ロジカルハラスメント(ロジハラ)とは?起きる原因と企業ができる対処法を解説

弁護士法人ブライト

弁護士 和氣良浩

プロフィール

正論を振りかざし、相手を追い詰めることをロジカルハラスメント(ロジハラ)と言います。「どのようなシーンでロジハラが発生しやすいのか」「企業としてどのような対応が必要なのか」について知りたい方もいるでしょう。

この記事では、ロジハラの定義や起こり得るシーン、ロジハラを防ぐために意識すべきこと、ロジハラへの対応方法などを解説します。

ロジカルハラスメント(ロジハラ)とは

いわゆるロジカルハラスメント(ロジハラ)とは、正論を盾に相手を追い詰める言動・嫌がらせのこと。論理的な、理にかなったことを意味する「ロジカル(logical)」と、嫌がらせを意味する「ハラスメント(harassment)」を組み合わせた言葉です。

ロジハラは職場における優越的な関係をもとに発生することが多いため、パワハラの一種であると考えられています。なお、パワハラとは、職場での役職や上下関係といった人間関係の優位性を背景に、相手に身体的・精神的な苦痛を与えることを指します。パワハラについて詳しく知りたい方は、こちらの記事を参考にしてください。

(参考:『【弁護士監修】パワハラ防止法成立。パワハラ問題へ企業はどう対応する?対策法を紹介』)

ロジカルハラスメントによる影響

職場内でロジハラが発生すると、「被害者」にも「チーム・組織」にも悪影響がもたらされます。

被害者への悪影響

●自己肯定感が下がる
●精神的に不安定になる
●仕事のパフォーマンスが低下する
●メンタル不調により、休職・退職に追い込まれる など

チーム・組織への悪影響

●他のメンバーも萎縮してしまい、活発な意見交換ができなくなる
●チームや職場の雰囲気が悪くなる
●業務効率や生産性が低下する など

このような悪影響が懸念されるため、企業としてはロジハラの未然防止や早期解決、再発防止に向けて取り組んでいくことが重要です。

ロジカルハラスメントが増えてきている背景

ロジハラが増えてきている背景には、「多様性(ダイバーシティー)の浸透」と「テキストコミュニケーションの増加」があると考えられます。詳しく見ていきましょう。

ダイバーシティーの浸透

近年、日本企業では「労働力確保」や「企業の中長期的な成長」などを目的にダイバーシティーが推進されています。年齢や性別、働き方、国籍、障がいの有無などにかかわらず、さまざまな人たちがともに働く機会が増えてきているでしょう。こうした状況自体は望ましい一方で、ダイバーシティーの浸透がロジハラ増加の一因であるとされています。

日本には昔から、「一を聞いて、十を考える」「場の空気・雰囲気を読む」といった文化があります。そのため、相手の間違いを指摘する際、はっきり伝えずとも雰囲気で感じ取ってもらうことができました。

しかし、ダイバーシティーが浸透し、さまざまな価値観・バックグラウンドを持つ人たちがともに働くようになったことで、これまで通りとはいかなくなりました。真正面からきちんと言葉で伝えないと、相手に伝わらない場面が増えたのです。それにより、ロジハラが起こりやすい状況になってきていると考えられます。

(参考:『ダイバーシティーとは何をすること?意味と推進方法-企業の取り組み事例を交えて解説-』)

テキストコミュニケーションの増加

テキストコミュニケーション(対面での会話などではなく、文字でのコミュニケーション)が増えたことも、ロジハラ増加の一因と考えられます。

働き方改革の一環やコロナ禍への対応として、在宅勤務制度の導入が進みました。それ自体は「ワークライフバランスの向上」や「BCP対策」などとして有効な一方で、「非言語コミュニケーションの減少」という課題もあります。Web会議で相手の顔を見ることはできても、身振り手振り、表情、声のトーンといった非言語コミュニケーションは、対面時に比べて減っているのが現状です。

非言語コミュニケーションを補うため、テキストコミュニケーションが増加しました。「ビジネスチャットで業務に関する指示を出す」といった機会が多くなってきています。テキストだけでは、言葉に込めた温度感が伝わらないため、受け手によっては「冷たくて、威圧的」「一方的で、上から目線」と感じることもあるでしょう。そのため、意図せずともロジハラが起こりやすくなってきていると考えられます。

ロジカルハラスメントが起こり得るシーン

ロジハラは、以下のような場面で起こり得ます。

ロジハラが起こり得るシーン

●業務トラブルやメンバーのミスが発生したとき
●会議などで議論が行われるとき
●異なる役職・立場のメンバーへの指導や指摘を行うとき
●取引先や下請先とやり取りをするとき

シーン別に見ていきましょう。

業務トラブルやメンバーのミスが発生したとき

業務トラブルやメンバーのミスが発生したときは、相手にそれを指摘する際にロジハラが起こりやすいです。「出来事や相手の言動」について指摘したつもりでも、実際には「相手そのもの」への指摘となってしまうこともあるでしょう。

