サイボウズ『拝啓 人事部長殿』著者が語る、2社の人事を経験した私のルール【髙木一史】

サイボウズ株式会社

人事本部 兼 全社戦略室所属 髙木一史(たかぎ・かずし)

プロフィール
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  • 前職で培った問題解決手法とサイボウズで培ったオープンなマインドセット。それぞれの学びが「日本の大企業の閉塞感をなくしたい」という想いと行動につながっている
  • 多様で柔軟な働き方というイメージだけが膨らんでしまったサイボウズの採用課題。「100人100通りのマッチング」という新たなメッセージを発信
  • 人事の仕事で大切にしていることは、「物事を多面的に見ること」「コミュニケーションから逃げずに向き合うこと」

「チームワークあふれる社会を創る」という存在意義(パーパス)を掲げ、グループウェア「kintone」を中心とした事業を展開するサイボウズ。従業員一人ひとりの個性や主体性を重視する先進的な働き方を実践する企業としても知られています。

同社の人事部門で働く髙木一史さんは、新卒入社した自動車メーカーで人事としてのキャリアを歩み始め、3年後にIT企業のサイボウズへ転職しました。その決断の背景にある想いや日本企業・社会への提案を綴った書籍『拝啓 人事部長殿』(サイボウズ式ブックス)が注目を集め、他社の経営者や人事パーソン、専門家などとの交流機会が拡大しているといいます。

なぜ髙木さんは若手のうちから、自社のみならず日本社会全体の課題へ目を向けるようになったのでしょうか。現在までの歩みと、サイボウズでの取り組みを通じて目指す未来、髙木さんの人事としてのキャリア、大切にしていることについて聞きました。

「メンバーシップ型雇用」を経験して思ったこと

——髙木さんは前職から人事としてのキャリアを歩み始めました。前職の経験で特に印象に残っていることは?

髙木氏:一番はメンバーシップ型雇用の功罪を体感したことですね。前職では最初に国内給与関連の業務を担当して、運用面から人事制度への理解を深めました。労働時間や人事考課、賞与・各種手当など、あらゆる人事制度は最終的に給与計算につながりますから。その後、労政室に異動し、企業内組合に代表される日本的な労使関係を学ぶとともに、全社のコミュニケーション施策を担当してさまざまな役職、職種の方と話す機会を得ました。

人事や社内の全体感が比較的見えやすい部署での経験に加え、自分自身も社員として働く中で、いわゆる「メンバーシップ型雇用」が、働き方や仕事・キャリアの自己決定感・自己効力感を奪い、日本企業の閉塞感を生み出しているのでは、という仮説を持つようになりました。前職に限らず、日本の雇用契約の無限定性、つまり「会社側の強力な人事権」がさまざまな問題を引き起こしているのではないかと。

 

もちろん、雇用確保や人材育成などメンバーシップ型雇用には良い面も沢山あります。たとえば契約の柔軟性。「ジョブ型」社会では一部の人を除いて、社内でいろいろな仕事を柔軟に経験させてもらうことはできませんから。

一方で、時間や場所、職務といった条件を会社側が一方的に決められるメンバーシップ型雇用には負の側面もあります。たとえば、長時間労働や転勤が常態化すると、家庭生活を維持するには夫婦どちらかがキャリアを諦めなければなりませんが、少子高齢化が進み、共働きが当たり前になっていく日本でどこまでこのスタイルが維持できるのか。また、最近は社員に「キャリア自律」を求める会社も増えていますが、予期せぬ異動を突然命じられる世界の中で「自分のキャリアを主体的に考えろ」と言われても難しいものがあると思います。

このように、メンバーシップ型雇用には良いところも悪いところもあって、安直に「ジョブ型に変えればいい」という話ではない。じゃあどうすればいいのかと考えたときに、僕はいわゆるデジタルネイティブ世代だったこともあり、情報技術をうまく使えばまったく新しいチームワークの形がつくれるんじゃないかと考えたんです。それを実現するためには、一度外の世界に出て、幅広い視野からこの問題を考える必要があると思い、転職を決意しました。

人事に関する想いが書籍化。オープンなコミュニケーション機会によって実感したこと

——髙木さんは、日本の雇用システムの歴史、他社の先進事例を研究・発信するなどして、この大きな問題に向き合っています。「会社」や「社会」のせいにして終わるのではなく、変えるための道筋を模索し、現実に立ち向かってアクションし続けるスタンスは、どのような経験から培われたのでしょうか。

