サバティカル休暇とは?制度のメリット・デメリットと導入のポイントを解説

d’s JOURNAL編集部

一定の勤続年数がある従業員に対して、企業が独自に付与する長期休暇である、サバティカル休暇。福利厚生の一環として導入を検討しており、制度の概要やメリット、他社事例などを知りたい企業の経営者や人事担当者も多いでしょう。

この記事では、サバティカル休暇の概要やメリット・デメリット、導入する際のポイントなどを解説します。国内外の企業事例も紹介していますので、制度設計の参考にしてください。

サバティカル休暇とはどういった制度?

サバティカル休暇とは、一定の勤続年数(企業が定めた勤続年数)のある従業員に対して与えられる長期休暇のこと。福利厚生の一環として、企業が独自に定めることができる「特別休暇」の一つです。休暇期間は「1カ月」~「1年」程度が一般的ですが、中には「2年以上」の休暇取得を認めている企業もあります。

1880年に米ハーバード大学で導入された研究目的での有給休暇制度が起源とされ、1990年代になると離職防止策として欧州企業で広まりました。日本では、各大学において教職員を対象としたサバティカル休暇の導入が進んでいます。

また近年では、サバティカル休暇を導入する日本企業が徐々に増加。従業員の行動変容のきっかけづくりとなる特別休暇として、関心が高まっています。

(参考:『特別休暇の定め方―どんな条件で何日取得可能?就業規則は?|申請書フォーマット付』)
(参考:内閣府男女共同参画局『男女共同参画白書令和5年版 コラム6 休み方考察~サバティカル休暇』)
(参考:厚生労働省『特別休暇制度導入事例集2020 病気休暇、裁判員休暇、ボランティア休暇等の特別休暇の導入に向けて』)

サバティカル休暇を導入することで得られるメリット

サバティカル休暇を導入することにより、以下のメリットが得られます。

■サバティカル休暇を導入するメリット
・従業員の自己研鑽(けんさん)やスキル習得の機会になる
・まとまった休暇により従業員のメンタルケアにつながる
・福利厚生の充実した企業として、対外的に良い印象をもたらせる
・組織として業務の引き継ぎや棚卸しなど標準化が図れる

それぞれについて、見ていきましょう。

従業員の自己研鑽やスキル習得の機会になる

サバティカル休暇を導入すれば、通常の休日や有給だけではなかなか得られない貴重な経験を積むことができるようになります。例えば、短期間では取得・習得が困難な資格・語学・業務スキルを学べたり、大学院進学や留学、国内外でのボランティア活動などができたりするでしょう。

休職・退職せずにこうした経験を積むことは自身のキャリアを見つめ直す機会にもなるため、従業員にとって大きなメリットと言えます。また、サバティカル休暇中に向上した能力やスキルなどが復帰後の業務に活かされることにより、業務の質向上やイノベーションの創出が期待できるため、企業にとってもメリットが大きいでしょう。

まとまった休暇により従業員のメンタルケアにつながる

サバティカル休暇がない企業では、「通常の休日や有給だけでは、ストレスや疲れを完全には解消しきれない」と感じている人も多いでしょう。

サバティカル休暇を導入すれば、一定の勤続年数がある従業員は長期休暇を取得できます。まとまった休暇を取得することにより、心身ともにリフレッシュでき、従業員のメンタルケアにつながるでしょう。その結果、サバティカル休暇明けには万全な状態で業務に取り組むことができます。特にサービス業のように休暇が不規則になりやすい企業の場合、効果はより顕著です。

業務から完全に離れてリフレッシュすることにより、新たな気づき・アイデアを得られるケースもあります。サバティカル休暇中に生まれた気づき・アイデアを復帰後の業務に活かせれば、業務改善や新規事業創出といった良い影響が自社にもたらされるでしょう。

福利厚生の充実した企業として、対外的に良い印象をもたらせる

日本社会全体で見ると、サバティカル休暇を導入している企業はまだまだ少ないのが現状です。「長期休暇はなかなか取得できるものではない」と考えている人が圧倒的に多いでしょう。

そうした状況にあるため、「サバティカル休暇を導入している」ということを社外にアピールできれば、「福利厚生の充実した企業である」と認識され、企業イメージが良くなります。「長期休暇を取得しやすい企業」「従業員のワークライフバランスを尊重している企業」といった好印象が対外的に浸透すれば、求人への応募が増え、人材の確保もしやすくなるでしょう。

