360度評価とは?テンプレートで使える評価項目と設問例、例文を紹介
d’s JOURNAL編集部
360度評価を導入することで、多角的な視点からの評価が可能となり、従業員一人ひとりの強みや課題をより客観的に把握できるようになります。
しかし、運用に必要な評価項目の設計やシート作成に苦戦する企業も少なくありません。
そこで本記事では、360度評価の無料テンプレートを公開し、具体的な評価項目や設問例をご紹介します。評価制度の見直しや従業員育成の質を高めたい人事・採用担当者は、ぜひご覧ください。
360度評価のテンプレート【無料】
360度評価を実施する際は、評価シートを作成しなければなりません。ただし、新規作成となると工数がかかるため、まずはテンプレートを活用すると良いでしょう。
360度評価で使用できる無料テンプレートは、以下のリンク先からダウンロード可能です。各項目は、自社の方針や評価目的に合わせてカスタマイズしてご利用ください。
360度評価のテンプレートで使える具体的な評価項目
360度評価のテンプレートを使う際には、人材育成や組織力の向上といった評価の目的に応じて、業務遂行力やコミュニケーション能力など、従業員の能力や行動特性を多角的に把握できる項目を設定することが重要です。
【360度評価のテンプレートで使える具体的な評価項目】
●目標達成に関する評価項目(例付き)
●課題解決に関する評価項目(例付き)
●チームワークに関する評価項目(例付き)
●コミュニケーションに関する評価項目(例付き)
●リーダーシップに関する評価項目(例付き)
●マネジメントに関する評価項目(例付き)
●改善点の記入欄の書き方
●評価コメントの記入欄の書き方
本項で紹介する評価項目は、360度評価で一般的に用いられる項目です。
ただし、導入目的や対象者(一般職・管理職など)によって重視する行動は異なるため、自社に合わせて取捨選択してください。
続いて、設定した評価項目を公平かつ客観的に評価するため、点数化の仕組みを整える必要があります。
【点数化の例】
| 評価点数 | 評価基準 |
|---|---|
| 5 | 非常に当てはまる |
| 4 | 当てはまる |
| 3 | どちらでもない |
| 2 | 当てはまらない |
| 1 | まったく当てはまらない |
評価方式は3~6段階がありますが、最も広く採用されているのは5段階方式です。
【5段階以外を選択する基準】
●3段階:評価者の負担を減らしたい場合
●4段階:中央評価(どちらでもない)への偏りを避けたい場合
●6段階:従業員のスキルをより精密に評価したい場合
ここからは、360度評価の具体的な項目例や評価内容、評価コメントの記入欄の書き方について詳しく解説しますので参考にしてください。
目標達成に関する評価項目(例付き)
従業員一人ひとりが目標を達成していくことによって、全社的な成果が生まれます。
そのため、360度評価の項目にも、目標達成に関する項目を必ず設定しましょう。
【目標達成に関する評価項目の例】
| 評価項目 | 評価内容 | 評価点数 |
|---|---|---|
| 達成意欲 | 目標達成に向けて意欲的に取り組んでいる | |
| 計画性 | 目標達成に向けて具体的な計画を立てて取り組んでいる | |
| 役割の認識 | 目標達成のために自身に与えられた役割を理解している | |
| 状況適応力 | 困難な状況下にあっても目標達成のために努力できている | |
| 協調性 | 目標達成に向けて他者と協力しながら取り組んでいる |
上記の項目を参考に、従業員の目標達成状況をさまざまな観点から評価することが大切です。
課題解決に関する評価項目(例付き)
全社的な目標を達成するためには、各従業員が日々の業務で生じる課題を乗り越えていく必要があります。こういった観点から、360度評価には課題解決に関する項目も加えておきたいところです。
【課題解決に関する評価項目の例】
| 評価項目 | 評価内容 | 評価点数 |
|---|---|---|
| 課題の特定 | 自身が取り組むべき課題を明確に把握できている | |
| 課題の妥当性 | 目的に沿った課題を設定できている | |
| 課題対応力 | 設定した課題に対して適切に対応できている | |
| 課題の見える化 | 業務や職場の問題を見える化し、関係者と共有できている |
このような項目を設けることで、日々の業務で生じる課題への取り組みを具体的に評価できます。
チームワークに関する評価項目(例付き)
360度評価を行う際、チームワークや協調性を重視して項目に追加する企業もあります。「組織内で円滑に業務を進められているか」「同僚と情報共有や連携が適切にできているか」といった点を評価することが目的です。
