人事評価制度の種類と特徴を押さえて、自社に適した制度の導入へ【図で理解】

d's JOURNAL
編集部

人事評価制度は、従業員の能力や企業への貢献度をもとに評価を行い、処遇などに反映する制度です。

うまく活用すれば企業の成長にもつながるため、多くの企業で導入されています。一方で、うまく機能しないと従業員のモチベーション低下やトラブルにつながる可能性があります。

人事評価制度の概要やメリット・デメリットを踏まえ、どのように活用するとよいのかをご紹介します。

人事評価制度とは?

人事評価制度とは、従業員の能力や企業への貢献度、業務の遂行具合などについて評価を行い、その結果を従業員の処遇に反映させる制度のこと。評価基準は企業によってさまざまですが、四半期・半年・1年など、一定の期間ごとに評価を行う企業がほとんどです。人事評価制度は、主に「評価制度」、「等級制度」、「報酬制度」の3つの要素からなります。
人事評価制度とは?

評価制度

評価制度とは、企業の方向性を示した上で、従業員一人ひとりが企業のためにどう行動すべきかという行動指標のもと、従業員の業務内容やその成果を評価する方法を定めた制度のことです。行動指標に基づいて、評価対象期間の業績や行動などを評価します。評価結果によって、等級や報酬が決まってきます。

等級制度

等級制度とは、企業内での等級と共に、その等級ごとに求められる役割や与える権限を示す制度のことです。等級ごとに決められた指標をもとに、業績やスキル、役割などから、等級を決定します。等級により社内の序列を明確にすることになるため、非常に重要な制度と言えます。

報酬制度

報酬制度とは、従業員の給与や賞与などを決める制度のことです。報酬制度を設けることで、評価制度や等級制度での評価結果に基づき、一人ひとりのレベルに応じた賃金支給が可能です。

人事評価制度を導入する目的

企業が人事評価制度を導入する4つの目的を紹介します。
人事制度導入の目的

目的①:生産性や業績の向上

企業の生産性や業績を向上していくためには、企業が従業員に対して目指す方向性を示し、同じ方向に向かう必要があります。人事評価制度を、企業理念や経営方針、経営目標などに基づいて作成し、評価項目や基準に適切に反映できれば、企業の進むべき道や求める人物像を明確に従業員に示すことができます。

目的②:従業員の処遇の決定

年功序列ではなく能力や業績によって従業員の処遇を決定する場合、客観的な指標に基づいた評価を行うことが重要です。人事評価基準を明確にすることで評価の偏りを防ぎ、総合的な貢献度を序列化してみることで適切に処遇を決定することができます。

目的③:人員配置の最適化

従業員一人一人の能力を十分に活かす適材適所の人員配置を行うために、従業員の能力や配属部署での貢献度を客観的に評価する必要があります。同じ評価基準のもと、それぞれの従業員の強みや弱みを比較することで、最適な人員配置を決定することができます。

目的④:従業員の人材育成

明確な評価基準と処遇を明確にすることで従業員が「頑張れば評価される」と認識できれば、従業員の自発的な成長が期待できます。また、上司が部下を育てる際の指標にもなるため、人材育成の基準としても役立ちます。

人事評価制度の変遷

従来の日本企業は「終身雇用」を前提とした、年齢や勤続年数に応じて給与や役職を上げる「年功序列」の考え方が一般的でした。しかし、近年の景気の変動や雇用情勢の変化、グローバル化や働き方の多様化などにより終身雇用を取り入れる企業が減少し、それとともに業績や貢献度等で評価する「成果主義」や、プロセスを評価する「能力主義」に基づく人事評価制度が取り入れられるようになりました。
2016年12月に政府が発表した『同一労働同一賃金ガイドライン案』では、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の不合理な待遇格差の是正を目指し、“業務内容が同じか同等であれば、雇用形態が違っても同じ賃金を支払うべき”という考えを示しています。実際の業務とは直接関係のない、年次や雇用形態を理由とした給与の格差を無くすためのものであることから、政府の方針も成果主義に変わってきていると言えます。

