AI活用=工数削減になっていませんか。AI時代の人事に必要な「再投資」という視点

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人事図書館 館長/株式会社Trustyyle

代表取締役

吉田 洋介(よしだ・ようすけ)

プロフィール
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  • AI活用の成果は工数削減に集中しているが、重要なのは削減した時間を何に再投資するかを事前に設計し、事業成長や企業価値向上につなげること
  • AI時代の人事には、制度運用だけでなく経営・事業課題の解決を担う役割が期待されている
  • 人事組織はAIを前提に再編が進み、人事責任者には組織変革を主導する実行力が求められる

AIによる業務効率化が進み、多くの企業で人事業務の工数削減が実現し始めています。しかし、工数削減によって生まれた時間を活かしきれず、成果が一時的な効率化にとどまっている企業も少なくありません。

AI時代に「人事の価値を高める」には、創出した時間をどこへ再投資し、人事組織をどう変革していくべきなのでしょうか。今回のセミナーでは、人事図書館館長・株式会社Trustyyle代表取締役の吉田洋介氏をお迎えし、国内外の先進事例をもとに、AI活用を経営貢献へとつなげるための考え方と実践のポイントを聞きました。

【事例紹介】人事領域におけるAI活用の最先端

吉田 洋介氏(以下、吉田氏):人事領域でもAI活用が急速に広がり、日々の業務の進め方に変化が生まれています。では、実際にAIはどの業務で活用され、どのような成果につながっているのでしょうか。

まず、AI時代に求められる人事戦略の最新トレンドを探るため、国内外880社のAI活用事例を調査しました。その結果、人事におけるAIの活用領域は、大きく八つの領域に整理できることがわかりました。AIは文章作成や情報検索にとどまらず、複数の情報を整理し、人事業務の一連のプロセスを支援できるようになっています。

では、実際に企業はどのようにAIを活用しているのでしょうか。ここでは、人事領域でAI活用を進める3社の事例をご紹介します。

事例① 評価根拠の収集を自動化(トグルホールディングス株式会社)

不動産再開発や最先端のAIソリューションなどを展開するトグルホールディングス株式会社では、人事評価の根拠となる情報収集にAIを活用しています。

SlackのログやGoogleカレンダーの情報、GitHub上の活動など、日常業務を通じて蓄積されたデータを自動収集し、社内の評価軸や目標に照らして整理する取り組みです。等級ごとに高評価につながる活動や、どの行動がどのような評価に結び付くのか、その根拠となる情報をAIが提示します。

これにより、人事管理工数が約15時間からほぼゼロとなり、99%の工数削減を実現。また、評価期間はこれまでの約10営業日から6営業日へと、40%の短縮という成果も見られました。

事例② オンボーディングの自動化(Tupras)

トルコの石油精製企業Tuprasでは、AIを活用したオンボーディングの自動化に取り組んでいます。

面接時のメモや、職務・配属に関する資料をもとに、キャリア採用の入社者がつまずきやすいポイントを事前に整理し、一人ひとりに合ったオンボーディングプログラムを作成するという使い方です。

これにより、人事業務は月に約5,000時間もの削減効果を出しているほか、人事への問い合わせ削減にもつながり、人事・採用担当者の負担も減少しています。

事例③ 面接日程調整の自動化(LINEヤフー株式会社)

LINEヤフー株式会社では、採用関連の日程調整にAIを活用しています。

採用管理システム(ATS)と予定表の情報を照合し、面接日程の候補提示から社内関係者・転職希望者への連絡まで、一連の調整業務を自動化しています。

これにより、月間約1,600時間以上の削減を実現しました。これは、正社員約10人分の勤務時間に相当する規模です。

AI活用の価値は、工数削減の先にある

──AI活用の成果は、依然として『効率化』が中心

吉田氏:AI活用を実践している100社の事例を分析すると、現時点で成果が顕在化している事例の74%は、業務効率化や工数削減に関するものでした。先ほどご紹介した企業事例からもわかるように、人事領域におけるAI活用の多くは、業務時間の削減や運用負荷の軽減といった成果に集中しています。

