離職防止の効果的な13の対策|離職率を下げた企業の成功事例も解説

d’s JOURNAL編集部

近年は、転職に対するハードルが下がり、人材の流動化が進んでいます。厚生労働省の調査によると、ここ0年ほどの新規学卒就職者の「3年以内の離職率」は3割を超えており、仮に10人採用したとしても、3年以内に3〜4人が離職してしまうのが実情です。

少子高齢化で人材の採用が困難な上に、採用した従業員が退職してしまうと、事業の継続が難しくなることなどが懸念されます。

人事・採用担当者として、「従業員の離職防止対策を進めていきたい」「どのような取り組みが効果的かを知りたい」という方も多いでしょう。この記事では、離職防止に効果的な13の対策や離職防止対策を怠ることのリスクを解説します。離職防止につながった企業の成功事例も紹介しているので、参考にしてください。

(参考:厚生労働省『新規学卒就職者の離職状況(令和2年3月卒業者)を公表します』)

離職防止に効果的な13の対策

「労働条件」や「人間関係」など、離職の原因は人によってさまざまですが、企業が離職対策に取り組むことで、離職率を改善できる場合もあります。ここでは、具体的な13の対策について順番に見ていきましょう。

①アンケートの実施

離職防止に有効な対策の一つが、従業員に対するアンケートです。自社のどこに課題があるのかを把握しやすく、「従業員が不満を感じる要因」や「離職の可能性」「早急に改善すべき課題」などを察知できるため、離職防止に役立ちます。

アンケートを成功させるには、従業員の協力が欠かせません。「実施目的を周知する」「わかりやすい設問文にする」「繁忙期の実施は避ける」など、回答の負担を軽減し、協力してもらえるような工夫をすることが大切です。回答結果から自社の課題を特定することで、より効果的な離職防止策を講じることができるでしょう。

②退職者の離職理由のヒアリング

離職理由としてはさまざまなことが考えられますが、適切な離職対策を実施していくためには、「自社の場合、なぜ従業員が離職するのか」を把握することが重要です。

しかしながら、「波風を立てたくない」「引き留められたくない」といった理由から、退職を申し出る際に「本当の退職理由を伝えない」という選択をする従業員もいるでしょう。「キャリアアップをしたい」「別の業界にチャレンジしたい」などの離職理由の裏に、自社への不満が隠れているケースも考えられます。

そのため、退職手続きが終わったタイミングで、退職者から離職理由をヒアリングする必要があります。このタイミングであれば、退職者も離職理由を本音で語ってくれるでしょう。退職者へのヒアリングをもとに自社の問題点を洗い出し、どう解決していくかを考えることが大切です。

③コミュニケーションの活性化

社内のコミュニケーションが不足すると、人間関係の悩みが生じやすいため、離職につながります。そのため、コミュニケーション活性化に向けた施策を実施していくことが効果的です。

コミュニケーション活性化に向けた施策の具体例

●社内イベントの開催
●社内サークルを設立する
●社内ブログ・SNSを活用する
●上司は「評価」ではなく「フィードバック」を行う
●座席を定めない「フリーアドレス」にする など

ただし、内容や実施頻度が従業員のニーズに合っていないと、良かれと思って施策を実施しても従業員には負担となるだけです。かえって離職者が増えてしまわないよう、従業員の声を集めた上で、施策を検討・実施しましょう。

④1on1の定期面談

上司と部下が1対1で定期的な面談を行い、部下の抱える不満や課題を把握することも重要です。例えば、「希望する部署への異動」や「資格取得支援」など、部下のキャリアデザインを上司がサポートすることで、部下のモチベーションが向上し人材の定着につながります。

離職対策では、企業に対する不満や不安の早期解消が大切なため、1on1に限定せず、「ブラザー・シスター制度」や「メンター制度」など、自社に合う面談の仕組みを検討してみましょう。

⑤長時間労働の是正

残業や休日出勤が多く、長時間労働が常態化していると、従業員のモチベーション低下や体調悪化が懸念されます。当然ながら離職者も増えるため、企業として早急な対応が必要です。

長時間労働の是正に向けた施策の具体例

●勤怠管理システムを導入し、従業員の労働時間を管理する
●業務の棚卸しを行い、無駄な業務がないかを確認する
●各種ツールを導入し、業務効率化を図る
●業務量が多い部署・チームに、人員を社内外から補充する など

