70歳定年時代に向けて、企業が今やっておくべきこと~2020年法改正~

法律事務所A.I.Links

代表弁護士 加藤 丈晴(東京弁護士会所属)

プロフィール

「高年齢者雇用安定法」の法改正が進む中、2020年の法改正案では「70歳までの雇用確保」が企業の努力義務になることが示されました。経験や知識が豊富で意欲のある高齢者に力を発揮してもらうために、企業ではどのような対策を検討する必要があるのでしょうか。今回は、企業が選択できる7つの対応方法と導入の流れ、メリットやデメリット、すでに70歳まで雇用延長を行っている企業の事例、活用できる助成金について詳しくご紹介します。

2020年の法改正で、企業に対し70歳までの雇用確保を努力義務化

「高年齢者雇用安定法」とは、1971年に「高齢者の雇用の確保」「再就職の促進などによる高齢者の職業の安定や福祉の増進」「経済・社会発展への寄与」を目的に制定された法律です。現行の「高年齢者雇用安定法」は2013年に改正されたもので、65歳までの雇用を企業に義務付けています。
この法律をさらに強化する方向で、政府は2020年2月4日、改正案を閣議決定しました。今回の法改正のポイントについてご紹介します。

2020年改正案のポイント

2020年の改正は、「意欲ある高齢者が、より長く働ける環境を整備すること」が目的としています。そこで、70歳までの高年齢者就業確保措置を講ずることを、企業の努力義務としました。就業確保措置には「雇用による対応」だけでなく、フリーランスや起業、NPO活動への支援など「雇用以外の対応」も含まれます。現行の「高年齢者雇用安定法」と改正との違いは以下の通りです。

現行 2020年改正案
措置の名称 高年齢者雇用確保措置 高年齢者就業確保措置
対象となる年齢 65歳まで 70歳まで
企業の義務かどうか 義務 65歳まで:義務
65歳~70歳まで:努力義務
対応方法 雇用による対応
①:定年廃止
②:65歳までの定年延長
③:継続雇用制度の導入
雇用による対応
①:定年廃止
②:70歳までの定年延長
③:継続雇用制度の導入
雇用以外の対応
④:他企業への再就職の実現
⑤:個人とのフリーランス契約への資金提供
⑥:個人の起業支援
⑦:個人の社会貢献活動参加への資金提供

(参考:厚生労働省『雇用保険法等の一部を改正する法律案の概要』)
(参考:『定年延長70歳の時代、企業はどう対応するか。退職金や給与、役職定年…検討事項は多数』『【弁護士監修】2020年最新版・高年齢者雇用安定法、いつまでに何を対応すべき?』)

70歳までの雇用確保はいつから始まる?

「定年延長」はこれまで段階的に進められています。法案が成立したからといって、いきなり全企業が制度変更に対応できるかというと現実的ではありません。そのため2013年の法改正が施行されるまでに、労使協定により継続雇用制度の対象者を限定する基準を定めていた会社については、2013年から2025年までの12年間を経過措置として、段階的に制度変更を行う形となっています。つまり、2025年4月1日からは「65歳までの雇用確保」が全企業に対して義務化されるのです。さらに2020年の通常国会で今回の改正案が可決・成立したため、2021年4月から「70歳までの雇用確保」が努力義務となる見通しです。(ただし、政府は混乱を防ぐために「65歳までの雇用確保」に関する現行の法制度については、経過措置期間が完了する2025年まで、法改正は行わないことを示しています)

このような段階的措置を見据えて、企業は計画的に雇用確保に関わる制度を整えていく必要があります。

70歳までの雇用確保はいつから始まる?

(参考:内閣官房日本経済再生総合事務局『高齢者雇用促進及び中途採用・経験者採用の促進』)
(参考:『定年延長70歳の時代、企業はどう対応するか。退職金や給与、役職定年…検討事項は多数』)

70歳定年のメリット

「70歳までの雇用確保」が努力義務になることで、企業にはどのようなメリットがあるのでしょうか。得られる2つのメリットについてご説明します。

メリット①:安定的に戦力を確保できる

労働力人口の減少により、多くの企業において人材不足が深刻化しています。新たに人材を確保することが困難な中、会社の仕組みや業務を深く理解した人材を継続雇用できることは、安定した戦力の確保につながるでしょう。