【チームワークに関する評価項目の例】
| 評価項目 | 評価内容 | 評価点数 |
|---|---|---|
| 理解力 | 相手の意図を理解した上でコミュニケーションを取れている | |
| 情報共有・相談 | 適切なタイミングで報告・連絡・相談ができている | |
| 部門間の連携 | 他部署とスムーズに連携できている | |
| チーム内での協力姿勢 | 積極的にコミュニケーションを図り、メンバーと課題解決に向けて取り組めている |
これらの項目を組み込むことで、チームの結束力や従業員のモチベーションを向上させるために必要なコミュニケーションがどれほど機能しているのかが把握できます。
コミュニケーションに関する評価項目(例付き)
チームワークの項目とも関連しますが、職場での人間関係を維持し、円滑に業務を進めるためには、個々のコミュニケーション能力も重要です。
コミュニケーションに関する項目を別途設けることで、職場内外での円滑な情報交換や、協力関係の構築に欠かせないスキルを評価できます。
【コミュニケーションに関する評価項目の例】
| 評価項目 | 評価内容 | 評価点数 |
|---|---|---|
| 傾聴姿勢 | 相手の話に耳を傾け、意見を最後まで理解しようとしている | |
| 積極性 | 会議の場で積極的に発言できている | |
| 受容力 | 異なる意見もひとまず受け止め、すぐに否定しない | |
| 伝達力 | 説明が明確でわかりやすい |
上記の項目を360度評価に取り入れ、情報伝達や意思疎通の能力を把握することで、連携力の強化につなげましょう。
リーダーシップに関する評価項目(例付き)
リーダーシップは、管理職の適性を見るだけにとどまらず、将来の管理職候補を探すために重要な評価項目です。
そのため、以下の評価項目を設けてフィードバックを実施し、リーダーシップの向上を支援すると良いでしょう。
【リーダーシップに関する評価項目の例】
| 評価項目 | 評価内容 | 評価点数 |
|---|---|---|
| 状況理解力 | 部下が取り組んでいる業務の進捗状況を正しく把握できている | |
| 調整力 | メンバーの意見をまとめて、納得できる結論を導き出せる | |
| 公平性 | 事実や基準に沿って公平に判断・対応できている | |
| サポート力 | 困っている同僚や部下に対して適切に支援できている | |
| 先導力 | 目標達成に向けて適切に指示を出し、メンバーを先導できている |
これらの項目の評価点数が高い場合は、チームや組織を率いる力が備わっており、後進の育成や業務改善を進める際にも主体的に取り組める人材だと判断できます。
マネジメントに関する評価項目(例付き)
組織やチームの目標を達成するためには、マネジメント能力が欠かせません。部下の育成や進捗管理、チームの課題解決など、組織全体を円滑に運営する力が求められます。
そのため360度評価では、管理職だけでなく、チームをまとめる立場にある従業員にもマネジメント能力を評価する項目を設けることが大切です。
【マネジメントに関する評価項目の例】
| 評価項目 | 評価内容 | 評価点数 |
|---|---|---|
| 目標設定力 | チームやプロジェクトの目標を明確に設定できている | |
| 業務管理能力 | 業務の優先順位を整理し、進捗を適切に管理できている | |
| 思考促進 | 指示するだけでなく、部下が自ら考える機会を与えている | |
| 人材育成力 | 部下のスキルや能力に応じた指導・教育ができている | |
| 判断力 | 必要な場面で的確な意思決定ができる |
これらの項目を評価対象とすることで、マネジメント層の課題も明確になり、組織全体の運営力や育成力の向上を図れるでしょう。
改善点の記入欄の書き方
360度評価では、各項目の数値評価だけでなく、「何をどのように改善していくのか」を明らかにすることが重要です。
そのため、評価シートに改善点の記入欄を設け、具体的な事項を記載してもらうことをお勧めします。具体的には、以下のような文言を添えて記入欄を設けましょう。
【記載例】
◆具体的な改善点
今回の評価結果を踏まえて、改善が必要な事項を具体的に記載してください。
このような記入欄を設けて課題や提案を具体的に挙げてもらうことで、評価対象者は自己成長のヒントや、業務改善の方向性を把握できます。
評価コメントの記入欄の書き方
360度評価を実施する際、5段階での判定だけでは不十分と思える点や、補足が必要な事項が出てくることがあります。これらを補い、評価の精度を高めるためには、自由に記載できる評価コメントの欄も必要です。
【記載例】
◆評価コメント
