離職防止に効果的な取り組みとは|離職の原因や施策アイデア・事例を解説

d’s JOURNAL編集部

離職防止対策を怠るとさまざまなリスクが懸念されます。離職防止に向け、「従業員の離職防止対策を進めていきたい」「どのような取り組みが効果的かを知りたい」といった人事担当者も多いでしょう。

この記事では、離職防止対策を怠るリスクや離職防止に効果的な施策を解説します。離職防止につながった企業の成功事例も紹介しているので、参考にしてください。

近年、離職防止の重要度が高まっている

近年、離職防止の重要度がこれまで以上に高まっています。その理由としては、以下が挙げられます。

離職防止の重要度が高まっている理由

●労働人口の減少により、人材確保が難しくなってきているため。
●転職へのハードルが下がり、人材の流動化が進んでいるため。
●企業の存続に向け、深刻化する人材不足に対応していく必要があるため。

日本では少子高齢化の進行に伴い、労働人口が減少しています。そのため、従来に比べ、人材確保が困難な状況にあります。

また、「転職が当たり前」という価値観に変わってきていることから、人材の流動化が進んでいます。「自社の従業員が、いつ他社に転職してもおかしくない」状況にあるとも言えるでしょう。

このように「人材の確保が困難である」「人材の流動化が進んでいる」状況が続くと、事業の継続も難しくなります。

こうした理由から、離職防止対策を講じることが急務となっているのです。

離職防止対策を怠るリスク

離職防止対策を怠るリスクとしては、「採用・教育コストの高騰」「既存社員の負担増」「企業イメージの低下」が挙げられます。詳しく見ていきましょう。

採用・教育コストが高騰する

離職防止対策を怠り、離職率が高い状態(定着率が低い状態)が続くと、常に採用活動を行わなくてはならず、自ずと採用コストが高騰します。人材を新たに採用した分だけ、教育コストも余計にかかってしまうでしょう。

また、業務内容や従業員のスキルにもよりますが、入社後数年以内の離職となると、企業が採用・育成に要したコストを回収できるほど人材が成長しているケースは少ないです。そのため、従業員の早期離職により、人材採用・育成に要したコストが無駄になってしまうというデメリットもあります。

既存社員の負担が大きくなる

離職防止対策を怠り、継続的に離職者が出てしまうと、慢性的な人員不足の状況に陥りやすいです。その結果、既存社員への悪影響が懸念されます。

退職者が担っていた業務を新たに担当することになった従業員の業務量や仕事へのストレスは増すでしょう。既存社員の「残業時間の増加」「モチベーションの低下」「心身の不調」を招くだけでなく、さらなる離職にもつながりかねません

なお、「仕事のパフォーマンスが高い社員」や「重要な業務を担ってきた社員」が離職してしまった場合、既存社員への影響は極めて大きなものとなるでしょう。

企業イメージが低下する

離職防止対策を怠ると、企業イメージの低下も懸念されます。

インターネットの普及により、人々は企業の評判を口コミサイトなどで簡単に入手できるようになりました。「退職者が多く、頻繁に人材を募集している」「新卒入社者の約半数が1年以内に辞めている」といった情報が広まると、世間から「離職率が高い職場」と認識され、企業イメージが低下します。たとえ労働環境には問題がなかったとしても、「この会社はブラック企業だ」と誤解される可能性もあります。「取引先からの信用を失う」「新規顧客を獲得しにくくなる」「求人を出しても、応募が集まらなくなる」といった事態にも陥りやすくなるでしょう。

主な離職原因とは?

離職に至る原因は人によってさまざまではありますが、主に以下の8つに分けられます。

8つの主な離職原因

●給与に不満がある
●労働条件に不満がある
●人間関係のストレスを抱えている
●やりたいことと実際の業務にギャップがある
●お手本になる上司や先輩がいない
●過剰なプレッシャーをかけられている
●キャリア形成が見込めない
●社風になじめない

すなわち、これらを解消することこそが、離職防止と言えるでしょう。離職防止に向けた具体的な施策については、この後詳しく紹介します。

(参考:『離職の主な原因8種類をまとめて紹介!企業が取るべき対策もあわせて解説』)

離職防止に効果的な施策:従業員管理

「従業員が会社に対してどのような不満を抱いているのか」や「どのような状態で働いている従業員が多いのか」がわからなければ、効果的な離職防止施策は考えられません。そのため、「従業員管理」という観点で取り組みを進めることが重要です。具体的な施策について、見ていきましょう。