一方、海外では近年、定期的な人事評価を廃止する「ノーレイティング」という新しい動きもあります。ノーレイティングとは、評価そのものをしないのではなく、S評価・A評価といった従業員のランク付けや、年次ごとといった特定の期間に区切った評価を止める動きのこと。上司と部下の1対1での面談を頻繁に行うことで、目標設定やフィードバックをリアルタイムで実施できるため、変化のスピードが速い状況にも対応しやすくなります。このように人事評価制度は、景気や雇用情勢の変化と共に変容を続けており、企業は世の中の動きも把握しながら人事評価制度を検討していく必要があります。

人事評価制度といっても様々な手法がある。主要な評価制度とその特徴

一般的な人事評価制度では、業績・目標の達成度やプロセスなどを評価する「業績評価」、業務を通じて身に付け能力を評価する「能力評価」、勤務態度や仕事への意欲を評価する「情意評価」という3つの軸に分類できます。これらを測るための主要な評価手法とその特徴についてご紹介します。

目標管理制度(MBO)

目標管理制度(MBO※)とは、あらかじめ個人やチームで目標を設定し、その達成度を評価するという手法のことです。客観的に評価できるため、能力やスキル評価をする際にはこの手法が適しています。
目標管理制度には、「達成すべき目標の内容や期限などを明確に示すことで評価がしやすい」、「従業員一人ひとりの目標を経営目標や部門目標と連動させることで業績アップを目指せる」といったメリットがあります。また、従業員のモチベーションアップや目標達成のためのスキル向上などの効果も期待できます。
一方で、業務によっては目標設定が困難な場合や、達成するために目標を低く設定する・個人の目標達成に集中するあまり目標から外れる業務はやらなくなるといった問題が起こる可能性もあります。最初の目標設定の段階で、企業の方向性と合致しているか・役職や能力に見合った目標になっているかなどを注意し、実施後も進捗を見ながら適宜目標の見直しを行いましょう。

※MBOは、Management by Objectivesの略称

コンピテンシー評価

コンピテンシー評価とは、「コンピテンシー(業務の遂行能力)」が高い従業員に共通する行動特性に基づいて設定された評価項目に従って評価する手法のことです。一定期間内に発揮された個人の能力を判断することができるため、能力評価をする際に適しています。
コンピテンシー評価では、安定的に良い成績を出し続けるための知識や技術、基礎能力といった行動特性を分析し、評価基準を明確化しているため、評価のブレが発生しづらくなります。また、優れた従業員の行動特性に基づいた評価項目を示すことで業績の向上につながる、従業員が評価に納得しやすいといったメリットがあります。
一方で、正しい手順で進めないと、期待通りの効果が得られない可能性もあります。まず、各部門で優秀な従業員の行動特性について観察やヒアリングを行い、各部門で目指すべき優秀な従業員像を設定しましょう。評価基準をまとめたら、明確な評価ができるような具体的な項目を設定することが重要です。それをもとに、従業員が評価項目を達成するための目標設定を各自行います。評価の際には、自己評価と上司からの評価だけでなく、同僚からの評価を実施するのも効果的です。評価項目を満たしていればより高い目標を設定し、達成できなかった評価項目については原因を分析して行動改善を考えることが求められます。

360度評価

360度評価とは、上司や部下、同僚といった複数の立場から、従業員を多面的に評価する手法のことです。勤務態度や意欲といった周囲への影響を判断する情意評価を行うのに適しています。
360度評価の大きな特徴は、上司が評価するのが一般的な従来の評価制度とは異なり、普段一緒に仕事をする同僚や部下も評価を行うという点です。複数人が評価するため、公平性や客観性が高まる、従業員が自分への評価に納得しやすくなるといったメリットがあります。360度評価をすることで、本人の認識と周囲の評価のギャップを明確にし、具体的かつ客観的なフィードバックも可能になります。
一方で、部下からの評価を気にするあまり上司が適切なマネジメントをしづらくなる、人間関係が悪化する、評価することに慣れていないと評価がバラツキやすいといった問題が発生する可能性があります。そのため、評価結果と処遇は切り離す、匿名性を確保する、説明会を実施し従業員の理解を促すなどの対策を行いましょう。

