エンプロイヤーブランディングとは?注目される理由と実施の手順を解説


d’s JOURNAL編集部
人手不足にともなう人材獲得競争の激化により、企業による「エンプロイヤーブランディング」の重要性が高まっています。エンプロイヤーブランディングとは、文字通り「雇用者としてのブランディング」を意味する言葉であり、人材採用の課題をダイレクトに解決できる手法として注目されています。
この記事では、エンプロイヤーブランディングの基本的な意味や目的、実施する手順について見ていきましょう。
エンプロイヤーブランディングとは

長期化する人手不足によって、国内における人材採用の市場競争は年々激化しています。そうした環境にあって、各企業には競争力を高めるためのさまざまな取り組みが求められています。
「エンプロイヤーブランディング」は、自社の採用競争力を高めるうえで重要な考え方です。ここでは、エンプロイヤーブランディングの基本的な意味と注目されている理由について見ていきましょう。
エンプロイヤーブランディングの概要
エンプロイヤーブランディングとは、その名のとおり、雇用者(employer)のブランディングのことを指します。単に企業としてのブランド価値を高めるのではなく、「雇用者」という立場に焦点を当て、働く人にとって魅力的な企業とするための取り組み全般をエンプロイヤーブランディングと呼びます。
企業としての魅力と働く場としての魅力は、共通する部分も数多くあるものの、完全に一致するわけではありません。極端にいえば、地域や取引先から好かれている企業でも、労務環境に問題があれば働く場としての魅力は大幅に下がってしまうでしょう。
また、「ブランディング」という表現が示すように、エンプロイヤーブランディングでは魅力をハッキリと確立して発信することも重要な取り組みとなります。例えば、従業員にとって実際に働きやすい職場づくりが行われていても、その事実が外部にきちんと認識されていなければ、ブランディングが成功しているとはいえません。
このように、エンプロイヤーブランディングは従業員にとって魅力的な環境を提供しつつ、その魅力をきちんと外部にも知ってもらうための取り組みといえるでしょう。
エンプロイヤーブランディングが注目される理由
現代の人材採用は、労働力不足による人材獲得競争の激化や、採用市場のデジタル化といった目まぐるしい変化に見舞われています。国内では長らく売り手市場の状態が続いており、これまでと同じスタンスのままでは、自社が求める人材を確保するのが難しい状況となっています。
特定の部門に採用を任せきりにするだけでは、どうしても意思決定にタイムラグが生じ、対応に出遅れてしまうでしょう。会社全体として、採用競争に勝つための戦略を立て、働く場としての魅力を確立する必要性が生まれてきているのです。
さらに、デジタル化が進んだことで、求職者の情報収集力は大幅に向上しています。転職口コミサイトやSNSなどにリアルな情報が記載されるため、たとえ企業が表向きのイメージを取り繕おうとしても、実態がともなっていなければすぐに見抜かれてしまうでしょう。
実際に働く場としての魅力を向上させ、それを誠実に発信するという「一貫性のある取り組み」こそが、現代に求められる採用戦略なのです。こうした背景により、エンプロイヤーブランディングの重要性はますます高まっているといえるでしょう。
採用ブランディングとの違い
「採用ブランディング」とは、採用分野に特化して行うブランディングであり、エンプロイヤーブランディングの一部と考えることができます。外向けの発信に力を入れる採用ブランディングに対して、エンプロイヤーブランディングは社内の環境改善も含んだ幅広い考え方であるのが特徴です。
そのため、エンプロイヤーブランディングが行われる過程では、既存の従業員も労務環境の向上を実感したり、自社の取り組みに誇りを持てたりといったよい影響を受けることができます。
(参考:『採用ブランディングとは?目的や方法、メリット、進める際のポイントなどを紹介 』)
エンプロイヤーブランディングで得られるメリット