メリット②:若手人材に専門スキルや知識、ノウハウを継承できる

長年の経験により培われた専門スキルや知識、技術は、企業にとって重要な経営資源です。定年が延長されることによって指導役・育成役として活躍する機会を得ることができます。若手人材にとっても、ベテラン層から熟達した知識や技術を教わることは、貴重な機会となるでしょう。

70歳定年のデメリット

「70歳までの雇用確保」が努力義務になることによるデメリットも、想定しておく必要があるでしょう。「70歳までの雇用確保」によって企業にもたらされるデメリット3つをご説明します。

デメリット①:企業全体の高齢化が進み、若手人材が減少する

70歳まで定年が引き延ばされることによって、長期間にわたり同じ業務やポジションに携わる人が増えることになります。そうなると、雇用人数に限りがある場合には、新規採用者数を減らさなければならない場合もあるでしょう。また高齢の従業員に比べて若手人材が少なくなると、年齢構成のバランスに偏りが生じることもあります。企業の評価制度によっては「高齢の従業員が多く、結果を出してもなかなか昇格できない」といった状態に陥る可能性もあります。結果的に若手社員の離職につながる場合もあるでしょう。そうならないように、70歳までの雇用確保への対応の際には、その選択肢によって評価制度なども合わせて見直す必要があります。また、雇用人数に限りがある場合には、そもそも定年の引き延ばしではなく、継続雇用制度の利用や、雇用以外の対応によるべき場合もあるかもしれません。高齢の従業員だけでなく、若手を含めた社員についても、みんなが納得感を持ち、モチベーション高く働けるように制度を整えることが大切です。

デメリット②:賃金についての問題が生じることも

70歳まで定年が引き延ばされることによって、賃金の問題も発生してきます。これまで通りの採用を続けながら定年延長をした場合には、当然従業員の数が増え、その分賃金にかかる費用も増えます。仮に若手の採用を減らし、その分高齢の従業員の雇用継続を行うとすると、企業自体の高齢化もさることながら、年功序列制度などを取り入れている企業では、従業員の平均年齢が上がる分、従業員の人数が増えなくても賃金が増えることになります。また、仮に高齢の従業員の給与を減らしたとすると、同一労働同一賃金の原則に基づき、労働内容も変更する必要が出てきます。高齢世代と他の従業員の賃金制度をどうするのか。これは「70歳までの雇用確保」を行う際に、不公平感が出ないよう、検討しておきたい問題の1つです。

デメリット③:高齢者の健康、安全管理を徹底する仕組みが必要

高齢の従業員に働いてもらう際には、健康面での問題もでてきます。年齢を重ねていくことで体力的に仕事の継続が困難になったり、病気になったりするリスクも増えていきます。高齢の従業員が無理なく働ける環境を整備するとともに、定期的に健康診断や予防接種などを行い、健康状態の変化に気付ける体制を整えておきましょう。また、高齢者に対して過酷な労働条件での就労をさせると、使用者の安全配慮義務との関係で問題が生じ得るので、労働環境や就労管理なども併せて見直す必要も出てくる場合もあります。

企業の対応方法は7つ

政府は資料『高齢者雇用促進及び中途採用・経験者採用の促進』において、65歳から70歳までの就業機会確保への対応方法として「雇用による対応」が3つ、「雇用以外の対応」が4つと、合わせて7つの選択肢を提示しています。第一段階では、規定で3つの選択肢を明示した上で「70歳までの雇用確保」を努力義務としています。さらに、第二段階では企業名の公表などを想定した、義務化に向けた法改正を検討していくことを示しています。企業はどの選択肢を適用するか、従業員と十分に話し合った上で仕組みを検討する必要があります。

ここでは、「雇用による対応」3つについては対応方法の流れ、就業規則の書き方、保険や退職金について解説します。「雇用以外の対応」4つについては、現在検討されている内容についてご紹介します。

●雇用による対応

① 定年廃止
② 70歳までの定年延長
③ 継続雇用制度の導入(現行65歳までの制度と同様、子会社・関連会社での継続雇用を含む)

●雇用以外の対応

④ 他企業への再就職の実現
⑤ 個人とのフリーランス契約への資金提供
⑥ 個人の起業支援
⑦ 個人の社会貢献活動参加への資金提供

(参考:内閣官房日本経済再生総合事務局『高齢者雇用促進及び中途採用・経験者採用の促進』)
企業の対応方法は7つ

対応方法①:定年廃止

定年自体を廃止する場合、実施の流れや就業規則の書き方、退職金や保険などの対応については以下のようになります。

実施の流れ

まずは、就業規則などを確認した上で、定年の廃止が妥当かどうかを検討します。定年を廃止することが決まったら、人事制度や給与制度についても変更の必要がないか見直した上で、就業規則を変更します。