特徴 メリット デメリット
目標管理制度(MBO) 業績評価向き ・達成すべき目標の内容や期限などを明確に示すことで評価がしやすい
・従業員一人ひとりの目標を経営目標や部門目標と連動させることで業績アップを目指せる
・達成するために目標を低く設定する可能性
・個人の目標達成に集中するあまり目標から外れる業務はやらなくなる可能性
コンピテンシー評価 業績評価向き ・評価のブレが発生しづらい
・優れた従業員の行動特性に基づいた評価項目を示すことで業績向上につながる
・従業員が評価に納得しやすい
・正しい手順で進めないと、期待通りの効果が得られない
360度評価 情意評価向き ・複数人が評価するため、公平性や客観性が高まる
・従業員が自分への評価に納得しやすくなる
・部下からの評価を気にするあまり上司が適切なマネジメントをしづらくなる
・人間関係悪化の可能性
・評価することに慣れていないと評価がバラツキやすい

人事評価制度を導入するには?人事評価制度の導入方法

人事評価制度では、目標を設定、自己評価や上司等からの評価、フィードバック面談という流れで進むのが一般的ですが、実際に人事評価制度を導入するためにはどのような手順が必要なのでしょうか。人事評価制度の導入方法についてご紹介します。

人事評価制度の導入フロー

人事評価制度の導入フロー

ステップ①:評価制度の検討

さまざまな評価制度があるため、まずは企業の理念や現状の課題を再確認した上で、どういった評価制度を取り入れるべきかを検討しましょう。企業の方向性にあっているか、継続的に無理なく運用できるかという観点で、十分に検証することが重要です。

ステップ②:評価基準・評価項目の策定

取り入れる評価制度が決まったら、次は評価基準や評価項目を明確にしましょう。職種や役職によって求められる成果や能力が異なるため、評価基準や評価項目は職種や役職によって変えることが重要です。従業員を縛り付けるのではなく、モチベーション向上につながるよう意識して策定するようにしましょう。

ステップ③:処遇に関する規定の策定

評価結果を従業員の給与や賞与、昇給に反映させる場合、処遇に関する規定を策定する必要があります。評価結果と、従業員の等級・給与や賞与などの連動が分かるよう明確な規定を作りましょう。就業規則や賃金規定の記載を変更する場合は、監督署に変更の届出が必要です。

ステップ④:評価FMTや評価システムの導入

人事評価制度を円滑に進めるために、評価フォーマット(FMT)を用意しましょう。評価する人によってズレが起きないよう評価項目や基準を明確にし、記入例も作成すると良いでしょう。
また人事評価制度の継続的な実施方法が定まった際に導入を検討したいのが、評価用のシステムです。システムを導入することで、情報の集約や管理の工数削減に役立ちます。検討する際には、まず目的と予算、運用方法を明確にしましょう。その上で、条件に合ったシステムをいくつか選び、見積もりを依頼します。見積もりをもとに人事担当やシステム担当、経営陣で検討し、導入する評価システムを決定しましょう。

ステップ⑤:従業員への周知

人事評価制度によって従業員の処遇が決まるため、運用を始める前には従業員からの理解を得ることが重要です。説明会を開催するなど、従業員へ周知を徹底しましょう。また、制度を円滑に運用するためには、評価をする側になる管理職に対して事前に研修を行い、評価方法について理解を深めてもらうことも必要です。

