【弁護士監修】休業手当はいくら、誰に支払う?計算方法と対象者、活用できる助成金を解説

弁護士法人 第一法律事務所(東京事務所)

弁護士 藥師寺 正典

プロフィール

企業側のやむを得ない理由から、一斉休業を実施したり、一定の従業員に休業してもらったりする際に支払う「休業手当」。休業に至るにはさまざまな要因があるため、休業手当の支給が必要なのはどのようなときか、判断に迷うこともあるのではないでしょうか。今回の記事では、休業手当と休業補償の違いや、休業手当の支給条件、支給金額の計算方法に加え、休業手当を支払っている企業が活用できる、雇用助成金の申請方法などをご紹介します。休業手当の支給額が計算できるフォーマットもダウンロードできますので、ぜひご活用ください。

休業手当とは?

休業手当とは、企業側の事情で休業を実施した際、休業した従業員に対して支払う手当のこと。英語では「Leave allowance」や「Leave payment」などと表記します。

休業手当は、「労働者の最低限の生活を保障すること」を目的に、労働基準法上の全ての労働者を対象としており、労働基準法第26条では以下のように定められています。

第26条 使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならない。

賃金は企業と従業員との労働契約を根拠に発生し、その合意内容(契約の解釈)に従って確定されるべきものです。一般的には「ノーワーク・ノーペイの原則」に即して、賃金は従業員の労働の対価として発生するとしている労働契約が多いため、仕事をしていなければ支払う必要はないと考えられがちです。しかし、これは基本的に従業員側の都合で仕事を休んだ場合の考え方です。
企業の経営不振や業績悪化などを理由に、従業員に対して休業の措置を取った場合は、労働基準法に規定されている「使用者の責に帰すべき事由」に該当する可能性があります。この場合、企業は休業する従業員に対して一定の金額を休業手当として支払う義務があるのです。

「使用者の責に帰すべき事由」による休業の例

・使用者の故意または過失による休業
・仕事がない、製品が売れない、資金調達が困難など、 経営不振による休業
・資材不足による休業
・会社の設備、工場の機械の不備・欠陥による休業
・従業員不足による休業
・親会社の経営不振による休業

(参考:かながわ労働センター『休めと言われた』

休業補償給付とは?

労働基準法第76条では、業務災害に関する休業補償について以下のように定められており、休業手当同様に労働基準法上の全ての労働者が補償対象となります。

第76条 労働者が療養のため、労働することができないために賃金を受けない場合においては、使用者は、労働者の療養中平均賃金の100分の60の休業補償を行わなければならない。

休業補償は、業務災害に限り3日間のみの補償を企業に義務付けるものです。(通勤災害については企業に補償は義務付けられていません)これに対し、休業補償給付とは、業務災害または通勤災害によるけがや病気の療養のため働けず、賃金を受けられない従業員に対し、休業4日目以降について補償する制度です。
(参考:厚生労働省『休業(補償)給付 傷病(補償)年金の請求手続』

休業手当・休業補償給付はどんな時に、いくら支給する?

「休業手当」と「休業補償給付」は、それぞれの「休業」に対する意味合いが異なります。「休業手当」での休業とは、「従業員が働けるにもかかわらず、企業の都合で休ませる状態」を意味します。一方、「休業補償給付」では、「業務上のけがや病気によって、従業員に働く能力がない状態」のことを指します。名称こそ似ているものの、支給条件や支給元などはまったく異なるため、制度の仕組みを正しく理解し、状況に応じた対応をとることが必要です。休業手当と休業補償給付の支給額や支給期間などを表にまとめました。

休業手当 休業補償給付
対象となる休業

企業の都合による休業

業務が原因のけがや病気による休業

支給額

平均賃金の60%以上

・休業補償給付:給付基礎日額の60%
・休業特別支給金:給付基礎日額の20%

支給元

企業

労働基準監督署(厚生労働省)

支給期間

全休業期間

休業4日目以降(3日目までは労働基準法による休業補償)

支給申請

不要

必要(申請者は企業の場合が多い

税金

課税

非課税

保険料

対象

対象外

休業補償給付は、労働者災害補償保険法に基づいた保険給付です。しかし、休業3日目までは「待機期間」とされ、この期間は労働基準法の定めにより企業が該当する従業員に対し、平均賃金の60%を休業補償として支払う必要があります。

