インクルージョンとは?ダイバーシティとの違い・導入事例を紹介
d’s JOURNAL編集部
インクルージョンとは、さまざまな人材の特性が活かされた形で企業活動が行われている状態を意味する言葉です。ダイバーシティと一体となって取り組むものとして、ビジネスシーンでは捉えられています。
ダイバーシティが人材の多様化による自社の競争力を高めることを志向するのに対して、インクルージョンでは従業員個人の力を最大限に発揮させることを目的としている点に違いがあります。
この記事では、インクルージョンの基本的な意味や各企業で取り入れられている背景、ダイバーシティとの違いなどを解説するため、インクルージョンを深く理解するための参考にしてください。
インクルージョンとは
インクルージョンについて正しく理解を深めるには、言葉の定義や求められている背景などを把握しておく必要があります。ここでは、インクルージョンの定義やダイバーシティとの違いなどについて解説します。
インクルージョンの定義
インクルージョンは、「包括」「一体性」などを意味する言葉であり、ビジネスシーンにおいてはさまざまな人材が個人の特性を発揮して業務に取り組んでいる状態のことを意味します。
インクルージョンが対象としているのは人の属性です。企業活動においては従業員という立場であっても、個人として見たときには性別や年齢、国籍など多くの属性を備えています。
企業が人材の多様性を重視しているのは、企業活動そのものが数多くの顧客とかかわる機会となり、単一的な価値観だけに縛られていては事業そのものに支障が出る場合があるからです。
多様な人材がお互いの個性を認め合い、一体感を持って働ける環境を整えることがインクルージョンの目的として挙げられます。
インクルージョンが広まっている背景
インクルージョンという考え方が広がっている背景には、ソーシャル・エクスクルージョン(社会的排除)が問題になった点が挙げられます。1970~80年代のヨーロッパにおいて、格差や差別などが原因で、本来誰もが受けられるはずのサービスや権利を特定の人は受けられないことが社会的な課題としてありました。
こうした課題を解決するために、誰もが社会参加できる機会を得るソーシャル・インクルージョン(社会的包摂)という考え方が広まっていきました。その後、ビジネスや教育の分野においてもインクルージョンの考え方が広がっていった背景があります。
また、産業構造において第三次産業であるサービス業の比率が高まったことも背景としてあります。顧客から好まれるサービスは時代によって変化が激しく、単一的な考え方だけではうまく対応できない部分があるでしょう。
そのため、企業は同業他社との競争に打ち勝っていく手段として、多様な人材を受け入れて個々の人材の特性を活かすことに力を入れています。変化する市場環境にあわせた取り組みであるともいえます。
ダイバーシティとの違い
ダイバーシティとは、多様な背景を持つ人材が組織のなかにいる状態のことを意味します。一方で、インクルージョンは集まった多様な人材の一人ひとりがそれぞれの特性を発揮し、組織内での交流が生まれることで相乗効果を生み出している状態です。
多様な人材を採用するだけでは、組織そのものが活性化するきっかけにはつながりにくい部分があります。たとえば女性の管理職比率を高めるために施策を実行したとしても、管理職に必要なスキルを考慮しないまま登用しても、あまり目立った効果は得られないでしょう。
個々の特性をよく捉えずに昇格をさせても、結果として本人や部下にも大きなストレスが生じてしまうことがあるため、企業はダイバーシティを追い求めるだけでなく、従業員自身の個性をきちんと理解したうえで環境整備や経営にあたっていく必要があります。
人材をどうすれば活かすことができるかを追求していくのがインクルージョンであり、ダイバーシティ経営が目指す多様性の実現化のゴールにあたる部分であるともいえます。
(参考:『ダイバーシティーとは何をすること?意味と推進方法-企業の取り組み事例を交えて解説-』)
インクルージョンを導入するメリット・デメリット
インクルージョンの考えに基づいた経営を行っていくことは、多くのメリットが得られる一方で、少なからずデメリットも生じます。導入にあたって、どのような影響があるのかを見ていきましょう。
インクルージョンのメリット
インクルージョンを導入するメリットとして、まず従業員エンゲージメントの向上が挙げられます。多様な人材を組織に受け入れ、それぞれの特性を活かすという企業の姿勢は従業員の意欲を引き出すことにつながり、生産性を高めることとなるでしょう。
また、さまざまな人が活躍できる職場であれば、職場そのものの魅力も増していきます。従業員同士の交流が刺激を生み出し、離職率の改善につながることが期待できます。
さらに、インクルージョンを取り入れている企業には数多くの人材が集まりやすいため、人材獲得における優位性を保つことが可能です。労働人口の減少によって人材確保が難しくなっている状況下では、競合他社との差別化を図るために採用面においても、独自の取り組みを行っていく必要があります。
多様な働き方や個性を活かせる職場環境といった部分は、応募者にとって魅力的に感じる部分があるといえます。
インクルージョンのデメリット
インクルージョンを導入することで、これまでのやり方を大きく変えなければならない場面もあるため注意が必要です。社歴が長く、人材の属性が単一的であった企業ほど、新たな属性を受け入れるのに抵抗を感じやすい傾向にあります。
導入してからしばらくは既存社員からの反発や感情的なしこりが生じる可能性があるため、慎重に進めていくことが大事です。いきなり変えようとすれば無用な反発を招く恐れがあるため、段階を追って徐々に定着させていく工夫が必要だといえます。
