【ハイクラス人材を獲得したい】組織をけん引するリーダーの口説き方。目指すMISSIONを明確に――

d’s JOURNAL編集部

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通常のメンバークラスの採用とは一線を画すハイクラス人材。その採用に注力する企業や組織が増えています。海外展開やグローバル化、新規事業の推進、M&Aの拡大など、企業の成長を支え、強いリーダーシップを発揮できる、いわゆる即戦力人材が必要とされている背景があるようです。そうした彼らの活躍により、より盤石な経営体制を築いたり、新規事業展開を成功させたり、売上・シェアを大きく拡大させた組織も少なくありません。今回は、ハイクラス人材が求められる社会背景やその採用手法などを紹介・解説していきます。

年収600万円以上のハイクラス人材が求められている理由(ワケ)

コロナ禍における社会経済の影響で、昨今では転職人材の流動性も先が読めなくなっている時代です。そんな中、グローバル化、DX導入などをきっかけにして、新規事業に活路を見出そうとする企業や、自分たちの目指したい実績や売上目標に向かって推進していく企業は、リーダーシップを発揮してこれらを強くけん引してくれる人材を必要としています。いわゆるハイクラス層といわれる人材です。

ハイクラス人材とは、経営層と現場をつなぐ存在であり、彼らは主に以下のような分類に大別されています。エグゼクティブ層へつながる職種として経営企画、マーケティング、広告宣伝・営業、営業推進、営業企画、コンサルタント(人事、戦略、会計、IT)などを経験したポテンシャル層や、専門性の高い職種として、財務、会計、経理、総務、法務、人事、資材購買、IT系エンジニア、技術職、クリエイター(Web、その他)、金融、生産管理、商品開発、不動産管理などを経験した専門職層であります。

はじめからマネジメント業務やリーダー、エキスパートポジションでの活躍を期待されているため、雇用側である企業も、彼らを採用して自社のプロジェクトや事業の成長などを推進してもらうため、しっかり採用戦略を立てて採用しています。年収帯は、それぞれの業界や職種によって定義づけが異なりますが、概ね600万円以上のステージで活躍する人材です。

では、いまなぜハイクラス人材の採用に注目が集まっているのか。実はこれまでの日本の企業や組織では、グループ間異動はあるものの、管理者層や経営者や役員といった経営者層が、企業間を渡り歩くというケースは極小でした。しかし、近年、海外進出や新規事業展開、経営体質の変革やDX推進によるビジネススタイルの変化などで、より豊富な経験と横断的なスキルを持ち合わせた「外部からの風」が必要となってきています。これらの意向が高まってきたことが要因の一つのようです。

なぜ仕事や会社風土を熟知している既存社員に、そのけん引役を任せないのか

ちなみにハイクラス人材は、どんな転職手段 を活用して、新たなステージを目指しているのでしょうか。当然、一般的な求人メディアなどは利用せず、人材紹介サービスやダイレクトソーシング、リファラルなどを活用して企業間移動をしているようです。世の中からその辣腕を期待される彼らは、自分の作業負荷が高い求人メディアはあまり活用しない。職位が上位の人ほど時間がないので、マッチング精度に期待して、特に人材紹介サービスに頼りきりになる傾向が現れています。

彼らには、これまでに培ったスキルや経験、人的ネットワークなどを活かし、通常メンバーとは違うハイパフォーマーとして活動してもらう。しかも現場と経営者層の間をつなぐ、現場寄りのリーダーとして。しかしながら、ここでひとつの疑問が生まれませんか。それは何といっても仕事や会社風土を熟知している既存社員に、そのけん引役を任せないのか、ということです。自社の生え抜きメンバーや新卒であるプロパー社員に、自社の手綱を預けた方が理にかなっているのではないかと思われます。