髙木氏:前職と現職、それぞれの経験が活きていると感じます。前職では、問題解決手法の基礎を3年間でたたき込まれました。あるべき姿と現状のギャップを問題と定義し、さまざまな切り口でその問題を分解したり、なぜなぜをくり返して真の原因を突き止めたり、またその過程では「現地現物」の考え方で一次情報を必ず取りにいったりするなど、今も昔も基本的には前職で教わった仕事の進め方をしています。

一方、転職後のサイボウズでは、さまざまな情報を社内外へ発信するマインドとノウハウをたたき込まれましたね。サイボウズでは経営会議の議事録から日常的な社内コミュニケーション、タイムカード、経費精算に至るまで、あらゆる情報がオープンに共有されています。転職直後は「こんなに公開して大丈夫なの?」と戸惑うこともあったんですよ。もちろん、サイボウズでも個人情報やインサイダー情報など秘匿すべき情報は厳重に管理されています。反対に「何となく非公開にしそうになるけど、よく考えたら非公開にする必要はない情報」もあることに気付かされました。実際、情報をオープンにすることで、部門を超えてフィードバックをもらい、施策の質が向上したり、背景情報が詰まったやりとりのリンクを1つ共有するだけで不要な伝言ゲームが解消されたり、施策に対する納得感を高めたりと、ポジティブな側面も多く実感するようになりましたね。

また、公開でコミュニケーションする以上、信頼を損ねないよう表現に配慮したり、反射的に感情的なことを書きこまないようにしたりするなど、具体的なノウハウも身に付いていきました。

実は、書籍化の話もオープンなコミュニケーションがきっかけで進んだものなんです。僕は入社後、自分なりの仮説や想いを公開のグループウェア上に日報という形で発信していて、時には5000文字を超えるような投稿もありました(笑)。これを見たマーケティング部門のマネージャーが声をかけてくれて、書籍化の話につながったんです。オープンなコミュニケーションが新たなチャンスをもたらしてくれると実感し、以降は社外へも積極的に発信するようになりました。

——転職後だけでなく転職前の経験も、髙木さんの前向きなスタンスを支えているのですね。

髙木氏:はい。もしかすると、若手人事パーソンの中には「今の仕事は時間の無駄だ」「早く転職したい」と思っている方もいるかもしれません。もちろん、さまざまな状況があるので一概には言えませんが、きっと今の経験もすべてが無駄ということはないと思うんですよね。

「とりあえず会って話しましょうよ!」が通用しなかったサイボウズ

——人事として前職からサイボウズへ転職し、両社の間にどのような違いを感じましたか?

髙木氏:前職とサイボウズでは、人数規模も業種もまったく違います。人数規模でいうと、僕の転職当時は前職の国内従業員数が約7万人でサイボウズは約600人。大きな組織は当然分業が進んでいるので、一人ひとりの仕事の裁量は小さくなりますが、当時のサイボウズは分業がまだあまり進んでおらず、人事や会社の全体像が見えやすいと感じました。

また業種による違いも興味深かったですね。前職は製造業だったこともあり、時間を見つけては工場に足を運び、現場の組長さんや工長さんに沢山話を聞きに行きました。直接会って、時には一緒にご飯に行ったりしながら、深い信頼関係をつくることが課題解決には不可欠だったんです。

でも、サイボウズに転職した当初、同じようなコミュニケーションをしようとしたところ、空回りしているような感覚がありました。「とりあえず会って話しましょうよ!」と言っても反応が薄く、それよりも寧ろ、オープンなグループウェア上で丁寧にテキストコミュニケーションを積み重ねた方が共感者も増えるし、仕事が前に進んでいく。何か仮説を持ってヒアリングする際も、まずはグループウェア上に公開されているコミュニケーション情報を検索・整理してから「ここのやり取りを見たんですけど」と話を持って行った方がはやい。人事が事前に周辺情報を集めていると「何でそんなことまで知っているんですか?」と逆に不審がられるケースもあると思うんですが、いろいろな情報がオープンになっているからこそ、それを前提としたコミュニケーションが求められているんだなと感じました。