これまでの評価項目で評価しきれなかった内容や、伝えたい事項を追加で記載してください。
上記の欄を設置することで、より正確かつ具体的な評価が可能となり、評価対象者の成長や業務の向上につながります。
【シーン別】360度評価の評価項目と設問例
360度評価は、役職に関係なく、さまざまな立場の関係者が参加する評価手法です。上司から部下への評価だけでなく、部下による上司への評価や、同僚間での相互評価も行われます。
そのため、評価者・評価対象者の立場に応じて、評価項目や設問の工夫が必要になります。
上記を踏まえて、【上司・同僚・部下】それぞれの立場ごとに適した360度評価の項目と設問例を見ていきましょう。
上司が部下を評価する場合の設問例
上司は、部下の目標達成力や課題対応力、仕事に取り組む姿勢などを評価の対象とします。
設問例としては、先述した目標達成や課題への取り組みに関する項目を設けましょう。
【評価項目と設問の例】
| 評価項目 | 設問 | |
|---|---|---|
| 達成意欲 | 目標達成に向けて意欲的に取り組んでいるか | |
| 計画性 | 目標達成に向けて具体的な計画を立てて取り組んでいるか | |
| 課題の特定 | 自身が取り組むべき課題を明確に把握できているか | |
| 課題対応力 | 設定した課題に対して適切に対応できているか |
このように、部下の業務遂行状況や行動面を具体的に把握できる内容であることが重要です。
同僚同士で評価する場合の設問例
同僚同士の評価では、チームワークやコミュニケーション能力を対等な立場で評価することに主眼を置きます。
評価内容の具体例としては、以下の設問が挙げられます。
【評価項目と設問の例】
| 評価項目 | 設問 | |
|---|---|---|
| 理解力 | 相手の意図を理解した上でコミュニケーションを取れている | |
| チーム内での協力姿勢 | 積極的にコミュニケーションを図り、メンバーと課題解決に向けて取り組めている | |
| 傾聴姿勢 | 相手の話に耳を傾け、意見を最後まで理解しようとしている | |
| 受容力 | 異なる意見もひとまず受け止め、すぐに否定しない |
同僚間で評価を行う場合、対象者が親しい同僚であっても、評価者は中立・公平な視点を持ち、業務上の行動や貢献度をフラットな目線で判断することが大切です。
部下が上司を評価する場合の設問例
部下から上司への評価では、上司のリーダーシップや公平性、指導力、また意思決定力などが主な評価対象となります。評価項目には、リーダーシップやマネジメントに関する設問を設定しましょう。
具体的には、以下の設問例を参考にしてください。
【評価項目と設問の例】
| 評価項目 | 設問 | |
|---|---|---|
| 先導力 | 目標達成に向けて適切に指示を出し、メンバーを先導できている | |
| 公平性 | 事実や基準に沿って公平に判断・対応できている | |
| 人材育成力 | 部下のスキルや能力に応じた指導・教育ができている | |
| 判断力 | 必要な場面で的確な意思決定ができる |
部下が上司を評価する場合の設問としては、上記のように上司が組織やメンバーを適切に導いているかどうかを把握できる内容が適しています。
【シーン別】360度評価の評価コメントの例文
360度評価では、上下関係を問わず、公平に評価コメントを記載することが求められます。ここからは【上司・同僚・部下】それぞれの立場ごとの評価コメントの書き方を具体例とともに詳しく解説します。
上司から部下への評価コメントの例文
部下に対する評価コメントでは、長所と改善点の両方に触れ、メリハリを付けて伝えることが大切です。実績を挙げている従業員にはその功績を明確に伝え、実績が十分ではない従業員には、評価項目には含まれない長所や行動などの良い点を見つけて、改善点とともに記載しましょう。
上司から部下への評価コメントの例は、以下をご確認ください。
【上司から部下への評価コメントの例文】
〇〇プロジェクトでは、計画通りに進捗を管理し、チーム全体の目標達成に大きく貢献しています。また、積極的にメンバーをサポートし、周囲との連携が良好である点も高く評価しています。今後は、自身のスキルをさらに活かして、新たな課題に挑戦する機会を増やしていきましょう。
チーム内でのコミュニケーションが円滑に行われており、メンバーの意見を尊重しながら協力して業務を進めている点を評価しています。今後は、業務の優先順位や進捗管理を工夫し、より高い成果を目指してほしいと考えています。
このように、部下の強みと改善点を伝えて、モチベーションを高めることを意識すると良いでしょう。
ただし、改善点に触れる際は、言葉遣いが厳しくなり過ぎないよう注意が必要です。
同僚から同僚への評価コメントの例文