具体例

●相手の話は一切聞こうとせず一方的にミスを指摘し、相手を疲弊させる。
●「ミスの原因は、あなたの確認漏れです。何度も同じことを繰り返すようでは困ります」といった発言により、相手を追い詰める。

会議などで議論が行われるとき

議論の際は、意見の対立からロジハラが発生することがあります。「自分の意見が全て正しい」との前提をもってしまうと、建設的な議論をしているつもりでも、実際にはロジハラとなってしまうこともあるかもしれません。

具体例

●正論を一方的に展開し、自分以外のメンバーの意見をまったく聞き入れようとしない。
●「論理的に考えて、これ以外の選択肢はありません。当然こうすべきです」と強く主張し、他のメンバーを萎縮させる。

異なる役職・立場のメンバーへの指導や指摘を行うとき

「部長から課長へ」「上司から部下へ」といったように、職場における役職・立場が異なる相手に指導・指摘を行う際も、ロジハラが起こりやすいです。日常的なコミュニケーションに悪影響がおよぶことも少なくないでしょう。

具体例

●ささいな勘違いや言い間違いに対して、正論をもって相手を執拗に問い詰める。
●「あなたの同期は全員、この業務を一人で問題なく行えています。どうしてあなたは、いつまで経っても、人の手を必要とするのですか?」といった発言で、相手の自尊心を傷つける。

取引先や下請先とやり取りをするとき

取引先や下請先とやり取りする際にも、ロジハラが起こり得ます。発言内容によっては、「下請法違反」となるケースもあるでしょう。

具体例

●軽微なミスにもかかわらず正論を盾に指摘を繰り返し、取引先や下請先の担当者を疲弊させる。
●「今回のトラブルの原因は、全てそちらの会社にある」と強く主張し、反論を一切受け入れず、相手を追い詰める。

正しく理解する「ロジハラ」と「ロジカルな指摘」

「ロジハラ」と「ロジカルな指摘」は、似て非なるものです。ロジハラはあってはなりませんが、ロジカルな指摘は業務を円滑・適切に進めていく上で必要であるとされています。

ロジハラとロジカルな指摘の境界線・違いについて、見ていきましょう。

伝え方でロジカルハラスメントになり得る

ロジハラとロジカルな指摘の境界となるのが、「伝え方に問題があるか」です。相手の事情や気持ちに配慮した伝え方であれば、相手も受け止めやすく、ハラスメントとは感じないでしょう。一方、たとえ発言内容自体は同じであっても、「威圧的な言い方をしている」「執拗に相手のミスを指摘する」といったようでは、ロジハラと捉えられるかもしれません。

「自分の意見が正しい」を起点とした主張に注意

「自分の意見が正しい、絶対である」と考えているかも、ロジハラとロジカルな指摘の分かれ目となり得ます。「自分はこう考えているけれど、他にも選択肢があるかもしれない」という前提があれば、一方的に自分の意見を通そうと高圧的になることなどはなく、ロジカルな指摘にとどめられるでしょう。一方、「自分の意見が絶対だ」という前提だった場合、本人としてはロジカルな指摘のつもりでも、相手からはロジハラと捉えられてしまうこともあると考えられます。

上下関係を意識したときに生じやすい

ロジハラは、上下関係を意識したときに生じやすいと言われています。職場における役職・立場の違いはあれど、ともに働く仲間として相手を尊重していれば、ロジカルな指摘にとどめられるでしょう。一方、「私の方が上だ」「相手を導かないといけない」といった意識が強いと、ロジハラが起こりやすくなると考えられます。

ロジカルハラスメントを防ぐために意識すべきこと

誰もが意図せず、ロジハラの「加害者」になり得ます。そのため、未然防止に向けては、従業員一人ひとりの意識を変えていくことが不可欠です。具体的にどのようなことを意識すべきかについて、見ていきましょう。

アサーティブコミュニケーションを理解する

アサーティブコミュニケーションとは、相手のことを尊重しつつ、相手と対等な立場で自らの要望や気持ちを伝えていくコミュニケーション手法のこと。アサーティブコミュニケーションを理解・習得すれば、自分の意見を相手に一方的に押し付けることがなくなり、ロジハラが起こりにくくなるでしょう。それだけでなく、一人ひとりが恐怖や不安を感じることなく発言・行動できる状態である「心理的安全性」を、チームとして実現できるようになる効果も期待できます。

まずは、「相手のことを仲間として尊重する」「自分にも相手にも、それぞれの考えがあることを理解する」ことを心掛けるとよいかもしれません。

(参考:『心理的安全性とは|組織を活性化させるポイントを解説』)

傾聴を意識し他人の発言を受け止める

ロジハラを防ぐためには、傾聴を意識して他者の発言を受け止めることも大切です。

「相手の話をただ聴く」だけでは、傾聴とは言えません。相手の話を注意深く聴くことはもちろんですが、その裏にある相手の感情を想像しようとしてこそ、傾聴と言えます。しっかり傾聴した上で、相手の感情・意見を否定せず、しっかりと受け止めることが重要です。

