退職連鎖とは?発生する5つの原因・離職への対応策を解説
d’s JOURNAL編集部
企業が競争力を保つためには、人材採用に力を入れるだけでなく、人材の流出を防ぐことにも目を向ける必要があります。従業員が離職に至る原因にはさまざまなものがありますが、特に大きなダメージにつながりやすいのが「退職連鎖」です。
この記事では、退職連鎖が起こる原因や企業・組織への影響、予防するための対応策について見ていきましょう。
退職連鎖とは
退職連鎖とは、文字通り1人の従業員の退職によって、その他の従業員も連鎖的に退職していってしまう現象のことです。企業を支える従業員が次々に辞めてしまうと、企業の運用にも多大な影響が及び、経営に大きなダメージを与えます。
最悪の場合は、退職連鎖が引き金となって経営が困難になり、倒産に至ってしまう可能性もないわけではありません。そのため、企業の経営層や人事担当は、退職連鎖が起こらないように十分な対策を講じておく必要があります。
退職連鎖が起こる原因
退職に至るケースにはさまざまな理由があるため、1人の従業員が辞めたというだけでは、一概に企業や組織に問題があると判断することはできません。しかし、退職連鎖が起こるときには、企業や組織が何らかの問題を抱えていると考えるほうが自然です。
ここでは、退職連鎖が起こってしまう原因を5つに分けて見ていきましょう。
人望のある管理職やエース社員の退職
退職連鎖が起こる主要な原因として、「エース級の従業員の離職」があげられます。影響力の大きなエース従業員や職場のキーマンが辞めることで、周囲の大きな不安や動揺を与えてしまう現象であり、「蟻の一穴型」とも呼ばれています。
たとえば、キャリア形成のお手本となっていた従業員が辞めれば、周囲のメンバーも「この会社に未来はない」と考えて、後を追うように辞めてしまうといったパターンです。また、多くの従業員から慕われていたキーマンが退職した場合には、残された従業員のモチベーションを大きく低下させてしまうでしょう。
尊敬する上司や先輩の退職をきっかけに、目標を見失って退職につながってしまうケースはめずらしくありません。
(参考:『優秀な人が会社をやめる5つの原因とは?優れた人材を残すために企業ができること』)
労働条件に対する不満
もう一つのパターンは、1人の退職をきっかけに、元から存在していた不満や疑問が噴出してしまうというケースです。これには、「給与の水準が低い」「事実上有給休暇を自由に取れない」といった労働環境における問題点が関係しています。
労働条件や将来に対する不満がある状態で同僚が退職すると、「自分も早めに転職したほうがいいだろうか」と自身のことを振り返るきっかけになり、行動的な従業員から順に退職へと動き始めてしまいます。特に、高圧的で自由に意見を主張しにくい組織体制では、日ごろからなかなか不満が表出されないだけに、退職連鎖が起こりやすいといえるでしょう。
当然ながら、上司によるパワハラが横行している場合も、退職連鎖の原因となります。
労働環境への不満
退職連鎖につながる原因として、労働環境への不満があげられます。たとえば、慢性的な人手不足が続いているにもかかわらず新たな人材を採用しないなど、会社の経営方針に対する疑問が広がっている場合は、連鎖的な退職につながる可能性が高くなります。
この場合、問題そのものというよりも、課題を抱えていてもなかなか改善されない状況によって、将来性を悲観してしまうケースが多いです。
退職による人手不足
退職連鎖には、1人の退職によって人手不足が進み、周囲の負担が過剰になることで新たな退職を生み出してしまうというパターンも多いです。いわゆる「ドミノ倒し型」と呼ばれる現象であり、特に人員に余裕がない状態で退職が起これば、人手不足が深刻化することにより、今まで通りに仕事をまわせなくなる状況に陥る危険性もあります。
このパターンは、従業員数の少ない中小企業やベンチャー企業に多く見られるケースでもあります。少ない人員が既存の業務に追われてしまい、採用活動にも十分なリソースを割けないため、ますます組織力が低下してしまうという悪循環に陥るのです。
会社の評判の悪化
退職連鎖は、ひとたび発生するとさまざまな被害につながるのが特徴です。退職の連鎖によって人員が確保できなくなると、基本的な業務の進行にも影響が生まれ、企業の業績は悪化していきます。
「納期に間に合わない」「品質が低下する」といった状態が続けば、やがては取引先からの信用も損失してしまうでしょう。その結果、企業の評判が悪くなり、ますます人材が集まらないという負のスパイラルが形成されるのです。
近年では、求職者がSNSや口コミサイトなどで情報収集をするのが一般的であるため、悪い評判が立てば採用活動に大きなダメージをもたらします。新たな人材が集まらず、組織力が低下していく状態を止められなければ、退職の連鎖はますます続いてしまうでしょう。
退職連鎖が企業活動に与える影響
退職連鎖は企業活動にさまざまな影響を与えます。ここでは、具体的な悪影響の内容について、3つの観点から解説します。
従業員の不満が増大
退職連鎖は、比較的に近しい関係者同士で起こるのが一般的です。たとえば、ある先輩従業員が退職をした場合、お世話になっていた後輩や切磋琢磨してきた同僚などへの影響がもっとも大きいと考えられます。
つまり、退職連鎖は同じ部門内やチーム内で起こるケースが多いということです。そのため、ひとたび退職連鎖が起これば、当然ながら残された従業員に何らかの負荷がかかってしまいます。