そのためには、人材活用における新たなルールづくりと環境整備が重要になってくるでしょう。どのようなルールを策定し、社内に浸透させていくのかを具体的なスケジュールも含めて決めていかなければなりません。
多くの手間や時間が必要になる部分もあるため、従業員の理解を得ながら進めていくことが大切です。加えて、制度を導入してからもアンケート調査などを行い、社内においてインクルージョンがどこまで浸透しているのかを定期的にチェックしていくことが必要です。
企業側が一方的に推し進めようとするのではなく、現場の従業員の声も取り入れながら多くの人に受け入れられる仕組みづくりを行っていきましょう。
インクルージョンを導入するときの注意点
インクルージョンを具体的に取り入れていくためには、年齢・性別・人種・障害の有無・思想信条・働き方などの多様性を理解しておく必要があります。特定の要素だけにとらわれず、幅広い概念として受け止めることが大切です。
また、インクルージョンを推進していくには、女性活躍推進法や高年齢者雇用安定法、次世代育成支援対策推進法など、関連する法律への理解が欠かせません。国も働き方改革や副業・兼業の促進など、さまざまな取り組みを行っているため、行政機関の動向などもチェックしておきましょう。
さらに、インクルージョンはひとつの部署が取り組むものではなく、会社全体として取り組んでいく姿勢を示すことが重要です。導入したからといってすぐに効果が出てくるものではないため、経営計画の一環として中長期的な取り組みを進めていく必要があります。
そのため、経営層が明確なメッセージを発信し、全社的な取り組みとしてインクルージョンを社内に浸透させていくことが欠かせません。インクルージョンの導入は企業価値を高めることにつながるため、経営課題として推進していくことが大切です。
インクルージョンを導入している企業の事例
インクルージョンを効果的に浸透させていくには、すでに導入している企業の事例から学ぶことが大切です。ここでは、3社の導入事例を紹介します。
日立製作所
大手電機メーカーである日立製作所では、多様な人材の活躍を支援したり、ワーク・ライフ・マネジメントを推進したりするための専門部署を設けています。ダイバーシティ&インクルージョンの考えに基づいた経営方針の策定、具体的な活動につなげるための意見交換を半年に1回のサイクルで行っているのが特徴です。
また、グループ各社や事業所においてもインクルージョンの取り組みを推進しており、女性活躍支援などのさまざまなプロジェクトを立ち上げています。加えて、ジェンダー平等をグループの共通課題として位置付けており、労働組合とも定期的な意見交換を行うなど積極的な活動を展開している企業です。
(参考:『ダイバーシティ&インクルージョン|日立製作所』)
LIXIL
建築材料・住宅設備機器を手がけるLIXILでは、多様性の尊重(D&I)に関する目標を「すべての人にインクルージョンを」という言葉で表現しています。自社の商品やサービスに関するものだけでなく、障害者に対する多面的な取り組みなどを反映した目標を設定しているのが特徴です。
個人の能力に応じた人材活用を推進しており、研究開発・生産・営業・企画管理などのさまざまな業務に障害のある従業員の参加を促しています。
2014年には障害者就労センターである「WING NIJI」を開設し、業務支援やキャリア診断、育成機会の提供など多岐にわたる取り組みを行っている企業です。
(参考:『多様性の尊重 | 3つの優先取り組み分野 | サステナビリティ | 株式会社LIXIL』)
インクルージョンに関するQ&A
インクルージョンに関する取り組みを進めていくには、正しい理解を深めておくことが大切です。ここでは、気になりやすいポイントを解説します。
ノーマライゼーションとの違いは?
インクルージョンとは、年齢や障害の有無といった属性にかかわらず、暮らしや権利が保障された環境を整えていく考え方を意味します。社会全体として取り組んでいく側面が強く、日本の福祉政策の基本的な理念として定着しているものです。
一方で、ノーマライゼーションは障害者を対象にした考え方であり、健常者との差異を普通のものとするように努め、社会における差別なくそうとすることを目的としています。
ノーマライゼーションは障害者が対象ですが、インクルージョンは障害者だけでなく、さまざまな個性を持つすべての人が対象である点に違いがあります。
ソーシャル・インクルージョンって何?
ソーシャル・インクルージョンは、誰にも排除されず、社会にかかわる全員が活躍する機会を得ることを意味します。国連が持続可能な開発目標(SDGs)のひとつとして掲げている「誰一人取り残さない」という理念を体現するものです。
インクルージョンという言葉は、そもそもソーシャル・インクルージョンをビジネス分野で応用したものであり、基本的な理念に違いはありません。
まとめ
インクルージョンを企業として推進していくことは、個々の従業員の能力や特性を活かすだけでなく、中長期的には企業価値そのものの向上にもつながります。
社内の多様な人材を活かすことによって、競合他社との差別化にもなり、魅力のある企業として成長していくきっかけにもなるでしょう。
従業員一人ひとりの個性を活かす職場環境は、人材確保の面でも大きな力を発揮します。導入のためのルールづくりやスケジュールをしっかりと策定し、多様な人材が活躍できる組織づくりを進めてみましょう。
(制作協力/株式会社アクロスソリューションズ、編集/d’s JOURNAL編集部)
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