まずは、「常日頃のコミュニケーションにおいて、しっかり傾聴できているかを見直す」「自分自身がしっかり傾聴できる状態のときに、相手に正論を伝えるようにする」とよいかもしれません。

ストレートに伝えすぎないよう、言葉遣いに配慮する

ロジハラを防ぐためには、自分の考えや気持ちを相手にストレートに伝えすぎないよう、言葉遣いに配慮することも大切です。先述の通り、たとえ発言内容自体は同じであっても、伝え方に問題があればロジハラと捉えられかねません。意図せずロジハラとなってしまわないよう、ストレートすぎる表現やきつい表現などは避けましょう。「自分が同じように言われたら、嫌と感じないか」を意識しながら、相手に話を伝えるようにするのもよいかもしれません。

併せて、「人前や大声での指摘・指導はしない」「相手の状況によっては、より慎重に言葉を選んだり、タイミングを見て伝えたりする」などの配慮も必要でしょう。

ロジカルハラスメントへの対応方法

ロジハラはパワハラの一種であるため、対応方法はパワハラの場合と基本的に同じです。ロジハラへの対応方法を見ていきましょう。

なお、パワハラへの対応方法について詳しく知りたい方は、こちらの記事を参考にしてください。

(参考:『【弁護士監修】パワハラ防止法成立。パワハラ問題へ企業はどう対応する?対策法を紹介』)

【未然防止】ロジハラに対する方針の明確化と社内への周知

未然防止のためにまずやるべきは、ロジハラに対する企業方針を定め、就業規則や労使協定、研修などを通じて社内に周知することです。具体的には、「ロジハラの定義」や「発生時の対処方法」「ロジハラを行った従業員に対する処分」などを明確にしましょう。ロジハラに対する企業方針を従業員に周知することで、ロジハラの抑制が期待できます。

【未然防止】定期的な実態把握

「ロジハラに発展し得る状況が起こっていないか」を早い段階で確認できるよう、例えば定期的なアンケート調査を実施しましょう。それにより、自社に必要なロジハラ防止策を具体的に検討できるようになります。

実態の正確な把握のため、「匿名での回答を認める」「アンケートの回収箱を設ける」「回答者が特定されないアンケート専用ツールを活用する」など、個人が容易に特定されないような調査方法が望ましいです。実態を把握できたら、ロジハラ防止に向けた具体的な取り組みを早急に検討・実施しましょう。

【未然防止・発生時】ハラスメントに関する相談窓口の設置と適切な運用

ロジハラの未然防止および発生時の迅速な対応のため、ハラスメントに関する相談窓口を設置しましょう。

ロジハラをはじめとしたハラスメントは、時間が経つほど、問題が深刻化する傾向にあります。そのため、「ロジハラを受けているのでは」と感じた従業員が躊躇せずに利用できる相談窓口を設置することが重要です。相談窓口を設置したら、「相談窓口があること」や「誰が相談員なのか」などを社内に周知しましょう。なお、相談員の選任については、「中立的な立場で、相談にのることができる」「守秘義務があることを理解し、秘密を守れる」といった観点から、適任者を選ぶことが大切です。

従業員からのロジハラに関する相談は、プライバシーを確保できる部屋で受け付けます。ゆっくりと時間をかけて、相談者の話を聴きましょう。

次に、事実関係を確認します。相談者とロジハラを行ったとされる相手との間に認識のずれが生じていることもあるため、相談者の了解を得た上で、ロジハラを行ったとされる相手に事実確認をする必要があります。「どちらが悪い」と決めつけず、中立的な立場で双方の話を聞くことを意識しましょう。双方の意見に相違が見られたら、ロジハラが起こったとされる現場に同席した第三者に事実確認を行います。相談者とロジハラを行ったとされる相手、第三者の意見を総合的に判断し、事実関係を見極めましょう。

【未然防止・再発防止】ハラスメント研修の実施

ロジハラの未然防止・再発防止には、ハラスメント研修の実施が有効です。研修時には、「そもそも、ロジハラとは何か」「具体的に、どういった言動がロジハラに該当するのか」「ロジハラとならないよう、どのようなことを意識すべきか」などを伝える必要があります。

ロジハラは誰もが「被害者」にも「加害者」にもなり得る問題であるため、管理職はもとより、全従業員を対象に研修を定期的に実施するのが望ましいです。模擬練習をしたり、事例を共有したりすることも有効とされています。このような形で研修を実施することで、徐々にロジハラが起こりにくい職場になっていくでしょう。

まとめ

ロジカルハラスメントは、「業務トラブルやミスが発生したとき」や「議論が行われるとき」などに起こりやすいです。

ロジハラを防止するためには、相手とのコミュニケーションや言葉遣いに配慮する必要があります。企業としての対応方法は、「ハラスメントに関する相談窓口の設置」や「ハラスメント研修の実施」など、パワハラの場合と基本的に同様です。

必要な対応をしっかりと行い、ロジハラが起こりにくい職場/早期解決が可能な職場にしましょう。

(制作協力/株式会社mojiwows、監修協力/弁護士 和氣良浩、編集/d’s JOURNAL編集部)

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