なお、時間外労働の上限は、原則として月45時間、年360時間です。特別な事情がない限り、上限を超えることはできないため、注意しましょう。
(参考:『長時間労働の目安は月平均80時間超の時間外労働。すぐ導入できる対策アイデア9選』)

⑥公平な評価制度を構築

仕事に対するモチベーションは大切で、「自分の働きぶりを評価してもらえていない」「高い成果を上げても、報酬にほとんど反映されない」といった人事評価制度への不満から、離職につながるケースも多くあります。

そのため、エンゲージメントサーベイなどを用いて「従業員が人事評価制度に不満を抱いていないか」を把握するとともに、「客観的かつ公平な人事評価を実施できているか」を見直すことも重要です。その上で、「360度評価」や「コンピテンシー評価」などのさまざまな人事評価制度を比較検討し、自社に合った公平な人事評価制度を策定しましょう。

従業員が仕事に対してやりがいを感じられるよう、社内表彰制度やサンクスカードの導入など、従業員一人ひとりの成長や姿勢をたたえる仕組みを整えることも大切です。

(参考:『人事評価制度の種類と特徴を押さえて、自社に適した制度の導入へ【図で理解】』『コンピテンシー評価とは|項目例とシートの書き方やメリット・デメリットを解説』)

⑦労働条件の改善

労働条件を改善することで、人材の定着率向上が期待できます。特に同じ地域の企業や競合他社と比較したときに、自社が待遇面で見劣りしていると、従業員が転職を考える可能性が高まってしまうでしょう。

後ほど詳しく説明しますが、昨今は柔軟な働き方を求める人が増えているため、リモートワークやフレックスタイム制の導入など、社会の変化や従業員のニーズに対応していくことも大切です。

賃金・労働時間・福利厚生など、労働条件を理由とした離職が多い場合は、就労規則の見直しを検討し、実現可能な範囲で改善していきましょう。

⑧福利厚生の充実

離職防止のためには、福利厚生を充実させることも重要です。従業員のニーズにあった福利厚生を提供すれば、従業員満足度の向上が期待でき、離職防止につながるでしょう。

福利厚生の具体例

●資格取得支援やセミナー参加補助
●住宅手当や家賃補助
●社員食堂の設置や昼食代の補助
●宿泊施設やレジャー施設などの割引制度
●人間ドック費用の補助 など

アンケートやヒアリングなどにより従業員のニーズを把握した上で、どのような福利厚生を提供するかを検討しましょう。

(参考:『【3分で読める】福利厚生を選ぶならコレ!種類や導入方法など知っておきたい基本事項』)

⑨勤務形態の選択肢の増加

働き方改革の推進やコロナ禍でテレワークが普及したことにより、柔軟な働き方を求める人も増加傾向にあります。育児や介護だけでなく、ワークライフバランスを重視した働き方を理由とした離職を防ぐためには、働き方の多様化を実現することが重要です。以下のように従業員が希望する働き方に対応した制度があれば、離職せずに仕事を続けられる可能性が高まるでしょう。

働き方の多様化に向けた制度の具体例

●在宅勤務制度
●短時間勤務制度
●フレックスタイム制
●職務限定制度
●地域限定社員制度 など

(参考:『【弁護士監修】在宅勤務の導入方法と押さえておきたい4つのポイント◆導入シート付』『【弁護士監修】短時間勤務制度を育児や介護、通院等で正しく運用するための基礎知識』『フレックスタイム制を簡単解説!調査に基づく84社の実態も紹介』)

⑩成長とキャリアアップを支援する環境を整備

今後のキャリアに対する不安が、離職を考えるきっかけとなる従業員もいるでしょう。離職防止のためには、従業員が成長やキャリアアップできる環境を整備して、業務内容やキャリアへの不満・不安を解消することが重要です。

業務内容やキャリアへの不満・不安解消に向けた施策の具体例

●部署・チーム内での業務分担の調整、待遇の見直し
●社内公募制度や社内FA制度の導入
●スキルアップやキャリアップを目的とした研修の実施
●キャリアパスの充実化と社内への周知 など