この点について、パーソルキャリア エグゼクティブ&ハイキャリア事業部の勝又彰氏は、以下のように説明します。
「既存メンバーや生え抜きの社員に活躍してもらおうという発想は、誰もが思い浮かべる発想です。それはよくわかります。ですが、実はひとつ落とし穴があり、既存社員や古参メンバーであればあるほど、新しいイノベーションやクリエイティビティを生みにくいという傾向も確認されています。

彼らは会社の風土に染まっているがため、同じ仕事を早くこなすことが得意です。裏を返すと、会社特有の仕事の進め方を熟知していることが仇となり、早く成果や実績を作れるものの、実際は金太郎飴のように同じような成果しか生み出せないことが多いのです 。

外部からリーダーを採用するという点では、ここがもっとも重要なポイントになります。つまり、これまでのやり方を踏襲しない新しいやり方、新しい風で、会社の細胞を活性化していくという発想が大事なのです」。

会社をけん引するリーダーの採用。自社を認知してもらい、集まってもらうために

繰り返しになりますが、ハイクラス人材は会社や事業をけん引できるリーダー的存在。現在在籍している企業や組織にとっても、主要人物となっている可能性が高いでしょう。そんなハイクラス人材に自社を認知してもらい、そして入社意思を固めてもらうためには、採用活動においても越えなければならないいくつかのハードルが存在します。当然ですが、母集団形成のための工数は、通常の採用業務と違い、遥かに時間を掛けなければならないことを気に留めてもらうとよいでしょう。

まずはハード面。これはどんなスキルや経験が必要で、どんな活躍をしてもらうかを決める要件定義のこと。これに関しては、ジョブ型雇用を採用している会社で、ジョブディスクリプションをしっかりと作成していれば、入社後定着まで割合スムーズにクリアできる項目ではないかと思われます。また、ジョブ型雇用を採用していない会社においては、新たにジョブディスクリプションを作成して、採用したいポジションの要件を詳細かつ明確に定義すると良いでしょう。

次に、ソフト面。その人の持つ志向性や性格、社風へのマッチ度合いなど、対象の人物の志向性や性格を見ながら判断していく項目になります。これらは定量で測りづらいからこそ、社内でどのような人物像を採用したいのかをよく検討して決める必要があります。その際に有用なのが、「企業理念」や「経営指針」を策定する際に活用される、「VISION」「MISSION」「VALUE」といわれるフレームワークの利用です。

これらは、マネジメントの発明者として有名な、経営学者のピーター・F・ドラッカーが提唱した企業の経営方針の考え方が反映されています。特にMISSIONやVISIONについては、これらを達成するためにどのような行動をとるべきなのか、社員ひとりひとりの行動の指針となり、それが理想の社員の人物モデルとして当てはめられます。

そのためどんな人物像を採用したいのかは、これらのフレームワークを用いることで、おのずと自社に見合った人物像が浮かび上がってきそうです。この人物像を、採用したいハイクラス人材に当てはめていくとよいでしょう。

何をハイクラス人材にお願いするか、それが非常に大事な問題だ

ハイクラス人材の獲得は、採用活動の中身、つまり質が大事となります。せっかく採用した期待のハイクラス人材が、「社風に合わない」「これまでとやり方が違う」などの理由により、早期退職の憂き目に合ってしまっては誰も幸福にならない。内定や入社直後、オンボーディング(意味:早期の即戦力化を促し離職を防ぐ教育プログラム)までしっかりフォローする必要があるでしょう。

しかしながら、ハイクラス人材が、自社に入社してしっかり定着、そして活躍してくれるまでにかかる工数は莫大なもの。しかし、その工数を掛けるだけの価値は十分にあると言えます。では、どのように定着させていくのか。その際にいくつかのポイントを押さえておけば、入社後も問題なく活躍してくれると勝又氏は説明します。

