企業は副業を解禁すべきか? 20代・30代の副業意識/実態調査

d's JOURNAL
編集部

2017年にまとめられた「働き方改革実行計画」の中で、政府が副業・兼業の普及促進を図る方針を示したことを機に、注目を集めている副業(複業)。副業には明確な定義はありませんが、メインとなる収入源(本業)を持つ労働者が、本業以外で収入を得ることを意味しています。時代の流れに合わせて副業・兼業を解禁する企業も増えてきた一方で、「従業員の労働時間管理が難しい」「本業への影響が心配だ」といった理由から、なかなか踏み切れない企業があるのも事実です。

そこで今回、d’s JOURNAL編集部では20代・30代のdoda会員329名に、副業への興味の有無、その内容や報酬などの実態を調査するため「副業に関するアンケート」を実施しました。また同時に、企業側へのアンケートも実施。双方の結果を踏まえて、副業に対する今後の企業の在り方について考えていきます。

※本記事では、「副業」=一般的な意味。本業ありきのもの、という位置づけで使用しています。

副業をやってみたい人は75%も。性別・年代・年収にかかわらず興味が高まっている

まずは、副業に関する考え方について伺いました。すると、74.2%の人が「副業をやってみたい」と回答しました。男女・年代別共に傾向に大きな差はなく、副業に対する興味が高いことがわかります。

副業に関する考え方

世帯年収別に分類したところ、世帯年収500万円~1,000万円の方の75%以上、1,000万円以上の方でも60%以上の方が「副業をやってみたい」と回答しています。世帯年収にかかわらず、副業に対して何かしらの興味関心を持っていると言えるでしょう。

【世帯年収別】副業に関する考え方

副業をしたいのは「収入を増やしたい」から。「スキルアップ」などキャリア志向も多い

なぜ副業をしたいと思っているのでしょうか?「副業をしたい」と回答した人に理由を聞くと、下記のような結果になりました。

なぜ副業をしたいのか?

一番多かった回答は、「お金が欲しい・収入を増やしたい・生活の安定」でした。この回答は全世帯年収で見られることから、「さらに上の生活水準を目指したい」と考えている人が多いと考えられます。一方、2番目に回答数が多かった「本業の給料が足りない・少ない」については、世帯年収500万円未満の人たちが多く回答しています。

ここで注目したいのは、「経験を広げたい・スキルを身に付けたい・自己啓発・好奇心」を理由として挙げている人が、一定数存在する点です。現在、定年まで一つの企業に勤め上げるということは珍しく、会社固有の知識やスキルを身に付けていれば安泰というわけではありません。就社意識の薄れも背景にあり、「本業以外でも成長機会や自己実現を求めている」方が増えているのは、今回のアンケート結果からも明らかです。副業を通じて、幅広いエンプロイアビリティ(※)を身に付けていけば、労働市場における価値は上昇します。一社に依存することなく企業の枠を超えた能力を高めることで、労働環境の変化にも対応できる人材を目指すことができるのではないでしょうか?従業員のスキルアップは企業にとってもプラスになります。副業解禁を検討する際には、「なぜ副業をしたいのか」という視点も考慮すると良さそうです。

(※)エンプロイアビリティとは、労働市場価値を含んだ就業能力、つまりどこにいっても通用する「雇用され得る能力」のことです。就業形態の多様化や終身雇用の崩壊など、労働環境の変化を受けて注目が高まっています。

副業への意向は高い一方で、実際に副業経験がある人は30%程度

次に意向ではなく、副業経験の有無について聞きました。

副業をしているか?

「現在副業をしている」人は17.6%、「現在は副業をしていないが、過去副業をしていた」人が12.5%と、副業を経験したことがある人は30%程度でした。「副業をしたい」と回答した人が75%だったことを踏まえると、「副業への興味はあるが、実際に始めるにはハードルが高い」ということがうかがえます。

副業のハードルが高い理由は「時間との制約があること」

では、なぜ副業をしていないのでしょうか?その理由を聞いたところ以下のような結果になりました。「金銭的に困っていない・給与がある」を除くと、主に「時間が取れない・タイミングがない」、「本業が忙しい・両立が難しい」などが挙がりました。つまり副業を始めるには、「本業とのバランスをうまく取っていく」必要があり、生産性高く業務を遂行していくことが求められていくでしょう。

副業をしていない理由

現在、副業を禁止している企業は70%。従業員の労働時間管理に懸念あり

一方で企業は、副業についてどのように考えているのでしょうか。企業の人事・採用担当者向けに実施した、副業に関するアンケートの結果をご紹介します。

副業に関する規定は?