こうした施策を実施すれば、従業員のモチベーションが向上し、定着につながるでしょう。

⑪離職防止ツールの導入

離職防止ツールとは、従業員の早期離職防止や定着率向上につながるような機能を備えたツールのこと。ツール活用により、従業員一人ひとりの状況が可視化されるため、離職の兆候がある従業員に対して早い段階でアプローチできるようになる効果が期待できます。

具体的には、以下のような機能を持つ離職防止ツールが多いです。

<離職防止ツールの主な機能>

●従業員エンゲージメントやモチベーションの可視化
●従業員満足度チェック
●ストレスチェック
●コミュニケーション活性化 など

必要な機能や費用対効果などを検討した上で、自社に最も適した離職防止ツールを選びましょう。なお、ストレスチェックの対象企業(常時50人以上の従業員を雇用している事業所)の場合には、ストレスチェック機能を備えたものをおすすめします。

(参考:『ストレスチェックの義務化で企業が対応すべきこととは?実施手順や注意点を解説』)

⑫ハラスメント対策

社内でパワハラやセクハラなどのハラスメントが発生していると、当然ながら離職者は増えます。そのため、各種ハラスメントが起こっている場合には、早急な対応が必要です。

ハラスメント発生時の対応例

●被害者や行為を行ったとされる従業員、現場に居合わせた第3者へのヒアリング
●加害者の処分(被害者への謝罪、人事異動、懲戒処分)の検討・実施
●再発防止策の検討・実施 など

併せて、「ハラスメント防止方針の策定と社内への周知」「全従業員を対象とした研修の実施」「定期的なアンケート調査の実施」などにより、ハラスメントが起こりにくい職場にしていくことも重要です。

⑬採用プロセスで正確な情報を提供

採用プロセスで自社の実情を隠す、あるいは脚色して伝えると、「入社前と話が違う」と早期離職につながってしまいます。虚偽の情報によって従業員を募集する行為は法律違反となるため、自社の情報を正確に伝えることも重要です。

特に、待遇や労働環境の認識の違いはモチベーション低下につながりやすく、業務内容の違いは適性のミスマッチとなり自社の生産性にも関わります。離職予防のためには、募集や選考の際にありのままを伝えるようにしましょう。

企業が行った離職防止の成功事例7選

実際、各企業は離職防止に向け、どのような取り組みを行っているのでしょうか。離職防止に成功した企業の事例を紹介します。

褒める力で離職率の低下を実感した『株式会社FUJI』

株式会社FUJIでは、互いに称賛・感謝し合う風土をつくることで組織の活性化につなげています。その中で、「離職率が確実に低下してきている」という実感もあると言います。

かつて、同社はいわゆるワンマン中小企業で、社員は誰も社長には物が言えない状況でした。「こうした状況を変えなければ、会社の成長もとまってしまう」との危機感のもと、現社長への代替わりを機に、「みんなで考え、みんなで戦える組織」に向けた変革へと着手。360度評価を実施すべく、他部署を含む周囲のメンバーの働き方を可視化するためのチームワークアプリを導入しました。また、ツールの本格導入に先立ち、マネージャー・リーダー職向けに「褒め研修」を実施。どのようなタイミングで、どのような言葉で褒めるべきかなどの「褒めるコツ」を学ぶ内容だったことが功を奏し、「褒め」へのハードルを下げられました。また、チームワークアプリにはレター機能があり、マネージャー以上の役職者は「部下へのレターを週2回以上贈る」ことに取り組んでいます。

このように、称賛・感謝の風土が広がっていく中で、社員が意見を積極的に発信してくれるようになったと言います。その結果、離職率の低下にもつながっているそうです。

(参考:『「褒める力」でワンマン中小企業を大改革! 称賛・感謝の風土で離職ストップをかなえた秘訣【連載 第10回 隣の気になる人事さん】』)

メンター制度で新卒の定着率を高めた『ユーザックシステム株式会社』

ユーザックシステム株式会社では、「ヤングボード制度」の導入により、4年連続「新卒定着率100%」を実現しました。「ヤングボード制度」は、若手社員の意見を取りまとめ、業務運営に反映させることを目的とした制度です。この制度を通じて、「テレワーク制度」や「コワーキングスペース制度」などが創設されました。

中でも、定着率の向上・離職防止に寄与したのが「メンター制度」です。メンティーである新入社員の不安が減っただけでなく、メンターが上司に報告する仕組みにより、新入社員からのアラートを早い段階で会社が察知できるようになりました。