「そのポイントとは、まず1つに採用候補者の意思決定の理由を探ることにあります。転職活動もストーリーがあります。一つ一つの過去の経歴を点ではなく一本のストーリーとして見ていくことで、志向性や経験、大事にしている価値観などが見えてきます。面接担当を任されている担当の方は、一つ一つの過去のストーリーの中で共通点がないか、というのを意識しながら聞くとよいでしょう。例えば、面接で過去の経歴や経験の話を聞く際は、それまでにいたった理由や背景なども聞くようにしたり、両者の話題の中で共通する価値観などを探っていくなど行うことです。

次に、「VISION」「MISSION」「VALUE」のフレームワークをお使いの企業であれば、中でもMISSIONを明確にして採用候補者に伝えてあげることです。具体的には、ハイクラス人材に実現してほしいこと、です。

課題や目的が明確であれば、それらを満たせる要件や経験を持ったハイクラス人材に振り向いてもらえて、入社に積極的になってくれるでしょう。例えば、3年の期間までに売り上げを120%成長させてほしい、この新事業を1年かけて柱事業の一つにしてほしい、などです。

与えるMISSIONが明確であればあるほどいい。彼らは自社の目指すべき目標や自身の目的に向かってそれを叶えにきているのです。ですから、目的や仕事の役割をハッキリさせるべきなのです。採用の現場では求人票やHP記載の 公になっている採用情報のほか、あまり伝えたくないネガティブ情報なども当然あると思いますが、ハイクラス人材を獲得し、入社後も長く活躍してもらうためには、相互理解が非常に重要ですので、そうした情報も含めて開示して、企業側が求めるMISSIONと、採用候補者側の目指す、目標・目的が双方合致するかをしっかり確認することが大事です 」。

こんなハイクラス人材採用は、失敗する

ハイクラス人材を無事入社させるだけでは終わりません。入社後ギャップをなくすためにも、さらに工夫が必要になりそうです。

「無事ハイクラス人材に入社してもらったが、早期に離職してしまった」――。これは早期退職の事例です。何が原因だったのでしょうか。実はハイクラス人材に関わらず、このような早期退職の悩みは多くの採用現場のあるあるネタですが、ハイクラス人材のよくあるミスマッチ事例としても、このような例が上がっています。以下は、早期退職・入社前辞退をしてしまったハイクラス人材の声です。

■「入社前後で金銭面や労働条件が違う」
■「面接を重ねたが会社の目指す方向性が理解できず入社を辞退した」
■「前職と仕事のやり方が違いすぎる」
■「会社の文化や風土が自分に合わない」
■「組織や文化が昔ながらで凝り固まっており、どうにも変革を興せそうにない」
■「特定プロジェクトを完遂するため入社したが、立ち消えとなり在職理由が無くなってしまった」

どうにも問題の根が深いようです。この課題に対して勝又氏は以下のように提言しています。

「相互の理解が深まらないのは、面接という場の持ち方を社内でも採用候補者の中でも目線合わせができていないからです。採用側は、ヒアリングと質問の時間配分などを見直して、どういう人をどんな目線で見ているかなどを担当者同士でしっかり統一すべきですし、求職者側はこれまでの仕事のやり方や考え方などをアップデートして臨んでいく必要があります。その両者のすり合わせの場が面接だと思っています。相互の理解のために、もっと面接の場を重要視すべきなのです」。

まとめ

ハイクラス人材の採用が活発化している現在。彼らの求めるキャリアややりがいに応え、かつ自社の成長にもしっかり貢献してもらう――。会社の体制や採用戦略もブラッシュアップして、競合他社に競り負けない採用力を身に着ける必要がある時代です。一方でハイクラス人材となり得る方は、ポテンシャル層を含めると約80万人いるといわれています。通常の採用活動とは、その工夫のポイントが違うハイクラス人材の採用。ハイクラス人材の獲得には、自社の明確な課題や目的を用意しておかなければなりません。それは自社の成長戦略にも通じるフレームワークではないでしょうか。ハイクラス人材の採用をブラッシュアップし、自社の成長やさらなる躍進のために積極的にハイクラス人材を求めてみてはどうでしょうか。

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取材・文/鈴政武尊、編集/鈴政武尊