退職者の離職理由のヒアリング

離職理由としてはさまざまなことが考えられますが、適切な離職対策を実施していくためには、「自社の場合、なぜ従業員が離職するのか」を把握することが重要です。

しかしながら、「波風を立てたくない」「引き留められたくない」といった理由から、退職を申し出る際に「本当の退職理由を伝えない」という選択をする従業員もいるでしょう。「キャリアアップをしたい」「別の業界にチャレンジしたい」などの離職理由の裏に、自社への不満が隠れているケースも考えられます。

そのため、退職手続きが終わったタイミングで、退職者から離職理由をヒアリングする必要があります。このタイミングであれば、退職者も離職理由を本音で語ってくれるでしょう。退職者へのヒアリングをもとに自社の問題点を洗い出し、どう解決していくかを考えることが大切です。

離職防止ツールの導入

離職防止ツールとは、従業員の早期離職防止や定着率向上につながるような機能を備えたツールのこと。ツール活用により、従業員一人ひとりの状況が可視化されるため、離職の兆候がある従業員に対して早い段階でアプローチできるようになる効果が期待できます。

具体的には、以下のような機能を持つ離職防止ツールが多いです。

<離職防止ツールの主な機能>

●従業員エンゲージメントやモチベーションの可視化
●従業員満足度チェック
●ストレスチェック
●コミュニケーション活性化 など

必要な機能や費用対効果などを検討した上で、自社に最も適した離職防止ツールを選びましょう。なお、ストレスチェックの対象企業(常時50人以上の従業員を雇用している事業所)の場合には、ストレスチェック機能を備えたものをおすすめします。

(参考:『ストレスチェックの義務化で企業が対応すべきこととは?実施手順や注意点を解説』)

離職防止に効果的な施策:人材マネジメント

従業員が離職しようと思うかは、マネジメントの影響も大きいとされています。日々のコミュニケーションや人事制度などに課題があると、離職率が高まる可能性があります。「人材マネジメント」という観点から、離職防止に効果的な施策について見ていきましょう。

コミュニケーションの活性化

社内のコミュニケーションが不足すると、人間関係の悩みが生じやすいため、離職につながります。そのため、コミュニケーション活性化に向けた施策を実施していくことが効果的です。

コミュニケーション活性化に向けた施策の具体例

●1on1やチームミーティングの実施
●社内イベントの開催
●社内サークルの設立
●社内ブログ・SNSの活用 など

ただし、内容や実施頻度が従業員のニーズに合っていないと、良かれと思って施策を実施しても従業員には負担となるだけです。かえって離職者が増えてしまわないよう、アンケートやヒアリングなどで従業員の声を集めた上で、施策を検討・実施しましょう。

ハラスメント対策

社内でパワハラやセクハラなどのハラスメントが発生していると、当然ながら離職者は増えます。そのため、各種ハラスメントが起こっている場合には、早急な対応が必要です。

ハラスメント発生時の対応例

●被害者や行為を行ったとされる従業員、現場に居合わせた第3者へのヒアリング
●加害者の処分(被害者への謝罪、人事異動、懲戒処分)の検討・実施
●再発防止策の検討・実施 など

併せて、「ハラスメント防止方針の策定と社内への周知」「全従業員を対象とした研修の実施」「定期的なアンケート調査の実施」などにより、ハラスメントが起こりにくい職場にしていくことも重要です。

業務内容やキャリアへの不満・不安解消

業務内容への不満が、離職につながるケースも多くあります。また、今後のキャリアに対する不安が、離職を考えるきっかけとなる従業員もいるでしょう。離職防止のためには、業務内容やキャリアへの不満・不安を解消することが重要です。

業務内容やキャリアへの不満・不安解消に向けた施策の具体例

●部署・チーム内での業務分担の調整
●社内公募制度や社内FA制度の導入
●スキルアップやキャリアップを目的とした研修の実施
●キャリアパスの充実化と社内への周知 など

