デル・テクノロジーズが構想する「従業員男女比率50:50」。日本らしさを活かしたdiversity&inclusion

デル・テクノロジーズ株式会社 - Dell Technologies Japan

Japan CTO Office ソーシャルインパクトジャパンリード
松本 笑美

プロフィール

デル・テクノロジーズ株式会社(英:Dell Technologies Japan Inc.、本社:神奈川県川崎市、代表取締役社長:大塚俊彦)は、2030年までの中長期計画のひとつに従業員男女比率を「50:50」にすると公表している。米国に本社をもつグローバル企業Dell Technologies Inc.の日本法人である同社。政府目標で掲げる女性管理職比率が、いまだ半分にも満たず歩留まりしている日本において、世界同時展開しているdiversity&inclusionを、どのようにローカライズして進めていくのか。デル・テクノロジーズが構想するHR分野での中長期計画について聞いた。

SDGsはこれからの企業活動に欠かせない重要項目

日本では女性活躍推進法が施行されて約5年経つが、いまだその認知度は低く、女性が社会で十分に活躍できているとは言い難いとの声が聞こえる。2020年に発表された「ダイバーシティ推進状況調査結果概要」(出典:公益財団法人21世紀職業財団)によると、企業の規模に関わらず、各社で女性活躍推進の行動計画の「内容を知っている」「おおよその内容を知っている」人の割合は、男性で32.6%、女性で40.9%。1万人以上従業員の在籍する企業でさえその認知度は低いのである。

こうした中、世界的な流れとして男女に関わりなくすべての人が、性別や人種、出身や信仰などに左右されず生き生きと働けるため「diversity&inclusion」の考え方が啓蒙、そして推進されている。その潮流は、日本においても比較的緩いものとはいえ、確実に、スタンダードとなりつつある。

米国本社を拠点にする総合 IT ソリューション企業Dell Technologies Inc.も、diversity&inclusionを大いに推進する組織の一つだ。世界180カ国で事業を展開、25の製造拠点、40の配送センター、そして1800拠点のサービスセンターを抱えるなど巨大なグローバルネットワークを持ち、そのひとつにデル・テクノロジーズ日本法人(以下、デル・テクノロジーズ)がある。同社は2030年までに従業員男女比率を「50:50」とするため、グローバル企業として相応しい真のdiversity&inclusionを実践し、ソーシャル インパクト(社会的影響力)への戦略ビジョン「Progress Made Real(PMR)」を打ち出している。

まずは今回の話の中心となるデル・テクノロジーズの概要を見てみよう。同社は日本国内におけるデル・テクノロジーズ製品、ソリューション、サービスの販売、ならびに保守業務を担っている。「人類の進化を牽引するテクノロジーの創出」を目的として掲げ、昨今のコロナ禍におけるDX推進など新しい行動様式(ニューノーマルスタイル)のトレンドもキャッチ。テクノロジーによるライフシーンの変革を目指す企業として、好調を堅持している。

さて、同社は2021年現在、次の10年へ向けて米国本社が策定するPMR「ソーシャルインパクトにおける2030年中長期計画」を日本でも推進している。この計画は、SDGs 17項目をベースとした目標施策から構成される。SDGsとは「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略称であり、国際社会共通の目標として、日本でも積極的にその導入が進んでいる概念だ。

そのSDGsを踏まえた中長期計画の中のひとつに、従業員男女比率「50:50」を掲げているというわけだ。なぜ同社はこの「50:50」に注力するのだろうか。同社のJapan CTO Officeソーシャルインパクトリードの松本笑美氏(以下、松本氏)にその背景を説明いただいた。

「SDGsやdiversity&inclusionなど、世界的に見てもこのメインストリームに対して無視できる社会ではなくなりました。当社としてもグローバルに展開する多国籍企業として、この中長期計画をムーンショット(Moonshot)として位置づけ、取り組んでいきたいと考えています。

加えて日本では、少子高齢化の影響で女性のマンパワーが必然的に社会から必要とされています。またIoTなどの領域で活躍する女性比率が極端に低いことも日本特有の労働環境の実態として見えています。当社に限らず、IT業界への就職を希望する学生たちを見ても、その多くは男性です。つまり業界では意図的に女性を増やす努力をしないとバランスが取れない現状です。そこで日本法人でも、男女比率『50:50』の目標を大きく掲げることとなりました。

PMR目標設定の基準となった2020年までの取り組み「Legacy of Good」の成果は2019年に発表され、その時点ですでに75%以上が達成していました。製品リサイクル化の取組に加え、13ある従業員グループ(ERG)は全世界で38000人が参加、NPOやNGOと共に行うボランティアも500万時間を超えていました。