就業規則の書き方

定年を廃止する場合には、就業規則から「定年に関する記述」を全て削除します。さらに「定年を前提とした項目」があった場合には、削除や見直しを行いましょう。就業規則とは別に、給与規定などを設けている場合、「定年を前提とした項目」が記載されている可能性があるため、全ての規定を確認する必要があります。就業規則の変更が終わったら、労働基準監督署に届出を行いましょう。
(参考:『【社労士監修・サンプル付】就業規則の変更&新規制定時、押さえておきたい基礎知識』)

退職金や保険などの対応

定年を廃止する場合、退職金については「退職金制度を廃止または逓減する」「退職金を賃金として年次払いにする」といった方法を取る企業が多いようです。雇用保険については、週の所定労働時間が20時間以上、かつ31日以上の雇用の見込みがある場合には「高年齢被保険者」となり、継続して適用対象となります。
(参考:高齢・障害・求職者雇用支援機構『65歳超雇用推進マニュアル~高齢者の戦力化のすすめ~』)
(参考:厚生労働省『雇用保険の適用拡大等について』)

対応方法②:70歳までの定年延長

現行法の「高年齢者雇用確保措置」の1つとして「65歳までの定年の引き上げ」が求められていますが、2020年の法改正によって、さらに70歳まで引き上げることも検討する必要がでてきます。ここでは、定年の引き上げをする際の対応の流れをご紹介します。

実施の流れ

65歳超雇用推進マニュアル』(独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構)では、定年延長に向けた対応を「①現状把握~基本方針決定段階」「②制度検討・設計、具体的検討・決定段階」「③実施段階」「④見直し・修正段階」という4つの段階で記載しています。各段階での対応内容について、表にまとめました。

段階 具体的な対応
①:現状把握~基本方針決定段階 ●情報収集(「法律・制度」「国などの支援策」「企業事例」など)
●自社の現状把握(「制度面」、企業風土や職場環境などの「ソフト面」、人材の需給バランスや社員の年齢構成など)
●トップ・経営層の理解と関与による、高齢者雇用の目的とあるべき姿の明確化
●社員の意見の吸い上げや、社員全体への周知による、推進体制の整備
●基本方針の決定
②:制度検討・設計、具体的検討・決定段階 ●定年制度や引き上げ方についての検討・設計(「何歳まで引き上げるか」、「段階的に引き上げるかどうか」「給与はどうするか」など)
●「仕事」「役割」「役職」の検討・決定(業務内容や高齢社員の人数などをもとに検討)
●評価方法の検討・設計
●適切な賃金水準の確保(働き方に見合った賃金を支払えるように、給与制度・退職金制度を検討)
●詳細の検討・決定(「人事担当者による現場の意見の吸い上げ」や「現場で働く管理職の理解」が必要)
③:実施段階 ●高齢社員への役割の明示(「職務内容」や「役職」などに変化がある場合は、丁寧に説明する)
●高齢社員への「評価」「面談」の実施
●高齢社員に対する「意識啓発」・「教育訓練」の実施(自身の今後のキャリアについて考えてもらう機会を設ける)
●マネジメント層に対する研修(「どのように年上の高齢社員を管理していくと良いか」を伝える)
●社員全体に対する意識啓発
●健康管理支援(「定期健診」や「がん検診」「インフルエンザ予防接種」など)
●職場環境などの整備(作業環境や労働時間などに配慮する)
④:見直し・修正段階 ●社員の意見をもとに、制度の見直しと修正を行う

(参考:高齢・障害・求職者雇用支援機構『65歳超雇用推進マニュアル~高齢者の戦力化のすすめ~』)
(参考:『定年延長70歳の時代、企業はどう対応するか。退職金や給与、役職定年…検討事項は多数』『【弁護士監修】2020年最新版・高年齢者雇用安定法、いつまでに何を対応すべき?』)

就業規則の書き方

退職に関する項目は、就業規則の絶対的必要記載事項に該当します。そのため、定年の引き上げをする場合には、就業規則を変更する必要があります。なお、労使協定についても就業規則と同様に、定年年齢に関する事項を修正します。就業規則を変更したら、労働基準監督署に届け出ましょう。