こうした施策を実施すれば、モチベーションや生産性の向上にもつながるでしょう。

公平な人事評価制度の策定

「自分の働きぶりを評価してもらえていない」「高い成果を上げても、報酬にほとんど反映されない」といった人事評価制度への不満から、離職につながるケースも多くあります。そのため、「従業員が人事評価制度に不満を抱いていないか」「客観的かつ公平な人事評価を実施できているか」などを見直すことが重要です。その上で、「360度評価」や「コンピテンシー評価」などさまざまな人事評価制度を比較検討し、自社に合った公平な人事評価制度を策定しましょう。

併せて、社内表彰制度やサンクスカードの導入など、従業員一人ひとりの頑張りを称える仕組みを整えることも大切です。

(参考:『人事評価制度の種類と特徴を押さえて、自社に適した制度の導入へ【図で理解】』『コンピテンシー評価とは|項目例とシートの書き方やメリット・デメリットを解説』)

離職防止に効果的な施策:労働環境改善

仕事にやりがいを感じていたとしても、労働環境に課題があれば離職につながるでしょう。そのため、離職防止には「労働環境改善」という観点から施策を実施することも重要です。具体的な施策について、詳しく解説します。

長時間労働の是正

残業や休日出勤が多く、長時間労働が常態化していると、従業員のモチベーション低下や体調悪化が懸念されます。当然ながら離職者も増えるため、企業として早急な対応が必要です。

長時間労働の是正に向けた施策の具体例

●勤怠管理システムを導入し、従業員の労働時間を管理する
●業務の棚卸しを行い、無駄な業務がないかを確認する
●各種ツールを導入し、業務効率化を図る
●業務量が多い部署・チームに、人員を社内外から補充する など

なお、時間外労働の上限は、原則として月45時間、年360時間です。特別な事情がない限り、上限を超えることはできないため、注意しましょう。

併せて、「上司が率先して有給を取得する」「有給取得日数が少ない従業員に、有給を取得するよう促す」など、従業員が有給を取得しやすくなる環境を整えることも大切です。

(参考:『長時間労働の目安は月平均80時間超の時間外労働。すぐ導入できる対策アイデア9選』)

働き方の多様化の実現

育児や介護などを理由とした離職を防ぐためには、働き方の多様化を実現することが重要です。多様な働き方に対応した制度があれば、離職せずに仕事を続けられる可能性が高まるでしょう。

働き方の多様化に向けた制度の具体例

●在宅勤務制度
●短時間勤務制度
●フレックスタイム制 など

このような制度を導入すれば、「育児や介護などの事情はないものの、ワークライフバランスを実現したい」従業員の離職防止も期待できます。

(参考:『【弁護士監修】在宅勤務の導入方法と押さえておきたい4つのポイント◆導入シート付』『【弁護士監修】短時間勤務制度を育児や介護、通院等で正しく運用するための基礎知識』『フレックスタイム制を簡単解説!調査に基づく84社の実態も紹介』)

福利厚生の充実

離職防止のためには、福利厚生を充実させることも重要です。従業員のニーズにあった福利厚生を提供すれば、従業員満足度の向上が期待でき、離職防止につながるでしょう。

福利厚生の具体例

●資格取得支援やセミナー参加補助
●住宅手当や家賃補助
●社員食堂の設置や昼食代の補助
●宿泊施設やレジャー施設などの割引制度
●人間ドック費用の補助 など

アンケートやヒアリングなどにより従業員のニーズを把握した上で、どのような福利厚生を提供するかを検討しましょう。

(参考:『【3分で読める】福利厚生を選ぶならコレ!種類や導入方法など知っておきたい基本事項』)

離職防止につながった企業の成功事例

実際、各企業は離職防止に向け、どのような取り組みを行っているのでしょうか。離職防止に成功した企業の事例を紹介します。

株式会社FUJI

株式会社FUJIでは、互いに称賛・感謝し合う風土をつくることで組織の活性化につなげています。その中で、「離職率が確実に低下してきている」という実感もあると言います。

かつて、同社はいわゆるワンマン中小企業で、社員は誰も社長には物が言えない状況でした。「こうした状況を変えなければ、会社の成長もとまってしまう」との危機感のもと、現社長への代替わりを機に、「みんなで考え、みんなで戦える組織」に向けた変革へと着手。360度評価を実施すべく、他部署を含む周囲のメンバーの働き方を可視化するためのチームワークアプリを導入しました。また、ツールの本格導入に先立ち、マネージャー・リーダー職向けに「褒め研修」を実施。どんなタイミングで、どんな言葉で褒めるべきかなどの「褒めるコツ」を学ぶ内容だったことが功を奏し、「褒め」へのハードルを下げられました。また、チームワークアプリにはレター機能があり、マネージャー以上の役職者は「部下へのレターを週2回以上贈る」ことに取り組んでいます。