同僚への評価コメントには、近い立場だからこそ気付ける点を評価者へ具体的に伝えましょう。その際、感情的な評価は避け、同僚の仕事ぶりを見て良かった点や参考にしたい点を客観的に記載するように伝えてください。
以下に、人事・採用担当者が評価コメントを書く際にも参考になる具体的な例文をご紹介します。
【同僚への評価コメントの例文】
採用業務の企画・実行を正確かつ効率的に遂行しています。転職希望者管理や面接調整などのプロセスを体系的に運用し、採用計画の達成に貢献しています。今後は、業務改善の提案をより具体的に示すと、チーム全体の業務効率の向上につながるのではないでしょうか。
人事データの管理や報告業務を正確に遂行しています。組織内の手続きやルールを理解して業務に反映しており、業務プロセスの安定化に貢献しています。今後は、他部署との調整やコミュニケーションをさらに積極的に行うことで、組織全体の連携が強化されるはずです。
上記の通り、良い点だけでなく改善点があれば指摘することも大切です。親しい同僚に対しては客観性を欠いたコメントになる傾向がありますが、感情や関係性に左右されず、建設的なフィードバックを心掛けるように評価者へ伝えてください。
部下から上司への評価コメントの例文
上司に対しては、マネジメント能力に焦点を当てて評価コメントを記載します。チーム運営やメンバーのサポートが評価のポイントとなるでしょう。
また、改善点についても忖度(そんたく)なく伝えることが大切です。具体的には、上司の指示や意思決定が適切かどうか、部下への指導・支援の仕方に問題がないかといった点に触れます。
部下から上司へのコメントには神経を使う部分もありますが、以下の例文を参考にしながら、公平かつ具体的に記載してください。
【部下から上司への評価コメントの例文】
一人ひとりの業務量を考慮した上で仕事を割り振ってくれるため、快適にはたらけています。また、業務で困ったときに気軽に相談しやすい雰囲気をつくっていただけているため、スムーズに業務を進められています。
営業に関してご指導いただいているものの、私の実力不足もあり、成果が上がっていません。具体的なトークの仕方や販促ツールの使い方などの営業手法を教えていただければ、成果につながると考えています。また、仕事の進め方について相談したいので、部下と話し合う機会をもう少し増やしていただければと思います。
360度評価の質を高めるためには、たとえ評価対象者が上司であっても遠慮せず、具体的な事例や行動を踏まえたコメントを記載することが重要です。
360度評価(多面評価)とは
ここで改めて、360度評価(多面評価)について解説します。360度評価とは、上司・同僚・部下といった複数の関係者が評価を行う制度のことです。
また、関連のある他部署の従業員や取引先、顧客の意見も評価に含まれることがあります。
このように360度評価では、さまざまな関係者の意見を参考にし、多角的な視点で対象者を評価します。
ここでは、360度評価の意義をより深く理解するためには、以下について解説しますので、参考にしてください。
●360度評価の目的
●360度評価が注目されている背景
360度評価の目的
360度評価の目的は、多面的なデータによって、対象者の評価に正当性や客観性を持たせることにあります。上司が部下に対して行う一方通行の人事評価とは異なり、複数名のさまざまな視点で行われる評価は、より多くの生きた情報を含んだものとなります。
そのため、結果を通じて人事・採用担当者も評価対象者を深く理解し、鋭く評価できるようになるのです。
そしてもう一つの目的は、従業員に、自身に対する評価や関心の度合いを認識してもらうことにあります。360度評価は多様なメンバーによって行われるため、「多くの人が自分を見て、きちんと評価してくれている」といった実感が生まれやすいのです。
その結果、企業・組織に対する帰属意識や信頼感が芽生え、エンゲージメントを高める効果も期待できます。
360度評価が注目されている背景
現代のビジネス環境は、終身雇用や年功序列の崩壊に伴い、人事評価制度の見直しを行う企業も増えている状況です。勤続年数などに基づいた単純な評価制度が実情に合わなくなってきており、新たな評価の仕組みが必要とされているのです。
また、労働人口の減少による人材不足も、こうした動きを後押しする要因となっています。主に評価を担当する管理職が不足し、部下の管理と現場業務の兼任が増えたことで、評価者に過剰な負担がかかりやすくなっているのです。
つまり、360度評価は、評価を担当する上司の負担軽減につながる仕組みとしても注目されているということです。そして、360度評価が重要視されるもう一つの理由が、リモートワークの普及です。
