人材流出はなぜ起こる?5つの原因と防止策・企業事例を解説
d’s JOURNAL編集部
日本においては労働人口の減少により、さまざまな業界で人手不足が起こっています。そのなかで人材流出が発生すれば、経営において大きなダメージとなる恐れもあるでしょう。
根本的な対策を取らなければ、モチベーションの低下や新たな人材の流出を招き、組織としての力が弱まる要因となるので注意が必要です。この記事では、人材流出が起こってしまう原因と防止策を解説します。
人材流出が起こる5つの原因
(参照:日本労働調査組合『退職動機に関する労働調査』)
人材流出が起こる原因はさまざまなことが考えられますが、主に次の5つの点があげられます。
<人材流出が起こる主な5つの原因>
・人間関係に対する不満
・給与などの待遇が不十分
・業務過多などの労働環境
・社風が合わない
・キャリアパスへの不安
各原因について、どのような問題を抱えているのかを解説します。
人間関係に対する不満
同じ職場で働く人間関係に問題があれば、人材が流出しやすくなるといえます。1日の多くの時間を一緒に過ごすのが職場なので、相性の悪い人が多いほどストレスを感じて、退職を考えてしまう人が多くなるのは無理もないことです。
人間関係が悪ければ、コミュニケーションも停滞気味になり、結果として仕事のパフォーマンスも低下するでしょう。連休や年末年始などのまとまった休暇を取った後に転職を考える人もおり、突然退職の申し出を行っているように見えても、実は日頃からストレスを感じていたというケースもめずらしくありません。
給与などの待遇が不十分
担当している業務と給与のバランスに釣り合いが取れていなければ、モチベーションが低下し、人材流出につながるのは多く見られるケースです。地域によって最低賃金が定められていますが、法定ラインぎりぎりの給与水準では他の業界や職種に転職しようと考えてしまうでしょう。
また、ある程度の給与を受け取っていたとしても、同業他社よりも低い水準では他社への転職を検討する場合もあります。
業務過多などの労働環境
優秀な従業員ほど、他の従業員と比べてパフォーマンスが高いため、過度に業務が集中する傾向があります。初めのうちは本人もやりがいを持っていたとしても、過剰な業務が重荷となり、やがて退職をする引き金になってしまいます。
任されている業務の種類や量が多ければ、それだけ仕事の負担は増大するものです。他の従業員よりも頑張っているのに、なかなか評価されないといった不満が蓄積することで、離職のきっかけを生み出してしまいます。
社風が合わない
入社はしたものの、しばらく働くうちに自分の価値観と会社の方針にズレを感じてしまうケースがあります。社風が合わなければ、長く働き続けるほどストレスを感じやすく、離職の可能性は高まるでしょう。
また、本人の希望に反した人事異動が行われることで、「自分に合わない仕事を任されている」「部署の雰囲気に馴染めない」と感じ、ストレスを溜め込んでしまう場合もあります。
キャリアパスへの不安
業務そのものに対する不満はなくても、単に同じ作業だけを繰り返し、将来の成長につながる業務を任せてもらえないと感じると離職の可能性が高まります。社内におけるキャリアパスに不安を感じれば、長くこの会社に勤めても将来の展望が開けないと感じるようになり、従業員は転職を考えてしまうようになるでしょう。
人材流出が与える影響
人材流出がいったん起こってしまうと、その影響は長期にわたることもめずらしくありません。主な影響について、詳しく見ていきましょう。
従業員のモチベーションの低下
人材流出は企業にとっては、人手不足を招く要因になります。人手が必要な部署で不足が生じれば、従業員1人あたりの業務量が増え、パフォーマンスは低下するでしょう。
業種や職種によって異なりますが、一般的に経験豊富な従業員が退職すれば、次の人材を採用するまでの期間は、退職者が担っていた業務を他の従業員が担当します。業務に不慣れだったり、すでに多くの業務を抱えている状態であったりすれば、全体のパフォーマンスは下がるでしょう。
そして、過度な業務負担から新たな退職者を生むという、負のスパイラルが発生しやすくなる恐れがあります。
(参照元:『【1分で解説】モチベーションアップには何が必要?従業員のモチベーションを上げる5つの方法』)
顧客やノウハウの流出
人材が流出することで、その従業員に紐づいていた顧客を失い、業務のノウハウが外部に流出してしまう可能性があります。業種や職種にもよりますが、長年にわたって業務に貢献してきた従業員が退職すれば、信頼関係で成り立っていた顧客が離れてしまう要因にもなるでしょう。