休業手当の支給対象となるケース・ならないケース

休業手当の支払いが必要となるか否かは、従業員の雇用契約や休業の理由などによって異なります。支給漏れがないよう、支給の対象・対象外のケースをそれぞれ正しく理解しておきましょう。

時短勤務の場合:支給対象

雇用契約の下に賃金の支払いをしている場合は、雇用形態を問わず、全ての従業員が労働基準法上の「労働者」に該当します。そのため、短時間勤務の従業員も休業手当の支給対象です。8時間勤務の従業員と同様、基本給を基に平均賃金の計算をし、必要額を休業手当として支払います。

アルバイト・パートでシフト勤務の場合:支給対象

アルバイトやパートタイム労働者、有期契約労働者などの雇用形態で働く従業員も「労働者」に該当します。そのため、休業手当の支給対象です。しかし休業手当の計算をする際、正社員などの月給制の従業員とは、平均賃金の算出方法が異なる場合があります。実際の計算方法は後ほどご紹介します。
(参考:厚生労働省『新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)』

日払いで雇用している場合:支給対象

従業員の賃金形態が日払い制の場合も、休業手当の支給が必要です。しかし、アルバイトやパートタイムと同様、月給制で働く従業員とは平均賃金の算出方法が異なります。

派遣社員として雇用している場合:支給対象

派遣社員として雇用している場合:支給対象

派遣元の企業が雇用している従業員が、派遣先企業の事情から休業を余儀なくされた場合も、休業手当を支給します。しかし、実際に休業手当を支給する義務があるのは、派遣社員と雇用関係にある派遣元企業です。休業手当を支給する他、別の派遣先を紹介するなどの対応を検討することもできます。

業務委託で業務を依頼している場合:支給対象外

業務委託で業務を依頼している場合:支給対象外

業務委託契約を結んだ相手が企業の場合、実際に委託業務に従事する従業員は、受託企業と雇用関係にある労働者です。そのため、委託側の企業に休業手当の支払い義務はありません。また、業務委託契約を結んでいる相手が個人の場合は、個人事業主であり、労働者には該当しません。なお、いずれの場合も、委託企業による指揮命令の内容や程度によっては、例外的に受託者側が労働者であると認められることがありますので、注意が必要です。

個人事業主として業務を依頼している場合:支給対象外

一般的な個人事業主の場合は「労働者」には該当しないため、休業手当の支給は必要ありません。しかし、「個人事業主」か「労働者」なのかは、契約ではなく実際の就労状況によって判断されます。例として、音楽教室や体操教室の講師などが、教室を運営する企業と業務委託契約を結んでいる場合も、授業内容および勤務日や勤務時間を企業側が決定しているようであれば「労働者」として認められることもあります。

仕事がなくなり、自宅待機となった場合:支給対象

仕事がないために、従業員に自宅待機を指示した場合も休業に該当します。そのため、仕事がなくなった理由が「使用者の責に帰すべき事由」に該当すれば、休業手当の支給対象です。

地震や台風などの天災により休業となった場合:支給対象外

地震や台風などの自然災害による休業の場合は、企業にとって不可抗力であるため休業手当を支給する必要はありません。不可抗力とは、「①その原因が事業の外部より発生した事故であること」「②事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしたとしても、なお避けることのできない事故であること」と解されています。例として、天災により企業の設備が壊れてしまった場合や、停電で業務の遂行が不可能になった場合などの休業は、企業に責任はなく、経営者が細心の注意を払っても避けられないものであると判断されます。使用者の責に帰すべき事由には該当しないため、休業手当の支払いも不要です。

新型インフルエンザにかかった従業員に休業を指示した場合:支給対象外

従業員が新型インフルエンザに感染し、医師による指導で従業員が休業する場合は、休業手当を支払う必要はありません。労働安全衛生法第68条および労働安全衛生規則第61条では、伝染病などの疫病にかかった労働者の就業を禁止しています。新型インフルエンザは、これらの法律で定められている伝染病に該当します。そのため、企業が休業を指示する法的根拠が存在すると考えられ、欠勤扱いとすることが可能です。
一方で「季節性インフルエンザ」の場合は、法律で定められた伝染病には該当しないため、休業手当の支払いが必要となる場合もあります。
(参考:厚生労働省『新型インフルエンザ(A_H1N1)に関する事業者・職場のQ&A』