ステップ⑥:運用開始

従業員への説明が済んだら、人事評価制度の運用を開始しましょう。運用開始後に課題が見つかったら、適宜見直しを行い、企業にマッチした制度へと変えていくことも重要です。

目標設定の仕方【職種別・雇用形態別】

職種や雇用形態によって、業務内容や求められる役割が異なる場合があるため、職種や雇用形態に応じて目標設定をする必要があります。いくつかの職種と雇用形態を例に、目標設定の仕方をご紹介します。

エンジニア系

エンジニア系の職種に求められるのは、工学に関する知識やスキルを駆使して、システムやプロダクトを生み出すことです。そのため、求められる要件に対する到達度や予定していた開発計画に対する達成度を目標項目に設定するのが一般的です。また、開発には長い期間を要することが多く人件費もかさみがちなので、プロジェクトマネージャーには業務効率化や外注先の変更による開発人件費の削減などの評価項目を立てるのも効果的です。

営業系

営業系の職種に求められているのは、顧客に対して自社の商品やサービスを販売することです。そのため、明確な数値目標を立てやすい職種と言えます。販売数や新規顧客の獲得数、収益性の高い商品の拡販、新規商品の拡販などの項目を立て、具体的な金額や件数を評価基準として設定しましょう。また、この職種は顧客の声を直接聞くことのできる職種でもあるので、顧客のニーズをもとにした新商品の開発提案などを目標に設定するのも良いでしょう。

バックオフィス系

経理や会計、総務や庶務等のバックオフィス系の職種に求められているのは、社内の他の部署を後方から支援することです。明確なノルマがあるわけではないため、バックオフィス系は比較的、数値目標が立てづらい職種と言えます。受発注業務の精度向上や業務の効率化、マニュアルの作成、消耗品代の削減、事務系の資格取得など、バックオフィス系の職種でも評価しやすい項目を目標に設定しましょう。どうしても数値目標を立てられない場合は、期日を目標にする方法もあります。

マーケティング系

マーケティング系の職種に求められているのは、情報を収集・分析した上で、商品やサービスの売れる仕組みや新商品のコンセプトを考えることです。そのため、Webサイトのアクセス数を増やす、新商品の問い合わせ件数を増やす、シェアを増やすなどの目標を設定しましょう。パーセンテージや件数、期日といった目標を設定することも重要です。

その他職種

その他の職種の目標を立てる際にも、まずは、どのような役割が求められている職種なのかを考えることが重要です。一例として、介護系であれば利用者やその家族への対応と事故防止、接客系であればお客さんからのクレーム削減などが挙げられます。職種ごとの特徴を考慮しながら、具体的な数値目標や期日の目標を設定するようにしましょう。

正社員

正社員は基本的に無期雇用で、昇給・昇格が望める反面、異動・転勤の可能性もある雇用形態です。契約社員やアルバイト・パートに比べて責任感が求められ、自分の業務だけをするのではなく部下や後輩の指導という役割も担う必要があります。そのため、目標設定の際は、個人の数値目標だけではなく、部署の目標や部下の育成といった目標も組み込むようにしましょう。

契約社員

契約社員は基本的に有期雇用で、異動・転勤の可能性が少ない反面、企業の業績等によっては契約更新されないこともある雇用形態です。また、さまざまな業務を広くこなすことが求められる正社員とは異なり、個人のスキルを特定の業務で活かすことが契約社員には求められます。専門性の高い業務を任されることが多いため、担当する業務の成果や業務に関連した資格取得などを目標に設定するのが効果的です。

アルバイト・パート

アルバイトやパートは、限られた時間のみの勤務のため、学業や家庭との両立を目的に学生や主婦が多く就く雇用形態です。正社員や契約社員と比べると処遇の差が大きく、任される役割も限定的な場合が多いため、正社員や契約社員とは違った視点で目標設定をする必要があります。入社時や数カ月前と比べて、出来る業務がどのくらい増えたか、ミスがどの程度減ったかなど、成長具合が明確に分かるような目標を設定しましょう。