退職するかどうかは従業員の判断ですが、企業にとって顧客の喪失やノウハウの流出を招くことは大きなリスクとなる場合があります。
採用コストの増加
退職者が出れば、人手不足を補うために新たな人手を募る必要がありますが、タイミングよく見つかるとは限りません。新たな人材を採用するコストがかかるため、企業にとっても負担となります。
また、人材が見つかるまでは既存の従業員で業務の穴埋めを行わなければならず、残業や休日出勤が増えて労働環境が悪化する懸念もあります。
企業イメージの低下
退職者が多い企業に対して、社会的な反応としてはマイナスのイメージを持たれるものでしょう。企業イメージの低下は、採用活動や販売活動にも少なからず影響を与えるものであり、組織として体力を徐々に削っていくものでもあります。
逆にいえば、退職者が少ない企業に対してはよいイメージが生まれる傾向にあるので、抜本的に離職を防ぐ仕組みや対策に取り組む必要があります。
人材流出の防止策
結局のところ、人材流出は企業にとって何もプラスにならないため、必要な防止策を早期に講じる必要があります。具体的な防止策としては、次のものがあげられます。
<人材流出の6つの防止策>
・人事評価制度の見直し
・待遇改善を図る
・適切に労働時間をコントロールする
・社内でのコミュニケーションの場を増やす
・様々な働き方に対応する
・成長につながるきっかけを作る
それぞれの施策のポイントを解説します。
人事評価制度の見直し
与えられている業務に対して、適切な評価をされていないと従業員が感じればモチベーションの低下につながります。
誤った基準で評価を続けていれば、昇給や昇格などにも支障が出てしまい、他の従業員にも悪影響が及びます。例えば、業務への貢献度が低い従業員が昇格すれば、他の従業員は不満を感じて離職につながるケースあり得るでしょう。
同じ職場で働く従業員が不公平感を抱かない人事評価制度を構築することは、経営課題の一環として捉える必要があります。
新たな人事評価制度を導入するときのポイントとして、次の3つがあげられます。
<公平な人事評価制度を構築する3つのポイント>
・客観的な評価システムを採用する
・適切な人物に評価を任せる
・管理職向けの研修を定期的に行う
まず公平な評価システムを構築するには、客観的な評価基準で運用する仕組みを整える必要があります。営業成績など数値化できる貢献度だけで評価するのではなく、取り組みに対する定性的な評価も取り入れていくことが大事です。
次に、評価を行う人選にも気を配る必要があります。多くの従業員から信頼される人物を評価担当者に選び、丁寧なコミュニケーションを通じて評価を行っていく体制を整えてみましょう。
そして、管理職向けの研修を定期的に行い、評価スキルを高めると共に課題点の洗い出しにも努めていく必要があります。適正な評価を組織全体で行えれば、従業員が前向きに業務へ取り組めるようになり、結果として管理職の負担も軽減できるはずです。
中長期的な組織の人材戦略として、人事評価制度の見直しに取り組んでみてください。
待遇改善を図る
従業員の不満を取り除くには、給与や福利厚生などの面での見直しと改善も必要です。それぞれの能力に見合った給与水準を定め、長く勤めることでどのようなインセンティブを得られるのかを明示しましょう。
また、非正規雇用の従業員に対して、正規雇用の従業員と同じ福利厚生サービスを提供したり、正規雇用に転換する機会を与えたりすることも重要です。全体的なバランスを考えて、待遇改善に取り組んでみましょう。
適切に労働時間をコントロールする
給与面などに不満がなかったとしても、残業が多かったり、休日出勤などがたびたびあったりすれば離職率を高める要因になります。そのため、従業員の労働時間を適切にコントロールすることが重要です。
特に、昨今はリモートワークの普及もあり、職種によっては社外で業務に取り組む機会も増えています。あらかじめ勤怠管理のチェック体制を整えていなければ、知らず知らずのうちに従業員に過大な業務負担を強いてしまいかねないので注意が必要です。
残業時間を減らすために、業務の見直しを行ったり、個別面談を実施したりするなどして労働時間の把握と改善に努めてみましょう。
社内でのコミュニケーションの場を増やす
業務に関する悩みを気軽に相談できる職場であれば、従業員がストレスを溜めにくい雰囲気が生まれてきます。従業員同士がコミュニケーションを取りやすいように、職場にコミュニケーションスペースを設けたり、社内SNSを活用してみたりするとよいでしょう。
リモートワークで働く従業員が多ければ、出社する同僚とコミュニケーションを取る機会が減りがちなので、企業としてはできるだけ交流が生まれやすい場を設けることが大切です。
