企業が行うべき災害対策とは? 後編/事業継続に向けた計画の立て方や対応例

d’s JOURNAL編集部

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  • 事業の継続計画(BCP)と事業継続管理(BCM)は、災害発生時に従業員や事業を保護するための重要な取り組みである
  • 事前の対策や災害時の早期復旧など対応策を示すことで、企業価値の向上が期待できる
  • 事前に企業が実施することは、まず目的を決めて現状を把握し、次に災害リスクをヒト・モノ・カネ・情報に分けて洗い出し、初動時の対応まで想定すること。また平時の推進体制を検討することである

災害が起きた際に企業が行うべきことには、「従業員の安全確保」だけでなく「事業の継続」も含まれます。初動対応で従業員の安全が確認できたら、早期に事業の継続・復旧が行えるよう、事前に計画を立てておくことが重要です。

前後編の後編となる今回は、事前対策の重要性を解説するとともに、事業を継続するための計画の考え方や対応例についてご紹介します。

事業継続に欠かせない「BCP」と「BCM」の意味

災害が起きた際は、早期対応により従業員や顧客を守り、事業継続をすることで社会的な信頼を得ることができます。それを実現するために必要な取り組みが、BCP(Business Continuity Plan)と、BCM(Business Continuity Management)です。それぞれの単語の意味は以下の通りです。

BCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)
災害発生などの緊急時において、企業が事業活動の継続を図るための計画。

BCM(Business Continuity Management:事業継続管理)
事業継続に必要な管理体制や方針を定めたもの。平時における経営戦略。

BCPとは、人命救助や安全確保などの単なる災害対策だけでなく、事業の継続や競争力の維持を目的として具体的な行動指針やフローを示したものです。平時における経営・管理方針をまとめた「BCM(事業継続管理)」の一部であり、具体的な計画や手順を策定したものと考えるとよいでしょう。

■参照:『BCP(事業継続計画)とは|意味や必要性を簡単にわかりやすく解説』

災害発生時における事業継続の重要性

中小企業庁が発行している資料によると、「企業が行った災害の事前対策と復旧に要する日数」「営業停止期間と取引先減少」について、以下のような結果が示されています。

災害発生時における事業継続の重要性

■参照:中小企業庁『事業継続リスクに備える国の認定制度 事業継続力強化計画

まず、左の生産再開までの日数のグラフでは、「BCPの策定や事前対策を実施済み」の企業が13日であるのに対し、「未実施」の企業は41日と、約3倍の日数を要していることが見て取れます。

また、右のグラフでは営業停止期間が長引くにつれて取引先が減少する割合も増えることが示されており、「1週間以内に復旧」した企業では18.1%ですが、「半年間営業を停止」した企業では64.8%が取引先を失っています。

これらのことから、事業を継続させるためには「事前の対策」と「災害からの早期復旧」が重要であることがわかります。

企業防災は自社の強みにもなる

有事への対応策を示すことには「災害からの早期復旧」が期待されるため、取引先からの信頼を得ることにもつながります。

また、BCPは、2030年までに持続可能でよりよい世界を目指すための国際目標である「SDGs(持続可能な開発目標)」とも深い関わりがあります。SDGsには、以下のゴールとターゲットが記載されているからです。

SDGsのゴールとターゲット記載(一部抜粋)

ゴール11:住み続けられるまちづくりを
●水関連災害などの災害による死者や被災者数を大幅に削減
●あらゆるレベルでの総合的な災害リスク管理の策定と実施
ゴール13:気候変動に具体的な対策を
●気候関連災害や自然災害に対する強靱性(レジリエンス)および適応の能力を強化

■参照:外務省『SDGグローバル指標(SDG Indicators)

BCPによって災害から企業や従業員を守ることは、SDGsの「持続可能なこと」に通じます。これらに積極的に取り組んでいることは自社の強みにもなるため、企業価値の向上が期待できるでしょう。

国による「事業継続力強化計画」認定制度も創設される

2019年7月の中小企業強靱化法施行により、「事業継続力強化計画」の認定制度が創設されました。これは、中小企業が防災・減災についてまとめた「事業継続力強化計画」を、国が認定する制度のことです。認定を受けた中小企業は、税制措置や金融支援、補助金の加点などの支援策が受けられます。

BCP(事業継続計画)との主な違いは、法令による認定とそれによる支援の有無で、いずれも「災害の発生時に自社を守り、維持するための計画」であることに変わりはありません。