テレワークや在宅勤務者、裁量労働制などの場合に向いている人事評価制度

働き方の多様化に対応し、自宅やサテライトオフィスなどでのテレワーク、自宅での在宅勤務、労働時間を従業員の裁量に委ねる裁量労働制を認めている企業も増えてきました。これらの雇用形態に人事評価制度を導入する際のポイントをご紹介します。

テレワーク・在宅勤務者

テレワークや在宅勤務者など社外で仕事をしている場合、仕事のプロセスが見えづらいため、プロセス重視の人事評価制度は適しません。そのため、テレワークや在宅勤務者に対しては、具体的な目標に対する成果を評価対象にする目標管理制度を適用する企業が増えています。
一方で、プロセスを完全に評価対象外にすると、従業員が企業に対して「働きぶりを評価してもらえない」という不満を抱く可能性があります。一定期間ごとに業務の進捗状況について上司に報告をする場を設ける、場合によっては対面で話す機会を設けるなど、働きぶりが可視化できるような工夫をし、プロセスも評価できるようにしましょう。

裁量労働制

裁量労働制では、業務の進め方や時間配分などを従業員自身が設定することができます。専門性が非常に高い職種を対象とした「専門業務型裁量労働制」と企画や事業運営に携わる従業員を対象にした「企画業務型裁量労働制」の2種類がありますが、いずれの場合も、労働時間で評価するのは適していません。裁量労働制の従業員を評価する際は、成果を明確に評価できる仕組みが必要です。目標管理制度で具体的に成果を評価する他、評価と報酬が明確に連動する評価制度を構築しましょう。

人事評価制度の導入のメリット・デメリット

人事評価制度を導入することで、企業や従業員にさまざまな変化がもたらされます。人事評価制度を導入する際のメリットとデメリットについて知っておきましょう。
メリットデメリット

メリット①:モチベーション向上により生産性が高まる

人事評価制度があることで、成果によって給与や待遇の改善が見込めるため、従業員のモチベーションが向上します。また「頑張れば評価される」と従業員が認識することで、自発的な業務改善が促され、結果的に生産性を高めることにもつながります。

メリット②:企業と従業員の信頼関係が向上する

人事評価制度で具体的な評価基準と共に昇給や昇進の可能性を明示することにより、従業員は自分自身に求められている役割などを明確に知ることができます。また、適切なフィードバックが行われることで、「日頃の業務を見てもらえている」という安心感と企業への帰属意識が高まり、信頼関係の向上が期待できます。

メリット③:今後の人材開発に役立つ

人事評価制度を導入することで、従業員一人一人の現状のスキルを把握することができるため、個々の課題や不足しているスキルなどを明確にすることができます。その結果をもとに、研修プログラムの策定やスキルアップ制度の検討などをすることで、今後の人材開発に役立ちます。

デメリット①:運用に失敗すると従業員のモチベーションが下がる

人事評価制度がうまく機能していればモチベーション向上が期待できますが、評価基準が曖昧だったり、フィードバックが不十分だったりする場合、従業員は人事評価制度に対して不信感を抱くようになります。従業員のモチベーションを下げないためにも評価基準の明確化や日々の運用を徹底することが重要です。

デメリット②:不適切な処遇による訴訟リスクの可能性がある

人事評価制度では、評価結果により給与や役職などの処遇が決まるため、評価結果やその後の処遇が不適切だと従業員が感じた場合、訴訟に発展する可能性があります。明確な評価基準を決めた上で、評価結果と処遇をどう連携させていくかを、従業員に周知しましょう。

企業によっては人事評価制度がそもそも適さない可能性も

人事評価制度では、従業員個々人のパフォーマンスをもとに評価が行われます。そのため、チーム全体で一定のサービスや品質を保つことが求められる医療関係や製造業などの企業では、個人を評価する人事評価制度は適さないと言われています。これらの業種以外でも企業の特性によっては人事評価制度が適さない場合もあるため、人事評価制度が必要かどうか、どういった基準であれば評価できるのかを事前に検討しましょう。

人事評価制度を運用する際の注意点

現在では多くの企業が人事評価制度を導入しますが、依然として課題もあります。人事評価制度を運用する際の注意点とその対処法をご紹介します。

人事評価の際のエラーとは?