社内勉強会や研修などを通じて、他部署・他部門で働く人たちとも交流できる機会も作ってみましょう。
様々な働き方に対応する
働き方に対する価値観の変化や、多様な属性を持つ人材の受け入れなどの影響によって、一律の働き方を強制するのはかえって業務を非効率化する恐れがあります。そのため、従業員一人ひとりのニーズに合わせた働き方を推進していくのも、離職防止につながる施策の一つだといえるでしょう。
「できるだけ残業をして、たくさん稼ぎたい」「リモートワークを中心にして、ワークライフバランスを大事にしたい」など、人によって働くことへの価値観はさまざまなため、個別の考えを柔軟に取り入れた勤務体制を整えることが必要です。
また、スキルアップのために前向きな目的で副業をしたい従業員がいれば、業務に支障がない範囲で認めてあげることもモチベーションアップにつながるでしょう。
成長につながるきっかけを作る
給与や働き方に不満がなかったとしても、将来のキャリアアップにつながらない職場だと感じれば、離職を検討する従業員も出てくるものです。離職を未然に防ぐために、1on1ミーティングを通じて、個々の従業員と上司がコミュニケーションを図る機会を設け、一緒になってキャリアパスを考えていく時間を作ってみましょう。
企業が掲げる目標と、従業員が求める目標の方向性が一致すれば、やりがいを持って業務に励んでくれるはずです。また、企業が自分のキャリアについて真剣に考えてくれているとわかれば、長く働きたいという気持ちも湧いてくるでしょう。
日頃からコミュニケーションを円滑にして、信頼関係を構築することが、従業員の成長につながるきっかけ作りとなります。企業にとっても中長期的な成長につなげていけるでしょう。
人材流出(離職)防止の企業事例
人材流出を防ぐには、具体的な取り組みによって離職率を改善させた企業の事例から学ぶのが効果的です。ここでは、2社の事例を紹介します。
SNSによる離職率改善|株式会社ベーシック
Webマーケティングツールなどを提供している株式会社ベーシックでは、従業員が個人のSNSアカウントを取得し、全社的に発信を行うといった取り組みを行っています。きっかけとして、サービス名と社名が結びついておらず、認知度が低かったことから採用活動にも影響が出ていた背景がありました。
入社後に「カルチャーにマッチしなかった」という理由で退職するケースもあり、採用の応募数と従業員の定着率という2つの課題を抱えていたといえます。そこで、情報の拡散性が高いTwitterに注目をして、自社の理念やカルチャーに関する情報を発信し続けました。
その結果、自社のカルチャーに賛同する人からの応募が増え、内定承諾率の改善などにつながりました。
(参照:『採用広報の決定版。社員のフォロワー数は合算6万人、内定承諾率と離職率を大幅改善するSNS活用法』)
研修制度見直しによる離職率改善|株式会社串カツ田中
外食サービス大手の株式会社串カツ田中では、離職率の改善が大きな経営課題となっており、「研修制度の見直しと構築」「従業員エンゲージメントの向上」を柱とした改善策を実行しました。具体的には、研修センターを立ち上げてスキルアップにつながるための研修プログラムを充実させることで、離職率の低下につなげました。
質の高いサービスを提供できるスキルを身につけることにより、業務に対する働きがいを感じるようになり、従業員エンゲージメントが向上したことも、離職率の改善にプラスになったといえます。
(参照:『串カツ田中、離職率大幅改善。社員エンゲージメント向上に秘訣あり』)
まとめ
人材流出が起これば、優秀な従業員を失うだけでなく、他の従業員のモチベーションも下がり、業務全体のパフォーマンスも低下していきます。早期に必要な対策を講じなければ、さらに状況が悪化する恐れがあるため、人事評価制度の見直しや待遇改善、柔軟な働き方を取り入れるなど具体的な行動を起こす必要があります。
日本においては労働人口の減少によって、新たな人材を確保することが多くの業界で難しい状況です。また、限られた人材を競合他社とも奪い合わなければならず、人材戦略そのものが企業の将来性を左右する経営課題の一つだといえるでしょう。
人材が定着しやすい環境を整え、離職率をできるだけ下げる取り組みは、中長期的に見れば企業の成長につながっていきます。現場の従業員や責任者の意見も聞きながら、すべての従業員にとって働きやすい労働環境を構築してみましょう。
(制作協力/株式会社アクロスソリューションズ、編集/d’s JOURNAL編集部)
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