事業継続のために企業が行うべきこと

事業継続のために企業が行うべきこと

事業を継続するためには、緊急時の対応や対策を事前に計画立てておくことが重要です。ここからは、中小企業庁が2023年に発行した『事業継続力強化計画策定の手引き』に記載されている内容を基に、事業の継続計画を策定するための5つのステップを解説します。「BCPや事業継続力強化計画を策定していない」「策定内容が不十分」である場合は、こちらの内容を参考にしてください。

【ステップ①】目的を決定する

事業の継続計画を立てる際には、最初に目的を明確にすることが重要です。以下にご紹介する「事業継続力強化計画作成指針」を参考にしながら、災害発生時の経済社会に与える影響の軽減に役立つ観点を踏まえて決定しましょう。

事業継続力強化計画作成指針(抜粋:第1の一のロ)

事業継続力強化の目的については、イの自らの事業活動が担う役割を踏まえつつ、事業継続力強化に当たっての基本的な考え方を検討した上で、サプライチェーンや地域経済全体に与える影響や、従業員に対する責務等、自らの事業継続力強化が自然災害等による経済社会的な影響の軽減に資する観点から、記載するものとする。

■参照:『事業継続力強化計画作成指針

【ステップ②】災害リスクを想定する/現状を把握する

次に、ハザードマップなどを活用しながら、オフィスや施設などが立地している地域の災害リスクを確認します。想定される災害を基に、以下の4大経営資源から自社の現状や被災時に生じる影響を考えましょう。

●ヒト:従業員、顧客 など
●モノ:建物、設備、商品、インフラ など
●カネ:運転資金、保険 など
●情報:データ、システム など

ハザードマップは、自治体のホームページや国土交通省のポータルサイトなどから入手できます。

■参照:国土交通省『ハザードマップポータルサイト

【ステップ③】初動対応を検討する

続いて、「人命の安全確保」「非常時の緊急体制の構築」「被害状況の把握・被害情報の共有」それぞれについて、災害発生直後の初動対応を検討します。

例として、「人命の安全確保」では、「従業員の避難」「従業員の安否確認」「生産設備の緊急停止」「顧客への対応」などの方法を具体的に考えます。

【ステップ④】ヒト・モノ・カネ・情報への対策を検討する

項目を具体化できたら、ステップ②で考察したヒト・モノ・カネ・情報への影響を踏まえ、事前にどのような対策を行うことが適当かを検討します。

業種やオフィスのあるエリアなどによっても異なりますが、企業防災における具体的な取り組み例は以下の通りです。

●従業員に防災訓練・防災教育を実施する
●有事の際の対応・連携方法を取引先と事前に策定しておく
●予備電源、情報・データの保存先(クラウドなど)を確保する
●リスクヘッジのため、仕入先・物流拠点・出荷ルートなどを複数化する
●リスクヘッジのため、販売チャネルを多様化する(オンライン販売、デリバリーなど)
●設備投資を行う(地震に備えた耐震補強、浸水エリアに該当する場合の排水処理など)
●オフィスをハザードマップの該当地域以外に移転する
●複数拠点がある場合はバックアップオフィスを選定する(サブの指揮系統を決定する)
●被災時の資金調達のために保険に加入する
●在宅勤務、サテライトオフィスでの勤務を可能にする
など

中には実現するまでに時間や資金調達を要するものもあるため、項目を挙げるだけでなく、優先順位も検討することが大切です。

【ステップ⑤】平時の推進体制を検討する

緊急時に落ち着いた行動と適切な対応ができるよう、災害時の計画を立てるだけでなく、平時の取り組みについても検討します。以下の点に留意しながら防災の推進体制を構築しましょう。

●平時の推進体制に経営陣が関与すること
●年1回以上の訓練・教育を実施すること
●計画の見直しを年1回以上実施すること

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まとめ

あらかじめ事業の継続計画を立てておくことで、自社の防災体制を整理でき、「緊急時の対応力」や「被害を最小限に抑えられる可能性」が高まります。結果として、「災害からの早期復旧」や「取引先との関係維持」だけでなく、この企業であれば安心できるという「従業員の信頼獲得」にもつながるでしょう。今回ご紹介した計画策定のフローや具体的な対策を参考にしながら、自社にあった事業を継続するための計画を策定してはいかがでしょうか。

(企画・編集/田村裕美(d’sJOURNAL編集部)、制作協力/株式会社mojiwows

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