【弁護士監修】ポジティブアクションとは?具体例や取り組み方について解説【求人票の書き方資料付き】

第一東京弁護士会労働法制委員会、日本CSR普及協会(雇用労働専門委員)、経営法曹会議等に所属。経営者側労働法を多く取り扱い、労働審判・労働訴訟等の係争案件、団体交渉(組合・労働委員会)、労災(行政・被災者対応)、労務DD対応を得意とする。
経営課題を抽出し、依頼者のニーズを踏まえたベストプラクティスの提案を心掛ける。
主著に『労働行政対応の法律実務』(中央経済社 共著)、『「働き方改革実行計画」を読む』(月刊人事労務実務のQ&A 2017年7月号 日本労務研究会 共著)など。

ポジティブアクションについて
逆差別には当たらないのか?
ポジティブアクションの取り組み事例
ポジティブアクションに取り組まない『デメリット』とは?
ポジティブアクションへの取り組み方について
ポジティブアクション採用を行う際のポイント

固定的な男女の役割分担意識を背景に生じている男女の差を解消するために、個々の企業が自主的に行う取り組みである、「ポジティブアクション」。「具体的に、どのような取り組みを行えばよいのか」「どのようなことに注意する必要があるのか」などを知りたい経営者や人事担当者も多いのではないでしょうか。今回は、ポジティブアクションの概要や取り組み事例、ポジティブアクション採用を行う際のポイントなどを紹介します。

ポジティブアクションについて

徐々に、社会的にも認知されるようになってきた「ポジティブアクション」。女性が活躍できる社会の実現に向け、今後、ポジティブアクションを実施する企業も増えていくことが予想されます。ポジティブアクションの定義や歴史について、見ていきましょう。

ポジティブアクションとは

「ポジティブアクション」とは、広義では、実質的な平等・機会均等を実現するために、社会的・構造的な差別によって不利益を被っている者に対して講じる暫定的な措置を意味します。「女性」や「障がい者」「人種的なマイノリティー」などが、ポジティブアクションの対象となります。格差を解消するための取り組みは世界的に行われており、アメリカやカナダ、オーストラリアなどでは「アファーマティブ・アクション」とも呼ばれています。

日本の企業におけるポジティブアクションは、主に「女性」を対象としたものです。対象を「女性」に絞った場合、ポジティブアクションは、固定的な男女の役割分担意識を背景に生じている男女の差を解消するために、個々の企業が自主的に行う取り組みを意味します。雇用や労働環境における男女の差を解消し、女性が活躍できる場を広げていくために各企業が行う取り組みとも言えるでしょう。

今回の記事では、「女性」を対象としたポジティブアクションについて、紹介していきます。

ポジティブアクションの必要性

「男女の機会均等」や「共同参画」の推進を任務とする「内閣府男女共同参画局」は、以下の3つの観点から、ポジティブアクションの必要性を述べています。

ポジティブアクションの必要性

①高い緊要度
②実質的な機会の平等の確保
③多様性の確保

(参考:内閣府男女共同参画局:『ポジティブ・アクション』)

「高い緊要度」は、他の先進諸国と比べて女性の参画が低い水準にあることを背景としています。「実質的な機会の平等の確保」の背景には、根強い固定的性別役割分担意識により生じている、個人の能力・努力によらない格差があります。また、「多様性の確保」により多様な人材の発想・能力が活用できるようになれば、民間企業の「組織運営の活性化」や「競争力の強化」につながります。

その歴史と近年の状況について

ポジティブアクションの歴史をたどるには、男女雇用機会均等法における「ポジティブアクション」や「女性のみ・女性優遇」採用に関する項目の変遷を知っておく必要があります。

男女雇用機会均等法の変遷

「ポジティブアクション」に関する規定 「女性のみ・女性優遇」採用に関する規定
1986年新法施行 規定なし 規定あり
1999年改正法施行 事業主の取組に対する国の援助の規定あり 女性差別として原則禁止
※女性を対象としたポジティブアクションは可能
2007年改正法施行 事業主の取組やその開示に対する国の援助の規定あり 性差別として原則禁止
※女性を対象としたポジティブアクションは可能
2017年改正法施行 同上 同上