このように、称賛・感謝の風土が広がっていく中で、社員が意見を積極的に発信してくれるようになったと言います。その結果、離職率の低下にもつながっているそうです。

(参考:『「褒める力」でワンマン中小企業を大改革! 称賛・感謝の風土で離職ストップをかなえた秘訣【連載 第10回 隣の気になる人事さん】』)

ユーザックシステム株式会社

ユーザックシステム株式会社では、「ヤングボード制度」の導入により、4年連続「新卒定着率100%」を実現しました。「ヤングボード制度」は、若手社員の意見を取りまとめ、業務運営に反映させることを目的とした制度です。この制度を通じて、「テレワーク制度」や「コワーキングスペース制度」などが創設されました。

中でも、定着率の向上・離職防止に寄与したのが「メンター制度」です。メンティーである新入社員の不安が減っただけでなく、メンターが上司に報告する仕組みにより、新入社員からのアラートを早い段階で会社が察知できるようになりました。

このように、新入社員や若手社員の声に真摯に向き合うことが、離職防止につながっていると言います。

(参考:『入社後のギャップが離職を高める1番の要因!?4年連続で社員定着率100%を達成した「ヤングボード制度」とは』)

株式会社ソニックガーデン

株式会社ソニックガーデンの離職率は、ほぼゼロです。その背景には、最長1年かける採用方針「ピープルファースト」を掲げ、採用を行っていることがあります。

入社前の1年間と試用期間の1年間、計2年間でじっくりと相性を確かめる仕組みとなっています。まずは、オンラインで第一段階の面接やスキルチェックを実施。応募者の現状のスキルや人柄を重視するため、「履歴書を見ない」「前職や出身校を聞かない」のが特徴です。互いに好感触であれば、リアルな場で面談をし、プロジェクト単位での仕事が始まります。具体的には、退職前の方は副業先として、フリーランスや離職中の方はクライアントとして、入社前に一緒に働く形です。

じっくりと時間をかけて採用することで、「離職率ほぼゼロ」を実現できていると言います。

(参考:『離職率はほぼゼロ。1年じっくりかけて1名を採用する“ピープルファースト”採用とは』)

株式会社カーセブン デジフィールド

株式会社カーセブン デジフィールドでは、働き方改革の一環としてさまざまな施策を実践し、離職防止・定着率向上に努めています。離職率は2008年時点では「42%」でしたが、2021年には「7.9%」にまで改善。入社3年以内の離職者はほぼゼロになりました。

2008年に井上 貴之氏が代表取締役に就任したことを機に、働き方改革に着手。残業時間の削減や生産性の向上に向け、人事評価システムの仕組みを変更(賞与の評価項目に「生産性」を追加)するなど、さまざまな施策を実施しました。

中でも、離職防止・定着率向上に寄与したのが、人事制度(社員へのサポート制度)の充実化です。サポート制度の一つとして、2018年に「奨学金支援制度」を導入。同社の奨学金支援制度の特徴は、「初任給から制度を適用できる」という点です。また、半年間の支払い猶予制度にも対応しており、現在では対象となる社員に対して3年間支援できる体制となっています。同制度の活用により、2022年12月現在、返済残高のある社員は1人のみになったそうです。

この他、サポート制度の一環として、「運転免許取得のための補助金制度」や「入社支度金10万円の一律支給制度」も導入。こうした取り組みが功を奏し、特に若年社員の離職防止・定着率向上につながっていると言います。

(参考:『残業時間を減らせば賞与大幅アップ!?業務・人事システムの刷新で離職率を7.9%に改善。カーセブンの人事戦略論とは』)

まとめ

離職防止対策を怠ると、「採用・教育コストの高騰」や「既存社員の負担増」などが懸念されるため、自社に必要な施策を見極め、実行に移す必要があります。「従業員管理」「人材マネジメント」「労働環境改善」の3つの観点から、対策を進めることが重要です。

今回紹介した企業事例も参考にさまざまな取り組みを検討・実施し、離職防止につなげましょう。

(制作協力/株式会社mojiwows、編集/d’s JOURNAL編集部)

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