『ダイの大冒険』勇者ダイにみるメンターの重要性 組織は出会いを後押しする仕組みづくりを

マンガナイト
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2020年10月に新作アニメが始まった『DRAGON QUEST―ダイの大冒険―』(監修:堀井雄二、原作:三条陸、作画:稲田浩司、集英社)(以下、『ダイの大冒険』)。第1回と第2回では、ダイとともに冒険するポップの成長やダイを育てたアバン先生の生き方から学ぶ、人材育成方法やベテラン層の新しい活躍の後押しの方法などをまとめました。第3回では、勇者ダイの成長から、個人の成長の過程でのメンターの重要性と、そのメンターを探す方法をまとめます。

【作品紹介】『DRAGON QUEST―ダイの大冒険―』
(監修:堀井雄二、原作:三条陸、作画:稲田浩司、集英社)

ロールプレイングゲーム「ドラゴンクエスト」シリーズの世界観や設定をベースにした、勇者になることを夢見る少年、ダイが大魔王バーンを倒すまでの冒険物語。小さな島で暮らしていたダイが魔王復活とともに、勇者の家庭教師を名乗るアバンの指導を受け、仲間を集め、大魔王を倒す旅に出る。

信頼関係に基づき、自発的成長を促すメンターという役割

個人が自分の向かうべき道を定め、強みを磨いて成果を出せる人間になる――この過程には個人の取り組みや才覚はもちろんのこと、その努力や能力を引き出せる人との出会いが重要になります。

1対1で信頼関係を築いた上で、主に対話や助言によって気付きを得る手法として、メンタリングがあります。具体的な目標のためというよりも、悩みの解決などを通じて自発的な成長を促す方法で、人材育成や指導方法の一つとして注目されています。

メンタリングにおいて、助言を与える人(=メンター)と、助言を受ける人(=メンティ)は、出会う場所や分野、性別や立場は問われません。むしろ仕事を超えて、生き方などに踏み込んだ話をすることも少なくありません。メンタリングにおいてメンターとなるのは、必ずしも業務上で関係がある人や同じ仕事、業界の人である必要はないのです。

人材育成や教育という観点からは、同じ分野の先輩や年上の人を選びがちです。しかし、メンタリングにおいては具体的な仕事の進め方というよりも、信頼関係をもとに仕事や仕事以外の人生への向き合い方について対話をする場になります。そのため新しい成長を促し、気付きを得るという観点から、まったく違う分野で活躍する人の方が望ましいこともあります。信頼関係をベースとするため、コミュニケーション方法や基本的な考え方が自分に合うかどうか重要です。

『ダイの大冒険』では多くのキャラクターがこのメンターに出会い、自分の力を磨いていきました。勇者ダイも例外ではありません。彼の成長をたどると、適切なタイミングで適切なメンターに出会う重要さもわかります。

育ての親・ブラス、実の父親・バラン――ダイの成長を支えたメンターたち

勇者ダイの基礎を作ったのは、育ての親である鬼面道士のブラスです。ブラスは魔王の影響を受ける魔物の一人ですが、魔王が倒されたことで邪悪化する影響から抜け出し、多くのモンスターが平和に暮らすデルムリン島にて、船で流れ着いたダイを育てます。

ブラス自身は必ずしも戦いの場面で強いわけではありませんが、ブラスの語る物語がダイに勇者への憧れの姿を示したことを考えると、将来への道筋をつくった一人と言えます。種族を超えて、厳しくも愛情を持って育てていたからこそ、後にダイから「じいちゃん」と情を込めて呼ばれ、ダイの弱点と言える存在になるのです。

ビジネスシーンで言えば、ダイとブラスの関係は新しく組織やチームに加わった未熟な若手と、指導担当者の関係に近いと言えます。社会人になってすぐの段階では、能力はもちろんのこと、将来像を持っている人はあまり多くはないでしょう。その時に求められるのは、基礎の技術を教えながら、若手を見守りつつも厳しく教えることができるメンターです。若手は将来像を固めながら、基礎的な力を付けることができるでしょう

もう一人、ダイのメンターとして大きな役割を果たすのは実父のバランです。

『ダイの大冒険』の物語が進む中で、実は神々が作った伝説の存在・竜の騎士の一人がダイであることがわかります。正確には実父・バランと人間の女性の間に生まれたハーフですが、紋章の力など使える力は竜の騎士に近い存在でした。ただし、ダイはその力を持っていても、当初は自覚的に使いこなせませんでした。存在そのものが希少な竜の騎士に出会うことは少なく、どのように使えばいいのか教えられる人間が周りにいなかったからです。唯一の例外が実父で竜の騎士であるバランです。