まずは、会社として副業をどのように捉えているのか。就業規則などで副業を禁止している企業は全体の51%、規則にはないものの認めていない企業は21%と、ほぼ大半がまだ副業を導入していない結果になりました。認めている企業も従業員からの申請を求めているところがほとんどのようです。

では、企業は副業に関してどのように捉えているのでしょうか?回答結果を見ると、副業解禁に関しての懸念点を拭い去れないという実情があるようです。副業を検討する上での懸念事項として、最も多く挙がったのが「労働時間の管理」、次いで「本業に支障をきたす」ことや「守秘義務・セキュリティ」へのリスクでした。

企業が副業を解禁しない理由

労働時間の管理が懸念される理由の一つに、現在の労働基準法が考えられます。労働基準法では、「複数の職場で働く人の労働時間は通算する」「通算した上で、法定労働時間を超えた場合には割増賃金を支払う必要がある」と規定されていますが、企業の人事・労務担当からすれば、「本業と副業で労働時間を通算することは難しい」というのが本音でしょう。

また、アンケートの中には「従業員の体調が心配」という声もありました。労働時間が増えることによって体調を崩し、その結果、本業にも支障をきたすという事態も起こらないとは言い切れません。そのため、従業員の体調を管理しながら副業を認めている企業もあります。たとえばカゴメ株式会社では、副業を推進するに当たり、“年間の総労働時間が1,900時間未満の人のみという制限”を設けています。
(参考:『カゴメが進める「生き方改革」とは。100年企業が起こした制度改革【セミナーレポート】』)

「今後副業を推進したいか?」という項目では、半数以上の企業が「そう思う/どちらかといえばそう思う」と回答しています。懸念事項はあるものの、働き方の多様化など時代の流れもあり、できる限りポジティブに副業を検討していきたいと考えている企業が増えているのは事実のようです。

今後副業を推進したいか?

なお、厚生労働省では、「副業・兼業の場合の労働時間管理の在り方に関する検討会」の中で、労働基準法の通算ルールについての見直しも含めて、副業・兼業の普及促進を図っています。2019 年8月8日公表された報告書では、「労働者の自己申告をベースとして事業者が管理する」という方向性が示されており、労働者自身による健康管理の重要性も示唆されました。今後は、企業と副業を行う労働者の双方が協力し合って、労働時間や健康管理を主体的に行っていくことが求められそうです。

個人の副業への関心が高まっていることを考えれば、企業が副業に関する方針や考え方を示すことは、いずれ必要になっていきます。厚生労働省の動向にも注視しつつ、従業員の声を聞き、自社の取る道を模索してみるのもいいかもしれません。

(参考:厚生労働省『「副業・兼業の場合の労働時間管理の在り方に関する検討会」の報告書』)

副業をするなら、自分の経験やスキルが活かせるもの

ここからは、実際に副業を行っている人たちの実態に迫ります。

20代・30代の副業をしている(していた)人に、どのようなことをやっているのか聞いたところ、接客業や単発バイトをする人もいれば、ライター、アンケートモニター、投資などさまざまな答えが返ってきました。モニターやオークションなど時間を掛けずに簡単にできるもの、アフェリエイトや投資など趣味の延長から派生したもの、また、スキル経験を活かしたライター・デザインなどと特徴が見られます。

実際にどんな副業をしているか?

また、これらは「時間や場所を問わず自分のペースでできるもの」と「時間や場所の拘束がされるもの」に分けることができます。前者は本業を持ちながらも、自身でバランスを調整しながら取り組みやすいですが、後者はまとまった時間を物理的な労働にあてる必要があります。

副業の分類

お金もさることながら、実際に副業をしている人は「人とのつながり」を求めている

副業経験者に「なぜその副業を始めたのか」を聞いてみたところ、2番目に多かったのが、「色々なコミュニティーに属したい・人と交流したい」というものでした。「興味がある・挑戦したい」という理由も、ほぼ同じくらいの回答数があります。冒頭でご紹介した「副業をやってみたい理由」と比べると、「●●したい」というポジティブな感情の比率が高いと言えるでしょう。上記で述べた、エンプロイアビリティを高めていくための手段として、副業を選ぶ方が増えていることがわかります。

なぜ副業をするのか?

副業での収入は、月平均5~10万円未満が圧倒的

それでは、副業を行っている人たちは、具体的に副業でいくらぐらい稼いでいるのでしょうか。
「5万円~10万円未満」と回答した人の割合が最も多いですが、全体でみると10万円未満の人で、86.3%を占めていることがわかります。5万円以上稼いでいるのはライターやウェブデザイナー、映像編集など手に職がある人か、株式投資や不動産投資、FXなどの投資系を行っている人のようです。

副業の収入

このように、決して多額を稼いでいるわけではないという結果は、本業以外の空いた時間に副業を行っていることを考えれば妥当な金額でしょう。今後、副業に寛容な企業が増加し、本業とのバランスを取りやすくなっていくと、より本格的な収入額につながり、本業と副業の線引きがあいまいになっていくことも考えられます。

副業をしている人は、どうやって本業とのバランスを取っているのか?

企業側からは「本業に支障をきたす」という懸念が多く上がっていましたが、実際に副業を行っている人たちはどのように本業と副業のバランスを取っているのでしょうか。アンケート結果では、「本業をメインに考える」とする人が34名(34.3%)おり、あくまで本業をメインに考えていることがわかります。その他の回答を見ても、「時間を決める」「本業のスケジュールに合わせる」「隙間時間に副業」などが多く挙がっており、本業に支障をきたさない範囲で副業を行おうという意識が感じられます。

実際に副業をしている方に、本業とのバランスのとり方について、どのようなことに気をつけているのか。また困ったことはないのか、数名からさらに話を詳しく聞いてみました。

本業と副業のバランスの取り方は?

