩田悠里(プレスラボ)、取材・文/多田慎介、撮影/塩川雄也
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