妻を人間に殺されたバランは人間への復讐を誓い、魔王軍に与する存在でした。ダイとも敵として出会い、人間側にとどまりたいダイと戦うことになります。しかし、この戦いを通じて、竜の騎士としての力の使い方をバランが図らずも見せたことで、ダイは能力の使い方を知ることにもなったのです。

ビジネスシーンで言えば、同じようなスキルを持つ、自分よりレベルの高い人との出会いを通じて、スキルの具体的な使い方や鍛え方を知ることに近いでしょう。

こうした出会いは、ある程度の自分の強みや鍛えるべきスキルが何かを知った上で、必要となるでしょう。長期的な展望や将来像がわからず、基礎の能力も身に付いていない状態では意味がないためです。

ダイは同じ竜の騎士であるバランの戦いを見て、自分の能力の使い方を知ることができました。しかし、同じタイプの技術を持つ先輩に自然に出会えるかと言えば、それは難しいもの。組織として、そういった出会いの機会を得ることを個人に任せるだけではなく、それぞれの段階において必要な出会いを用意する仕組みづくりが必要になります。現在では大手企業を中心に、社内で正式にメンターを紹介することも増えてきました。幅広い部署を抱え、さまざまな経験を積んだ人がいるような組織であれば、社内でうまくメンターのマッチングをすることが人材育成への近道です。

組織は「人との出会い」を後押しする環境づくりを

対話や助言によって気付きを与えるメンタリングには、一定のスキルが求められます。助言を与える人であるメンターになるには、自分の経験や意見を押し付け過ぎないよう、メンタリングの相手であるメンティを、きちんと見極めて対話ができる技術を身に付けることが必要になります。メンターとメンティをつなぐ場を用意するだけでなく、メンターがメンターとして活躍するためのトレーニングも欠かせません。

一方で助言を受けることになるメンティからすれば、必ずしも組織がマッチングの場を用意するのを待つ必要はありません。もし自分に必要な助言や外部の意見がわかっているのであれば、組織内外で積極的にメンターを探すこともできます。

小規模な組織だったり組織内に適切なメンターがいなかったりする場合は、組織外にメンターを求めることになります。最近は個人向けにメンターとメンティのマッチングを提供するサービスも登場しています。

一般的にメンタリングでは年長者が未熟な人をサポートすることが多くなります。ただ、社会の変化が大きく、世代ごとに意識や考え方、経験の差が大きくなっている今では、むしろ年長者が若手をメンターとして今の社会を見る視点を得るということもあります。

『どこでも誰とでも働ける-12の会社で学んだ“これから”の仕事と転職のルール-』(尾原和啓著、ダイヤモンド社)の発売を記念したトークセッションで、株式会社プロノバ代表取締役社長の岡島悦子氏は、新しいことを学ぶために「50歳を超えたら、明らかに若手のメンターが必要です」と言及しました。

前述のようにメンターとメンティの間には年齢や性別、立場は関係ありません。仕事内外で出会った人と信頼関係を築き、助言がほしいと思える人に自分のメンターになってもらう――組織としては公式の制度を整えると同時に、メンバーが組織内外でより多くの人と出会える環境づくりが求められます。

【まとめ】

『ダイの大冒険』を振り返ると、勇者ダイであっても、必ずしも彼の生来の力と努力だけが最終的な勝利につながったわけではないことがわかります。冒険の始まる前、そして始まった後の多くの人々との出会いが、彼の力を磨き、考え方を固めていきました。

冒険に出るわけはない私たちも同様で、どんなに優れた能力を持つ人でも、人との出会いによる研鑽や競争がなければ宝の持ち腐れになってしまう。個人が十分に力を発揮できるよう、組織としてもいいタイミングでのメンターとの出会いを演出することが不可欠になります。

【連載一覧】
第1回「『普通の人』代表のポップが後輩になったら?『ダイの大冒険』に学ぶ育成術」はこちら
第2回「『ダイの大冒険』アバン先生に学ぶ、経験者の新たな活躍方法」はこちら

文/bookish、企画・監修/山内康裕