インフルエンザの拡大防止のため、企業が一斉休業した場合:支給対象

企業内でインフルエンザが流行し、感染拡大防止の観点から企業が自主的に一斉休業を実施した場合、一般的には休業の理由が「使用者の責に帰すべき事由」に当たると判断されます。この場合、少なくとも職務を継続することができたにもかかわらず休業した従業員に対しては、休業手当を支払う必要があると言えるでしょう。

ダブルワーク・副業をしている場合:支給対象

従業員が自社の業務と別に副業などを行っている場合も、「使用者の責に帰すべき事由による休業」と言える場合には休業手当の支払いが必要です。自社からの給与以外に副業先からの収入があっても、自社との雇用契約がある以上は労働基準法の適法があるからです。

病気などにより働けなくなった場合:支給対象外

従業員が病気や事故によって出勤ができずに働けない場合、休業手当は不要です。ただし、通勤途中や業務によるけがや病気の場合は、休業補償・休業補償給付の対象となります。また業務に関係のない傷病の場合は、傷病手当金などの対象となる可能性もあります。けがや病気の状況を把握し、適切な対応をしましょう。

休業手当の計算方法(計算用エクセル付き)

休業手当は、実際に休業した日数によって支払額が変わります。基本的には、以下の計算式で求めることができます

●休業手当の計算式

「休業手当」=「1日分の平均賃金」×「休業日数」×0.6

ここでは、平均賃金の計算方法や月給や日給・時給の場合の休業手当の計算方法をご紹介します。休業手当計算用のフォーマットもダウンロード可能ですので、ご活用ください。

1日分の平均賃金の計算方法

休業手当を計算する際は、まず「1日分の平均賃金」を算出します。平均賃金は以下の計算式で求められます。

●平均賃金の計算式

「1日分の平均賃金」=「休業した日以前3カ月間に支払った賃金の総額」÷「休業した日以前3カ月間の総日数」

なお、銭未満の端数が出た場合は、端数の取り扱いについて労働契約で定められている場合を除き、50銭未満は切り捨て、50銭以上は1円に切り上げて計算しても差し支えありません。

休業した日以前3カ月とは

休業直前の賃金締切日からさかのぼって3カ月間となります。賃金締切日に休業を開始した場合は、その前の賃金締切日以前3カ月の平均賃金を計算します。賃金締切日を設定していない場合には、休業を開始した日は含まず、その前日からさかのぼって3カ月間とします。

なお、3カ月の間に以下の期間が含まれる場合は、その日数と賃金額を算出期間および賃金総額から控除します。

●平均賃金の計算から控除する期間

・業務上負傷または疾病にかかり療養のため休業した期間
・産前産後休業期間
・使用者の責めに帰すべき事由によって休業した期間
・育児および介護休業期間
・試用期間

賃金の総額とは

賃金総額は基本給をはじめ、算定期間中に支払われる各種手当額など、労働基準法第11条に定められた全ての賃金が含まれます。

●支払った賃金の総額に含む賃金の例

・通勤手当(通勤定期券)
・職務手当
・皆勤手当
・残業手当
・年次有給休暇の賃金
・昼食補助
・未払い賃金(賃金の支払いが遅れている場合)

また、労働基準法第12条4項では、以下の賃金は賃金総額から控除することができるとしています。

●控除できる賃金の例

・臨時に支払われた賃金(結婚手当、私傷病手当、加療見舞金、退職金など)
・3カ月を超える期間ごとに支払う賃金(ただし3カ月ごとに支払う賞与は算入)
・通貨以外のもので支払われた賃金で一定の範囲に属しないもの(法令または労働協約で定められていない現物給与)

(参考:神奈川労働局『平均賃金について【賃金室】』

休業手当の計算方法(月給の場合)

従業員の基本給が月給制の場合の休業手当の計算例をご紹介します。 

●6月1日から20日間休業した場合(毎月20日締め、正社員を想定)

3月分(2月21日~3月20日:28日)基本給220,000円+通勤手当10,000円+残業手当10,000円=240,000円
4月分(3月21日~4月20日:31日)基本給220,000円+通勤手当10,000円+残業手当20,000円=250,000円
5月分(4月21日~5月20日:30日)基本給220,000円+通勤手当10,000円=230,000円