このように、新入社員や若手社員の声に真摯に向き合うことが、離職防止につながっていると言います。

(参考:『入社後のギャップが離職を高める1番の要因!?4年連続で社員定着率100%を達成した「ヤングボード制度」とは』)

最長1年かかる採用方針で離職率ほぼゼロの『株式会社ソニックガーデン』

株式会社ソニックガーデンの離職率は、ほぼゼロです。その背景には、最長1年かける採用方針「ピープルファースト」を掲げ、採用を行っていることがあります。

入社前の1年間と試用期間の1年間、計2年間でじっくりと相性を確かめる仕組みとなっています。まずは、オンラインで第一段階の面接やスキルチェックを実施。応募者の現状のスキルや人柄を重視するため、「履歴書を見ない」「前職や出身校を聞かない」のが特徴です。互いに好感触であれば、リアルな場で面談をし、プロジェクト単位での仕事が始まります。具体的には、退職前の方は副業先として、フリーランスや離職中の方はクライアントとして、入社前に一緒に働く形です。

じっくりと時間をかけて採用することで、「離職率ほぼゼロ」を実現できていると言います。

(参考:『離職率はほぼゼロ。1年じっくりかけて1名を採用する“ピープルファースト”採用とは』)

社員のサポート制度の強化で離職率を34.1%減少させた『株式会社カーセブン デジフィールド』

株式会社カーセブン デジフィールドでは、働き方改革の一環としてさまざまな施策を実践し、離職防止・定着率向上に努めています。離職率は2008年時点では「42%」でしたが、2021年には「7.9%」にまで改善。入社3年以内の離職者はほぼゼロになりました。

2008年に井上 貴之氏が代表取締役に就任したことを機に、働き方改革に着手。残業時間の削減や生産性の向上に向け、人事評価システムの仕組みを変更(賞与の評価項目に「生産性」を追加)するなど、さまざまな施策を実施しました。

中でも、離職防止・定着率向上に寄与したのが、人事制度(社員へのサポート制度)の充実化です。サポート制度の一つとして、2018年に「奨学金支援制度」を導入。同社の奨学金支援制度の特徴は、「初任給から制度を適用できる」という点です。また、半年間の支払い猶予制度にも対応しており、現在では対象となる社員に対して3年間支援できる体制となっています。同制度の活用により、2022年12月現在、返済残高のある社員は1人のみになったそうです。

この他、サポート制度の一環として、「運転免許取得のための補助金制度」や「入社支度金10万円の一律支給制度」も導入。こうした取り組みが功を奏し、特に若年社員の離職防止・定着率向上につながっていると言います。

(参考:『残業時間を減らせば賞与大幅アップ!?業務・人事システムの刷新で離職率を7.9%に改善。カーセブンの人事戦略論とは』)

多様な働き方を実現させる制度で、離職率を約24%減少させた『サイボウズ株式会社』

サイボウズ株式会社の離職率はかつて28%と高い状態でした。「制度」「ツール」「風土」をセットにして捉え、以下の取り組みを行うことで、これを大幅に改善しました。

●働き方の選択:時間と場所の9分類から働き方を選べる
●ウルトラワーク制度:「働き方の選択」以外に、時間や場所を一時的に変更できる
●最大6年間の育児・介護休暇: 子どもが小学校に就学するまで最長6年間休業できる
●退職しても再入社できる育自分休暇:退職後6年間であれば復帰できる
●複業(副業)の自由化:自己責任で複業(副業)ができる

「100人いれば100通りの働き方があってよい」という人事方針のもとで多様な働き方を実践した結果、同社の離職率は4%にまで下がりました。離職率に反比例して売上高が上昇したほか、出産した従業員が100%復帰するなどの成果も表れています。

(参考:『離職率28%からの改革。サイボウズの働き方改革&採用戦略とは【セミナーレポート】』)

90日のオンボーディングプログラムで早期離職を防いだ『セルソース株式会社』

セルソース株式会社は、入社した従業員に「90日のオンボーディングプログラム」を実施することで、離職率の低下に成功しています。同社は中途入社の早期離職について、仕事の位置づけや、前後の工程などを理解してもらえていないことが一因であるとして、2022年度にオンボーディング制度を策定しました。

