レイオフの意味とは?リストラや一時帰休など類似制度との違いを解説

d’s JOURNAL編集部

従業員の一時的な解雇を意味する「レイオフ」。企業の業績悪化などにより人員整理せざるお得ない状況において、業績回復時の再雇用を前提に実施される人事施策です。近年は、海外企業によるレイオフ実施のニュースを耳にする機会も増えています。

日本企業における他の解雇との違いや日本国内での実施状況について、知りたい方もいるのではないでしょうか。この記事では、レイオフの意味やリストラなどの類似制度との違い、実施目的、日本国内における実施状況について解説します。

レイオフとは

レイオフ(layoff)とは、一時解雇を意味する言葉です。まずはレイオフの意味や特徴、海外における実施状況を見ていきましょう。

レイオフの意味とは

レイオフとは、企業が業績悪化などを理由に、従業員を一時的に解雇することを言います。日本企業における一般的な解雇とは異なり、業績が回復した場合に再雇用することを前提としているのが特徴です。

日本ではあまりなじみがありませんが、欧米では製造業を中心に雇用調整の一つとして行われています。一般的に、勤続年数の短い従業員からレイオフの対象となり、再雇用の際には勤続年数の長い従業員から優先的に選ばれる傾向があります。

海外におけるレイオフの状況

転職エージェント企業のLHHが実施した調査(英米豪加仏の500人以上の企業の人事部門約2,500人が対象)によると、77%の企業が「レイオフを検討中か、すでに実施中」と回答。海外企業では、多くの企業でレイオフが実施されていることがうかがえます。

近年日本でも話題になったのが、米Microsoftのレイオフです。米Microsoftは、2023年3月までに世界で従業員1万人を削減すると発表。解雇の対象は全従業員の5%弱に当たります。

また、米アマゾン・ドット・コムでも大規模な雇用調整が進められています。2022年秋に着手した人員削減の規模が1万8,000人を超えることを、2023年1月に明らかにしました。

(参考:LHH『Risks and Opportunities in Workforce Dynamics: 2023 Career Transition Trends Report』)

リストラなど類似制度との違い

日本では、「リストラ」や「一時帰休」などが行われています。レイオフへの理解を深めるため、これらの類似制度との違いについて見ていきましょう。

日本企業における解雇の種類

日本企業における解雇制度は、解雇の理由によって「普通解雇」「整理解雇」「懲戒解雇」の3種類に分けられます。それぞれの特徴を表にまとめました。

普通解雇 ●従業員の債務不履行を主たる理由とした解雇
●従業員の能力不足や、業務とは関係ないケガや病気で働けなくなった場合に用いられる
整理解雇 ●不況や経営不振など、企業の業績悪化に伴う人員整理のための解雇(リストラと呼ばれることも多い)
●実施するには法的に定められた要件を満たす必要がある
懲戒解雇 ●悪質な違反行為などをした従業員に制裁罰として行う解雇
●就業規則や労働契約書に懲戒解雇の要件を明記しておく必要がある

普通解雇とは、従業員自身の債務不履行を主たる理由とした解雇のこと。解雇理由としては、「傷病・健康状態の悪化による労働能力の低下」「能力不足・成績不良・適格性の欠如」「職務懈怠・勤怠不良」「職場規律違反・不正行為・業務命令違反」などが挙げられます。

整理解雇とは、人員整理のために行う解雇のこと。普通解雇や懲戒解雇とは違い、従業員側に責任がない中での解雇であるため、「不当解雇」とならないよう、法的に定められた要件を十分に検討した上で、手続きを進める必要があります。

懲戒解雇とは、悪質な違反行為などをした従業員に対し、制裁罰として行う解雇のこと。解雇予告期間を置かない即時解雇としてなされるのが一般的です。懲戒解雇は再就職にも影響する極めて重い処分であるため、処分を受けた従業員とのトラブルや訴訟に発展しやすいと考えられます。また、懲戒解雇を実施するための要件を十分に満たしていない場合、訴訟によって「無効」と判断される可能性もあるため、慎重に進めることが重要です。

(参考:『【弁護士監修】整理解雇とは?何からどう伝える?違法にならないために知っておくべきこと』『【弁護士監修】懲戒処分とは?種類と基準―どんなときに、どんな処分をすればいいのか―』)

リストラとの違い

レイオフとリストラはいずれも「整理解雇」の一種ですが、「再雇用を前提としているか」という点で違いがあります。

リストラとは、組織の再構築を目的とした人員削減のこと。解雇された従業員が企業に再雇用されることは、基本的にありません。一方、レイオフは、再雇用を前提としています。

また、レイオフとリストラとでは、目的も異なります。リストラは「人員整理」だけを目的としていますが、レイオフではそれに加えて、「他社への人材・ノウハウの流出防止」も目的とします。

一時帰休との違い

一時帰休とは、業績悪化など企業の都合によって従業員を一時的に休業させることを言います。レイオフと一時帰休との違いは、「雇用関係が継続しているか否か」です。

一時帰休は、解雇ではなく「休業」のため、従業員自ら退職しない限り、企業と従業員との間に雇用関係が継続されます。そのため、企業は従業員を休業させた日について、少なくとも平均賃金の60%以上の休業手当を支払わなければなりません(労働基準法第26条)。一方、レイオフは「解雇」であるため、再雇用されるまでの間は雇用関係が途絶えます。