そこで改めて環境、サスティナビリティ、diversity & inclusion, 社会コミュニティ貢献、ガバナンスをPMR、Moonshot Goalとして策定しなおしました。例えば、女性管理職比率を40%までに高めることや、従業員リソースグループ(ERGs)への参加率を50%以上に設定、さらにインクルージョンの醸成をすること、リーダーシップ育成の一環であるスポンサー制度などです。

Moonshot Goalはその名の通り、簡単に達成できる目標ではありません。都度都度アジャイル的に、かつトレンドに合わせてアップデートを繰り返し進めていく必要があると感じています」。

では、次項より同社がこれまでに行ってきた施策や環境整備、それによる採用戦略などについてより詳しく見ていこう。

SDGsベースの組織デザインを描いてきたデル・テクノロジーズ

2030年「Progress Made Real(PMR)」実現に向けて、中長期計画を推し進めてきたデル・テクノロジーズ。その推進のキーポイントのひとつとして注目したのが、女性活躍躍進、つまり女性の働き方にフォーカスすることであった。女性が活躍できる、働きやすい環境を整えることが、上記で掲げている従業員男女比率「50:50」を実現できる近道と考え、採用ブランディングと結びつけることで多くの入社希望者の獲得を期待できると踏んでいる。では具体的にどのような戦略をムーンショットとして実現(real)させるのか。

まず組織デザインとして着手したのが、リーダーシップスキル育成開発。マネージャークラス以上を対象としたこのトレーニングプログラムは、ハイレベルなメンタリングセッションが行われることを主としている。その内容はローカライズされ、国や拠点によって微妙に異なるが、人種やLGBTなど無意識の偏見を無くすためのトレーニングなど、多様なリーダーシップを発揮できる人材育成を促進。独自のメンター制度プログラムを敷いているのだ。

また日本法人が特にに注力しているのが、従業員リソースグループ(ERGs)の醸成だ。これはグローバルにおいて多様性に関して、高いレベルで関与できるようメンバー一人一人が簡単に参加し取り組める施策である。日本の女性活躍躍進を大きなテーマとしている同社では、例えば、「女性」以外にも「環境」「障がい」「文化の違い」「コネクサス(働き方)」などをテーマにした7つのチームが存在。それぞれがテーマにフォーカスして取り組み、社内における差別や偏見をなくしていく活動を実践している。

「ERGsの取り組みは壮大ではありますが、細やかなメンバーへのフォローも忘れないようにしています。例えば、女性の働き方について、考える、相談する場として、パネル座談会やキャリア相談会の定期開催。キャリアチャレンジをサポートする個別カウンセリングの実施など。働き方の多様性を実現できるよう、ちょっとした悩みでも気軽に打ち明けられる場を作れるよう心がけています。いわゆるシスターフッドですね。性別問わずエグゼクティブやリーダーが自身の言葉でdiversity & inclusionの素晴らしいメッセージを社員に語ってくださることもあります。こうした取り組みから、社内のエンゲージメントを高める施策も進んでいます」(松本氏)。

男女に関係なく、その多様性を認めて、差別や偏見なく仕事に取り組める環境。口で言うのは易いが、その実現のためにはロジカルな組織デザインの構築が必要不可欠なわけである。一見、グローバルネットワークを持つ多国籍企業デル・テクノロジーズならではの取り組みに見えるが、その実態は従業員一人一人の意識を変え、これからの社会に対してできることを考えていく地道な作業にほかならない。

「ダイバーシティの分野は、一人でできること、一つのグループや組織でできること、一つの会社でできることに、必ず限界が出てきます。いろんな形でのパートナーシップ、つまり仲間を作ることの重要性が問われます。それにはダイバーシティにおける成功事例を広報・宣伝し、情熱を持つ仲間とつながり、共に発信を続けることも地道な努力として含まれていますね」(松本氏)。

以上のように松本氏はアドバイスした。企業の大小に関係なく、diversity&inclusionに関して、私たちが取り組めることはまだ余力がありそうだ。

コネクサス(働き方)を変革するには社内エンゲージメントを見直してみる

さて、diversity&inclusionの取り組みについて組織デザインを実践することは前項で理解できた。それでは制度面や環境面で整えたトピックスはあるだろうか。またそれがどう採用活動など企業ブランディングにつながったのだろうか。再び松本氏に聞いてみた。