リモートワークの導入により、部下と直接に関わる機会が減り、従来よりも評価やフォローが難しくなったと感じる企業も少なくありません。人事・採用担当者や上司から現場の様子が見えにくい環境にあっては、多くの従業員を巻き込む360度評価が大きな役割を果たすと考えられています。
360度評価を行うメリット
360度評価の導入は、個人の成長を促すとともに、組織全体の活性化にもつながります。その効果を具体的に把握するために、ここでは360度評価を行うことで得られる以下のメリットをご紹介します。
●客観的な評価ができる
●評価への納得感が高まる
●従業員の主体的な成長を促せる
●人間関係の状態を把握できる
●管理職の育成につながる
●コミュニケーションが活性化される
●ミッションやコンピテンシーの浸透につながる
客観的な評価ができる
さまざまな立場からアプローチを行う360度評価は、評価内容に自然と客観性が生まれるという特徴があります。上司による単一方向のアプローチでは、どうしても個人の相性や主観に左右されやすく、公平かつ客観的な評価が難しくなりがちです。
例えば、一口に「面倒見の良さ」という項目をピックアップしてみても、上司から見た評価と部下から見た評価には大きなずれが生じることがあります。単一の視点では、対象者の重要な強みを見逃してしまったり、必要以上に過大評価してしまったりする可能性もあるでしょう。
360度評価では、上司が見えない特性にも焦点が当たるため、評価に公平性や客観性を持たせやすくなるのです。
評価への納得感が高まる
横のつながりにあたる同僚、縦のつながりにあたる上司・部下など、あらゆる角度から評価してもらえるため、対象者本人に納得してもらいやすい点も360度評価のメリットです。
一人の上司が行う評価では、本人の感覚との間に相違があった場合、疑問や不満が生まれるリスクがあります。
しかし、複数の関係者から評価が行われれば、周囲からの客観的な評価として素直に受け入れやすくなります。
従業員の主体的な成長を促せる
360度評価では、評価対象者も自身に対する評価を行います。そのため、他者からの評価と自己評価に相違がある場合、結果を通してギャップに気付けることも大きなメリットです。
また、360度評価の結果には、対象者本人にも気付けないようなヒントが隠されていることがあります。従業員が自身の特性を客観視できるため、改善点があれば自ら発見できるようになっていくのです。
このように、自分自身で主体的に強みや弱点を把握しようとする姿勢が引き出されるため、上司から直接的に忠告されるよりも大きな改善効果が期待できます。
人間関係の状態を把握できる
さまざまな関係性の相手と接点を持つため、360度評価のプロセスを通じて、人間関係の状況も把握できることがあります。
例えば、組織内で一人だけ不当に低い評価を付けられているメンバーがいる場合、必ずしも対象者に問題があるとは限らず、いじめやパワハラが起こっている可能性も考えられます。
また、そもそも一定以上のコミュニケーションがなければ評価できないため、人間関係が希薄化していれば360度評価そのものが機能しません。このように、すでに何らかのトラブルが生じていれば、360度評価によって明らかになることもあります。
管理職の育成につながる
360度評価では、普段は評価を行う側である管理職者も等しく評価対象になります。
そのため、評価のプロセスを通じて、管理職の育成につながる点もメリットの一つです。管理職の場合、立場が上がるにつれて、自身が評価される場面が少なくなってしまうものです。
特に直属の部下は、日常的な業務内で上司への本心を表現することが難しい面もあります。部下や後輩から自身がどのように見られているのかを知れる機会は、実際のところそれほど多くありません。
360度評価では、そうした相手からも率直な意見をもらえるため、管理職者にとって自身の行動や振る舞いを客観視できる重要な機会となるのです。
また、360度評価を行うことで、従業員からの評価や意見に耳を傾ける姿勢が養われます。その結果、管理職者の自覚が育つことはもちろん、従業員からも信頼を寄せてもらいやすくなるでしょう。
コミュニケーションが活性化される
360度評価の導入によって、従業員同士のコミュニケーションが促進されます。
これは、評価対象者の仕事ぶりや成果について、上司・同僚・部下と意見を交換する機会が生まれるためです。互いの強みや課題を理解し合うことで、信頼関係が深まり、日常業務での連携や相談もスムーズに行えるようになるでしょう。
また、評価対象者は上下関係や部門間を超えたコミュニケーションを通じて、さまざまな視点や考え方に触れることができ、自身の成長や視野の拡大につなげられます。
ミッションやコンピテンシーの浸透につながる