組織として業務の引き継ぎや棚卸しなど標準化が図れる

後ほど紹介するデメリットと表裏一体ではありますが、組織として業務標準化を図れる点もメリットです。

サバティカル休暇では、一定の勤続年数がある従業員が長期にわたり職場から離れることになります。そのため、組織として業務を滞りなく進められるよう、休暇取得に先立ち、業務の引き継ぎや棚卸しなどが行われるのが一般的です。「属人化解消の好機」として捉え、業務の引き継ぎ・棚卸しを日常的に行えるようになれば、業務の標準化・効率化を推進できます。

業務の標準化が進めば、組織全体として「自分にしかできない仕事なので、休暇を取得しにくい」という状況が解消されるため、休暇を取得しない従業員にとってもメリットとなるでしょう。

また、上述の4つのメリットが相まって、従業員エンゲージメントや定着率の向上も期待できます。

サバティカル休暇導入で考えられるデメリット

サバティカル休暇は企業・従業員の双方にとってさまざまなメリットがある一方で、導入にあたっては、懸念点もあります。具体的には、「従業員の収入減少」や「現場の混乱」「復帰時における環境への適応困難」などのデメリットが想定されます。

従業員の収入減少の可能性がある

海外ではサバティカル休暇取得中の手当支給を制度化している国もありますが、日本では現状、そのような制度を国として設けてはいません。そのため、各企業がどのように休暇制度を設計するかにもよりますが、休暇中は従業員の収入が減少する可能性があります。

一見すると、企業にとっては「人件費の一時的な削減」というメリットがあるように感じられるかもしれません。しかし、手当を一切支給しないとなると、サバティカル休暇の取得が社内に浸透せず、ただ制度を新設しただけで終わってしまう可能性があるため、慎重な検討が必要です。

長期勤続者の休暇により現場に混乱が生じる可能性がある

先ほどメリットとして紹介したことの裏返しではありますが、サバティカル休暇を取得する従業員が担っていた業務をそれ以外の従業員に振り分ける必要があります。業務の引き継ぎや棚卸しなどによる業務標準化が行われなかったり、不十分だったりした場合には、現場に混乱が生じるでしょう。

その結果、「サバティカル休暇を取得していない従業員から不満の声が上がる」「長期休暇の取得は周囲の迷惑であるという風潮を生む」「退職者が増える」といった事態を引き起こす可能性があります。

また、サバティカル休暇を取得する従業員の業務内容・業務量によっては、業務の引き継ぎや棚卸しだけでは対策として不十分なケースも考えられるでしょう。

福利厚生としてサバティカル休暇を導入するには?

福利厚生の一環としてサバティカル休暇を導入する際には、どのようなことに注意する必要があるのでしょうか。導入時のポイントを紹介します。

休暇制度を利用しやすい環境をつくる

サバティカル休暇を導入する際、とても重要なのが、休暇制度を利用しやすい環境づくりです。企業によっては、「業種や業態の特性上、まとまった休暇の取得が難しい」「現行の休暇制度に課題があり、長期休暇を取得できる状況にない」といったケースも考えられます。そのため、「代替要員をいかに確保するのか(他部署からの人事異動、派遣社員の受け入れなど)」「休暇を促すために、休暇制度をどう改善すべきか」などを検討する必要があります。

「休暇中、現場が混乱してしまうのでは」との考えから、サバティカル休暇の取得をためらう従業員もいるかもしれません。「休暇取得前に、業務の引き継ぎや棚卸しをする」「休暇に先立ち、部署全体の業務分担を見直す」といったことを制度化し、現場の混乱を防ぐことも重要です。

また、導入する企業は徐々に増えてきているとはいえ、日本ではサバティカル休暇そのものへの認知があまり進んでいません。そのため、全従業員を対象に、サバティカル休暇とはどのようなものかをわかりやすく説明したり、一定の勤続年数がある従業員は誰でも平等に取得できるものであることを伝えたりすることも大切です。制度への理解が進めば、「サバティカル休暇は積極的に取得してよいもの」という風潮になるでしょう。

休暇中の手当の有無を検討する

先ほどデメリットとして紹介したように、サバティカル休暇を取得する従業員の収入減少が想定されます。「サバティカル休暇の利用促進」と「人件費の確保」という2つの観点から、手当の支給有無や支給する場合のルールを決めましょう。具体的には、「支給額をどのように算出するのか」「支給期間をいつまでとするか」「サバティカル休暇の導入に伴い、報酬体系などを見直す必要があるか」などを検討することが重要です。

なお、休暇の取得目的(スキルアップ、リフレッシュなど)に応じて手当の支給有無を定めている企業や、有給休暇と組み合わせることにより休暇中の給与受け取りを可能としている企業もあります。他社事例も参考にしながら、休暇中の手当支給に関するルールを定めるとよいでしょう。