一方で、人事に期待される成果である離職率の改善や人材育成の高度化、さらには売上向上への貢献といった経営成果につながるAI活用事例は、まだ限定的な状況にあるといえます。

AI活用によって削減した工数は、意識しなければ別の業務で埋まり、やがて元の状態に戻ってしまいます。重要なのは、削減した工数をどのような成果創出につなげるかです。

工数削減後も、継続的に成果を上げている企業に共通するのは、AI導入前に「生まれた時間を、何に再投資するか」を決めていることです。

「まずは工数を削減してから考える」という進め方では、継続的な成果につながりにくいのが実態です。業務効率化によって生まれた時間や人材を、どこへ配置し、どのような成果を生み出すのか。そこまでを一体で設計することが、人事組織の変革につながるのです。

──業務効率化だけでは終わらない。人事が生み出す“新たな価値”(株式会社SHIFT)

吉田氏:工数削減後の再投資を考える上で参考になるのが、株式会社SHIFTの取り組みです。

同社では、「バックオフィスを、利益を生む現場に」を掲げ、人事をはじめとするバックオフィス人材を、自ら価値や収益を生み出せる「プロフィット人材」へ転換する取り組みを進めています。

AI活用によってバックオフィス業務を細かく分解・再構築した結果、派遣・ビジネスパートナー100人分、正社員120人分に相当する工数削減を実現。年間8億円の販管費削減に加え、年間10億円の売上創出にもつながっています。

注目すべきは、削減した工数を単なる効率化で終わらせず、新たな価値創出へ再投資している点です。例えば人事・採用担当者は、AI活用や業務分解の過程で得た知見をもとに、クライアント企業の課題解決を支援する「HRコンサルタント」として活躍しています。

この事例は、AI導入の本質が工数削減そのものではなく、創出した時間をどのような付加価値業務へ振り向けるかにあることを示しています。

経営から高まる期待、人事のスキルギャップ

──AI時代、経営陣から人事への期待は高まる

吉田氏:経営者がAIという新たな経営資源を最大限活用し、組織全体の生産性向上につなげたいと考えるのは、ごく自然なことでしょう。

では、AIという経営資源を最大限活用するために、組織はどのように変わるべきなのでしょうか。その問いに最も近い立場にいるのが人事です。

人とAIが共に価値を生み出す組織へ導く役割は、人事に強く期待されています。だからこそ、AI時代の人事には、制度や運用を担うだけでなく、経営戦略と事業成長を支える存在になることが求められるのです。

実際、私のもとには翌年度に向けたAI前提の人事組織構想に関する相談が急増しています。「経営から人事部員を半減するよう求められている」、「AI時代を見据えて、人事の役割や評価指標を再定義したい」といった相談も少なくありません。

こうした相談の増加からも、人事の在り方そのものを見直し、担うべき仕事とAIに委ねる仕事を整理したうえで、新たな組織の形を実装しようとする動きが加速していると感じています。

──AI活用を阻む人事のスキルギャップ

吉田氏:AIを活用して人事業務を自動化し、創出したリソースを現場へ振り向け、事業課題の解決につなげる。その実現に向けて、人事には「事業」「人・組織」「AI」の三領域に習熟したプロフェッショナルであることが求められ始めています。

一方で、これらすべての領域において人事自身が高度な専門性を身につけることは容易ではないでしょう。

パーソル総合研究所の「人事部トレンド定量調査」では、人事部が主導・関与する施策のうち、「DX・デジタル化・AI活用の推進」に対して、人事部が原則関与しない企業が49.1%と約半数を占めています。

出典:パーソル総合研究所「人事部トレンド定量調査2026」

また、人事部が主導するAI活用の取り組みについて、「取り組みは行っていない」と回答した割合は45.6%でした。これらの調査結果から、AI推進への人事の関与は、限定的であることがうかがえます。