多くの従業員が関わる360度評価では、従来の単一方向の評価システムと比べて、全員が評価基準を強く意識するようになります。そのため、評価のプロセスを通じて、企業が大事にしたい風土やミッション、バリューが自然と浸透していくのもメリットです。
さらに、上下関係を問わず多くの従業員と接することで一般従業員も視野が広がり、組織全体の課題や傾向性に目を向けられるようになります。他者を評価するという行動を通じて、積極的にコミュニケーションやフィードバックを行う風土が育つ効果も期待できます。
お互いのことを知ろうとする中で、コミュニケーションも充実し、社内の人間関係も向上していくでしょう。
コンピテンシーについて詳しく知りたい方は、下記の記事もチェックしてみてください。
(参考:『コンピテンシーとは?意味や人事評価・面接での使い方を解説』)
360度評価を行う際の注意点

360度評価は、個人や組織の成長につながる有効な手法ですが、その効果を十分に引き出すためには最初に知っておきたい注意点もあります。注意点を踏まえずに始めてしまうと、評価の正確性や組織内の人間関係を損なうことになりかねません。
ここでは、360度評価を行う際に注意したい以下の点をご紹介します。
●主観的な評価になってしまう
●組織内に不信感が生まれてしまう
●育成・指導がおろそかになってしまう
●運用負担が大きくなってしまう
主観的な評価になってしまう
360度評価では、評価者としての経験がない従業員も参加します。
そのため、評価に慣れていない従業員が主観的に判断してしまう可能性がある点には注意したいところです。個人の感情や私的な関係性が評価に影響すると、公平性を保てなくなります。また、評価者によっては、評価対象者に遠慮して高い評価を付けることもあります。
例えば、日ごろから関わりのある同僚や上司に対して、「関係を悪化させたくない」という気持ちから、本来よりも評価を引き上げるケースです。こうした遠慮や忖度(そんたく)による高い評価が増えると、実際の成果や行動との間にギャップが生まれ、公平な評価ができません。
このような懸念を払拭(ふっしょく)するためには、評価の目的や基準を周知徹底し、客観的な視点で判断できるよう、評価者への説明や研修を行うと良いでしょう。
組織内に不信感が生まれてしまう
360度評価は、誰もが評価の主体と客体になるという特徴があります。
そのため、目的の共有が不十分なまま導入すれば、周囲に対して不信感を生み出してしまうリスクがあります。
また、表面的な振る舞いと実際の評価に大きな隔たりがある場合、日常のコミュニケーションに支障を来す可能性もあるでしょう。情報の管理には細心の注意を払うとともに、フォロー体制も十分に整えておくと安心です。
育成・指導がおろそかになってしまう
管理職者も評価の対象となることから、部下からのフィードバックを気にするあまり、厳しい育成指導ができなくなってしまう可能性もあります。
従業員に評価の基準や目的が十分に共有されていない状態で導入すれば、単に「仕事に厳しい」というだけで、問題のない上司が不利な評価を受けるケースもあるでしょう。そうなれば、指導不足による組織力の低下につながるリスクがあります。
こうした事態を防ぐためには、部下が上司を評価する場合には評価項目を絞るなど、仕組みの上からトラブル予防の工夫を行うことが大切です。
また、管理職者には日ごろから部下とのコミュニケーションを重視させ、厳しい指導を行ってもきちんと正確な意図が伝わる土壌を育ててもらうことも重要といえるでしょう。
運用負担が大きくなってしまう
360度評価は、通常の評価制度と比べて多くの工数と時間を必要とします。実施にあたって従業員に時間的な負担が生じることに加え、対象人数が多ければデータを収集・管理する人事・採用担当者にも大きな負荷がかかってしまいます。
それぞれに新たな負荷が加わるため、スケジュールを考慮しなければ本業にも影響を及ぼすリスクもあるのです。特に、小規模の会社では通常業務で手いっぱいになっているケースも多いため、導入には細心の配慮が必要となります。
また、そもそも従業員の人数が少なければ、評価内容の絶対数も少ないため、360度評価が機能しないケースもあります。導入が適しているかどうかは会社の事情によっても異なるため、人員や現在抱えている業務の量、人間関係の状態といった現状を十分に考慮することが大切です。
360度評価を導入する際の5つの手順

360度評価を導入する際には、適切な準備が欠かせません。
本項では、導入をスムーズに進めるための5つのステップを紹介します。
1.現状把握
2.評価方法の策定
3.シミュレーション
4.問題点の改善
5.運用スタート
1.現状把握