サバティカル休暇をどう活用するかの指針を作成する

日本には現状、サバティカル休暇に関する法的な定めがないため、休暇の取得目的を定めるかどうかは企業の任意です。ただし、「まとまった休暇をこれまで取得したことがなく、長期休暇の取得になんとなく抵抗がある」と感じる人は少なくないため、サバティカル休暇の取得目的を定めることによって、休暇取得が進む可能性があります。「企業として、こういった目的(スキルアップ、リフレッシュなど)で制度を活用してもらいたい」という指針を作成し、社内に周知するとよいでしょう。

なお、取得目的を限定する場合には、「取得申請書に、申請理由の記入欄を設ける」「休暇取得前の面談で、取得目的をヒアリングする」「取得目的によっては、復帰時にレポート提出を義務付ける」などの対応が必要です。

復帰時のフォロー体制を整備する

先ほどデメリットとして紹介したように、サバティカル休暇を取得した従業員が職場に復帰した際になかなか環境に適応できないという状況が想定されます。復帰後にスムーズに業務に就けるよう、フォロー体制を整備しましょう。なお、フォロー体制の整備が不十分だった場合、サバティカル休暇を取得した従業員の離職リスクを高めることになりかねないため、注意が必要です。

復帰時のフォロー体制の具体例としては、「休暇の取得前後に、上長や人事担当者と面談の機会を設ける」「休暇取得前と同じ業務を担当できるようにする」「代わりに業務を担当していたメンバーが、業務状況や変更点を引継ぐ」などがあります。

サバティカル休暇は国内外でどのように利用されているのか

実際、サバティカル休暇は国内外でどのように活用されているのでしょうか。日本企業の導入事例や海外における活用状況などを紹介します。

国内企業の場合

日本国内では、大手企業を中心にサバティカル休暇が活用されています。

LINEヤフー株式会社では、従業員が自らのキャリアや経験、働き方を見つめ直し、さらなる成長につなげることを目的に「サバティカル休暇」を導入。勤続10年以上の正社員は、2~3カ月の範囲での長期休暇を取得できます。なお、休暇期間のうち一定期間については、会社が支援金を支給しています。

ソニーグループでは、従業員の多様性のあるキャリアを支援することを目的に、「フレキシブルキャリア休職制度」という名のサバティカル休暇を導入。配偶者の海外赴任・留学に同行し、知見や語学・コミュニケーション能力の向上を図る場合、最長5年の休職が可能です。また、専門性の深化・拡大を目的に私費で就学する場合は、最長で2年休職できます。

(参考:LINEヤフー株式会社『採用情報|働く環境』)
(参考:ソニーグループポータル『採用情報|多様性を推進する取り組み』)

海外企業の場合

海外に目を向けると、政府主導で休暇制度の導入が進んでいる国もあります。

スウェーデンでは、2002年からの試験的導入(地域限定)を踏まえて、2005年1月から全国でサバティカル休暇制度の適用を開始。無期雇用契約の労働者は、手当を受給しながら、最長1年間の休暇を取得できます。その間、企業は代替要員を雇い入れる形となっています。

フランスでは、使途に制限がないサバティカル休暇制度を導入。「勤務する企業における勤務年数が3年以上であり、かつ通算の勤務年数が6年以上であること、また過去6年間に当該企業において同制度を利用していないこと」が取得条件です。この条件を満たす労働者は、6~11カ月の休暇を取得できます。

(参考:独立行政法人労働政策研究・研修機構『調査研究成果|海外労働情報|国別労働トピック|2005年|3月|スウェーデン サバティカル休暇制度の導入』)
(参考:内閣府『「カエル!ジャパン」通信|第10号 平成22年07月30配信|≪取組・施策紹介 Vol.5≫「フランスと日本の休暇制度」』)
(参考:独立行政法人労働政策研究・研修機構『日本労働研究雑誌 2005年7月号(No.540)|欧州における長期休暇制度―ワーク・ライフ・バランス政策の試み―』)

まとめ

サバティカル休暇を導入することにより、「自己研鑽・スキル習得の機会になる」「従業員のメンタルケアにつながる」などのメリットが期待できます。一方で、「従業員の収入減少」や「現場の混乱」「復帰時における環境への適応困難」が懸念されるため、対策を講じることが大切です。

「休暇制度を利用しやすい環境をつくる」「復帰時のフォロー体制を整備する」といったポイントを押さえながらサバティカル休暇を導入し、従業員エンゲージメントや定着率の向上につなげましょう。

(企画・編集/d’s JOURNAL編集部、制作協力/株式会社mojiwows

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