諭旨解雇とは?意味の解説と懲戒解雇や諭旨退職などとの違い

弁護士法人ブライト

弁護士 和氣良浩

プロフィール

懲戒解雇に次いで重い懲戒処分である、「諭旨解雇」。懲戒解雇に相当する従業員に対して一定期間内に退職願の提出を勧告するものであり、提出されなければ「懲戒解雇」処分が予定されます。

懲戒処分より一段階軽い処分とは言え、対象従業員の「退職金/失業保険金」や「転職」に与える影響は少なくありません。

「諭旨解雇が相当と思われるのは、どのようなケースか」「どのような手順で処分を進めたらよいのか」について、知りたい人事・採用担当者もいるのではないでしょうか。この記事では、諭旨解雇の意味やその他の処分との違い、手続き方法や流れなどについて解説します。

諭旨解雇とは

諭旨解雇とは、企業が従業員に対して行う懲戒処分の一つ。一定期間内に退職願を提出するよう勧告し、提出がなければ「懲戒解雇」とする処分を指します。懲戒処分として最も重い懲戒解雇に相当する事案であっても、「情状酌量の余地がある場合」や「深く反省が認められる場合」には諭旨解雇とする傾向が見られます。

本来であれば懲戒解雇に値する事案について諭旨解雇とすることで、懲戒によって従業員が被る不利益は幾分軽減されますが、制裁として労働契約を解除し従業員を失職させる点は懲戒解雇と同様です。

従業員にとっては、積み重ねたキャリアの評価を下げてしまうことになるでしょう。再就職で不利になる可能性も考えられます。そのため、諭旨解雇の手続きや有効性は、懲戒解雇の場合と同じく、法律の規制を厳しく受けることになります。

諭旨解雇とその他の処分の違い

諭旨解雇とその他の処分にはどのような違いがあるのでしょうか。「諭旨退職」「懲戒解雇」「普通解雇」「整理解雇」との違いを表にまとめました。

処分の種類と違い

処分 定義 解雇予告手当 退職金
諭旨退職 懲戒解雇に相当する従業員に対して自発的な退職願の提出を促し、「退職手続き」を行うこと 自己都合退職となるため、必要ない 基本的に自己都合退職と同様の扱い
諭旨解雇 一定期間内に退職願を提出するよう勧告し、提出がなければ「懲戒解雇」とする処分 解雇予告期間30日未満の場合、必要 自己都合退職と同様のケースもあり
懲戒解雇 従業員が果たすべき義務や規律(企業秩序)に違反したことに対する制裁として、一方的に労働契約を解約する処分 解雇予告期間30日未満の場合、必要 不支給または一部支給にとどまるケースが多い
普通解雇 従業員の債務不履行を理由とした解雇 解雇予告期間30日未満の場合、必要 退職金規定通りに支払われる
整理解雇 経営不振の打開や経営合理化を進めるために、人員削減を目的として行う解雇 解雇予告期間30日未満の場合、必要 退職金規定程通りに支払われる

それぞれについて、詳しく見ていきましょう。

諭旨解雇と諭旨退職の違い

諭旨退職とは、懲戒解雇に相当する従業員に対して自発的な退職願の提出を促し、「退職手続き」を行うこと。諭旨解雇はあくまで「解雇」としての位置づけなのに対して、諭旨退職は「依願退職」としての位置づけである点が一番の違いです。諭旨退職は諭旨解雇よりは穏やかな措置とされています。重さでいうと「懲戒解雇>諭旨解雇>諭旨退職」の順と理解するとよいでしょう。

なお、諭旨解雇では解雇予告から退職日までが30日未満の場合、その分の解雇予告手当を対象者へ支払う必要があります。一方、諭旨退職の場合は解雇予告手当が発生せず、退職金などの扱いも基本的には自己都合退職と変わりません。

諭旨解雇と懲戒解雇の違い

懲戒解雇とは、従業員が果たすべき義務や規律に違反したことに対する制裁として、一方的に労働契約を解約する処分のこと。懲戒処分の中で最も重く、従業員が極めて悪質な規律違反や非行を行った際に懲戒解雇となります。

退職金については各社の退職金規程によりますが、諭旨解雇では通常通りの退職金となるケースがあるのに対し、懲戒解雇では不支給または一部支給にとどまるケースが多いでしょう。