360度評価の導入にあたっては、丁寧に現状把握を行って、組織が置かれている状況や抱えている課題をチェックすることが大切です。焦って仕組みだけを導入しても、きちんと運用できるだけの土台がなければ、かえって社内に混乱を与えてしまう可能性があるためです。
そこで、360度評価を行う前段階で、満足度調査やアンケートを実施して現状を把握すると良いでしょう。従業員がどのような点に不満を感じているのかを先回りしてリサーチしておくことで、評価制度を導入する目的や期待される効果を明確に設定できるようになります。
また、360度評価の基準として候補に挙げている項目があれば、事前調査に盛り込んでおくこともお勧めです。従業員の感覚に触れておくことで、360度評価を実施する際には、より精度の高い基準を設定できるようになるでしょう。
2.評価方法の策定
360度評価は、従業員の自由なフィードバックを中心とした評価方法です。
そのため、人間関係が成熟している組織では、あまり細かな制限を設けるよりも自由に評価を行える仕組みを保つほうが効果的なケースがあります。
しかし、その場合であっても、評価の方法や基準についてはある程度の方向性を示せるように準備しておきましょう。
具体的には、「何を重視して評価するのか」「どのようなはたらきを期待するのか」など、企業が大事にしたいポイントや求めるコンピテンシー(行動特性)を明確にした上で検討することが重要です。
3.シミュレーション
具体的な評価方法と基準が決まったら、初めから全社的に実施するのではなく、特定の部署やグループなどでシミュレーションを行うことをお勧めします。
360度評価は、評価に不慣れな一般従業員も多く参加するため、予期しないトラブルやエラーが起こるものとして想定しておく必要があります。
そのため、まずは小さな範囲でシミュレーションを行い、トラブルの影響を最小限にとどめつつ、傾向と対策を見つけることが効果的です。
例えば、「スケジュールに無理があり、期日通りに評価結果が上がってこなかった」「評価基準をより明確にする必要があった」など、事前には見えていなかった問題点が明らかになることも珍しくありません。
また、思ったように有益な情報が得られなければ、評価項目や基準を改める必要性も出てきます。
4.問題点の改善
限定された範囲でシミュレーションを行ったら、そこで明らかになった結果を振り返り、細かく分析を行いましょう。
例えば、問題点が見つかったときには、シミュレーションを行った部署やグループ特有の課題なのか、どのような条件下でも起こり得るものなのかを十分に精査する必要があります。
また、課題を把握するという意味では、シミュレーションを行ったあとに、再びアンケートなどの調査を行うのも一つの方法です。
実際に評価を担当した従業員の声を聞くことで、「どのような点に難しさを感じるか」「どの程度まで目的を理解してもらえているか」といった有益な情報を得られます。
このように、問題点を一つずつ分析し、改善に活かしていくことで、少しずつ評価システムの精度が向上していくのです。その上で、全社的な取り組みへと移行することで、効率よく360度評価の導入を実現できるようになります。
5.運用スタート
シミュレーションと問題点の抽出・改善を終えたら、本格的に運用を開始しましょう。まずは360度評価を導入する理由や目的を共有し、従業員に取り組みの方向性を理解してもらうことが大切です。
その上で、全部署に展開することとなるため、導入後の細かな質問に答えられるような体制を整えておく必要もあります。困ったときの質問先や窓口をアナウンスできるようになっていれば、従業員も安心して取り組めるようになるでしょう。
実際の運用にすぐ使える「360度評価テンプレート」は、下記より無料でダウンロードいただけます。評価項目の設計から点数管理まで一括で行えますので、自社用にカスタマイズしてご活用ください。
360度評価を効果的に行うためのポイント

360度評価を効果的に運用するためには、押さえておきたい基本事項があります。
最後に、360度評価の導入に際して意識したいポイントについて解説します。
●目的や評価方法を社内で周知して浸透させる
●評価者と評価対象者に研修やトレーニングを実施する
●評価項目は慎重に選定する
●給与や待遇などには評価結果を反映させない
●定期的にフィードバックを行う
●プライバシーに配慮した運用を心掛ける
目的や評価方法を社内で周知して浸透させる
360度評価を実施する際には、目的や評価方法を従業員に知らせておくことが大切です。「なぜ360度評価の導入が必要なのか」という理由を事前に示すことで、従業員が評価の意義を理解し、納得した上で参加できるようになります。
また、評価方法や基準をあらかじめ共有しておくと、「評価がどう決まるのか」が明確になり、評価の透明性を保てるでしょう。