出典:パーソル総合研究所「人事部トレンド定量調査2026」

われわれが1,000人の人事部員を対象に実施した「人事のプロチェックリスト」では、施策の実行力に強みを持つ一方、テクノロジー領域の知識や活用スキルについては相対的に弱い傾向が明らかになりました。AI活用への関与が限定的である背景には、こうしたスキルギャップも影響していると考えられます。


人事組織の未来像

吉田氏:経営は人事に対して、企業価値を高める存在になることを期待しています。そのためには、以前から求められてきた「事業理解」や「人・組織」の知見に加え、「AI」を活用し、人事業務を自動化するとともに、創出したリソースを新たな価値創出へ振り向けることが重要です。

一方で、先ほどのデータでも示した通り、人事部門が短期間でAIの専門性を身につけることは容易ではありません。では、AIが前提となる時代において、人事組織はどのように変化していくべきなのでしょうか。将来の姿はまだ流動的ですが、私は次の4つの方向性が見え始めていると考えています。

① 経営企画との融合
AIが経営課題の中心になる中、経営企画と人事が融合する兆しがあります。事業成長に直結する人・組織づくりを進めるため、人事と経営企画を融合・統合する企業もみられます。

② エンジニアとの融合
人事とエンジニア組織が連携・融合する動きも進むでしょう。テクノロジーやデータを活用して人・組織の課題を可視化し、人事の仕組みや従業員体験を継続的に進化させるためです。

③ 事業目標を人事のKGIに設定
オペレーションをAIが担うようになれば、人事は事業成果の創出により多くのリソースを投下できるようになります。人事内の目標・指標だけではなく、事業部側の目標を起点に成果を測る組織へと変化していくでしょう。

④ 縦割り解消の少数精鋭チーム化
これまで独立していた採用、人材開発、労務などの機能は、AIによる業務効率化を前提に再編される可能性があります。各領域を理解する人材が連携し、育成・評価・労務を横断的に担う少数精鋭の組織へと変わっていくでしょう。

AIと共存し、変革を主導する人事責任者へ

吉田氏:ここまで、AI時代における人事への期待の高まりや、人事組織が変革していく可能性についてお話ししてきました。では、こうした変革を主導する人事責任者には、具体的にどのような行動が求められるのでしょうか。

私は、AI時代の人事責任者に求められる重要な姿勢・アクションとして、次の3つがあると考えています。

① 社内制約に閉じず、最先端AIを積極的に習熟し続ける

まず重要なのは、社内の環境や制約を前提にせず、最先端のAIに触れ続けることです。

業務でAIを活用する際には、個人情報や機密情報の取り扱いなどの観点から、利用できる機能に制限が設けられているケースも少なくありません。しかし、その環境だけを基準にAIの可能性を判断してしまうと、社会全体で起きている変化の大きさを見誤る恐れがあります。

だからこそ、プライベートも含めて最先端のテクノロジーに触れ、自ら活用経験を積むことが重要です。実際、人事責任者の方からも、AIの活用が情報収集やメール文案の作成にとどまっているという話をよく聞きます。

まずは人事責任者自身が、AIの活用を前提としたはたらき方へシフトすること。そして、その経験をもとに経営陣や人事メンバーへ働きかけ、組織全体の変革をリードしていくことが求められるでしょう。

② 痛みを伴う人事組織のAXを経営へ提言する

人事のAX(AI Transformation)を、自ら経営へ提言することも重要です。

例えば、「人事部門の人員を現在の8割に再編し、その体制でより高い成果を生み出す」といった構想を示すことです。役割や配置の見直しを伴う変革を主体的に提案することで、経営からの信頼にもつながります。

最近では、コンサルティング会社がバックオフィスの大幅な組織再編を提案するケースも増えています。場合によっては、経営主導で人員削減や、人事の役割そのものを縮小するような施策が検討されることもあるでしょう。

だからこそ、自ら担うべき役割と成果を定義し、先手を打って変革を進めることが重要です。人事責任者自身が主導権を持ってAXを推進することで、人事組織の価値を高めることにつながるでしょう。