平均賃金:(240,000円+250,000円+230,000円)÷(28日+31日+30日)=8,089円88銭

休業手当:8,089.88円×20日×0.6=97,079円(円未満四捨五入)

休業手当の計算方法(時給や日給の場合)

従業員に支払う賃金が日給制や時給制、出来高給制の場合は、1カ月の歴日数当たりの労働日数が少ないケースが多く、通常の計算で算定した平均賃金額を用いて休業手当額を計算すると不利益が生じる可能性があります。そのため、「最低補償額」を算定し、平均賃金と最低保証額のどちらか高い方を、休業手当を算出する際の平均賃金として用います。最低補償額は、以下の計算式で求めることができます。

●最低補償による平均賃金の計算式

「平均賃金(最低保証額)」=「休業した日以前3カ月間に支払った賃金の総額」÷「休業した日以前3カ月間の労働日数」×0.6

次に、従業員の基本給が日給制である場合の、休業手当の計算例をご紹介します。

●6月1日から20日間休業した場合(毎月20日締め、日給9,000円・通勤手当500円/日のアルバイトを想定)

3月分(2月21日~3月20日:労働日数15日)基本給135,000円+通勤手当7,500円=142,500円
4月分(3月21日~4月20日:労働日数10日)基本給90,000円+通勤手当5,000円=95,000円
5月分(4月21日~5月20日:労働日数15日)基本給135,000円+通勤手当7,500円=142,500円

平均賃金:(142,500円+95,000円+142,500円)÷(30日+31日+28日)=①4,269円66銭
最低補償:(142,500円+95,000円+142,500円)÷(15日+10日+15日)×0.6=②5,700円

※①より②の金額が高いため、休業手当に用いる平均賃金は②5,700円となります。

休業手当:5,700円×20日×0.6=68,400円(円未満四捨五入)

(参考:大阪労働局『労働基準法ワンポイント解説(平均賃金)』

休業手当支給の流れ

休業手当を支給する際、どのような手順でいつまでに支払準備を進めるとよいのでしょうか。休業の発生後から休業手当支払日までのスケジュールをご紹介します。

休業手当支給の流れ

休業期間の対象となる賃金支払日を確認する

まず、休業が発生した期間の対象となる賃金支払日を確認します。当月分の賃金計算期間中に休業したものなのか、または翌月の支払いでよいのかなど、あらかじめ確認をしておくと支払いまでのスケジュールも立てやすくなります。なお、賃金締切日をまたいで休業する場合、締切日以前と締切日翌日以降では休業手当支払日が異なります。賃金計算象期間ごとに休業手当支給額を算出し、該当する賃金支払日に間に合うよう手続きを進めましょう。

賃金締切日が過ぎたら休業手当の支給額を計算する

休業手当は賃金締切日が過ぎたら早めに計算しましょう。賃金締切日から支払日までの期間が短い場合、計算が遅れて支払額が確定しないと手続きが遅れてしまう場合もあります。支払額に変更が生じない時点で迅速に対応することが重要です。

対象の給与支払日に支払う

休業手当の支給額が確定したら、従業員への支払準備をします。休業手当も賃金と同じ扱いとなるため、支払日や支払方法は通常の給与と同様です。

就業規則への反映方法

就業規則の内容には、必ず記載しなければならない「絶対的必要記載事項」が定められています。労働時間や休日・休暇、賃金などがそれに該当します。休業手当に関する項目は、この中の「賃金に関する事項」に当たるため、就業規則にも記載する必要があります。支払い条件や支払額についても記載し、従業員に対して周知しましょう。

●就業規則への記載例(厚生労働省モデル)

(臨時休業の賃金)
第●●条 会社側の都合により、所定労働日に労働者を休業させた場合は、休業1日につき労基法第12条に規定する平均賃金の6割を支給する。ただし、1日のうちの一部を休業させた場合にあっては、その日の賃金については労基法第26条に定めるところにより、平均賃金の6割に相当する賃金を保障する。

(参考:厚生労働省『モデル就業規則』
(参考:『【社労士監修・サンプル付】就業規則の変更&新規制定時、押さえておきたい基礎知識』

よくある疑問

休業手当の支給は、企業にとっても頻繁に発生することではないため、ケースごとの扱い方や、休業手当支給に関する労務手続きの際に悩むこともあるのではないでしょうか。ここでは、休業手当にまつわる疑問にお答えします。
 

年次有給休暇を取得しながら、休業手当を支給することは可能?