オンボーディングの特徴は、社内の人間関係構築を中心としていることです。同じ部署で業務を指導する「チューター」と、別の部署で業務以外の相談に乗る「メンター」をそれぞれ配置し、中途入社した従業員をサポートします。加えて、中途採用を含む全新入社員を対象に、入社1~3カ月のメンバー同士の食事会や、人事面談・集合研修なども実施。中途採用でも「同期」という存在を持つことで、入社後の孤独感を解消しながら会社への理解を深められる工夫をしています。

このような取り組みの結果、早期退職者の割合を抑えることに成功。エンゲージメントサーベイの「セルソースで働くことに満足している」メンバーの割合も20%程度増加しました。

(参考:『設立8年でプライム上場。入社後活躍の速度を上げ、早期離職の割合を抑えたセルソースのオンボーディング』)

社員のSNS発信で入社前に会社を知ることで離職率が大幅改善した『株式会社ベーシック』

株式会社ベーシックでは、従業員が個人のSNSアカウントを任意で取得し、全社的に発信を行っています。背景にあったのは、サービスに比べ社名の認知度が低く、入社後に「カルチャーにマッチしなかった」という理由で退職する例が目立っていたことです。

「何をしている会社なのか知られていない」という点に問題意識を持った同社は、SNSを活用して、自社の理念やカルチャーなどを発信。それぞれの従業員が、業務の得意分野やプライベートについてなど自由に発信し続けたことで、社名が知られるようになりました。会社の認知度が上がるとともに、自社のカルチャーにマッチする可能性が高い人の応募が増加して、内定承諾率が改善。離職率も、最も高かった時期と比較して3分の1にまで低下しているそうです。

(参考:『採用広報の決定版。社員のフォロワー数は合算6万人、内定承諾率と離職率を大幅改善するSNS活用法』)

離職防止を行わないことによるリスク

従業員の離職対策を行わないと、次のようなリスクが発生する恐れがあります。

●優秀な人材が退職して企業の成長が鈍化する
●既存社員の負担が大きくなりモチベーションが低下する
●定期的に人材を確保する必要がある
●採用・教育コストを損失する
●企業イメージが低下する

それぞれについて具体的に見ていきましょう。

優秀な人材が退職して企業の成長が鈍化する

ノウハウや経験が豊富な人材が退職すると、直接的な生産性の低下に加え、競争力も低下し企業の成長が鈍化する可能性があります。退職者が競合他社に転職した場合は、他社の企業力を向上させてしまうことにもなるでしょう。

既存従業員や新たに採用した人物が、退職する人物と同じようなスキルや経験を持つまでになるためには時間もコストもかかるため、優秀な人材の退職はその後の事業に大きな影響を及ぼすことになります。

コアとなる人材が流出しないように、「評価基準を見直す」「業務の質と量を調整する」「企業風土を変えていく」など、労働環境や制度を整備し直すことが重要です。

既存社員の負担が大きくなりモチベーションが低下する

離職防止対策を怠り、継続的に離職者が出てしまうと、慢性的な人員不足の状況に陥りやすいです。その結果、既存社員への悪影響が懸念されます。

退職者が担っていた業務を新たに担当することになった従業員の業務量や仕事へのストレスは増すでしょう。既存社員の「残業時間の増加」「モチベーションの低下」「心身の不調」を招くだけでなく、さらなる離職にもつながりかねません。

なお、「仕事のパフォーマンスが高い社員」や「重要な業務を担ってきた社員」が離職してしまった場合、既存社員への影響は極めて大きなものとなるでしょう。

定期的に人材を確保する必要がある

離職率が高いと、定期的に人材を確保しなければなりません。しかしながら、日本は少子高齢化に伴い労働人口が減少しており、採用は年々困難になっているため、確実に採用ができるとも限らないでしょう。また、採用活動を行う際には、以下のコストが発生します。

【外部に支払うもの】
●求人広告の掲載費
●人材紹介サービス会社への成功報酬
●オンラインツールの利用料
●会社説明会の会場費
●採用候補者の交通費・宿泊費 など

【内部で発生するもの】
●人事・採用担当者の人件費
●リファラル採用における既存従業員へのインセンティブ
●入社予定者のための会食費 など

厚生労働省が2022年に発表したアンケート調査によると、1件あたりの平均採用コスト(正社員)は、「民間職業紹介事業者(人材紹介サービス会社)」を利用した場合で平均85.1万円、「スカウトサービス」の場合では平均91.4万円となっています。人材を採用するたびに余計なコストをかけないためにも、離職を防ぐ工夫が必要だと言えるでしょう。

