入社したくなる会社は「魅力付け」に注力する【事例:株式会社ゆめみ】

d’s JOURNAL編集部

取材協力:株式会社ゆめみ 代表取締役 片岡俊行氏

内定承諾率95%の奇跡。年間50名以上の採用に成功

東京都世田谷区に本社を構える株式会社ゆめみ(以下、ゆめみ)は、2000年に設立されたモバイルサービスを主とした受託開発、デジタルマーケティング支援、デジタルメディアコンテンツ運用などを手掛ける企業です。従来型のBtoBtoC、SI事業、受託開発制作とは異なり、コンシューマー・エンドユーザー向けのネットワークサービスをクライアントと共創型として提供しています。また法人企業のデジタル戦略やICT活用、市場リサーチ・サービスデザインから関わりWebサービスを展開。リリース後も継続的に関わることで、クライアントとの強固な関係を築いています。

なんといっても特徴的なのが、従業員数230名(契約社員含む※2019年12月時点)規模で、年間50名新卒・中途社員の獲得に成功している点でしょうか。

「ゆめみは採用手法についてプロセスとその取り組みに工夫を行っていますが、入社後の『成長環境』という点にも注力し、採用ブランディングにも奏功しているため、安定した採用活動を実現できています。これらの施策を実践する前は内定承諾率(採用決定率)が70%だったのに対して、施策実践後は95%までにアップしました。さらに入社後ギャップによる早期離職もほとんど発生していません」。

そう語るのは同社の代表取締役 片岡俊行氏(以下、片岡氏)。では、どのようにして同社は安定した採用と内定承諾率(採用決定率)の向上、入社後ギャップによる離職を防いでいるのでしょうか――。これから、そのプロセスを解説していきましょう。

●1カ月以内で終了。スピード選考を実施

まずは中途採用の例をとって以下のプロセスを見てください。

応募者はカジュアル面談から始まり、最終面談まで各ターム1週間ごとの選考期間を経て内定が出される。その期間は、約1カ月。ポイントは次の点です。

・ポートフォリオチェックなどで技術的な評価をしっかりと行う
・カジュアル面談をファーストタッチに、面接は全部で2回まで

まず、他社よりもいかに早く内定を出すかが内定承諾率を上げるポイントであり、内定通知までのリードタイムを短くすることが大事である同社は考えています。しかしながらこのプロセス自体は目新しいものではなく、すでに多くの企業が実践をしています。ゆめみは、この採用プロセスに独自のノウハウを盛り込んでいる点が特徴的なのです。

(独自のノウハウについて)
「採用プロセス設計として他社と異なる部分が、『アトラクト(魅力付け)』と『評価』のバランスです。アトラクトはカジュアル面談と一次面接で設定しており、当社の若手社員や少し年上の先輩社員が対応します。応募者は一緒に働くメンバーがどのような人なのかが非常に気になるので、このアトラクトのフローで当社のことを好きになってもらうわけです。ですから面談に当たる社員には『勉強会後の懇親会のつもりで行ってきて』と送り出しています」。(片岡氏)

以前は直属の上司に当たる社員に採用権限を与えていたのですが、評価の見極めに主観が入ってしまうので、これまでのフローを取りやめました。現在は、自社の魅力づけに注力するような情報発信を徹底しているそうです。

 

●最終選考ではバーレイザーを起用

さらに、いわゆる「サプライズ面接」にならないよう、あらかじめ面接で聞かれる質問内容、仕事を行う上でポジティブな情報やネガティブな情報は、事前に自社採用HPなどで確認できるようにしたというのです。これは応募者の安心につながるほか、面接官が決まった質問をすることにより、応募者の言動のわずかな違いから、尖っている特性や才能を見出しやすくなるメリットがあるのだそうです。

しかしながら魅力付けのみに傾向しているわけではなく、最終面接では「評価」の場と位置付け注力していることも忘れてはいません。しかも最終面接での合格率は25%と低いのですそれは片岡氏自身が、最終面接で「バーレイザー(英:Bar raiser)」(※)と言われるポジションに就き、募集職種ごとに求められる特性を見極め、最終判断を下しているからだそうです。たとえば、インフラエンジニアを希望する応募者に対して、ネットワークエンジニアに特性があると指摘したりアドバイスすることも最終面接で行っていることだと言います。本人にも気付いていない特性を見極めることもあるので、たとえ同社に内定が決まらなくても両者のミスマッチングを防ぎ、さらに応募者から感謝されることもあるというから驚きです。

