ハイパフォーマーとは|定義の分析方法や育成・離職防止の方法を解説
d’s JOURNAL編集部
企業活動の生産性において、極めて優れたパフォーマンスを持つ人材とされる「ハイパフォーマー」。ハイパフォーマーと呼ばれる人にはいくつか共通する特性があり、その特性を分析・データ化することで、人材育成や採用活動などに活用できます。
社内にハイパフォーマーがいることで、どのようなメリットが期待できるのでしょうか。ハイパフォーマーは企業の業績に影響を与える存在であるため、離職防止の方法についても知っておくことが重要です。
この記事では、ハイパフォーマーに共通する特性や組織におけるメリット、自社のハイパフォーマーの分析や育成、離職を防ぐ方法について解説します。
ハイパフォーマーとは
ハイパフォーマーとは、業務において高い成果を生み出せる「生産性の高い人材」のこと。具体的には、「業務に必要なスキルに秀でている」「業務経験が豊富で、多くのノウハウを有している」「スキルや経験、ノウハウを活かして業務に取り組むことで、高い成果につなげられる」などに該当する人材を指します。
社内にハイパフォーマーが多く存在すればするほど、生産性は飛躍的に高まり、想定した以上の成果を生み出すこともあります。ハイパフォーマーが力を発揮することで、「企業業績の改善」や「社員全体の人材育成」などにも大きく貢献することから、企業にとって非常に重要な存在と考えられています。
また、最近ではハイパフォーマーに共通した行動特性を分析し、人材採用や人事評価などに活用する企業も増えてきているようです。これまで、ハイパフォーマーは「仕事ができる人」という評価のみで終わってしまうこともありましたが、現在は「企業成長のキーパーソン」として注目されています。
ハイパフォーマーに共通する特性
ハイパフォーマーの定義は企業や業種によって異なりますが、多くのハイパフォーマーに共通する特性として次の4つが挙げられます。
目標へのコミット力が高い
ハイパフォーマーの多くは、目標へのコミット力が高いと言われています。すなわち、「企業や組織の目標」「目標達成のために自分に期待されていること」「期待に応えるために実現すべきこと」について認識し、実績を上げるためにアクションを起こすことができます。
目標達成までの試行錯誤を怠らず、ゴールまでの道筋を立てて努力できるのも、ハイパフォーマーの特徴です。加えて、成果を出すことへのこだわりが強いため、たとえ逆境の中でも、成果をつかむまでチャレンジし続ける行動力があることも大きな特徴といえるでしょう。
コミュニケーション能力が高い
ハイパフォーマーには、コミュニケーション能力が高いという特性もあります。一人だけで完遂できる業務は、ほとんどありません。そのため、ビジネスで大きな成果を上げるためには、プロジェクトメンバーやビジネスパートナーとコミュニケーションを取り、信頼関係を構築していくことが重要です。
ハイパフォーマーはそのことを十分に認識しており、周囲の話に最後まで耳を傾け、周囲の行動を促すことができます。周囲からの協力を得ながら業務を進めるため、「チーム全体のコミュニケーション円滑化」と「チームメンバーからの信頼獲得」を両立できるのも、ハイパフォーマーの特徴です。
チャレンジ精神旺盛で挑戦し続ける
ハイパフォーマーは、失敗を恐れず、チャレンジ精神旺盛に挑戦し続ける傾向があります。業務において「挫折」「失敗」「敗北」「低迷」「困難」に直面しても、問題解決に向けて試行錯誤し、粘り強く取り組むのが特徴です。
先の心配をして行動できずに悩むのではなく、「いま自分にできることは何か」に焦点を当て、問題解決できるまで諦めずに取り組めるポジティブさを持ち合わせています。
また、失敗した場合にも、原因と対処法を分析して成果につながるまで行動し続けるため、最終的には成果を上げて評価されることも、多くのハイパフォーマーに共通している特性です。
自己管理を徹底している
自己管理を徹底しているのも、ハイパフォーマーの特徴です。「寝不足や体調不良で頭が働かず、仕事に集中できない」という状況にならないよう、普段から食事や睡眠、運動に気を使います。
そして、仕事中は集中力を維持して高い生産性を保つため、適宜休憩を取るなどメリハリをつけて働きます。ハイパフォーマーは自己のパフォーマンスを最大化するための条件を熟知しているため、日頃からオンとオフを意識的に切り替え、優れた成果につなげることができるのです。
組織にハイパフォーマーがいるメリット
ハイパフォーマーは所属する組織にどのような影響を与えるのでしょうか。ハイパフォーマーがいることで得られる主なメリットを3つ紹介します。
業績の向上
仕事への意識が高く、常に業務効率化や時間短縮に努めるハイパフォーマーがいることで、組織の業績の向上が期待できます。また、ハイパフォーマーは自身の成果やプロセスを時給換算し、より高い成果を出そうと常に自ら努力します。
ハイパフォーマーがいることで、チーム全体・組織全体の生産性が高まり、業績向上につながります。社内で一人でも多くのハイパフォーマーを育成・登用することに成功すれば、業績の改善をより実感しやすくなるでしょう。