(参考:三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社『厚生労働省委託調査:採用における人材サービスの利用に関するアンケート調査 報告書』)
(参考:『採用コストの平均相場は?コスト削減の施策や計算方法を解説』)

採用・教育コストを損失する

公益財団法人東京しごと財団が発行する「早期離職防止ガイドブック(平成28年版)」によると、入社3年以内の早期離職による企業の損失額は、前述の採用や教育にかかった費用のほか、退職までに支払った賃金や社会保険料なども含めると、1人あたり約800万円にも及ぶそうです。

その間の労働で従業員が自社にもたらす利益があるとしても、かけたコストを全て回収することは不可能でしょう。損失を発生させず事業を存続させるには、在職者の離職を防いでリソースを確保することが不可欠です。

(参考:公益財団法人東京しごと財団『早期離職防止ガイドブック(平成28年版)』)

企業イメージが低下する

離職防止対策を怠ると、企業イメージの低下も懸念されます。

インターネットの普及により、人々は企業の評判を口コミサイトなどで簡単に入手できるようになりました。「退職者が多く、頻繁に人材を募集している」「新卒入社者の約半数が1年以内に辞めている」といった情報が広まると、世間から「離職率が高い職場」と認識され、企業イメージが低下します。たとえ労働環境には問題がなかったとしても、「この会社はブラック企業だ」と誤解される可能性もあります。「取引先からの信用を失う」「新規顧客を獲得しにくくなる」「求人を出しても、応募が集まらなくなる」といった事態にも陥りやすくなるでしょう。

(参考:『仕事を辞める人の前兆とは?退職を考える5つの理由や対処方法について解説』)

離職する可能性のある社員の特徴

離職する可能性のある社員には、以下のような特徴が見られることがあります。

●仕事の生産性が低下する
●社内でのコミュニケーションが少なくなる
●仕事を早めに終わらせるようになる

退職について、上司や同僚に相談せず1人で悩んでいる場合は、業務に集中しにくく、「時間がかかる」「ミスが増える」など、生産性が下がっている場合があるでしょう。また、「注意をしても反省の色が見えない」「新しい業務を避ける」「社内のコミュニケーションに消極的」など、今までと違う言動が見られる場合は、心理状態に何らかの変化が起きていると考えられるため、早急にその原因を把握することが大切です。

ただし、体調不良や家庭の事情など、退職を検討している以外の理由で上記のような様子が見られるケースもあります。まずは話を聞き、話の内容に応じて適切にフォローしましょう。

(参考:『仕事を辞める人の前兆とは?退職を考える5つの理由や対処方法について解説』)

離職の主な原因8種類

離職に至る原因は人によってさまざまではありますが、主に以下の8つに分けられます。

8つの主な離職原因

●給与に不満がある
●労働条件に不満がある
●人間関係のストレスを抱えている
●やりたいことと実際の業務にギャップがある
●お手本になる上司や先輩がいない
●過剰なプレッシャーをかけられている
●キャリア形成が見込めない
●社風になじめない

早期離職を防ぐには、これらを解消することが重要です。自社の制度に社会の変化や従業員の声を反映して、働きやすい職場環境を整備することが、離職予防につながります。既に退職の意思がある従業員でも、会社側が柔軟に対応することで引き続き自社で働いてもらえることもあるので、無理のない範囲で対応を検討しましょう。

(参考:『離職の主な原因8種類をまとめて紹介!企業が取るべき対策もあわせて解説』)

まとめ

企業が離職防止対策を怠ると、採用コストが損失となるだけでなく、「成長が鈍化する」「既存社員の負担が大きくなりモチベーションが低下する」「企業イメージが低下する」などが懸念されます。企業においては、退職の予兆を見逃さず早い段階でフォローするとともに、自社における課題を見極めて効果的な施策を実行に移し、人材流出を防ぐことが重要です。

今回紹介した企業事例も参考に、さまざまな取り組みを検討・実施して、離職防止につなげましょう。

(制作協力/株式会社mojiwows、編集/d’s JOURNAL編集部)

原因から見直せる対策を紹介!離職防止の施策・手法まとめ

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