●就業規則の変更例(定年を70歳とする場合)

(定年等)
第●●条 労働者の定年は、満70歳とし、定年に達した日の属する月の末日をもって退職とする。

(参考:高齢・障害・求職者雇用支援機構『65歳超雇用推進マニュアル~高齢者の戦力化のすすめ~』p48)
(参考:『【弁護士監修】2020年最新版・高年齢者雇用安定法、いつまでに何を対応すべき?』『【社労士監修・サンプル付】就業規則の変更&新規制定時、押さえておきたい基礎知識』)

退職金や保険などの対応

定年延長する際には、退職金の支給時期を後ろ倒しにする企業が多いようです。制度自体を見直す場合には「いつまで積み立てるのか」「いつ支払うのか」などを検討する必要があります。退職金は「退職一時金」と「退職年金」の併用が一般的なようですが、それぞれにさまざまな算出方法や種類があるため、非常に複雑な制度となっています。税金や年金に関する専門的な知識がないと制度の見直しが難しいため、税理士や社労士、弁護士などの専門家からアドバイスをもらうと良いでしょう。
雇用保険については、週の所定労働時間が20時間以上、かつ31日以上の雇用見込みがある場合には「高年齢被保険者」となり、継続して適用対象となります。
(参考:高齢・障害・求職者雇用支援機構『65歳超雇用推進マニュアル~高齢者の戦力化のすすめ~』)
(参考:厚生労働省『雇用保険の適用拡大等について』)

対応方法③:継続雇用制度の導入

「継続雇用制度」とは、既に雇用している高齢社員が希望すれば、定年後も引き続き雇用できるようにする制度のことです。継続雇用制度には、定年年齢になってもそのままの雇用条件で働き続けてもらう「勤務延長制度」と、定年年齢になった時点で一度退職してもらい、その後で新たな雇用条件でまた働いてもらう「再雇用制度」の2種類があります。「定年退職後に、嘱託社員として再雇用する」というように、再雇用制度を利用する形での継続雇用制度の導入が一般的なようです。対応の流れや注意点などをご紹介します。
(参考:『【弁護士監修】定年後再雇用制度を整備・活用する際の注意点を徹底解説』『【弁護士監修】嘱託社員を雇うには?給与や注意点など知っておきたい雇用のポイント』)

実施の流れ

65歳超雇用推進マニュアル』(独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構)によると、継続雇用制度の導入に向けた対応は、定年の引き上げと同様に、「①現状把握~基本方針決定段階」「②制度検討・設計、具体的検討・決定段階」「③実施段階」「④見直し・修正段階」という4つの段階に分けられます。各段階での具体的な対応方向も、基本的には定年の引き上げのときと変わりません。「上限年齢・対象」や「仕事内容」「役職・役割」「労働時間・勤務日数」「評価」「賃金」を特に重点的に検討し、自社に合った制度を構築すると良いでしょう。

継続雇用の場合には、「雇用形態が変更になる」「特定の条件を満たした人のみ、継続雇用してもらえる」といったことが多いため、労使協定を結び直すことが望ましいでしょう。

●労使協定の記載例(特定の条件を満たした人のみ、嘱託社員として継続雇用する場合)

●●株式会社 代表取締役●●●●と従業員代表▲▲▲▲は、継続雇用制度の対象となる高年齢者にかかわる基準に関し、次の通り協定する。

第1条 会社は、就業規則第■条に基づく定年退職者が引き続き雇用の継続を希望するときは、定年退職日の翌日より、1年更新で、嘱託社員として70歳まで継続雇用する。

第2条 会社は、定年退職者が引き続き雇用の継続を希望するときは、原則として希望者全員を継続雇用するが、次の各号に該当するときは、継続雇用しないことができる。
(1)健康診断の結果、健康上、業務に耐えられないと判断したとき
(2)過去●年間の出勤率が▲▲%以下のとき
(3)過去●年間に就業規則第▲条の懲戒処分に該当しているとき
(4)過去●年間に就業規則第▲条の服務規律に繰り返し違反しているとき
(5)上記各号に準じると判断したとき

就業規則の書き方

継続雇用制度を導入する場合も、就業規則の変更が必要になります。変更後の就業規則は、労働基準監督署に届け出ましょう。

●就業規則の変更例(定年を70歳とし、その後は希望者のみ75歳まで継続雇用する場合)
(定年等)
第●●条 労働者の定年は、満70歳とし、定年に達した日の属する月の末日をもって退職とする。

