高度な専門技術を持つスペシャリストを積極採用。エグゼクティブサーチを活用した日鉄エンジニアリングの “候補者ファースト”な取り組みとは?

日鉄エンジニアリング株式会社

人事部 採用室 室長 磯部悦四郎(いそべ・えつしろう)

プロフィール
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  • 転職市場でも探すのが難しい高度なスキル・経験を持つ専門技術者に興味を持ってもらえるよう、対話の機会を増やし応募意欲を高める
  • 業務やプロジェクトのイメージを具体的に持ってもらうために、人事と現場担当者立ち合いのもと現場見学を実施
  • 希少な人材を採用するために、面接・現場見学・オファー面談の選考プロセスを短期集中で行う

私たちは今、気候変動やエネルギー資源の枯渇をはじめとする地球規模の環境問題に直面しています。こうした状況に対し、エンジニアリングの力で社会課題の解決に挑んでいるのが日鉄エンジニアリング株式会社です。同社は「持続可能な環境調和型社会の構築」を掲げ、祖業である製鉄分野に加えて、環境・エネルギー分野、都市インフラ分野を中心に事業領域を拡大してきました。

そこで急務となるのが、プラントやインフラ施設の設計から建設までの各工程を担う技術職のスペシャリスト採用です。専門的な知識と技術を必要とする業務のため、即戦力の人材が転職市場に少ないことから、企業間での獲得競争が激しく採用の難易度が非常に高い職種でもあります。

そんな中、同社は2017年ごろよりキャリア採用への取り組みを強化し、直近では毎年60名ほどの採用を実現しています。会社にマッチする人材に出会うことすら難しい状況で、どのように採用を成功させているのでしょうか。人事部 採用室 室長を務める磯部氏に、具体的な取り組みを伺いました。

事業拡大に伴い、即戦力の技術職スペシャリスト人材のキャリア採用に注力

——貴社の事業について教えてください。

磯部氏:当社は「環境・エネルギー」「都市インフラ」「製鉄」という三つの分野で、各種プラントやインフラ施設の建設などを手がける企業です。1974年に、新日鉄(現・日本製鉄)のエンジニアリング部門としてスタートし、2006年に分社後、事業領域を広げながら現在に至ります。

「環境・エネルギー」事業では、最新の溶融炉設備を用いることでごみを完全に溶かして素材の再利用を可能にするごみ処理施設の建設などを通じて、持続可能な「資源循環型社会の構築」に取り組んでいます。

また、世界的な社会課題となっている「脱炭素社会への貢献」も大きなテーマのひとつです。洋上風力は、温室効果ガスを排出しない発電方法として注目されていますが、当社はその風車基礎の設計から製作・輸送・洋上施工までを一貫して行う国内唯一のオフショアコントラクター企業でもあります。

「都市インフラ」事業では、大規模な物流倉庫の建設や古くなった橋の老朽更新、耐震・免震装置の開発・提供などを通じて、災害に強いまちづくりを支えています。

 

——キャリア採用の取り組み状況や、採用を強化している職種についてお聞かせいただけますか?

磯部氏:現在、「環境・エネルギー」「都市インフラ」分野を中心にプロジェクト数が急増しており、今後も成長していくと見込んでいます。これまでの採用活動は新卒採用を中心に行っていましたが、事業拡大に伴って、2017年ごろからキャリア採用にも力を入れるようになりました。

技術者はあらゆる事業領域で募集していますが、特に洋上風力やごみ処理施設、物流倉庫における設計・施工管理・製造管理の職種は採用が急務となっています。技術職の社員は社内に1200名ほど在籍していますが、その中で年間60名ほどキャリア入社の社員として迎え入れており、2024年度は採用人数をさらに増員する予定です。

対話の場と現場見学の機会を設け、意欲を高めるのが採用決定率の向上にもつながる

——技術職のスペシャリスト採用において感じる難しさや、抱えている課題などはありますか?