——信頼関係の築き方が大きく異なっていたのですね。

髙木氏:もちろん、これはあくまでも傾向の話で、個人単位では求めるコミュニケーションスタイルは多様です。でも、軸とする事業の違いはあると感じましたね。そもそもつくっているモノが違うので。物理的に形あるモノづくりで価値を生み出す人たちの課題を理解しようと思えば、やっぱり自分自身もその物理的なモノに触れられる環境に飛び込む必要があるし、逆につくっているモノがオープンにコミュニケーションできるITツールなら、そのツールをフルに活かしてコミュニケーションした方が、その環境をつくっている・使っている人たちの課題をより深く理解できる。

人事としてのコミュニケーションの仕方1つとっても、事業やカルチャーが違えばこんなに変わるんだ、というのは大きな気付きでした。もちろん、良いか悪いかの話ではありません。また、こうした経験を通じて、「普通」だと思っているものが本当に「普通」なのかを常に疑って考えるようになりました。働いていると知識や経験が蓄積されて、多かれ少なかれ「これはこういうものなんだ」という固定観念ができてくると思いますが、前提が少し変わるだけで実は当たり前じゃなくなるものも結構ある。現在、サイボウズで課題解決に取り組むときも「そもそもの前提を変えにいくことはできないか?」という選択肢は常に念頭に置いて仕事をしています。

組織の拡大、「100人100通り」の先にある課題

——サイボウズへの転職後、髙木さんはどんな業務や役割を担ってきたのですか。

髙木氏:入社直後は採用や育成、オンボーディング、問題解決手法のアップデートなどを担当し、その後は自ら希望して前職時代に経験のあった労務部署を兼務しました。入社手続きや雇用契約書の作成、個別対応などですね。2年目以降は労働時間や休日・休暇、通勤交通費、複業、書籍代補助など、人事制度の企画・改善や、ミドルマネジメント層向けの研修設計を担当しました。

書籍出版後のここ数年は少しキャリアのフェーズが変わってきたように感じます。チームのリーダーとしてマネジメント的な動きが求められるようになり、また人事内で担当する領域についても全社の組織単位や役職の定義、組織新設・役職者選定プロセスの再整備、職務分掌表・決裁権限表の見直し、役員合宿の事務局など、「人」というより「組織」に近い仕事がメインになっています。さらに、2024年7月からは全社戦略室(※)の事務局も兼務し、中長期事業戦略の策定や全社の組織再編などを担当する中で、製品戦略や販売戦略といった事業理解はもちろん、経営視点を今まで以上に意識するようになりました。正直、食らいついていくだけで精一杯ですが、またとない成長機会だと捉えて、前向きに取り組んでいます。

(※)組織規模が拡大する中で、各部門の戦略に一貫性を持たせ、事業活動を円滑に進められる環境をつくることを目的に設置された部署

——オウンドメディア『サイボウズ式』の記事では、従業員数1000人を超えたサイボウズの現状が赤裸々に語られていました。サイボウズの代名詞にもなっていた「100人100通りの働き方」という表現をやめる判断をした背景にはどんなことがあったのでしょうか?

髙木氏:一言でいえば、組織規模の拡大に伴って、サイボウズが実際にやっていることと、新しく入社してくるメンバーができると思っていることとの間に認識ギャップが生じてきた、ということでしょうか。サイボウズではメンバー一人ひとりと条件(働き方・業務内容・給与)を個別に合意しているので、契約の柔軟性も高く「100人100通りの働き方」が存在し得ることは間違いありません。基本的には強制的な異動や転勤もなく、一人ひとりの個性や主体性を重視します。

しかし、それは「サイボウズなら働き方や業務内容を何でも自由に選べる」ということではありません。あくまで「チーム(マネージャー)側の期待とマッチングする限りにおいて」という但し書きが付きます。チームの生産性が著しく損なわれるような働き方をしたり、個人の希望を叶えるために不必要な仕事をつくったりすることは、サイボウズが目指す「チームの生産性とメンバーの幸福の両立」とは相いれません。また、こうした認識のギャップが広がることは、マネージャーの負担増にもつながります。そういう意味でも、メッセージを変えていく必要がありました。

——採用ブランディングが進んだからこその問題でしょうか。

髙木氏:そういう側面もあると思います。働き方の文脈でサイボウズを認知し、興味を持っていただけるのは大変ありがたいことなのですが、そこの認識にギャップがある状態で入社されてしまうことはお互いにとって不幸でもあります。そのためサイボウズでは、これまで代名詞のように使ってきた「100人100通りの働き方」という表現をやめ、今後は「100人100通りのマッチング」という表現に変えていくことを宣言しました。

社内でも「マッチングポリシー」と呼ばれるドキュメントをまとめ、「サイボウズが個人に期待することと個人がサイボウズに期待することがバランスする場合にマッチングが成立、サイボウズの一員(メンバー)となる」という前提を明記。今後は毎年、契約条件に関するコミュニケーションをするたびに、必ずマッチングポリシーに目を通してもらう運用になります。

本質的にはこれまでやってきたことと変わりませんし、個人の主体性を重視してマッチングする姿勢は今後も大切にしていきますが、私たちの想いがより正確に伝わるようなコミュニケーションを心掛けていきたいと考えています。

カルチャーを維持しながら事業成長を続けていくには?