レイオフと一時帰休の目的は似ていますが、一時帰休はあくまで休業であることを覚えておきましょう。

レイオフの目的

レイオフの主な目的は、次の2つです。

■レイオフの目的
●人件費削減のため
●人材やノウハウの流出を防ぐため

それぞれについて見ていきましょう。

人件費削減のため

レイオフを実施する目的の一つは、人件費の削減です。自社にとって必要な人材をつなぎ止めておきたいものの、給与を支払い続ける余裕がない場合に、レイオフが用いられます。

人件費は売上に関係なく一定額発生します。企業経営において人件費の割合は大きいため、業績が悪化している状態で人件費を工面するのは簡単なことではありません。レイオフによって人件費を削減できれば、大幅なコストカットが期待できるでしょう。

人材やノウハウの流出を防ぐため

自社に合った人材やその人が持つノウハウの流出を防ぐ目的で、レイオフを実施するケースがあります。

レイオフではなくリストラしてしまうと、専門性の高い優秀な人材は競合他社に転職してしまう可能性が高いでしょう。そうなると、人材を失うだけでなく、長年培ってきた自社の業務知識や専門スキル、経験値などのナレッジやノウハウを流出させてしまうことにもつながります。

一方、レイオフであれば、人材はもちろん、企業独自のナレッジやノウハウの流出をある程度防ぐことができます。レイオフした従業員の転職を制限することはできないものの、「会社の業績が回復したら再雇用する」と伝えておくことにより、人材・ノウハウが流出するリスクを軽減できるでしょう。また、業績回復時に新たに人材を採用するよりも、レイオフした従業員を再雇用した方が早期に戦力となるため、企業にとってのメリットが大きいです。

これらの目的から、レイオフは人材・ノウハウの流出リスクを極力下げつつ、業績改善のために一時的に組織全体として人件費を削減したい企業に適しているといえます。

(参考:『ナレッジマネジメントとは|意味や導入フロー・目的をわかりやすく解説』)

日本国内におけるレイオフの状況

人件費の削減や、人材・社内ノウハウ流出の防止を目的に実施されるレイオフですが、日本国内では実施されるケースが少ないのが現状です。

なぜ日本国内では導入されにくいのか、日本企業における解雇規制を踏まえて解説します。また、日本国内でのレイオフ実施状況として、日本企業におけるレイオフ関連事例をご紹介します。

日本で導入が進まない背景

日本にはレイオフを直接規制・明記する法律が存在しないことが、日本企業でレイオフの導入が進まない一因になっているとの見方があります。

また、日本では労働者保護の目的から、解雇を実施する際の要件が法律で定められています。そのため、業績悪化だけを理由に正規労働者を解雇することは難しいのが現状です。企業の業績悪化に伴う人員整理として実施される整理解雇では、下記の4つの要件を満たさなかった場合、不当解雇として裁判で無効と判断されるケースもあります。

■整理解雇の有効性を判断するための要件

人員削減の必要性 人員削減措置の実施が不況、経営不振などによる、企業経営上の十分な必要性に基づいていること
解雇回避の努力 配置転換、希望退職者の募集など他の手段によって解雇回避のために努力したこと
人選の合理性 整理解雇の対象者を決める基準が客観的、合理的で、その運用も公正であること
解雇手続きの妥当性 労働組合または労働者に対して、解雇の必要性とその時期、規模・方法について納得を得るために説明を行うこと

(参考:厚生労働省『労働契約の終了に関するルール』)

このように、日本では労働者を守るために解雇が厳しく制限されているため、いくら再雇用を前提としているとは言え、レイオフの実施は容易ではないと考えられます。

日本企業における関連事例

日本企業におけるレイオフ関連事例として、日産自動車の米国法人でのレイオフが記憶に新しい方もいるのではないでしょうか。2020年4月、新型コロナウイルスの感染拡大で米国での生産停止を理由に、工場に勤務する従業員のほぼ全員に当たる約1万人を一時解雇しました。同社は工場が稼働を再開すれば従業員を再雇用するとし、一時解雇された従業員は失業給付を受け取って職場復帰を待つことになりました。

また、米Googleの大規模な人員調整の波が日本に及び、レイオフへの対応が注目されています。2023年4月、同社は全世界の従業員の6%に当たる1万2,000人を削減すると発表。Google日本法人も一部の従業員を対象に「退職勧奨」を進めていると見られています。

近年の経済状況や人材の流動化などから見て、今後もこのような事例は増えてくるとの見方もあります。また、政府や有識者の間で解雇規制の緩和に関する議論も行われていることから、将来的に日本企業でもレイオフのような制度が法的に定められる可能性もあるでしょう。今後の変化に備え、レイオフへの理解を深めておくことをおすすめします。

まとめ

人件費の削減や人材流出・社内ノウハウ流出の防止を目的に実施されるレイオフですが、現状、日本国内で実施されるケースは多くありません。その背景としては、日本では労働者保護の目的で、解雇を実施する際の要件が法律で定められており、要件を満たさない場合は不当解雇となることが挙げられます。

一方で、こちらの記事でご紹介したように、日本企業においてもレイオフ関連の事例が徐々にではありますが増えてきています。リストラや一時帰休と並ぶ、企業運営の選択肢の一つとして、再雇用を前提とするレイオフへの理解を深めておくとよいでしょう。

(制作協力/株式会社mojiwows、編集/d’s JOURNAL編集部)

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