エンプロイヤーブランディングを実行することで、企業には実際にどのようなメリットがもたらされるのでしょうか。ここでは、3つのポイントに分けて見ていきましょう。
離職率の低下につなげられる
エンプロイヤーブランディングを行うには、社外へ発信するイメージと食い違いがないように、社内の環境も向上させる必要があります。待遇の改善や多様な働き方の実現を行い、実際に働く場としての魅力を高めることが第一歩となるのです。
その結果、既存の従業員にとっては自社で働くメリットがさらに大きくなるため、自然と帰属意識も高まっていくでしょう。また、社外へのエンプロイヤーブランディングが成功すれば、自社で働くことそのものが「求職者の憧れ」として捉えられるようにもなります。
社会からの評価が高まれば、実際に働く従業員も自社に対して誇りが持てるようになるため、結果として定着率の向上につながります。
(参考:『離職率とは?計算方法と従業員を定着させるためのポイントを解説 』)
採用活動の精度を高められる
エンプロイヤーブランディングのもっとも大きな効果は、採用力を高められる点にあります。求職者に対して、しっかりと自社の魅力を届けることができれば、これまで以上に多くの応募者から関心を持ってもらえるようになります。
母集団の量が大きくなれば、それだけ自社に合った人材と出会える確率も高まるため、採用活動の質も向上するのです。さらに、自社が求める人材像に合わせてブランディングを行えば、考え方や価値観においてよりマッチ度の高い求職者が集まりやすくなるという効果も期待できます。
採用にかかる費用を抑えられる
ブランディングによって自社のメッセージをきちんと発信できていれば、理念に共感した応募者が集まりやすくなります。質の高い応募者が集まることで、採用活動をスムーズに進められるため、結果的に採用にかかる費用を抑えられるのもメリットです。
また、前述のように、エンプロイヤーブランディングがきちんと行われれば、既存の従業員の定着率も向上します。離職による急な欠員補充などがなくなるため、そうした面でも採用にかかる費用の増加を防ぐことができます。
エンプロイヤーブランディングを実施する手順

エンプロイヤーブランディングは全社的な取り組みとなるため、結果次第では企業経営そのものに影響を与える可能性があります。失敗を避けるためにも、十分な準備期間を確保し、しっかりと戦略を立ててから進めなければなりません。
ここでは、具体的な実施の手順を5つのステップに分けてご紹介します。
自社が求める人材像と求職者のニーズを明確にする
採用活動では、何よりもまず採用ペルソナを設定し、自社が求める人材像を明確にすることが第一歩となります。採用ペルソナとは、自社が採用したい人材像を年齢や経歴、スキル、人柄、価値観、仕事のスタンスといった細かな部分まで具体化したモデルのことです。
エンプロイヤーブランディングでは、採用ペルソナに合わせて「どのような職場であれば魅力的に感じるのか」を追究することが重要です。特に働くことの価値観が多様化する現代では、一口に求職者といっても、仕事で何を重視するかは人によって大きく異なります。
アピールすべきポイントを外せば、自社が本当に採用したい人材への訴求力が弱まってしまうため、スタート段階で綿密な調査を行う必要があります。市場調査を行うとともに、自社の従業員にも意見を求めながら、採用ペルソナのニーズを丁寧に把握していきましょう。
採用活動における自社の立ち位置を固める
そもそも、「ブランディング」には自社の独自性を確立し、「他社との差別化を図る」という目的が存在しています。エンプロイヤーブランディングにおいても、働く場としての独自性を明確にして、他社との違いを打ち出すことが重要となります。
より具体的に言い換えれば、「他社ではなくなぜ自社で働くのか」という問いへの答えを定義する必要があるということです。採用ペルソナのニーズも踏まえながら、採用市場における自社のポジショニングを定めていきましょう。
ただし、エンプロイヤーブランドを固めるうえでは、自社が提供している製品やサービスとイメージの整合性を図る必要もあります。製品・サービスにはその企業の理念が反映されるため、エンプロイヤーブランドとの間に明らかな矛盾があれば、求職者にも違和感を与えてしまうおそれがあります。
スムーズに取り組みを進めるためにも、決して背伸びはせず、自社の実態に即したブランド価値を見出すことが大切です。
労働市場の動向や他社の動きをリサーチする
自社のポジショニングを固めるうえでは、取り巻く環境についても正しく状況把握しておかなければなりません。特に、労働市場は人に直接的に紐づく分野であるため、社会情勢に応じて細かく変化しています。
働き方改革や物価の動きにともない、求職者のニーズも大きく変化しているので、正確なリサーチが必要となります。また、競合他社の動きも細かくリサーチし、相対的な自社のイメージを明らかにすることも重要です。
自社が提供できる価値を分析する
エンプロイヤーブランドを検討するうえでは、自社が実際に提供できる価値を具体的に洗い出すことも大切です。給与や福利厚生、キャリア形成、ワークライフバランスといった幅広いテーマに目を向け、労働者にどのような価値提供を行えるのかを精査しましょう。
自社の特色や強みについては、既存の従業員にヒアリングを行うのも効果的です。実際に働いてみてどのようなやりがいを感じられているのか、何に魅力を感じてもらえているのかなどを従業員目線から分析してもらうことで、新たなヒントが見つかる可能性もあります。
ブランディング戦略を立て、実施する
自社の立ち位置や価値、市場の動きなどを明らかにしたら、その結果を踏まえて実際にブランディング戦略を立てましょう。エンプロイヤーブランディングの取り組みは、「社内向けの施策」と「社外向けの施策」の2つに大別することができます。
社内については、自社が構築したブランドイメージと実際との間にどのくらいの差があるのかを把握し、あるべき姿に近づくための戦略を固めていきます。一方、社外に対しては、採用ペルソナに合わせて適切なアプローチ計画を立て、採用チャネルや求人情報の最適化を行うことが大切です。
戦略が固まったら、実際に運用しながら定期的にデータを分析し、課題を見つけて改善を重ねていきます。ブランディング戦略では、はじめから完璧な計画を立てるのは難しいため、PDCAサイクルを回すことを前提にした制度設計も重要です。
エンプロイヤーブランディングを成功に導くポイント