——その他に組織規模の拡大に伴って課題に感じていることはありますか。

髙木氏:課題だらけですよ(笑)人が増えれば今まで以上に多様な価値観が組織内に入り込んできますから、個性を重視したコミュニケーションはマネージャーに大きな負担がかかります。先ほどお伝えした「100人100通りのマッチング」の話はまさにそこの部分に効いてくる取り組みだと思っています。

それから組織内の分断も大きなテーマの1つです。組織拡大に伴い、戦略と実行に一部乖離が出ている(タテの分断)とか、本部間で連携すべきはずの施策がバラバラに進んでいる(ヨコの分断)といった話です。もともとサイボウズでは「情報をオープンにしていればみんな主体的に共通の理想に向かって協働できる」という前提で権限を分散させてきましたが、人間の認知負荷を超えるレベルで情報量が増えてくると「情報はオープンになっているが辿り着けない・情報の優先順位付けが難しくて混乱する」ということが起き始めたんですね。

あとは組織横断的に活躍できる人材(経営人材、ラインマネージャー、プロダクトマネージャーなど)の育成も大きな課題です。規模拡大に伴う組織の遠心力(動きがバラバラになる)に対応するため、組織横断的に活躍できる人材を増やしていく必要があるのですが、サイボウズでは強制的な異動や転勤がありませんから、キャリア選択は本人の主体性に任せるしかないわけです。でも、個人の選択に任せすぎると、組織を横断して活躍できるような、いわゆるゼネラリスト的な人材を育成するのは難しいことが分かってきました。

——これからはどんな打ち手が必要になるのでしょうか。

髙木氏:ある意味、サイボウズは大きな分岐点を迎えていると思います。事業成長を加速させるにはこうした課題を克服してさらに強いチームを創っていく必要がありますが、普通に考えれば、ここから想定される打ち手の多くは日本の大企業がベストプラクティスとしてきたものです。それはたとえば、会社の理想をもっと社員に理解してもらうために文書や研修を増やしたり、認知負荷を減らすために情報を統制したり、権限を集中強化して背景情報を知らなくても命令に従わせる運用にしたり、ゼネラリスト育成のために一方的に人事権を行使したり…。

このような打ち手がすべて悪いとは思いません。事業成長のためには必要な場合もあると思います。でも一方で、そのやり方には限界もあります。会社の理想や方針、ルール、ガイドラインの明文化を進めても、量が多すぎて誰も読まない、たどり着けない。情報をクローズにして強力な権限でマネジメントし続けると、従業員の個性や主体性が奪われ、早期離職やパフォーマンス低下につながるケースもある。

何よりサイボウズは「多様な個性を重視」「公明正大」「自主自律」といったカルチャーを持つチームワークを社会に広めることをパーパスとしています。だからこそ、既存のベストプラクティスだけではない新しい打ち手が必要です。

正直、まだまだ試行錯誤の段階ですが、現在社内では生成AIなどの新しいテクノロジーを活用した実験的な取り組みが始まっています。たとえばRAGと呼ばれる仕組みを使うことで、ポリシーやルール、ガイドラインといった社内の重要情報を対話形式で理解できるようにしたり、組織図や公開コミュニケーションの情報をインプットすることで連携が必要そうな相手をサジェストしてくれるAIを試験運用したり。これがうまくいけば、会社側からの一方的な情報発信のシャワーを浴びせずとも、あるいは権限を強化せずとも、主体的に会社の目指す方向性に向かって協働し続けられるかもしれません。また、組織横断的に活躍できる人材の育成についても、チーム側から異動提案をしやすくする仕組みづくりやタレントマネジメントシステムの構築を検討しており、将来的にはチームと人のマッチングもAIなどの技術で効率化できないかと考えています。