なお、諭旨解雇や懲戒解雇といった懲戒処分を行うためには、就業規則で「どのような場合に、どのような種類の処分を行うのか」を明記し、従業員へ周知する必要があります。

(参考:『【弁護士監修】懲戒処分とは?種類と基準―どんなときに、どんな処分をすればいいのか―』)

諭旨解雇と普通解雇の違い

普通解雇とは、従業員の債務不履行を理由とした解雇のこと。懲戒処分の性質を持つ諭旨解雇とは、性質の異なる解雇です。

解雇理由としては、「傷病・健康状態の悪化による労働能力の低下」「能力不足・成績不良・適格性の欠如」「職務懈怠・勤怠不良」「職場規律違反・不正行為・業務命令違反」などが挙げられます。これらは「解雇事由」として、就業規則に明記する必要があります。

解雇予告の義務については、諭旨解雇と同様、「解雇予告手当」の支払いか「30日前の解雇予告」が原則です。退職金は、退職金規程どおりに支払われます。

(参考:『【弁護士監修】整理解雇とは?何からどう伝える?違法にならないために知っておくべきこと』)

諭旨解雇と整理解雇の違い

整理解雇とは、人員整理のために行う解雇のこと。不況や経営不振などの際、事業継続のためにやむを得ず整理解雇が行われます。解雇の原因は従業員側にはないため、従業員への懲戒処分である諭旨解雇とは、性質の異なる解雇です。

なお整理解雇の場合も、不当解雇とならないよう、企業の経営者や人事担当者はさまざまな要件を検討し、手続きを進めなければなりません。解雇予告の義務についても、諭旨解雇と同様、「解雇予告手当」の支払いか「30日前の解雇予告」が原則となります。退職金も退職金規程通りに支給されるのが一般的です。なお企業によっては、会社都合による雇用契約の解約であるため、優遇措置として上積みして支給している場合もありますし、経営不振で支給する原資がない場合もあるかもしれません。

(参考:『【弁護士監修】整理解雇とは?何からどう伝える?違法にならないために知っておくべきこと』)

諭旨解雇の手続き方法と流れ

実際に従業員を諭旨解雇する場合、どのような手続きが必要となるのでしょうか。ここからは、諭旨解雇の手続き方法と流れを解説します。

諭旨解雇の手続き方法と流れ

従業員の問題となる行動の調査と証拠の確保を行う

まずは対象となる問題行為について、就業規則違反行為に該当するかを検討するため、具体的事実や背景などを詳しく調査します。特別な事情があることも考えられるため、例えば無断欠勤のように問題行為が明らかな場合でも、対象従業員の上司や同僚、従業員本人へ事情聴取を行います。その際のヒアリング内容は記録して、保存しておきましょう。

また、例えば業務不良の場合にタイムカードなどの勤怠状況がわかるものなど、客観的な証拠を収集します。不十分な調査や証拠に基づいて諭旨解雇を行うと、「懲戒権の濫用」として諭旨解雇が無効と判断される可能性があるため、調査は慎重かつ丁寧に行いましょう。

就業規則の違反部分から懲戒事由を検討する

次に、就業規則の違反部分から懲戒事由を検討します。

諭旨解雇は懲戒処分の一つであるため、就業規則に「諭旨解雇ができる」と規定されていなければ処分を下すことができません。まずは就業規則に「諭旨解雇ができる」との規定があるかを確認しましょう。その上で、調査・証拠収集の結果に基づき「問題行為が就業規則のどの部分に違反しているのか」を判断し、懲戒事由を検討します。

従業員に弁明の機会を与える

処分手続きの適正を確保するため、人事担当者と対象従業員との面談を設定し、従業員に弁明の機会を設けましょう。口頭で弁明させる場合は、従業員に対して事前に弁明の場を設ける旨をあらかじめ伝え、準備期間を与える場合もあるでしょう。必要に応じて、書面で提出させる方法も考えられます。

対象従業員に弁明の機会を与えないまま解雇した場合、諭旨解雇が無効と判断される可能性があります。また、後々のトラブルを回避するためにも、弁明の機会を与えたこととその内容を記録に残しておくことが重要です。