評価者と評価対象者に研修やトレーニングを実施する
360度評価を公平に実施するためには、事前の研修やトレーニングが欠かせません。360度評価に参加する従業員全てが十分な評価スキルを持っているとは限らず、評価経験が少ない人は、無意識のうちに個人的な感情を評価に反映してしまう可能性があります。
こうした問題を防ぐためには、事前の研修で評価基準や評価の考え方を共有し、「何をどのように判断するのか」を明確にしておくことが重要です。
研修を通して、評価基準の理解を周知するとともに、具体的な評価方法を共有できます。評価者のスキルが一定水準で整っていれば、評価対象者も納得感を持って結果を受け止められます。
評価項目は慎重に選定する
評価項目を設定する際には、結果が与える影響も考慮した慎重な検討が必要です。360度評価は同僚などの近しい関係にある相手から評価を受けられるという利点があるため、成果だけでなく、努力や試行錯誤の様子といった業務態度も含めて評価できる項目を設けられると理想的です。
また、評価が難しいケースに備えて、回答例には「どちらでもない」「わからない」といった選択肢も用意しておくと良いでしょう。特にリモートワークを導入している企業では、実際に把握することが難しい項目もあるので、全ての質問内容を無理に回答させる必要はありません。その上で、具体的な評価基準については、管理職者と現場従業員のどちらの意見も尊重するようにしましょう。
経営層や管理職の意見のみが反映された評価項目では取り組みが形骸化してしまい、360度評価のメリットを活かしきれなくなってしまいます。現場の意見も取り込み、双方が納得できるような評価基準を作成することが大切です。
給与や待遇などには評価結果を反映させない
360度評価の結果は、給与や待遇といった金銭的な対価には反映させないように工夫することも大切です。自身の評価が対象者の報酬に影響が出るとなれば、相手との関係性が近いほど、素直な判断が難しくなってしまうものです。
そのため、報酬に直接的な影響を及ぼす評価については、上司や管理職者といった従来の担当者が引き続き行うと良いでしょう。
また、従業員に対しても給与に影響が出ない点を明示しておき、評価に支障が出ないよう配慮することも大切です。
定期的にフィードバックを行う
評価結果を活用するためには、定期的なフィードバックを行う必要があります。基本的には本人の考えを丁寧に聞くことが重要ですが、評価結果をどのように受け止めるべきか、どのように今後へ活かしていけるかなど、必要に応じてアドバイスをすることも大切です。
また、そもそも360度評価は1回限定の取り組みではあまり大きな効果が期待できません。特に初回は、ほとんどの従業員が様子を見ながら取り組むこととなり、思うような結果が得られない場合も多々あります。
そのため、360度評価の導入を検討する際には、初めから定期的な実施を前提にスケジュールを調整しましょう。実施後のフィードバックも含め、対象者が行動を改善し、改めて評価を受けるというサイクルを繰り返して初めて効果が期待できるのです。
フィードバックについて詳しく知りたい方は、下記の記事もチェックしてみてください。
(関連記事:フィードバックの意味と目的とは?期待できる4つの効果と5つの手法)
プライバシーに配慮した運用を心掛ける
多くの従業員が評価者になることから、360度評価は組織の人間関係にトラブルを招く恐れがあります。そうした問題を未然に防ぐためには、プライバシーに配慮した運用を心掛けることが大切です。
具体的には、「匿名での実施を徹底する」「評価内容の他言は厳格に禁止する」といったものが挙げられます。特に従業員数の少ない企業では、筆跡や文言の癖で実質的に誰の評価かわかってしまうなど、匿名での実施が難しい面もあります。
誰でも安心して臨めるように専用のツールを活用するなど、従業員の目線に立った細やかな配慮を意識しましょう。
まとめ
360度評価は、正しく導入すれば従業員の意識を高めたり、組織内の結びつきを強めたりするきっかけとなります。職位を問わずさまざまな従業員が関わることで、多角的で公平な評価を実現できます。
一方、一般的な評価システムと比べて評価には時間がかかり、運用の仕方によっては組織内に不信感を生んでしまうリスクもあるため注意が必要です。導入にあたっては、メリットだけでなく注意点も把握した上で丁寧に準備を行いましょう。
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(制作協力/株式会社eclore、編集/d’s JOURNAL編集部)
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