最後に、エンプロイヤーブランディングを成功させるためのポイントとして、3つの基本的な注意点をご紹介します。
中長期的な取り組みとして実施する
エンプロイヤーブランディングは、社内の改革も同時に進める必要があるため、全社一体の中長期的なプランが求められます。一度計画を実行したら、簡単に方向転換を行うことはできないため、じっくりと腰を据えて一貫性のあるブランディングを行っていくことが大切です。
そのためには、焦って計画の実施に着手するのではなく、丁寧にリサーチと分析を行うことが重要となります。人事の分野だけでなく、自社の経営理念や歴史、各製品・サービスなどにも幅広く目を向けながら、働く場としてのあり方を見つめ直してみましょう。
誠実な姿勢で情報を発信する
ブランディングにおいては、発信する情報と実態に乖離があれば、かえって企業イメージを損なう危険性もあります。うわべを取り繕って、よい情報だけをアピールしようとしても、いずれは求職者に見極められてしまいます。
そればかりか、社内の従業員からも信用を失ってしまうリスクがあるので、あくまでも誠実な姿勢で情報の発信を心掛けることが大切です。競合他社や業界水準と比べて、働く場としての魅力に欠けてしまう場合でも、過度に自社をよく見せようとすべきではありません。
まずはその現状を正しく把握し、時間をかけて根本的な社内変革を行うというのが、エンプロイヤーブランディングの基本的な考え方です。
既存の従業員へのアプローチも重視する
繰り返しになりますが、エンプロイヤーブランディングは社内と社外のどちらにも目を向けて進める必要があります。人材採用というと、どうしても社外への取り組みばかりに意識が向いてしまいがちですが、社内の改革にもしっかりと向き合うことが大切です。
働く場としての魅力が向上し、既存の従業員が活き活きとした気持ちで働けるようになれば、結果として社外へもよいアピールが行えます。
まとめ
エンプロイヤーブランディングに成功すれば、自社の採用力は大きく向上し、従業員の定着率も高まります。多くの企業が人材不足を抱える現状にあっては、真っ向から課題を解決する手段ともいえるでしょう。
それだけに、効果が出るまでには長期的な取り組みが求められるため、じっくりと計画を立てて向き合う必要があります。まずは「働く場」としてのあるべき姿を明確化し、現状を分析しながら、理想に近づけていくために何が必要なのかを洗い出してみましょう。
(制作協力/株式会社STSデジタル、編集/d’s JOURNAL編集部)
【採用ブランディングにおすすめ!】動画活用で認知向上や意向醸成も!「まいにちdoda TV」
資料をダウンロード