個人的には、こうした取り組みが成功し、サイボウズのカルチャーを維持したまま事業成長を続けることができれば、メンバーシップ型雇用最大の特徴である会社側の強力な人事権を手放しつつも、ジョブ型雇用には見られない契約の柔軟性を併せ持った、まったく新しいチームワークの形が見えてくるのではないかと期待しています。

共通の理想でつながった仲間を増やして、大企業の閉塞感をなくしたい

——髙木さんの今後の目標や展望をお聞かせください。

髙木氏:長期的には世の中の組織の閉塞感をなくし、チームの生産性とメンバーの幸福を両立できるようなチームワークの形を世界中に広げていきたいです。まだ何も成し遂げていない分際で恐縮ですが、目標だけは大きく持つようにしています。その目標から逆算して、1つずつやるべきことをやっていきたいです。こんなことを言ったら怒られるかもしれませんが…いや、サイボウズだから怒られないかな(笑)。超長期の目線で言えば、サイボウズや人事の仕事にこだわる必要もないと考えています。目標を達成するために新しいサービスが必要なら起業するし、科学的論拠が必要なら研究者になる。法律がネックなら政治家になるかもしれないし、またどこかの企業に転職するかもしれない。サイボウズで働き続けているかもしれないし、まったく想像もしていなかったことをやっている可能性もあります。未来のことは正直分かりません。

でも少なくとも現時点では、サイボウズの事業成長に貢献すること以外は頭にありません。本当に毎日夢中で働いているという感じです。怖いくらいに自分のやりたいことと組織の目指している方向性がマッチしていると感じます。サイボウズが事業を伸ばし、市場で存在感を発揮していくことこそが僕個人の目標達成に向けた一番の近道だと思っています。

また大変ありがたいことに書籍出版後から、人事の方はもちろん、経営者や人事領域の研究者、官僚やジャーナリストの方など、さまざまな人たちとつながりを持って議論する機会が増えました。所属する組織が違っても、同じ理想に共感してくださる方はみんなチームだと思っているので、これからもぜひお力を貸していただけると嬉しいです。

——これまでの経験を踏まえて、髙木さんが人事の仕事で大切にしていることとは?

髙木氏:多面的な角度や解釈で物事を見ること、そしてコミュニケーションから逃げないことです。僕は前職の人事部長から「人事の仕事は会社の発展と社員の幸せを両立させることだ」と教わりました。サイボウズも「チームの生産性とメンバーの幸福を両立する」ことをポリシーに置いています。でも、この言葉は「言うは易く」で、現実には「チームの生産性」と「個人の幸福」はよくぶつかります。人事制度をつくるときも「組織全体としての生産性を考えるとこうした方がいいが、そうすると一部の人たちにとっては不利益になる」というシチュエーションはよくあるんです。そういうときは、できるだけメタな視点を持って、多面的な角度や解釈で考えるようにしています。

人事施策の因果関係は本当に複雑で、また時間軸をどこに置くかによっても評価が変わります。短期的には経営に資する決断だと思っても、個人の感情を蔑ろにしすぎて中長期的には経営にもマイナスだった、なんてこともあるだろうし、短期的には個人にとって不利益に見えても中長期的に見ると個人にとっても利益があった、というケースもある。ただ、いくら多面的に考えると言っても全方面に配慮していたら何も変化を起せないので、最終的にはコミュニケーションから逃げずに向き合うことが必要だと思っています。多面的に物事を考え、できる限りいろいろな視点から利益を最大化する努力はするけれど、最後には不利益を被る人とも向き合って、変革を成し遂げなければならない。そんな覚悟を大切にしたいと思っています。

取材後記

「こんなに成長できる環境が他にあるのかと思うくらい、楽しんで働いています」。髙木さんは、サイボウズで働くやりがいを嬉しそうに話してくれました。人事の枠を超え、事業戦略や組織再編などを考える仕事にも挑戦している背景には、「事業の成り立ちや製品戦略、経営戦略も含めて理解しなければ、本当の意味で人事として経営に貢献できない」という想いも。目の前のミッションだけにとらわれず、日本の大企業の閉塞感をなくしたいというビジョンを本気で追いかけている髙木さんだからこそ、今ある環境を成長機会と捉え、最大限に活用できるのだと感じました。

企画・編集/田村裕美(d’s JOURNAL編集部)、野村英之(プレスラボ)、取材・文/多田慎介、撮影/塩川雄也

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