1on1だけじゃない!新年度や新規入社者フォローに取り入れたい「リモートオンボーディング」最新事例

株式会社コーチェット

代表取締役社長 櫻本真理(さくらもと・まり)

モルガン・スタンレー証券、ゴールドマン・サックス証券を経て、2014年5月にIT×メンタルヘルス領域でサービス開発を行う株式会社cotreeを設立、代表取締役に就任(現任)。2020年1月、「人を生かしチームを育てるリーダーを育てる」マンツーマンプログラムの株式会社コーチェットを設立、代表取締役に就任(現任)。起業家向けのエグゼクティブコーチ・システムコーチとしても活動。

「職場全体」のコミュニケーションを促進する仕掛け
リモートオンボーディングの前提となる「小さな習慣」
会話と議論の間にある「深い対話」の機会を作る

新年度が始まり、人事に携わる方は4月入社者のオンボーディングに注力している真っただ中ではないでしょうか。

「五月病」という言葉もあるように、この時期のフォローはとても重要です。パーソルキャリアが中途入社者を対象に実施した調査(※)では、転職後に不安を抱えていた時期として「入社から1カ月以内」と答えた人の割合が86.8%に。不安の要因としては上位から順に「人間関係がうまくいくか」「仕事についていけるか」「職場(社風)に馴染めるか」が挙がっていました。

(※)出典:転職1カ月、「職場に溶け込む」ためにしたい5つのこと

ただ、リモートワークを交えた環境下でのオンボーディングにはまだまだ課題が多いのも事実でしょう。1on1など、上司・部下のコミュニケーションを促進する施策を導入していても、職場全体を巻き込んだリモートオンボーディングには不安があるという企業も多いのでは? 

そこで今回は、2020年に「メンバーの弱みや本音と向き合うオンボーディング」を語っていただいた株式会社cotree/株式会社コーチェットの代表取締役社長・櫻本真理さんに再取材。リモートオンボーディングの最新事例を聞きました。

「職場全体」のコミュニケーションを促進する仕掛け

——リモートワーク環境下、かつ新規入社者が増える4〜5月にかけてのオンボーディングについて、櫻本さん自身はどんな課題意識をお持ちですか?

櫻本氏:現在コーチェットでは、メンバー全員がリモートワークを継続しています。3カ月に1度リアルで集まる以外はオンラインでのやり取りが中心。新規入社者のオンボーディングも、ほぼリモートで進めています。

遠方や海外に住んでいるメンバーともコミュニケーションがしやすいというメリットがある一方で、入社初期のオンボーディングにはやはり気を使いますね。ただ、メンバー全員を巻き込む施策を展開していることから、そこまで苦労は感じていません。実際、リモートワークに移行する前と比べても、メンバー同士の関係値に差はないと認識しています。

——ぜひ具体的な取り組み内容を教えていただきたいです。

 

櫻本氏:たとえば「ウェルカムランチ」。新しい人が入ってきたらオンラインでのランチ会を設定し、調整できる限り全メンバーに入ってもらって、新規入社者を中心に話すようにしています。時期にもよりますが、各回十数人が参加していますね。

また「1on1ラリー」という制度も設けています。上司と部下の関係だけでなく、メンバー全員が新規入社者と個別に1on1を行い、互いを知り合う機会としているんです。どんなことが好きなのか、何が得意で何が苦手なのか。互いに自己開示して、前職で得た経験や価値観を理解することで、「この人とはこんなプロジェクトができそう」「この人がハッピーになるためにはこんな貢献ができそう」といったアイデアが浮かぶようになります。

1年ほど前には「社内ラジオ」も始まりました。有志メンバー3人がパーソナリティーとなり、毎週金曜に配信してくれています。テーマは「好きなアニメ」などのゆるいものから、「社内の新プロジェクト紹介」といった真面目な内容までさまざま。新規入社者も含めたコミュニケーションの活性化に寄与してくれているので、この活動は業務時間内に取り組めるようにしています。

弊社ではないのですが、最近聞いて素晴らしいなと感じた事例として、オンボーディングのプロセスをすごろくのようにして、ひとつひとつをクリアしていく達成感を仕込んだ、という話を聞きました。

共通するポイントは、義務として参加するのではなく、ひとつひとつを楽しめる時間にすることです。ただオンラインで集まるだけでも意味はあると思いますが、何かしらのテーマ設定や楽しさがないとメンバーとすれば期待が持ちづらく、参加率が徐々に下がってしまいます。

リモートオンボーディングの前提となる「小さな習慣」

——いずれの取り組みも「相互理解」が重要なポイントだと感じました。

 

櫻本氏:人間は「わからないもの」に不安を感じる生き物だと思います。途中でジョインした人にとっては、組織が歩んできた歴史や、その中で形作られてきた暗黙のルールがわからずに不安を感じることもあるでしょう。どんなことが評価されるのか、場合によってはどんなタブーがあるのか。中途入社だからこそ、そうしたことを知る場があることが重要です。そして、それを知っていくプロセスを通じて関係性が築かれています。

——とは言え、コミュニケーションの機会を設けるだけで相互理解の促進につながるのでしょうか。ウェルカムランチや1on1ラリーといった取り組みを導入しても、「最初から打ち解けて話すのは難しい」と悩む人が出てきそうです。

櫻本氏:そうですね。補助線が全くない状態で会話の時間だけをつくっても、慣れない人には難しいかもしれません。こうした取り組みに関しては、当社ではコーポレートサクセスチームのメンバーを中心にテーマを考えたり、振り返りの工夫をしてくれたり、進行を担ってくれています。