副業を実際に行っている人たちに話を聞いたところ、本業:副業のバランスは、7:3から9:1くらいで考えている人が多いようです。バランスを保つために、具体的にどのようにスケジュール管理をしているかについて聞いたところ、以下のような回答が得られました。

・本業の業務終了後、副業を行う
・「副業はこの時間だけ」とし、他の時間は副業のことは考えない
・休日・祝日に副業に充てている

バランス良く副業をしている人は、「ただなんとなくやるのではなく、本業をメインに置いてスケジュール管理をしている」ようです。中には、事前に副業先に「本業が忙しくなったら本業を優先し、副業のスケジュールを調整する」ことを明確に伝えている人もいました。副業を行っている人たちは、企業が考えている以上に、本業に支障が出ないように優先順位を明確にし、意識してスケジュール管理を行っているケースが多いようです。

副業に集中するがあまり、本業に支障が出てしまうことはあるのか?

本業を優先するとしていても、本業が忙しい中で副業をすることを考えると、どこかでしわ寄せが来そうなものです。これまでに支障が出たことはないのでしょうか。

 ・過去に副業が忙しくて本業に支障が出てしまった。その経験を基に、今は副業の量を調整したり、生活の中で無駄な時間をかけないようにしたりして、意識を強めている。(39歳・女性)
・副業を始めた初期の頃は時間管理ができず、時間的かつ体力的に厳しいと感じてバランスが取れなかった。そのため、副業をする時間を明確に決めて、それ以外の時間は副業のことを考えない。(35歳・女性)

副業を行っている人は、本業に支障を来たさないようにバランスを取って仕事をしていることから、企業側は「副業内容を理解し、どのように進めていくのか」を確認し、副業者と定期的に面談するなどコミュニケーションを取っていくことが重要だと言えるでしょう。

経験者からは「副業は本業にプラスになる」という声も

副業を行うことにより、本業にもプラスに働く要素が生まれるという側面も見られます。

 ・副業で得た人脈や知識を本業に活かす
・副業で得た文章力のスキルアップによって、本業の業務に活かす

話を伺った方の中には、そもそも「本業に活かせない副業はやらない」と明確に決めている方もおり、副業を行っている人の意識の高さが垣間見えました。

「自社には副業が本当に必要か?」従業員の声を聞きながらしっかりと検討を

ここまで20代・30代の副業に対する意識・実態について調査してきました。
従業員側は副業への興味が高い一方、企業としてはリスクも考えると慎重に動かざるを得ない状況が見て取れます。もちろん、副業を解禁すれば、働き手である従業員だけでなく、受け入れ先である企業にもイノベーションが生まれます。そのため、副業解禁の動きは今後活性化していくと考えられます。
副業を前向きに検討したい場合は、まずは、従業員と副業について話し合うところから始めてみてはいかがでしょうか。副業をしたい理由が「違う職種にチャレンジしてみたい」というのであれば、「社内兼業」という制度からスタートする手もあります。労働時間の管理を考えると、生産性向上の取り組みをしてから副業解禁というステップを踏んだ方が浸透しやすい場合もあるでしょう。

一方で、時代が副業解禁に向かっているからといって、必ずしも無理に副業を認める必要はありません。大事なのは、企業側と従業員側との両方の視点から副業を考え、自社のスタンスを従業員にしっかりと伝えていくことなのではないでしょうか。
(参考:『8年間“専業禁止”を掲げ、マイナスはなかったービジョンに紐づいた複業のあり方とは』)

【まとめ】

副業というキーワードが世間をにぎわせているものの、実際には、副業をしている人の割合は少なく、稼いでいる金額も大半は月10万円に満たないということがわかりました。また、企業側のスタンスも「副業禁止」の企業がまだまだ多いようです。とは言え、実際に副業をしている人たちは、スケジュール管理や体調管理に対する意識が非常に高く、本業に支障をきたさないようにしっかりと考えています。「本業にもプラスになる」という声もあるように、副業で得たスキルや人脈が役立つケースもあるのです。

労働時間管理に関する懸念はあるものの、本業に支障をきたすのでは?という懸念については、そこまで心配はないのかもしれません。企業側が「収入増だけではなく、スキルアップにもつながる」というメッセージを打ち出していくことや、労働時間管理の在り方について、国の動向も確認しながら積極的に取り組んでいる姿勢は、成長意欲の高い求職者や今いる従業員にとって、魅力的に映るはずです。

いずれにせよ、副業解禁に当たっては、従業員とのコミュニケーションが不可欠です。企業と従業員の双方が成長するための一つの対策として、「副業」についてもう一段深く考える機会を設けてみてはいかがでしょうか。

 

(企画・制作:d’s JOURNAL編集部 齋藤 裕美子)