事業の成長をけん引する「マーケティング」×「ハイクラス」人材を獲得する秘訣とは?

パーソルキャリア株式会社

ハイキャリア支援統括部 アシスタントマネージャー 堀川 舞(ほりかわ・まい)

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パーソルキャリア株式会社

ハイキャリア支援統括部 キャリアアドバイザー 田中 寿(たなか・ひさし)

プロフィール

商品・サービスの「売り方」が変化し続けている時代にあって、採用市場ではマーケティング関連職への注目が高まっています。パーソルキャリアによると、2019~2022年度にかけてマーケティング・商品企画・広告宣伝関連職の新規求人は増え続けており、特にその中で下限年収600万以上の求人においては2倍以上に増加しています。

「広告宣伝」「Webマーケティング」「商品企画・サービス企画」など、獲得競争が激しいハイクラス人材の採用を進めていくためには何が必要なのでしょうか。キャリアアドバイザーとしてハイクラス層のマーケティング領域の転職支援に携わる堀川氏と田中氏に、その傾向と対策を聞きました。

マーケティング領域のハイクラス人材が求める転職の条件・トレンド ~データ活用・副業〜

——マーケティング領域の採用市場の現状についてお聞かせください。

堀川氏:マーケティングという言葉が幅広い意味で使われていることもあり、職種を細かく分けていくと20を超える数となります。代表的なところではWebマーケティングや商品企画・サービス企画、販促企画、広告宣伝、広報など。この中でも現在、特に採用ニーズが高いのがWebマーケティングです。

時代が大きく変化し、どんな業界の企業も既存の商材を従来のやり方で売り続けることが難しくなってきました。マス広告からデジタルへと集客の手法が変わり、新たな顧客層を掘り起こしていく動きも加速している中で、Webマーケティングの経験・知見を持つ人材が引く手あまたになっている印象があります。

——転職希望者側のニーズや志向にはどのような傾向が見られるのでしょうか?

田中氏:ハイクラス人材の領域で言えば、転職を考えている人はこれまでの経験を活かしつつ、新たな挑戦ができ、スキルや経験をさらに積みたいというニーズが高いと感じます。興味関心がある分野や経験が活かせる成長マーケットに身を投じたい、また担当業務や経験職種の幅を広げたいなど、さまざまニーズがあります。

——転職希望者に選ばれやすい企業の特徴は?

田中氏:Webマーケティングの場合は、企業として保有しているデータが豊富であればあるほど、またデータ活用が進んでいればいるほど、施策の選択肢が広がります。その意味では豊富なデータを扱っていて、そのデータを事業に活用している企業が人気となっています。

堀川氏:仕事内容以外の面では、「副業ができる」環境かどうかも重要な要素の一つになってきています。なぜなら、スキルが高く経験が豊富なマーケターであればあるほど副業を現在行っており、複数企業のプロジェクトに関わっている方も少なくないからです。実際に副業をしている方の登録の割合は年々高まっており、ハイクラス人材においてもほとんどの方が副業をしている、または、したことがある状況です。転職後も今の副業を続けられるかどうかを大事にしている方もいますし、入社後も経験・スキルの幅を広げられるかどうかが転職先を選ぶ上で大切な要素となっています。

マーケティング職の要件定義で最低限押さえるべき情報とは

——マーケティング領域のハイクラス人材採用にあたり、要件定義の段階ではどのようなことに留意すべきでしょうか。

田中氏:要件定義をする上で重要なことは、さまざまな観点で活躍していただくために必要な要素を分解することです。たとえば、

・どんなミッションに従事してきたのか(顧客ロイヤリティ向上や会員数アップなど)
・自社の顧客層との親和性(経験してきたのはBtoBかBtoCか?対象年齢層は?)
・得意とするミッション(新規向け/既存向け、潜在ニーズ/顕在ニーズ、有形商材/無形商材など)

これらはあくまでも一例に過ぎませんが、実際の採用現場では、人事側でこうした要素を把握・分解できていないケースも多いと感じています。仮に「広くマーケティングのご経験」と言っても、事業との相性や得意領域は人それぞれのため、どんな経験を求めているのか、具体的に要素を分解する必要があります。あいまいなターゲティングのままでは、採用したい人材が思うように集まらない事態に陥ってしまう可能性が高くなってしまいますね。

——マーケティング領域は複雑で、新しい専門用語やツールが次々と登場するため、人事側が全てを把握するのは難しいという実情もあるかもしれません。

堀川氏:たしかにマーケティングの実務を全て理解するのは大変だと思います。人材紹介サービスの立場からアドバイスをさせていただくとすれば、マーケティング部門の責任者へのヒアリングなどを通じて、まずは「採用背景」を押さえていただきたいですね。