人事評価では、人が人を評価するため、客観的に評価をしようと思っても、無意識に感情や心理的影響に左右され、間違った評価をしてしまう恐れがあります。1つの良い印象に引っ張られて総合評価も高くしてしまう「ハロー効果」、部下に対して全体的に甘い評価または厳しい評価をしてしまう「寛大化・厳格化傾向」、自分と比較して評価をしてしまう「対比誤差」が起こりやすいとされています。こういった人事評価の際のエラーは、事前に知っておくことで回避できるものも多いため、評価をする側に周知しておくことが有効な対処法です。人事評価時のエラーについては『人事考課をうまく運用するために、押さえたい目標設定と評価のポイント』も参照ください。

評価をする側の適性の有無

エラーが起こる可能性もある人事評価は、非常に難しい業務であると言えます。評価をする側の適性の有無によって従業員が評価に納得できるかどうかも変わるため、企業の定めた評価基準を正確に理解している、客観的で公平な評価をできるといった適性があるかを見極めることが重要です。
万が一、適性が無いと判断した場合、評価者向けのトレーニングを実施し、評価をするのに必要な能力を習得させるようにしましょう。

フィードバックの実施

人事評価制度は、最終評価を決めて終わりではなく、従業員への適切なフィードバックを行ってようやく完了します。フィードバックを的確に実施することで、従業員は評価結果に納得し、課題をもとに今度の行動目標を明確化することができます。しかし、忙しいと十分にフィードバックが行われていない可能性があります。
人事評価制度を従業員の今後の成長につなげるため、適切なタイミングでフィードバックが行われているか、形だけのフィードバックではなく従業員の意見を聞いた上でアドバイスをしているかなど、フィードバックの実施状況について確認をすることが重要です。

残業時間、生産性、勤務態度…。こういう場合はどう評価すればいい?

残業時間はどのように評価するか?

よく残業する従業員とあまり残業しない従業員がいる場合、残業時間をどう評価したらよいのでしょうか。
日本の企業では従来、「残業する従業員は頑張っている」という認識のもと残業する従業員を高く評価し、逆に定時で帰宅する従業員は「仕事に意欲的でない」と低く評価されがちでした。しかし、過度の残業は心身に及ぼす影響が大きいことを踏まえ、現在では残業時間の長さを人事評価には反映しないという考え方が一般的です。「何時間残業した」、「全く残業しなかった」という目に見える基準で従業員を評価するのではなく、あくまで成果を評価しましょう。

生産性はどのように評価するか?

政府が推進する働き方改革の影響もあり、生産性を評価の対象にしようという動きも広がっています。生産性を評価する際には、「決められた時間内で成果を出す人を高く評価する」ということが大前提になります。生産性を評価する指標としては、従業員一人の時間当たりの生産性を知ることができる「労働生産性(粗利益÷総労働時間)」が適しています。単純に成果や労働時間で評価するのではなく、限られた時間の中でどれだけの成果をあげたのかを評価しましょう。

 

勤務態度はどのように評価するか?