「当社では出産などの事情で離職をした女性社員のほぼ100%が復職しています。産休・育休の取得率が高く、子育てしながら働いている社員が、時差出勤制度や短時間勤務制度などを実にフレキシブルに活用しています。ほかにも、自身や家族の疾病の際に利用できる「シックリーブ」という休暇が、有給休暇とは別にあり、子どもの急な発熱や家族の介護などで帰宅しないといけないなどという場合に使ってもらっていますね。

一方、当社では子育て中の社員に限らず在宅勤務が可能な制度があり、誰でもデル・テクノロジーズの一員であればワーク・ライフ・バランスを実現できるという風土が形成されています」。

多くの企業では、環境や制度は整えたが、自分の立場や仕事での役割などを気にしてこうした福利厚生を活用しづらいといった問題もある。同社ではこのあたりの、いわば日本独自の課題をどのようにクリアしているのだろうか。

「マネージャー裁量の大きい当社では、こうした日々の生活のことについても気軽に相談できる雰囲気づくりをチームで心がけ、チームメンバーに制度を活用しやすくしています。私自身も上長と相談し、海外とのCallや介護のための時差勤務やフレックス勤務制度を利用しています。特に若いメンバーは、自分の時間をなかなかコントロールしづらく、制度をどう活用していいか判断に迷うシーンなどが多々あります。そうした場合に経験豊富な先輩や上司が想像力を働かせて可能な限りメンバーをサポートする。若いメンバーはそのやり方を学ぶ。良いエンゲージメントが生まれていると感じています」(松本氏)。

さらに、ソフト面の後押しも大きいようだ。同社の社長は、diversity&inclusionをビジネスにおいての必須項目とし、率先して取り組みを行っているという。日本法人においても役員クラスでも率先して現場のメンバーとコミュニケーションをとろうという姿が各所で見られるというのだ。

また上司と部下との間のコミュニケーションを密にして風通しをよくするため、上司と部下との一対一の面談も2週間に1回程度の頻度で行われているのだそう。定期的な面談以外でも部下からリクエストがあった時には、いつでも対応できるようにリーダー達は意識をしているのだ。つまり環境整備の利活用のポイントは、社員同士のエンゲージメントの向上やコミュニケーションの質にあるということが事例から伺える。

こうした取り組みを発信、そして啓蒙することで採用ブランディングにも良い影響を与えられているという。徐々にではあるが、男性比率の高いIT業界においても、同社への入社希望者は新卒・中途に限らず女性の希望者が拡大傾向にあるという。やはり就業後のイメージが湧きやすいよう、これまでに伝えてもらった取り組みや環境整備を余すことなく発信していることが奏功しているのだろう。

最後に、日本において女性活躍躍進、ひいては人種やLGBTなどにとらわれずに活躍できるポイントはどんな点か、あるいは企業にとってすべきことは何なのかを総括として松本氏に語っていただいた。

「繰り返しになりますが、SDGsを考え、diversity&inclusionを推し進めるためには、個人はもちろん会社単体での取り組みでは不十分です。大事なのはパートナーシップ(仲間を作る)を築くこと。もう一つは社内でのあらゆるレベルのコミュニケーションを増やし、成功事例を積極的に発信すること。当社の事例でいえば、7割が女性で構成されている部署があり、その部署での取り組みや効果事例を積極的に横展開することで、ほかの部署にも良い影響が生まれています。diversity&inclusionは、競合する企業同士であっても組織や会社の枠を超えて情報をオープンにすることができ、損得勘定を抜きにして、業界・業種の垣根を越えて互いに協力しやすいテーマであることも大きな特徴だと感じています。

状況によってはティール組織のような組織デザインを構築して、トップダウンでもボトムアップでもない、ポジションの枠を超えて皆がフラットな場で変革を求められる場をつくることも必要でしょうね。いずれにしても一人一人の意識次第でこの世界は変わっていけるものだと信じています。私たちと同じように、diversity&inclusionを一つの切り口として、持続可能な組織や事業を創っていきたいと考えている企業があれば、ぜひ積極的に交流し、一緒に取り組みを進めていきたいと考えています」。

取材後記

グローバル企業が展開するdiversity&inclusionと聞くと、最先端の事例で到底マネできるようなものではないと思っていたが、一つ一つの取り組みを紐解いていくと特別なものではなく、とても地道で根気のいるものだと感じる。日本法人においても、最初は専任の担当者がおらず、兼務者ただ一人で進めていたという。SDGsやdiversity&inclusionといったキーワードは、日本において注目ニュースとして扱われているものの、なかなか浸透するまでには時間がかかるもの。ただ、一度協力してくれた関係者や経営陣、社外のパートナーはずっと強力な仲間となってくれるそうだ。今回の取材からその希望が感じ取れた。

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取材・文/鈴政武尊、編集/鈴政武尊