自社が今どんな商品・サービス開発に注力していて、現状の体制でどんな機能が足りていないのか。新しく採用する人にどんなミッションを与えたいと考え、どんな成果を期待しているのか。ここまでの情報があれば、私たちはマーケティング領域の採用のプロとして詳細な要件定義を固め、マッチする転職希望者を探し、企業の情報を的確に伝えることができます。

さらに言えば、部門責任者へのヒアリングの場に、私たちのような専門アドバイザーを呼んでいただくことも有効だと思います。

営業・マーケティングの関係性など、「定性情報」の共有も重要

——転職希望者へアピールするためのポイントについてもお聞かせください。応募喚起につながる求人票には、どんな情報が必要でしょうか。

堀川氏:ここは前段のお話とつながっていて、求めるスキルや経験などの具体的な情報の前に、まずは採用背景や採用候補者に任せたいミッション、今後実現していきたい展望などを伝えるべきだと考えます。これらが明確に示されている求人票は転職希望者の目を引きますね。中期経営計画と採用背景のひもづけなど、外から見える大きな情報を補足してくれる内容があるとより説得力のある情報につながります。

具体的には、業務内容を求人票で詳細に掲示することに加え、面接や面談の場で現場の方々を交えて、ミッションの詳細や組織体制、採用背景、期待している役割などについて詳しく伝えることが意向醸成につながります。

——組織文化や風土についてはいかがでしょうか?

田中氏:マーケティング職では、営業部門とのパワーバランスなどの社内事情を気にする転職希望者も少なくありません。営業組織が強い会社だとマーケターが活躍しづらい可能性があるからです。その意味では、営業とマーケティングの役割をそれぞれどのように定義しているか、営業とマーケティングがどのように協業・協力してきたのかといった定性情報も重要です。こうした情報は求人票には記載しづらい面もあるので、人材紹介サービスの担当者にも共有していただきたいですね。

私が担当する大手メーカーでは、採用するポジションごとに現場の方々と人材紹介サービス担当者を呼んで説明会を開き、採用背景や求めるミッション、組織風土などを共有している例もあります。現場の想いも含めて人材紹介サービス側が理解できれば、マッチする人材を採用できる可能性が高まるので、参考にしていただければと思います。

ハイクラス人材の判断材料は「年収アップ」「裁量アップ」だけではない

——採用候補者の入社意向醸成を高める工夫についてもお聞きしたいです。採用成功している企業の選考フローにはどんな特徴がありますか?

堀川氏:ポイントは「スピード感」「的確な情報フィードバック」「丁寧な対応」の3点だと考えています。採用がうまくいっている企業は面接から結果までのスピードが速く、合否を1〜2日で回答をいただけることも多いです。そして採用候補者のどこが良かったのか、あるいは不足している情報はないかなどのフィードバックも頻繁にあります。

キャリアアドバイザーとして個人側の転職支援をする中で、ハイクラス層といえども採用候補者から私たちに選考中の不安点を相談されることも少なくありません。その際に補足情報としてお伝えできるように、私たち人材紹介サービス側とも日頃からコミュニケーションを取っていただける企業であれば、採用候補者の不安を取り除くことも可能になります。

田中氏:こうした対応によって採用候補者の意向が逆転することも少なくありません。特にハイクラス人材に対しては、自身がその企業で活躍している姿をイメージしてもらえるかどうかも、意向醸成する際のポイントの一つになります。採用候補者は、面接後に素早く丁寧にフィードバックされることによって、「あの企業は私をこんなふうに評価してくれるんだ!」とポジティブに捉え、第1志望に変えることも珍しくないのです。

——採用候補者は最終的に、どのような判断軸で意思決定しているのでしょうか?

田中氏:ここは現在の年収や本人の転職における優先事項によって違いがあるように感じています。若手やポテンシャル層は「年収アップ」「裁量アップ」などの動機で決める方が多い印象です。ハイクラス層では、「今までにない経験が積める」「新しいスキルが身に付く」ことが最後の一押しになることも多いですね。また、企業としての意思決定のスピード感も重視されていると感じます。

堀川氏:年収で言うと、800万円を超える層になると社会人経験もそれなりに長くなり、家族を持つ人も少なくありません。収入アップや維持を最低条件としつつ、「自分が長く活躍し続けるイメージを持てるか」に軸足を置く人が多いですね。本当の意味でサステナブルに働き続けられるのか。それを採用候補者に適格に判断してもらうためにも、採用背景を明確に伝えることが大切なのだと考えています。

取材後記

日進月歩で進化を続けるマーケティングの世界。この領域の採用には、IT関連職に似た難しさがあるようにも感じます。堀川さんと田中さんは「だからこそ外部の専門家の知見や存在をうまく活用してほしい」と話していました。自社のパーパスやビジョンを踏まえ、マーケティング職に求められる背景を理解することが採用成功に繋がるアクションなのかもしれません。

企画・編集/森田大樹・白水衛(d’s JOURNAL編集部)、野村英之(プレスラボ)、取材・文/多田慎介

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