社員全体の意識改革
ハイパフォーマーはチームとしての成功を求め、豊富な知識や経験、スキルをチーム内に共有する傾向があります。そのため、ハイパフォーマーの存在は、社員全体の意識改革にも良い影響を与えます。
周囲の社員はハイパフォーマーの思考や行動を近くで見て学ぶことで、結果を出すまでのプロセスを理解し、行動に移しやすくなるでしょう。その影響は、「私も●●さんのように活躍したい」「チームにもっと貢献したい」というポジティブな意識につながり、成長促進が期待できます。
社員全体の意識改革が進むことにより、「チームや個人としての実績の向上」「高いモチベーションの維持」などのメリットがもたらされるでしょう。
優秀な人材獲得への貢献
組織にハイパフォーマーがいることにより、優秀な人材の獲得につながる点もメリットの一つです。組織内のハイパフォーマーの特性を分析することで、どのような思考や行動特性によって成果を生み出しているのかが見えてきます。面接時にハイパフォーマーの行動特性(コンピテンシー)を有しているかを確認すれば、ハイパフォーマーとしての活躍が期待できる人を選びやすくなるでしょう。
また、ハイパフォーマーを育成するノウハウは企業価値を高める点もメリットです。ハイパフォーマーが力を発揮している企業は、別の企業で優れた成果を上げている転職希望者からも魅力的に映るため、新たなハイパフォーマーの採用が期待できます。
ハイパフォーマーのこれまでの経験や入社経路をデータ化して管理すれば、効果的な採用活動や人材流出のリスク防止などにも活用できるでしょう。
(参考:『コンピテンシー面接とは|質問例・評価基準などやり方を解説』)
自社のハイパフォーマー分析方法
どのような人材が自社にとってハイパフォーマーといえるのかを認識しなければ、ハイパフォーマーを社内に増やしていくことは困難です。自社のハイパフォーマーを分析する方法について、見ていきましょう。
定義を明確にする
まずは「自社におけるハイパフォーマーとはどのような人材か」を議論して、定義を明確にします。
ハイパフォーマーの人物像として「短い時間で多くの成果を出している」「コミュニケーション能力に長けている」「ミスが少ない」などが挙げられますが、実際にどのような人材をハイパフォーマーと見なすかは、企業・業種・職種によっても異なります。
一般的に優秀とされている人物像が自社にも当てはまるとは限らないため、「自社で重視している軸は何か」についてじっくり議論しましょう。
自社で該当する人材モデルを選出する
次に、定義に当てはまる人材を自社で絞り込み、人材モデルを選出します。人材モデルの選出でポイントとなるのは、「価値観」「経歴・スキル・経験」「行動特性」の3点です。
「価値観」とは、仕事に対する思いやビジネスパーソンとしての在り方のこと。ハイパフォーマーが行動を起こす際の価値基準となるものです。
「経歴・スキル・経験」とは、これまでの業務を通じて得た経験や知識などのこと。ハイパフォーマーの行動を可能にするものです。
「行動特性」とは、具体的な行動そのものではなく、行動につながる「性格」や「動機」などのこと。「なぜ、このような行動をとろうと思ったのか」「ある状況下では、どのような行動をとろうとするか」などが該当します。
なお、これら3点をできるだけ可視化することは、ハイパフォーマーの分析のみならず、採用や人事評価にも役立ちます。
(参考:『採用基準の決め方|役割や作成手順をテンプレートと例で解説』)
選出した人材の特性を把握する
ハイパフォーマーのモデル人材について詳細なデータを収集し、その人の特性を把握することも大切です。本人へのアンケート調査や聞き取り調査を行い、その人の特性に関するデータをなるべく多く取得しましょう。
モデル人材の思考や行動特性を明らかにしていく質問項目として、「どのようなモチベーションで業務に取り組んでいるか」「トラブルが発生した際は、どのような思考回路で、どのような行動をとっているか」などが挙げられます。このような質問に回答してもらうことで、成果との関連性がより見えてくるでしょう。
なお、ハイパフォーマーの分析にはコンピテンシーの活用が有効だと言われています。コンピテンシーとはハイパフォーマーに共通して見られる行動特性のこと。コンピテンシーの例として、「冷静さ」「第一印象度」「分析思考」などがあります。人事評価や採用活動、キャリア開発などのシーンでも活用できますので、興味のある方はこちらの記事を参考にしてください。
(参考:『コンピテンシーとは?1分でサクッとわかる!意味や使い方、スキルとの違いを解説』)
ハイパフォーマーの育成方法
組織におけるハイパフォーマーについては、「売上の8割は2割のハイパフォーマーによって生み出される」とする「パレードの法則」や、「チーム編成を行うとハイパフォーマー2割、平均的な人材6割、ローパフォーマー2割に分かれる」という「2-6-2の法則」があります。
法則では組織内で2割とされるハイパフォーマーを育成するためには、どのようなことを行う必要があるのでしょうか。社内でハイパフォーマーを育成する方法を3つのステップに分けて解説します。