年次有給休暇の取得日と企業の都合による休業日が重なった場合、両方の賃金を支払うことはできません。そのため、どちらを支給するかは「企業からの休業指示」と「従業員からの年次有給休暇申請」のうち、先に行われた方に合わせます。企業が休業の措置を取れば、その日は休業日となるため、従業員も出勤する義務がなくなります。よって、年次有給休暇を取得することもできません。同様に、休業を指示する前に従業員が年次有給休暇の申請をしていれば、企業は時季変更権を行使しない限り、その日を年次有給休暇として扱います。ただし、企業が休業指示後の有給休暇申請を認めることも差支えないとされています。従業員との話し合いの上、決定しましょう。

解雇した場合はどうなる?

企業が従業員に解雇予告を行い、解雇成立日までの期間に企業側の都合により休業を指示した場合は、休業手当の支給が必要です。解雇予告をしても、解雇日までは従業員との雇用契約は継続しており、労働基準法の適用があることが理由です。
なお、民法第536条第2項では、「債権者の責めに帰すべき事由により履行することができなくなったとき、債務者は、反対給付を受ける権利を失わない」と定められています。企業側が業務において正当な理由なく休業を命じた場合、休業手当として賃金の60%を支払ったとしても、従業員が裁判を起こせば残り40%の支払請求が認められる可能性もあります。休業を命じる根拠があることが重要です。

経理上の処理はどうすればよい?

従業員に支払う休業手当は、給与所得として扱います。そのため源泉徴収も必要です。誤って給与所得から除外した場合、正しく納税されないため注意が必要です。
(参考:国税庁『No.1905 労働基準法の休業手当等の課税関係』

賃金台帳への記載方法

休業手当を支給した際の賃金台帳へは、支給欄に「休業手当●●円」、控除欄に「休業控除●●円」と明記します。休業手当を支給するということは、欠勤と同様の扱いとなります。そのため、欠勤分の給与を支給額から控除し、その上で休業手当を支払っていることを明確にします。
(参考:『欠勤控除とは?人事が知っておくべき基本知識~算出に含む手当一覧付~』

休業後に退職となってしまった場合の離職証明書の書き方

休業手当を支払った従業員が退職した場合、離職証明書の「該当する期間」を記入する行の備考欄に「休業日数」と「休業手当支給額」を記載します。その月が全日休業となった場合は、休業ではなく「全休業」と記します。
(参考:『【社労士監修】離職票と退職証明書の違いと交付方法~人事向け離職票マニュアル~』

休業手当支給時に活用できる「雇用調整助成金」とは

企業が休業手当を支払う際に活用できる「雇用調整助成金」。企業が労働者の雇用維持に努めることで、労使双方にメリットがあるとして設置されています。ここでは、新型コロナウイルス感染症の拡大防止策としての雇用調整助成金の特例措置について、支給対象となる企業や申請方法などを解説します。

雇用調整助成金とは?

雇用調整助成金とは、経済上の理由により事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、労働者に対して休業や教育訓練、出向などを行い、雇用維持を図った場合、企業が従業員に支払う休業手当や賃金の一部を助成する制度のこと。また、厚生労働省の『雇用調整助成金ガイドブック(簡易版)』によると、新型コロナウイルス感染症にかかる特例措置として、2020年4月1日~9月30日を緊急対応期間と定めています。この期間中は感染拡大防止の観点から、全国で特例措置が適用され、支給条件の緩和や申請手続きの簡素化が実施されています。

雇用調整助成金特例措置の支給対象

雇用調整助成金の特例措置の対象事業は、新型コロナウイルス感染症の影響を受ける事業主です。またその他の支給要件として、以下の①~③の全てを満たす必要があります。

●支給対象となる事業主

支給要件 内容
①雇用調整の実施 新型コロナウイルス感染症の影響により、事業活動の縮小を余儀なくされた場合に、労使間の協定に基づき、雇用調整(休業)を実施した事業主。具体的には、以下の(1)~(3)を満たすこと。