新しい従業員を補填できるまでは、既存のメンバーでフォローしなければならないため、物理的にも精神的にも大きな負担が生まれてしまうのです。また、重要なポストや経験が必要なポジションに就く人員が辞めた場合、その穴を埋める人材を見つけるのは決して容易ではありません。
新人の育成・教育にも時間がかかってしまうため、メンターを担当する先輩従業員や直属の上司の負担は、特に大きくなってしまいます。その結果、従業員の不満が増大し、さらなる退職連鎖につながってしまうのです。
企業イメージの悪化
退職連鎖は企業イメージを低下させる要因にもなり得ます。同業他社に転職した元従業員が自社の労働環境の悪さについて言及したり、家族や知人にマイナスイメージを根付かせたりして、知らず知らずのうちに評判が悪くなってしまうのです。
地元に根付いた中小企業などであれば、地域の評判が悪くなることで、大きなダメージを被ってしまうでしょう。また、近年では退職者の投稿による求職者向けの口コミサイトも普及しているため、トラブルなどで退職した従業員がいれば、悪評が広がってしまうリスクもあります。
その結果、採用活動に大きな影響が出てしまうケースも考えられます。
業績へのマイナス影響
重要なポジションに就く人材が流出すれば、組織としてのパフォーマンスが大きく低下するため、生産性も悪化していきます。さらに、企業イメージ悪化により、顧客や取引先が離脱する可能性も出てきます。
その結果、業績の悪化につながるのがもっとも大きな影響といってもよいでしょう。また、退職による穴を補うため新規採用を続けていると、採用コストの増大により支出も膨らんでしまいます。
売上の低下とコストの増加という両方向の悪影響によって、業績が著しく低下してしまうケースもあり、最悪の場合は倒産に至る可能性も考えられるのです。「1人辞めてもまたすぐに採用すればいい」と考えていると、退職連鎖によって取り返しのつかないダメージを負ってしまうこともあるため、安易な考えは禁物といえます。
退職連鎖への対応策
退職連鎖を防ぐためには、企業としてどのような取り組みを進めるべきなのでしょうか。ここでは、具体的なポイントとして4つの施策をご紹介します。
労働条件や労働環境の改善
まずは、連鎖を引き起こす最初の退職を防ぐために、基本的な環境整備に力を入れる必要があります。たとえば、過度な残業・休日出勤が常態化している場合は、まず労働環境を改善して、ワークライフバランスが保たれるようにすることが基本です。
労働条件・労働環境の改善については、次のような項目に目を向けて、問題ないかどうかをチェックするとよいでしょう。
・労働時間、労働日数
・給与、手当
・待遇
・基本業務の内容
・各人員の業務負荷
・納期、プレッシャー
・人事評価の公平性、透明性
・キャリア形成、キャリアサポート
・人間関係
ロールモデルとなる人材の定着
連鎖的な退職を防ぐためには、キーマンのエンゲージメントを高めることも大切です。自社にとって影響力の大きな従業員に対しては、日ごろから前向きなキャリア形成が行えるようなサポートを行い、ロールモデルとして活躍してもらうのがポイントです。
それには、役職に見合った仕事を与えて、公正・公平に評価する体制を築くなどの地道な取り組みが求められます。キーマンが前向きに活躍してくれれば、周囲の従業員にとって理想的なお手本となるため、定着率は自然と向上していくでしょう。
また、キーマンがキャリア形成に成功すれば、自身の体験を通じて部下や後輩にもよい影響をもたらしていきます。退職を検討している従業員がいれば、フォローアップして導いてくれるため、退職連鎖を食い止める存在となるのです。
管理職の意識改革に取り組む
退職連鎖を未然に防ぐには、現場を率いる管理職やリーダー層の意識改革を行うことも重要です。管理職が退職連鎖の危機感を持っていない場合、1人の従業員の退職による影響を軽視してしまい、引き止められなくなってから初めて事態の重大さに気づくというケースも考えられます。
そのため、管理職向けに研修・教育の場を拡充し、マネジメントスキルや定着率を高めるための取り組みについて学んでもらうことも大切です。
社内コミュニケーションを活性化させる
これまであげられた施策を実現するうえでは、何よりも社内の円滑なコミュニケーションが土台となります。コミュニケーションが充実していれば、退職の兆しにいち早く気づき、適切なフォローを行うことも可能です。
また、そもそも社内の報告・連絡・相談がスムーズに行えていれば、業務内容や労働環境に対する不満をしっかりと吸い上げ、適切に対処することができます。何でも言い合えるような垣根のない組織づくりを行うことが、退職連鎖を防ぐ重要な近道といえるでしょう。
まとめ
1人の従業員の退職をきっかけに、次々とほかの従業員まで辞めていってしまう退職連鎖。企業にとっては、組織力を大幅に低下させるとともに、最悪の場合は倒産まで引き起こしてしまう重大なリスクといえます。
退職連鎖を防ぐためには、「コミュニケーションの充実」や「労働環境の改善」といった地道で基本的な取り組みが何よりも重要です。まずは、自社の従業員が抱えている悩みや不満に耳を傾けられるような仕組みをつくり、風通しのよい社内環境を実現しましょう。
(制作協力/株式会社アクロスソリューションズ、編集/d’s JOURNAL編集部)
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