1986年に施行した男女雇用機会均等法では、女性の雇用拡大のため「女性のみ・女性優遇」採用は認められていましたが、「ポジティブアクション」に関する規定はありませんでした。しかし、「女性のみ・女性優遇」採用が進んだ結果、「女性の職域固定化」や「男女の職務分離」といったことが問題に。そこで、1999年に施行された改正法では、「女性のみ・女性優遇」を原則禁止とし、代わりに、「ポジティブアクション」に関する規定が設けられました。また、2007年に施行された改正法では、「ポジティブアクション」に関する規定を拡充。2017年施行の改正法でも、「ポジティブアクション」に関する項目に変更はありません。

こうした法改正の流れからも、女性の活躍推進が日本にとって重要な課題となっていることが見て取れます。

逆差別には当たらないのか?

「女性」を対象にポジティブアクションを行うことは、男性に対する「逆差別」とはなりません。男女雇用機会均等法では、労働者に対し性別を理由として差別的取り扱いをすることを原則禁止していますが、第8条の規定により、ポジティブアクションの実施が認められているためです。

男女雇用機会均等法第8条(一部抜粋)

(女性労働者に係る措置に関する特例)
事業主が、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保の支障となつている事情を改善することを目的として女性労働者に関して行う措置を講ずることを妨げるものではない。

男女雇用機会均等法第8条には、過去の女性労働者に対する取り扱いなどにより生じている「男女労働者の間の事実上の格差」を解消する目的で行う「女性のみを対象にした取組」や「女性を有利に取り扱う取組」については法に違反しない旨が明記されています。ポジティブアクションの実施は「逆差別」には当たらず、男女雇用機会均等法違反にも当たらない、と覚えておきましょう。
(参考:女性の活躍推進協議会『ポジティブ・アクションとは?』)

ポジティブアクションの取り組み事例

実際に、ポジティブアクションとして、どのようなことに取り組むとよいのでしょうか。ポジティブアクションの取り組み事例を紹介します。
(参考:厚生労働省『Do! ポジティブ・アクション』)

女性比率の向上

女性比率の向上

まず挙げられるのが、「女性比率の向上」です。女性が活躍できる場を広げるため、社内における男女の比率をなるべく「5:5」に近づけるようにしましょう。そのためには、選考方法の見直しを行う必要があります。例として、「各部署における女性比率の数値目標を念頭に、選考を行う」「人事・採用担当者に女性を含める」といったことが挙げられます。併せて、採用活動における女性応募者の数を増やすことも重要です。「社内で活躍している女性社員を紹介する」「女性が長期的に働きやすい制度・環境を整えていることをアピールする」といったことを行うとよいでしょう。

管理職登用率の向上

女性が活躍できる場を広げていく方法としては、「管理職登用率の向上」も効果的です。帝国データバンクが2020年7月に実施した『女性登用に対する企業の意識調査(2020年)』によると、2020年における「女性管理職(課長相当職以上)比率」は全国平均で7.8%でした。また、管理職に占める女性の割合が1割に満たない企業が、全体の8割弱であることもわかっています。女性の管理職を増やすためには、「昇進・昇格基準および人事評価の明確化」や「上司や経営層の意識変容」「研修、育成などのキャリア開発施策の実施」「ロールモデルとなる人材育成と普及」などを行う必要があります。
(参考:『【事例付】女性管理職比率を上げると5つのメリットが!現状と企業の対応事項を解説』)

女性の職域拡大

「女性の職域拡大」も、ポジティブアクションの一つです。企業によっては、「この職種/部署で働くのは、基本的に男性のみ」というように、特定の職種・部署に就ける性別を限定しているところもあるかもしれません。「女性の職域拡大」とは、こうした状況を見直し、従来は男性に限定されていた職種・部署に女性も就けるようにすることを意味します。具体的には、「性別を問わず使いやすい設備・機器を導入する」「業務内容やマニュアルなどの見直しにより、性別を問わず作業しやすい環境を整える」といったことが挙げられます。実際、こうした取り組みの実施により「物理的な労働環境」を改善することで、従来は男性の割合が高かった「営業職」「専門技術職」「技術工」などの職種に就く女性を増やし、女性が活躍できる場を広げることに成功した企業もあるようです。