(1)行政からの営業自粛要請や観光客の減少による経営環境の悪化など、経営上の理由で休業していること。
(2)売上高または生産量などの事業活動を示す指標の最近1カ月間の値が、1年前の同じ月に比べ5%以上減少していること。
※1年前の同じ月を比較対象とするのが適当でない場合は、2年前の同じ月との比較および休業した月の前月までの間の適当な1カ月との比較が可能
(3)休業の実施時期や日数、対象者、休業手当の支払率などについて、労使との間で書面による協定がなされ、その決定に沿って休業手当を支払っていること。

②その他の要件 ①以外に、以下の要件を満たすこと。

(1) 雇用保険適用事業主であること。
(2)「受給に必要な書類」について整備し、受給のための手続きに当たって労働局等に提出するとともに、保管して労働局等から提出を求められた場合にそれに応じて速やかに提出すること。
(3)労働局等の実地調査を受け入れること。

③不支給要件 ①②を満たした上で、次のいずれにも該当していないこと。

(1) 暴力団または暴力団員またはその関係者である。
(2) 事業主等または事業主等の役員等が、破壊活動防止法第4条に規定する暴力主義的破壊活動を行ったまたは行う恐れがある団体等に属している。
(3) 倒産している。
(4) 雇用関係助成金について不正受給を理由に支給決定を取り消された場合、労働局が事業主名等を公表することに承諾していない。

※  次の①と②のいずれの場合も、緊急対応期間の特例として、本来の不支給措置期間に「緊急対応期間中に雇用調整助成金を受給した期間」を、緊急対応期間後(令和2年10月1日)から追加されることを承諾した場合は、本助成金を申請することができる。
 ① 過去に申請した雇用関係助成金について、不正受給による不支給決定または支給決定の取り消しを受けたことがあり、当該不支給決定日または支給決定取消日から3年または5年の不支給措置期間を経過していない場合
② 他の事業主において、平成31年4月1日以降に申請した雇用関係助成金の不正受給に関与した役員等が、申請事業主に所属している場合
ただし、過去の不正受給について、返還すべき請求金が課されている事業主の場合には、支給申請の日までにすべて返還している場合に限る。(他の事業主の不正受給に関与した役員等が所属している場合も同様)

申請方法

雇用調整助成金の特例措置では、企業の申請手続きの簡略化など、状況に応じて申請方法の見直しもされています。ここでは、特例措置における雇用調整助成金の申請方法を解説します。

申請方法

労使間で休業協定書を結ぶ

雇用調整助成金を申請する際は、あらかじめ労使間で休業協定書の締結が必要です。「休業期間」「対象者」「休業手当の支給率(60%以上)」などを話し合い、事業主および労働者代表でそれぞれの記名・押印をして締結します。

休業計画届を作成し届け出る

次に「休業等実施計画(変更)届」を作成します。労使間で締結した休業協定書に沿って必要事項を記入します。これまでは、計画届を提出した後に休業させることが要件となっていましたが、特例では計画届提出前に休業することも可能となりました。

支給申請をする

協定に基づき、従業員に休業中の休業手当を支払った後、事業所の住所を管轄する労働局またはハローワークに休業の実績に基づき支給申請をします。このとき、休業対象者の休業日数などの情報および賃金台帳や出勤簿などの添付書類が必要です。支給申請書類について、労働局で審査を行い、審査が通れば支給決定額が指定口座に振り込まれます。(※判定基礎期間の初日が、2020年1月24日~5月31日の休業申請期限は2020年8月31日まで)
(参考:厚生労働省『雇用調整助成金 ガイドブック(簡易版)』
(参考:厚生労働省『新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえ 雇用調整助成金の特例を拡充します』
(参考:厚生労働省『雇用調整助成金 (新型コロナウイルス感染症の影響に伴う特例)』

まとめ

休業手当は、企業が従業員に対し最低限の生活を保障することを目的とした賃金です。そのため、企業側の事情による休業で、従業員が賃金を受けられなくなった場合は、従業員ごとに平均賃金を計算し、休業日数に応じた休業手当を支給する必要があります。休業手当の支給が必要か否かを状況ごとに正しく判断するとともに、雇用調整助成金などの活用も検討しながら、休業手当支給の手続きを行いましょう。

(制作協力/株式会社はたらクリエイト、監修協力/弁護士 藥師寺正典、編集/d’s JOURNAL編集部)

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