ハイパフォーマーのモデルを確立させる
「ハイパフォーマー」と一言で言っても、どのような人をハイパフォーマーだと考えるかは人それぞれでしょう。そのため、ハイパフォーマーを育成する際は、まず自社におけるハイパフォーマーモデルを定め、認識の齟齬(そご)が生じないようにする必要があります。
実在する社員を基にハイパフォーマーモデルを確立することで、社員一人一人が目指すべき姿が明確になるでしょう。例えば、「短い時間で多くの成果を出している人材」をモデルとする場合、事務職であれば就業時間内のデータ処理件数とパソコンの稼働時間、営業職であれば売上と残業時間数などから選定します。このように、複数の要素を掛け合わせて選定することがポイントです。
なお、経験年数が長いほどスキルや成果も高い傾向にあるため、年齢や勤続年数なども踏まえて絞り込みを行うとよいでしょう。
行動特性やスキルを研修に落とし込む
次に、ハイパフォーマーが有する「価値観」「スキルや経験」「行動特性」などを研修内容に落とし込みましょう。研修は、社員のスキルや能力のレベルアップを図り、新たなハイパフォーマーを輩出することを目的としています。研修の実施前には、研修参加者に対して、研修の目的と目標を明確に伝えるようにしましょう。
研修のフォローアップをする
研修項目によってはすぐに効果を実感できないものもあるため、研修後に客観的なフィードバックを行える環境を整備することが重要です。例えば、スキルについては「何に関するスキルをどのレベルまで習得する必要があるか」を具体的に示すことで、目標が明確になり、習得のスピードが早まると期待できます。
一方、行動特性や価値観については根本から考え方を変えていく必要があるため、研修や指導を一度受けただけでは変化が難しいとされています。内容を忘れないように定期的に研修を実施したり、時間を置いてから研修の理解度を再確認したりするなど、研修の継続的な実施や研修後のフォロー・振り返りにも力を入れましょう。
ハイパフォーマーの離職を防ぐには
ハイパフォーマーには「どの企業に転職しても通用する」という自信があるため、自社に不満があると離職してしまう可能性があります。ハイパフォーマーの離職防止に有効な3つの施策を解説します。
適切な評価制度を確立する
ハイパフォーマーの離職理由として多いとされるのが、評価に対する不満です。どれだけ成果を出しても評価が上がらない状態では、モチベーションを保つのは難しいでしょう。
「業績への貢献が評価・報酬に反映される」「さらに上級のポストが与えられる」など、パフォーマンスレベルに見合った評価を受けられる制度設計が重要です。
「売上」「処理件数」「企画立案件数」といった定量的な指標を評価基準に組み込むことで、ハイパフォーマーのみならず全従業員を適切に評価できるようになるでしょう。
裁量を調整する
「任される仕事は多いのに、裁量が与えられていない」という状況も、モチベーション低下の要因になります。ハイパフォーマーの多くは作業手順の組み立てや優先順位の判断などに長けているため、その特性を存分に活かしてもらえるようにすることが重要です。
裁量分配の仕方を工夫して、適切な裁量を与えるようにしましょう。業務の進め方や細部の判断などについて裁量権を与えることで、モチベーションアップが期待できます。
なお、裁量を与える際は、目指すべきゴールと絶対守ってほしい条件について丁寧に説明することが大切です。
アンケートや面談を実施する
ハイパフォーマーは業務の質の高さや作業の速さなどを理由に、周囲の社員と比べて多くの業務量を抱え込みやすく、「業務量の偏り」に不満を募らせるハイパフォーマーも少なくありません。
また、ハイパフォーマーは体調や精神状態が多少優れなくても、パフォーマンスレベルが落ちないケースが多いです。こうした業務負担の偏りや心身の不調は、本人が伝えようとしない限り、周囲は気付きにくいものでもあります。
ハイパフォーマーの現状を把握するため、定期的に1on1などの面談やアンケートを実施し、業務内容や企業に対する不満の有無などを確認しましょう。ヒアリング後、フォローの必要性がある場合は、なるべく早期に対処することが重要です。
具体的な対処法として、「チームごとに業務分担を見直し、ハイパフォーマーに業務が集中しないようにする」「リフレッシュできるように有給休暇の取得を促す」などが挙げられます。
まとめ
社内にハイパフォーマーがいることで、「業績の向上」「社員全体の意識改革」「優秀な人材の獲得」といったメリットが期待できます。
ハイパフォーマーを増やしていくためには、まず自社におけるハイパフォーマーを明確に定義することが重要です。その上で「ハイパフォーマーのモデル確立」や「行動特性・スキルの研修への落とし込み」などを行い、新たなハイパフォーマーの育成につなげます。
ハイパフォーマーの離職を防ぐ施策も実施し、ハイパフォーマーに本来の力を発揮してもらえるような会社を目指してみてはいかがでしょうか。
(制作協力/株式会社はたらクリエイト、編集/d’s JOURNAL編集部)
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