就労継続に向けた両立支援

長い社員のキャリアの中で、ライフスタイルの変化によって、働き方を変えたい社員も少なくありません。例えば、「妊娠・出産や育児を機に働き方を変えたい」、「両親の介護のため時短勤務を行いたい」あるいは「キャリアを醸成したいのでもっと活躍したい」などと考える社員もいることでしょう。ポイントは「就労継続に向けたワークライフバランスの実現・支援」です。そこで、産前産後休暇や育児休業の期間延長制度の見直しや、短時間勤務制度の期間延長や利用条件の緩和、さらには有給を時間単位で取得できる、時間単位年休制度などを導入・改善して職場環境の改革なども必要となるでしょう。併せて、これらの制度を取得・活用しやすい雰囲気もつくらなければなりません。具体的には、社内全体に対して制度を周知し、取得・活用への理解を促すといった活動が推奨されています。
(参考:『【5分でわかる】育児休業制度とは?延長の場合や給付金など、企業が対応すべき申請6つ』『【弁護士監修】短時間勤務制度を育児や介護、通院等で正しく運用するための基礎知識』『【3分でわかる】時間単位年休とは?導入方法は?労使協定の書き方や運用ルールを解説』)

紹介した4つの取り組み事例は、「全てを必ず、実行しなければならない」というものではありません。自社の状況を踏まえた上で、無理なく実行できそうなものから取り組んでいくとよいでしょう。

ポジティブアクションに取り組まない『デメリット』とは?

ポジティブアクションを行うことにより、企業によっては、「優秀な人材の確保」や「社内全体の活性化」「新たな価値観やイノベーションの創出」といったメリットが期待できるようです。反対に、ポジティブアクションに取り組まなかった場合には、どのような問題が生じる可能性があるのでしょうか。ポジティブアクションを行わないことによるデメリットについて、紹介します。

優秀な人材の確保が困難になるリスク

日本では最近、「ワークライフバランスを重視した働き方の多様化」や「コロナ禍によるリモートワークの導入」といった動きが見られるようになってきました。そうした中、就職・転職を考える人たちにとって、「休みの取りやすさ」や「勤務時間の柔軟さ」「リモートワークの実施可否」などが応募先を選ぶ際の判断基準の一つとなっています。性別を問わず働きやすい環境が整っていないと、採用活動において、競合企業よりも応募者から選ばれにくくなってしまう可能性があります。その結果、優秀な人材の確保が困難になるでしょう。それにより、短期的には「採用活動にかかる期間・コストの増大」、中長期的には「企業の生産性低下」や「事業規模の縮小」などが予想されます。

優秀な人材を引き留めておくことが困難になるリスク

コロナ禍においても、依然として中途採用市場は活況の様相を呈しています。そのため、自分のビジネススタイルに合った働きやすい職場や成長を期待できる職場などを求めて、転職活動を視野に入れ始める社員も少なくありません。社内の制度改革や環境整備が進んでいなければ、キャリア形成への意欲やワークライフバランスの実現などを意識している社員に働き続けてもらうのは難しいと言えるでしょう。なぜなら、彼らの意欲をつなぎ留めておく魅力的な土壌が醸成していないからです。

社員のモチベーションの低下

労働環境の改善に向けた取り組みを行っていない企業の多くは、「現状維持」「変化を嫌う」傾向が見られます。こうした企業の体制は、中で働く社員のモチベーションへも影響します。変わらない毎日や環境が次第に社員の成長意欲を奪い、やがて会社全体の生産性にも悪影響を与えてしまうからです。「毎日、同じ仕事を淡々と進めたい」「業務や部署、役割などは変わらないままがよい」と思う社員のいる会社は危険信号です。

こうしたデメリットを生じさせないためにも、ポジティブアクションに積極的に取り組んでいきましょう。

ポジティブアクションへの取り組み方について

ポジティブアクションをどのように進めていくとよいのか、ポジティブアクションへの取り組み方を、順を追って、紹介します。
(参考:厚生労働省『Do! ポジティブ・アクション』)

ポジティブアクションへの取り組み方について

【STEP1】現状分析・問題点の発見

まずは、現状を分析し、問題点を発見する必要があります。自社の「社内全体および各部署・職務における男女比」や「管理職に占める女性の割合」「出産・育児などに伴う女性の離職率」「育休や短時間勤務制度などの利用状況」といった指標を分析し、改善すべき課題を見極めましょう。客観的なデータの活用に加え、社内アンケートや個別のヒアリングなどにより現場の生の声を集めることも、現状分析・問題点の発見には効果的です。