磯部氏:事業領域が多岐にわたるゆえ、各分野で専門的な知識・経験を持つ技術者のスペシャリスト人材を採用する必要がありますが、その状況に対して当社が求めるスキル・経験を持つ人材の母数が圧倒的に少ないことが最大の課題です。

たとえば、環境・エネルギー関連施設における整備・保全工事管理のポジションで歓迎要件としている「機械器具設置工事業」に関する資格を保有している人材は、大手の転職サイトでも年間100名ほどしか登録者がいません。その中で、当社の年間採用計画を達成していかなければならないのです。

また、工事管理者は仕事柄、日本各地の工事現場に常駐するため、単身赴任や長期出張も発生します。当社の環境・エネルギー分野は北九州に技術拠点を構えていますが、そのエリアへのUターン・Iターン希望があっても、ずっとそのエリアで就業できるわけではないため、U・Iターン以外の別の切り口から会社の魅力をアピールすることが求められています。

 

——こうした採用課題に対して、どのような取り組みを行っているのでしょうか?

磯部氏:人材紹介サービスやダイレクト・ソーシングを通じたアプローチの他、エグゼクティブサーチを活用して対象となる採用候補者をリサーチしていただいた上で接点を持つなど、さまざまなアプローチを行っています。技術職のスペシャリスト人材に当社への関心を持っていただけるよう、採用候補者の目線に立った情報提供やコミュニケーションを心がけています。

具体的に行っているのは、私たちがどのような会社なのか理解を深めていただくため、オフライン・オンラインを問わず対話の場を積極的に設けることです。また、当社が手がけるプラントや施設の現場見学も積極的に実施しています。

たとえば「建築施工技術者」と一口に言っても、これまで商業施設やマンションの建築施工を経験してきた方からすると、プラントやごみ処理施設の建築施工業務はまったく異なる仕事内容に感じるでしょう。現場見学は、採用候補者に実際の業務内容やプロジェクトの規模を体感してもらい、そこで働く当社の社員との交流を通じて仕事のやりがいや面白さを感じていただくことを狙いとしています。工程や現場の様子がよりわかりやすく伝わるようなプロジェクトを選んでご案内することが多いですね。

採用候補者に対して丁寧にコミュニケーションを図ることで、本選考への応募意欲や当社への志望度を高められるようにしたいと考えています。こうした取り組みを地道に行った結果、2023年度のキャリア採用実績では、約60名の方に入社いただきました。

経営陣からの情報発信の重要性、全社員が採用を「自分ごと」として取り組む体制づくり

——人材を受け入れる現場との協力体制はどのようにつくられているのでしょうか?

 

磯部氏:まずは、トップを含む経営陣が全社に向けて採用の重要性を強く発信していることが協力体制の構築に大きく寄与していると思います。

直近では執行役員である人事部長が、社内ポータル上で採用市場における競争激化の現状について触れ、今後の方向性を打ち出すなどの働きかけが行われました。

また、2024年1月の社長の年頭所感では「わが社の成長のためには受注市場・採用市場・調達市場、三つの市場で勝っていかなければならない」と語られました。つまり、お客さまやパートナー企業、そして一緒に働く仲間から選ばれる会社になろう、ということです。

こうした発信を受けて、各部署の社員から「採用って大変ですよね」「私たちにできることがあれば協力させてください」といった声が次第に多く寄せられるようになりました。

——トップを含めた経営陣から採用の重要性を発信することが肝心なのですね。

磯部氏:非常に効果的だと感じます。また、キャリア採用に関して各部署から相談や要望があれば、人事ができる限り迅速に対応して解決することを心がけています。「いくら声をあげても、人事は応えてくれない」と落胆されてしまったら、協力体制を構築することは難しいですからね。

先ほどお話しした現場見学のアテンドなどは、現地社員にとって決して負荷の低い業務ではないはずです。だからこそ、現場任せにするのではなく、人事・採用担当者が同行して一緒に回るようにもしています。

こうした関係性の構築に、飛び道具はありません。結局、どのような仕事も人と人が力を合わせて行うものですから、お互いに気持ちよく協力しながら取り組めるように働きかけることが最も重要だと考えています。

——実際に現地で働く社員の協力体制はいかがですか?