2.前項の規定にかかわらず、定年後も引き続き雇用されることを希望し、解雇事由または退職事由に該当しない労働者については、満75歳まで継続雇用する。

(参考:厚生労働省『モデル就業規則』p65)
(参考:『【弁護士監修】2020年最新版・高年齢者雇用安定法、いつまでに何を対応すべき?』『【社労士監修・サンプル付】就業規則の変更&新規制定時、押さえておきたい基礎知識』)

なお、「継続雇用が可能な労働者の条件」について労使協定を結んでいる場合には、就業規則にもその旨を記載する必要があります。

退職金や保険などの対応

「再雇用制度」を利用する場合は、定年退職後に嘱託社員など、別の雇用形態で再雇用をする手続きを行います。退職金については、定年退職時に退職金を支払った上で、再度別の雇用形態で雇用をするという流れが一般的です。ただし、「勤務延長制度」を利用する場合は定年を延長する場合と同様、退職金についても支給時期を後ろ倒しにすることが考えられます。
雇用保険については、雇用形態や労働条件に変更がなければ、継続して雇用保険の適用対象となります。ただし仮に「再雇用制度」で契約を結び直し、労働条件が「週の所定労働時間が20時間以上、かつ31日以上」を満たさない場合は、雇用保険の適用対象外となります。その際には、従業員の退職日の翌日から10日以内に「雇用保険被保険者資格喪失届」をハローワークへ提出する必要があります。

対応方法④:他企業への再就職の実現

「他企業への再就職の実現」については、グループ会社などの「特殊関係事業主」による継続雇用制度の導入と同様の対応にすることが検討されています。その場合は、定年まで雇用した企業と「特殊関係事業主」との間で契約を締結する必要があります。具体的には、自社が定年まで雇用した後、子会社においてさらに雇用を継続するといった対応となります。その他にも「社内にキャリアデザイン室を設置し、社員の再就職を支援する」「外部仲介機関を通して就職先の紹介をする」といった対応により、グループ会社ではない他社への就職支援を行うということも考えらえるでしょう。
(参考:厚生労働省『高齢者の雇用・就業機会の確保に関する主な検討課題と対応イメージ』)
(参考:厚生労働省『高年齢者雇用安定法のポイント』)

対応方法⑤:個人とのフリーランス契約への資金提供

「個人とのフリーランス契約への資金提供」は、定年後または継続雇用終了後に、定年前の勤務先と「業務委託契約」を結ぶ制度を準備することが考えられます。特定のスキルや資格を持つ人材がいる場合に、対応が可能となるでしょう。どのような人材を対象とするか、制度設計をする際に検討する必要があります。
(参考:厚生労働省『高齢者の雇用・就業機会の確保に関する主な検討課題と対応イメージ』)

対応方法⑥:個人の起業支援

「個人の起業支援」も「個人とのフリーランス契約への資金提供」と同様、定年後または継続雇用終了後に定年前の勤務先と「業務委託契約を結ぶ制度を構築する」ことが考えられます。「社内ベンチャー」や「自社のフランチャイズ契約での起業」などは比較的進めやすい取り組みだと言えるでしょう。どのような事業・事業主を制度の対象とするか、制度設計を行う際に検討する必要があります。
(参考:厚生労働省『高齢者の雇用・就業機会の確保に関する主な検討課題と対応イメージ』)

対応方法⑦:個人の社会貢献活動参加への資金提供

「個人の社会貢献活動参加への資金提供」については、定年後または継続雇用終了後に「定年前の勤務先が実施する事業」または「定年前の勤務先が委託、出資する団体が行う事業」に従事できる制度を構築することが検討されています。社会貢献活動参加への支援が、企業にとってどのようなメリットがあるのかを充分に検討し、制度を設計する必要があるでしょう。
(参考:厚生労働省『高齢者の雇用・就業機会の確保に関する主な検討課題と対応イメージ』)