③ 再投資する業務を設定し、強引に人と仕事を動かす

工数削減によって生まれた時間を何に再投資するのかを決め、人と仕事を実際に動かすことも重要です。

AIに不安や抵抗感を持つ人もいます。しかし、周囲の状況をうかがい、足並みがそろうのを待っていては、変革の機会を逃してしまいます。外部環境や競合企業は、自社の準備が整うのを待ってはくれません。

だからこそ、どの業務に時間を再投資するのかを決め、人材を配置し、実行に移すことが重要です。AIによって生まれた時間と人材を、企業価値の向上につながる仕事へ振り向ける。その実行力こそが、いま人事責任者に求められています。

AI活用の実践ポイントをQ&Aで解説

AI時代の人事考課をどう考えるべきか。情報漏洩への不安に対し、どう対応すべきか。セミナー参加者から寄せられた人事ならではのリアルな悩みや疑問に、吉田氏が答えました。

Q1. LLMの利用にとどまらない、具体的なAI活用例を教えてください。

吉田氏:私が特に大きな可能性を感じているのは、人事データ基盤の構築です。

現在、多くの企業では、採用や労務などのシステムが分かれ、データが分断されています。これらを統合することで、採用時の情報を入社後の育成や配置、評価まで一貫して活用できるようになります。

例えば、パルスサーベイの変化をAIが検知し、離職リスクやコンディションの変化を人事へ知らせることも可能です。こうした仕組みを導入している企業もすでにあります。

AIネイティブな人事とは、AIを使うこと自体ではなく、これまで実現できなかった一人ひとりに合わせた支援を可能にすることだと考えています。

Q2. AIによる工数削減で生まれた余白時間は、何に再投資すべきなのでしょうか。

吉田氏:再投資先として有効だと考えられるのは、現場理解を深めることと、社員一人ひとりの内面を理解することです。

事業に貢献するには経営や顧客を知ることが欠かせず、社員に貢献するには社員を知ることが欠かせません。しかし、現場の実態や社員の想いは、サーベイや数値だけでは捉えきれないものです。

だからこそ、人事部員が現場に足を運び、社員と直接対話する時間には大きな価値があります。AIによって生まれた時間は、こうした人に向き合う活動に再投資していくべきだと考えています。

Q3. AIを人事考課に活用する際、どのような点に注意すべきでしょうか。

吉田氏:私が把握している範囲では、AIが出した評価結果をそのまま人事考課に反映している企業はほとんどありません。

AIは、評価に必要な情報の収集や整理、評価案の作成には有効です。一方で、その内容を本人へのフィードバックや最終評価にそのまま用いるべきではないでしょう。

評価の責任を負うのはあくまで人間です。AIが作成した案は必ず人が確認・修正し、自らの判断として評価や対話に活かすことが重要です。

Q4. AIへの個人情報の入力を避けていても、情報流出への不安は残ります。どのように対応すればよいでしょうか。

吉田氏:まずは、個人情報の機微性に応じて分類し、「どこまでならAIに入力できるか」のルールを定めることが重要です。病歴などの機微な情報は入力対象から外すなど、情報の種類に応じた基準を設ける企業もあります。

情報流出リスクについては慎重に向き合う必要がありますが、リスクの内容を具体的に整理し、適切な対策を講じることが大切です。

例えば、権限設定の不備によって情報が外部から閲覧可能になるケースは考えられますが、これはAI固有の問題ではありません。重要なのは、何がリスクなのかを正しく理解し、必要な対策を講じることです。

まとめ

AIの進化によって、人事業務の効率化は今後ますます加速していくでしょう。しかし、工数削減はゴールではなく、あくまでスタート地点です。これからの人事に求められるのは、工数削減によって生まれた人と時間をどこに再配分し、どのような価値創造につなげるかです。

人事責任者には、AIの変革的な活用を見据えながら、人事組織の役割と成果を再定義し、企業価値向上をけん引することが期待されています。AI時代の人事の競争力は、効率化の先にある「再投資」によって決まるでしょう。

編集/酒井 百世(doda人事ジャーナル編集部)、制作協力/シナト・ビジュアルクリエーション

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