なお、従業員が弁明の機会を拒否したり、弁明しないという態度を取ったりする場合は、本人が機会を放棄したものとして手続きを進めても問題ありません。

事実確認に基づき、処分内容を最終決定する

次に、従業員本人への事実確認に基づき、具体的な処分内容を検討し、決定します。

就業規則にて懲罰委員会の設置を規定している場合は、懲罰委員会を開催して処分内容を検討します。懲罰委員会とは、企業が懲戒処分を行うに当たり、懲戒権が公正に行使されるために設置・開催される委員会で、諮問機関として位置づけられるのが一般的です。

一方、懲罰委員会の設置について就業規則で規定していない場合は、人事権を持つ者や監督者などが処分内容を最終決定します。

いずれにせよ、その判断が恣意的に行われたものではないことを記録し、残しておきましょう。会社内での過去の事案の処分の程度との整合性を図ることも必要です。裁判例を参考にするのもよいでしょう。それでもなお諭旨解雇が妥当か判断に迷う場合は、弁護士への相談も検討することをおすすめします。

懲戒処分通知書を交付する

諭旨解雇とすることが決定した場合には、対象従業員に対して懲戒処分通知書を作成し、交付します。労働基準法第20条1項に基づき、懲戒処分通知書は解雇の30日前までに交付しなければなりません。書面には、「懲戒処分の対象となった該当事由」「懲戒処分の根拠となる就業規則の該当条項」「懲戒処分の内容」の他、「退職願の提出期限」「期限までに退職願を提出しない場合は懲戒解雇を予定している旨」を記載します。

なお、対象従業員から一定期間内に退職願が提出されず、懲戒解雇とすることが決定した場合は、改めて正式な解雇通知書を作成・通知し、その後の各種手続きに進みましょう。

諭旨解雇による従業員への影響とは

諭旨解雇となった場合、「退職金や失業保険金」「転職」に影響がおよぶ可能性があります。諭旨解雇による従業員への影響について、確認しておきましょう。

退職金や失業保険金

諭旨解雇となった従業員の退職金をどのように扱うべきかは、就業規則の退職金規程を確認する必要があります。懲戒解雇の場合は「退職金の不支給または一部不支給」と定めているケースが多いです。一方、諭旨解雇の場合は「自己都合退職の場合と同額を支払う」としているケースも見受けられるため、自社の規定に従いましょう。

また、諭旨解雇でも失業保険給付の対象となりますが、自己都合扱いとなるのが通例のようです。雇用保険法第33条1項により「給付制限期間」が設けられているため、自己都合退職となるとすぐに失業保険金を受給できません。なお、通常の自己都合退職の失業保険給付制限期間は「2カ月」であるのに対し、諭旨解雇での自己都合退職は「自己の責めに帰すべき重大な理由による解雇」に該当するとして、給付制限期間は「3カ月」となることがあります。

転職への影響

前職を退職した理由が諭旨解雇であることは、転職活動時の履歴書に記載する義務はありません。職歴欄には「退社」「退職」という記載のみにとどめること自体は問題ではありません。

しかし、面接などで退職理由について尋ねられた場合には、企業に対して真実を述べるべきだとされています。応募先の企業が転職希望者の前職企業に対してリファレンスチェックを行っている場合には、諭旨解雇がわかってしまい、心象を悪くしてしまうこともあるでしょう。また、諭旨解雇であったことを偽って入社した場合、事実が発覚した際に経歴詐称として懲戒処分の対象となる可能性も否定できません。

こうしたことから、転職への影響がまったくないとは言えないでしょう。

(参考:『リファレンスチェックとは?実施する目的や質問事項、チェックポイント』)

まとめ

諭旨解雇は、懲戒解雇相当の従業員に対して、「情状酌量の余地がある場合」や「深く反省が認められる場合」などに検討される処分です。

従業員にとって重い処分であるため、場合によっては「懲戒権の濫用」と判断され、処分が無効になる場合があります。そのため、「十分な調査と証拠の確保」「懲戒事由の検討」「弁明機会の設定」「処分内容の決定」「懲戒処分通知書の交付」という順で、適切に手続きを進めていくことが重要です。

就業規則の規定をしっかり確認し、慎重に調査・検討した上で、諭旨解雇を行う場合には、適正な手続きを踏んで進めましょう。

(制作協力/株式会社mojiwows、監修協力/弁護士 和氣良浩、編集/d’s JOURNAL編集部)

解雇理由証明書【フォーマット】

資料をダウンロード