磯部氏:非常にありがたいことに、どの部門でも社員のみなさんがとても協力的です。工事現場では厳密にスケジュールが引かれているのですが、採用候補者の都合のよい日時に合わせて柔軟に現場のアテンドをしてくれています。

採用においては、人事と各部門の心理的な隔たりが生まれてしまいがちです。そんな中、当社では現場の社員を含めて全員が採用を“自分ごと”として捉え、一体となって取り組める文化が根付いていると感じます。

技術職のスペシャリスト採用事例に見る、あらゆる立場の人と向き合う大切さ

——技術職のスペシャリスト人材における、採用成功事例をお聞かせください。

磯部氏:パーソルキャリアのエグゼクティブ専門人材サービス「パーソルキャリア エグゼクティブエージェント を活用して、機械器具設置工事業に関する資格所有者の採用成功に至ったことが記憶に新しいです。

当社の施工管理職種採用の選考フローは、面接3回と現場見学、そしてオファー面談の実施といった流れになっています。当社と並行して複数の企業の選考に進んでいると伺っていたので、この計5回にわたるプロセスを2週間以内に行いました。短期間で濃い接点を持つことで、採用候補者の志望度を高められればと考えたのです。

実際に、エグゼクティブエージェントのコンサルタントとコミュニケーションを密に取ることで、どのタイミングでどのような情報を提供するべきか、どのくらい詳細な内容を伝えるべきかなど、丁寧に準備をした上でフォローすることができたことが採用成功に至った大きな要因だったと感じています。

採用決定後、本人からは「会社の方々から熱意と誠意を感じた」ことが入社の決め手になったと聞きました。スピーディーな選考体験を提供できた手ごたえを感じ、うれしかったですね。

 

——高度な専門技術を持つエンジニアの採用をする中で日頃から意識している点はありますか?

磯部氏:専門技術を有するスペシャリストの募集は、求める専門性の高さゆえに、私たちの採用のパートナーである人材サービス各社の担当者も事業や業務内容を理解するのが難しいと思っています。そこで始めたのが、各社の皆さまへ向けた会社説明会の実施でした。

並行して、担当者の方には入社が決定した方にもお会いいただき、入社理由などを直接ヒアリングする場も設定させていただいています。こうした取り組みを通じて、当社の求める人物像や訴求ポイントについて理解を深めてもらっています。

選考過程では、できる限り当社側の状況や意思決定の意図を担当者の方へタイムリーにお伝えし、率直に対話することも大切です。キャリア採用のパートナーである人材サービス各社の皆さまとも、スムーズな協働を実現したいと考えています。

——2017年ごろからキャリア採用を強化したとのことでしたが、キャリア入社の社員が加わったことによって感じる社内の変化などあれば教えてください。

磯部氏:社内でのこれまでの成功体験や経験則に固執せず、会社として新しい考えやアイデアをより柔軟に取り入れられるようになったと感じています。

事業を継続・拡大する上では、自分たちが持っている強みや技術的なリソースを活用しつつ、世の中のニーズに応じて変わっていく姿勢が不可欠です。当社の今までのやり方がずっと通用するとも限りません。そのため、キャリア入社の社員には「おかしいと思ったことがあれば、積極的に発信してください」と伝えています。

実際の声を受けて、各部署での仕事の進め方や全社的な人事制度も少しずつ変化してきました。現場の社員にとっては「異なる環境で働いてきた人と、どのように力を合わせて相乗効果を生み出せるか」を考える良いきっかけにもなっているのではないでしょうか。もちろん、採用活動や選考フローも日々改善を重ねています。

——最後に、技術職のスペシャリスト採用における今後の展望についてもお聞かせください。

磯部氏:来年度以降も、採用戦略に大きな変更はありません。引き続き、各部署の社員と協働しながら、採用候補者と丁寧に向き合っていきたいと考えています。血の通った交流から、共感や熱意が生まれ、それが会社としての成長につながっていくはずです。こうした取り組みをこれからも地道に積み重ねていきたいですね。

取材後記

「手前味噌ですが、人材サービス各社の担当者や採用候補者の方々からは『本当に“人”がいい会社ですね』とおっしゃっていただけるんですよ」。取材中、磯部氏がはにかみながら語ってくれた言葉がとても印象的でした。お話を伺う中で、人材サービス各社の担当者、採用候補者、社員、それぞれの目線に立って「どうすれば手を取り合い、お互いにとってベストな結果へとつなげられるか」を常に考え、丁寧なコミュニケーションを図っているからこそ、社外から「“人”がいい」という声をいただけるのだと実感しました。採用活動は、あらゆる業務の中でも人と人とのコミュニケーションで行われる最たるものと言えるのではないでしょうか。日鉄エンジニアリングの取り組みから学べることが多くあるはずです。

企画・編集/白水衛(d’s JOURNAL編集部)、野村英之(プレスラボ)、取材・文/村尾唯、撮影/中澤真央

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