(※)米Amazon社が採用選考時に設定する独自のポジション。面接の水準を高く維持する役割などを持つ

採用ブランディングは「成長環境」で

採用プロセスに、アトラクトと言われる魅力づけと評価のバランスをとるフローを盛り込み、さらにはバーレイザーというポジションで最終判断を下す。応募者の興味・喚起を巧みに惹きつけながら内定まで進めていく、ゆめみの手法はご理解いただけたでしょうか。実はこれだけではなく、同社は普段から採用ブランディングの一環として「成長環境」なるキーワードを掲げて、認知活動に勤しんでいることにも特筆しておきましょう。

●管理職のいない「アジャイル組織」を実現

以下は、同社の「成長環境」で掲げるトピックスの一例です。

・多様なプロジェクト・業界・業種に関われる
・100%会社負担で勉強し放題(※海外視察で50万円の支援を受けた社員も)
・業界最高水準の給与水準を目指している
・アジャイル組織宣言 ほか

――などなど求職者にとってはメリットとなるトピックスが多い印象だが、中でも目を引くのは「アジャイル組織宣言」ではないでしょうか。

同社は、2018年10月に「アジャイル組織宣言」という構造改革を進め、大きく組織変更を行ないました。社長や部長といった組織の長の序列や役職がなく、さらに自己決定による給与制度により、人事評価者のいない組織を完成させたのです。現在では、真に対等な議論やビジネスができる風土が醸成されていると言います。

●イメージは「学級委員会」

現在、同社のあらゆるメンバーが、すべてのプロジェクトをカバーできるように、業務標準化・平準化が進んでいます。そこに管理職は存在していないのです。業務標準化・平準化に関しては、「星取表(ほしとりひょう)」と呼ばれるチーム毎のスキル獲得状況を可視化して、メンバー同士がお互いに支援しながら進めているそうです。そしてラインマネージャーにあたる後方支援部隊を設置して、6名のメンバーに1名毎のサポーターを付けて彼らのキャリアのサポートを行っているというのです。

「いわゆる自主運営ですね。自分の給与も自分で決める。イメージとしては学級運営のために学級委員と学級会を設定しているような感じです。どうしてこのような体制を採ったかと言えば、やはりエンジニアたちは現場がすべてです。現場の課題は自分で見つけて自分で解決してほしい。それがソリューションであり、自主性こそが会社や自分の成長を促す要因だと信じているからです」(片岡氏)

また、会社をさらに良くするための業務改善などは、社員全員で当番制にして、持ち回りで進めているのもユニークです。一方で、メンバーの成長に関しては、コーチング・カウンセリングといった資格を持つ専任メンバーを配して全社員をバックアップしている点も抜かりはありません。しかも、このような組織に関連する情報は、普段からSNSや自社HPなどを通してこまめに外部に発信して自社の認知拡大や、「この会社良さそう!」と求職者に思ってもらえるための採用ブランディングにつなげているというのです。たしかに求職者にとっては、上記のような環境は魅力的に映るでしょう。しかも、それがオープンになっているとなると、入社後ギャップによる早期離職も起こりにくい、というのもうなづけます。

最後に片岡氏はこのように締めくくります。「ゆめみは決して大きな会社というわけではありませんが、『開示』という点ではほかのどの会社にも負けていないと思います。応募してくださった方の不安の解消も、会社の魅力もすべて情報としてオープンにしています。それが会社と人の距離を近づける最大にして最良の手法だと、これまでのスクラップアンドビルドの施策から学んできました」。

国内でも類を見ない組織変更を行い、今もなお週に4~5回の制度変更・ブラッシュアップを行っているというゆめみ。変化を恐れないその姿勢こそが、求職者を惹きつけてやまない要因なのかもしれません。

まとめ

今回は行数の関係上すべてのプロセスを紹介できなかったが、大きくまとめると以下の要素を見直すことで自社の採用力をアップできそうです。

それは…

・アトラクト(魅力づけ)とスキル評価の役割を分解する
・求職者が魅力的に感じる「成長できる環境」を整える
・管理職のいない組織「アジャイル組織」を構築

……以上を整備することで、安定した採用計画と人材確保を実現できるかもしれません。事業規模の大小や市況に左右されない、骨太な採用計画やプロセスを構築してほしいと思います。

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取材・文/鈴政武尊、編集/d’s JOURNAL編集部