【STEP2】目標と取り組み計画の策定

問題点を明らかにすることができたら、次に、「何を目標にポジティブアクションに取り組むのか」「具体的に、どのような取り組みを行うのか」など、ポジティブアクションの目標と取り組み計画を策定します。目標については、「社内における女性の比率を●●ポイント高める」「女性の管理職を●●人増やす」「出産・育児などに伴う女性の離職率を●●ポイント下げる」といったような具体的な数値目標を設定しましょう。その上で、その目標を達成するための、具体的な取り組み内容を考えます。

【STEP3】具体的取り組みの実施

ポジティブアクションの取り組み計画が定まったら、それに沿って取り組みを実施していきます。時には、計画通りに進まなかったり、想定外の出来事が起こったりすることもあるかもしれません。そうした場合には、計画をそのまま無理やり進めるのではなく、一旦ストップし、改めて現状を見つめ直すことをおすすめします。そうすることで、新たな課題に柔軟に対応でき、目標の実現に近づけるでしょう。

【STEP4】具体的取り組みの振り返りと見直し

取り組み開始から一定の期間が経過したら、取り組みを振り返り、見直します。「どのような成果が出たか」「どのような面で変化が見られたか」「当初の目標をどの程度達成できたか」など、効果測定をしましょう。結果を社内に共有することは、ポジティブアクションへの理解・協力を促すことにつながります。併せて、「望んだ成果を得られた/得られなかった理由」を検証することも重要です。振り返りを基に改善点を洗い出し、より自社にマッチする取り組みへと変えていきましょう。

ポジティブアクション採用を行う際のポイント

ポジティブアクション採用を行う際のポイントを「求人票作成時」と「面接時」に分けて、紹介します。

求人票作成時のポイント

ポジティブアクション採用の求人票を作成する際は、求人タイトルに「ポジティブアクション求人」と明記します。男性の応募を受け付けていない場合には、その旨も求人票に記載しましょう。また、「なぜ、ポジティブアクション求人を出したのか」といった募集の背景について記載することも重要です。この他、可能であれば、「女性活躍に関する情報」や「働きやすさに関する情報」も記載できるとよいでしょう。

求人票作成時のポイントを詳しく知りたい方は、こちらの資料をご確認ください。

面接時のポイント

ポジティブアクション採用に限らず、そもそも面接で意識する必要があるのは、「応募者の基本的人権を尊重すること」と「応募者の適性と能力のみを選考の基準とすること」の2点です。これらの観点から、「本籍・出生地に関すること」や「家族に関すること」といった本人に責任のない事項および、「宗教に関すること」や「人生観・生活信条などに関すること」といった本来的に本人の自由であるべき事項については、聞いてはいけないとされています。加えて、女性に限定しての質問は、男女雇用機会均等法の趣旨に違反する採用選考となる可能性があります。ポジティブアクション採用の場合には、「つい、女性に対して聞いてしまいがちなNG質問」も聞かないようにしましょう。
(参考:『【弁護士監修】意図せず法律違反に…。面接で聞いてはいけないこと』)

女性に聞いてしまいがちなNG質問の例

・「今、お付き合いしている方はいますか?」
・「結婚のご予定はありますか?」
・「出産のご予定はありますか?」
・「結婚、出産しても働き続けられますか?」
・「何歳ぐらいまで働けますか?」
・「女性が、お茶くみや掃除をすることをどう思いますか?」 など

(参考:厚生労働省大阪労働局『就職差別につながるおそれのある不適切な質問の例』)

まとめ

ポジティブアクションの取り組みには、「女性比率の向上」や「管理職登用率の向上」「女性の職域拡大」「就労継続に向けた両立支援」があります。ポジティブアクションを実施する際には、まず現状分析をした上で、目標や取り組み計画を策定しましょう。取り組み実施後に、振り返りや見直しをすることも重要です。求人票作成時や面接時のポイントを意識しながらポジティブアクション採用を進め、女性の活躍できる場を拡大していきましょう。

(制作協力/株式会社はたらクリエイト、監修協力/弁護士 藥師寺正典、編集/d’s JOURNAL編集部)