また、こうした取り組みを効果的に進めるためには相互に顔を合わせる接点を多く持つことも重要で、日ごろからコミュニケーションの小さな習慣を持つことが大切だと考えています。当社の場合は「毎朝15分のチェックイン」と、「毎週金曜のチェックアウト」がそれに当たります。

チェックインは一般的な朝礼のように連絡事項や会社のトピックスなどを共有する場ではなく、その日のテーマを決めて、チーム横断でコミュニケーションをとる場です。また、週5回のうち2回は、誰でもテーマを自由に設定して話せるようにしています。たとえば先日はあるメンバーが「最近、私が『いい感じだね』と人から言われるようになった理由」というテーマで話してくれました。「こんなことに悩んでいるのでみんなに相談したい」とか、「入社〇年の振り返り」などもあります。

チェックアウトでは、金曜日の終業時間である17:30にみんなで画面上に集まります。ここでも有志担当がテーマを設定してくれているんです。たとえば「今日は〇〇の日です」といった時事的な話題をみんなに投げ掛け、それにひも付けた内容で1週間の振り返りをしていくような内容です。いろいろなテーマがあって、毎回笑いにあふれていますね。

——入社して間もない人にとっては、チェックアウト時の振り返りによって、1週間がポジティブな気持ちで終えられるので、メンタル面にも良い効果がありそうですね。

私自身は、金曜のチェックアウトが1週間の中でも特に幸せな時間です。その週に起きた良いことや、誰かの成長がわかるエピソードをシェアしてくれる人が多く、話しているときのみんなの顔がとても穏やかだから。「今週も頑張ったね」と確認し合い、仲間意識を確かめ合える貴重な時間なんですよね。

チェックインやチェックアウトは、大きな部門から小さな組織、ユニット単位でもすぐに取り入れられるものなので、自組織に合った方法でやれば、良いコミュニケーションのきっかけになると思います。

会話と議論の間にある「深い対話」の機会を作る

——コロナ禍をきっかけにリモートワークが一般化し、コミュニケーションの課題が顕在化したことで1on1などの取り組みを導入する企業が増えました。それでもオンボーディングの難しさを感じる企業は多いと思います。櫻本さんは、どこに原因があると考えますか?

 

櫻本氏:コミュニケーションには「会話」「対話」「議論」の3つの段階があります。何げないコミュニケーションが中心の「会話」が減ったことを問題視する企業は多く、1on1を実施したり、意図的に雑談の機会を増やしたりするなどして取り組んでいるでしょう。

「議論」については、実はリモートワークによってやりやすくなっている傾向があると感じます。オンラインでは時間の区切りが明確なので、事前に議論のテーマを明らかにしなければいけません。自然と会議の効率化が進んでいるのではないでしょうか。

それでもリモートワークでのオンボーディングが難しいのは、会話と議論の間にある「対話」が不足しがちになるからだと考えています。対話とは相互理解のためのコミュニケーション。相手がどんな価値観を持ち、どんな強みがあるのかを知るためのやり取りです。相手がどんな人かわからないままでコミュニケーションを進めると、どこかで齟齬が生まれたり、認識のずれが起きたりします。中途入社者が多い企業は必然的に人材の多様性が増すため、「深い対話の機会」をつくることを強く意識するべきだと思います。

「対話」が足りないままにどんなに議論をしても、背景理解が足りなかったり、信頼関係が生まれづらかったりして、良い「議論」にはつながりません。コミュニケーションの「量」よりも「質」に、チームの強さやしなやかさはあらわれます。

——新年度に当たり、新規入社者のオンボーディングに奮闘している人事・採用担当者も多いと思います。人事・採用担当者自身が健康的に、前向きにこの時期と向き合っていくためのアドバイスをいただけるとうれしいです。

櫻本氏:人事・採用担当者には今や、採用だけでなく制度づくりや文化づくりなどの重要な役割が期待されるようになっています。その入り口となるオンボーディングにプレッシャーを感じている人も多いかもしれません。

ポイントは、職場全体を巻き込んでコミュニケーションの仕組みを動かしていくことではないでしょうか。当社の場合は人事専属のメンバーはいませんが、仮に専任の人事・採用担当者がいて、その人だけが頑張っても、現在の取り組みがうまく進むことはなかったと思うんですよね。コーポレートサクセスのメンバーや、有志のメンバーが、「誰か手伝って」と他チームのメンバーを巻き込んだり、楽しみながらやっている様子を周囲が見て巻き込まれたくなったりしていることが大きいように感じます。

人の可能性を引き出し、みんなが生き生きと働ける職場をつくるために、社内のメンバーをたくさん巻き込んでいくのが、担当者にとっても周囲にとっても良いことだと感じます。そのために重要なのは、やはり相互理解を起点とする信頼関係づくりと、その前提となる接点を多く持つことです。まずは人事・採用担当者自身が自己開示し、「こんなことに困っているんだよね」と打ち明けていけば、問題意識を同じくする仲間との助け合いが広がっていくのではないでしょうか。

 

取材後記

「リモートオンボーディングの施策を進める際には、まず人事・採用担当者がその場を楽しむことが大切かもしれませんね」。取材の中で、櫻本さんからはそんな示唆もいただきました。リモートワークでは上司・部下など“縦串”のコミュニケーションに偏りがちですが、職場全体を巻き込むリモートオンボーディングにおいては“横串”のコミュニケーションが重要。人事・採用担当者がフラットな立場でコミュニケーションの場に参加し、対話を楽しむことで、組織に横串を刺すという重要な役割を果たすことにつながるのではないでしょうか。

企画・編集/海野奈央(d’s JOURNAL編集部)、野村英之(プレスラボ)、取材・文/多田慎介、撮影/中澤真央