「70歳定年」または「70歳までの雇用延長」を導入している企業事例

ここでは2020年の法改正に先駆けて、すでに「70歳定年」または「70歳までの雇用延長」を導入している企業をご紹介します。

事例①:未来工業株式会社 -他社の一歩先を行く70歳定年制を導入-

電気機械の製造を行う「未来工業株式会社」は、2006年の改正高齢者雇用安定法の施行を目前に「70歳定年制」を他社に先がけて導入しました。高齢社員の肉体と視力への負担を軽減するために「夜勤から日勤への転換」を行っています。また、危険を伴う機械操作から組付けへの配置転換を行うなど、社員が「どのような働き方を望んでいるか」を把握した上で対応しているようです。
(参考:独立行政法人『高齢・障害・求職者雇用支援機構』)

事例②:エフコープ生活協同組合 -65歳定年制導入の半年後、さらに70歳に定年を引き上げ-

九州最大の生活協同組合である「エフコープ生活協同組合」は、2016年に「65歳定年制」を、その半年後には定年をさらに引き上げて「70歳定年制」を導入しました。社員から「65歳以降も働きたい」という意見が挙がったこと、急速に進む人手不足への対応が求められていたことがきっかけとなったようです。工夫として、高齢社員の意識改革を目的に、50歳以上のフルタイムスタッフを対象に「生涯エキスパート研修」を実施しています。研修では社員自身が「意欲的に働き続けるために必要な能力」を把握できるよう、「仕事生活チェックリスト」を使用しているようです。
(参考:独立行政法人『高齢・障害・求職者雇用支援機構』)

事例③:株式会社ウエスト神姫 -シニア正社員制度を創設し、社員のモチベーション向上に成功-

乗合バス、貸切バスの運行を行う「株式会社ウエスト神姫」は、2015年に継続雇用の上限年齢を70歳に引き上げました。高齢期の働き方について、大半の社員が「70歳まで働きたい」と答えたことが理由のようです。2017年には「シニア正社員制度」を導入し、月給など継続雇用時の待遇改善により、モチベーションの向上につながったといいます。また、高齢社員には路線バスよりも運行時間が短いコミュニティバス乗務を勧めるといった工夫もしています。
(参考:独立行政法人『高齢・障害・求職者雇用支援機構』)

高齢者の雇用延長にあたって活用できる助成金

高齢者の雇用延長にあたって、所定の要件を満たした場合に活用できる「65歳超雇用推進助成金」があります。助成金を活用することは高齢者活用の仕組みづくり、見通しを立てるために有効な施策の一つです。ここでは、「65歳超雇用推進助成金」における3つのコースについてご紹介します。

①65歳超継続雇用促進コース

65歳超継続雇用促進コースは、「65歳以上への定年引き上げ」「定年の定めの廃止」「希望者全員を対象とする66歳以上の継続雇用制度の導入」のいずれかを実施した企業に対して、助成金が支払われるコースです。支給額は、「行った措置の種類」「定年を何歳まで引き上げたか」「引き上げ幅(+何歳分か)」「60歳以上の被保険者数」によって決められています。5万~160万円までと、支給額には幅があります。

②高年齢者評価制度等雇用管理改善コース

「高年齢者評価制度等雇用管理改善コース」とは、高齢者が働きやすくなるよう、「賃金・人事処遇制度」や「短時間勤務制度や隔日勤務制度」「研修」などを導入または改善したり、「法定外の健康管理制度」を導入したりした場合に、措置にかかった費用の一部が支払われるコースです。支給額は「中小企業事業主かどうか」「生産性要件を満たしているかどうか」によって異なります。

③高年齢者無期雇用転換コース

「高年齢者無期雇用転換コース」とは、「50歳以上かつ定年年齢未満の有期契約労働者」を「無期雇用に転換」した企業に対して、助成金が支払われるコースです。支給額は、「中小企業事業主かどうか」「生産性要件を満たしているか」によって決められています。対象となった労働者1人当たり38万~60万円が支給されます。

具体的な支給額や申請時に必要な資料など、各コースの詳細については、厚生労働省のHPやこちらの記事をご確認ください。

まとめ

「70歳までの就業機会確保」に向けた対策が進められていく中、経験や知識が豊富で意欲のある高齢者に力を発揮してもらうための対応を、企業は慎重かつ早急に考えることが求められています。定年延長を行う場合には制度設計だけでなく、就業規則や賃金規定の見直しが必要となります。規定の見直しを行う際には「どのような規定や仕組みであれば従業員が納得するか」を重視し、シンプルでわかりやすい制度づくりを心掛けましょう。

(制作協力/株式会社はたらクリエイト、監修協力/法律事務所A.I.Links、編集/d’s JOURNAL編集部)

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