日本の企業では、チーム一丸になって課題に取り組むことが求められる傾向にあります。そのため、いくら仕事ができても、「同僚と協力して仕事ができない」、「遅刻や早退が多い」といったように勤務態度に問題がある場合、高く評価するのは難しいでしょう。一方で、仕事の出来は普通でも勤務態度が良い従業員は、企業への貢献度が高いと言えます。人事評価の際には、勤務態度も評価対象としましょう。
しかし、勤務態度という言葉の定義は曖昧なため、時として評価しづらいこともあります。複数の評価項目を設定し、総合的に判断することが重要で、多くの企業では以下の5つの評価項目を設定しています。

●規律性:社内規則や上司の指示に従って仕事をしているか
●責任性:与えられた役割を最後まで責任を持って成し遂げているか
●協調性:メンバー同士で協力して業務に取り組んでいるか
●積極性:現状に満足することなく創意工夫をしているか
●経営意識:管理職として企業の経営に携わっているという自覚・責任があるか

勤務態度は具体的な数値では判断することができないため、評価の根拠が分からない、一人だけに評価を任せると偏った結果が出るといった問題が生じる可能性があります。評価の信用性を高めるためには、評価結果と一緒に理由も記入する、360度評価で福数人からの評価を聞くといった対応をすることが重要です。

ユニークな人事評価制度を導入している企業事例

どのような人事評価制度を導入するかは、企業によってさまざまです。ユニークな人事評価制度を導入している企業をご紹介します。

事例①株式会社フロムスクラッチ ~採用に貢献した従業員を高く評価~

マーケティングプラットフォームを提供するベンチャー企業、株式会社フロムスクラッチでは、従業員全員が採用を行うためのリクルーティング資格制度「CREW」を導入しています。組織の拡大を見据えて始まった「CREW」では、企業への理解度やどのような人材を採用できたかをもとに、従業員を採用への貢献度に応じて「エントリー」、「バチェラー」、「マスター」、「ドクター」の4段階にランク付けしています。

 

事例②株式会社サイバーエージェント ~従業員の採用から才能開花までを一貫して管理~

AmebaTVで知られる、株式会社サイバーエージェンントでは、4000名を超える従業員の「採用→育成→適材適所→定点観測→才能開花」を一気通貫で管理しています。従業員の実績や評価といった客観情報に加え、「GEPPO」という社内システムを通じて得た従業員のコンディションなどあらゆるデータを、「人材科学センター」が分析して、人材育成や適材適所の人員配置に役立てています。

 

事例③サイボウズ株式会社 ~「100人いれば100通りの働き方」という考えに基づいた従業員主体の改革~

中小企業向けグループウェアを提供している、サイボウズ株式会社では、「100人いれば100通りの働き方があってよい」という人事方針を掲げています。従業員一人一人が望む働き方や報酬制度が実現させることを目指し、多様性を受け入れるための制度改革を行っています。人事評価や給与といった「制度」、場所や時間にとらわれずに働くための情報共有ツールといった「ツール」、企業の価値観としての「風土」という3つをセットにし、従業員同士でさまざまな人事制度を作り上げている最中です。
(参考:『離職率28%からの改革。サイボウズの働き方改革&採用戦略とは【セミナーレポート】』)

事例④面白法人カヤック ~話題になった“サイコロ給”。評価制度が人材のスクリーニングにつながるという考え~

面白法人カヤックの有名な「サイコロ給」。毎月サイコロをふって報酬を決めるというもの。これは、「評価が文化をつくる」という言葉に表われている通り、「どういう人をカヤックでは評価するのか」と、人が集まり、その評価にもとづいて成果を挙げた人/その評価に共感をもっいる人が会社を育てていくという思想にのっとり制度化されています。

人事評価制度導入でもらえる助成金

人事評価制度を導入することで、人材不足を解消することを目的にした、厚生労働省『人材確保等支援助成金(人事評価改善等助成コース)』。生産性向上につながる人事評価制度を整備し、多様な賃金制度を設けることで、生産性の向上や賃金アップ、離職率の低下を図る企業に対して助成金が支払われます。
受給要件を満たせば、人事評価制度などの整備計画の認定や制度の整備・実施といった整備助成金として50万円を、生産性の向上や賃金の増加、離職率の低下といった目標達成の助成金として80万円を、受け取ることができます。

まとめ

従業員一人ひとりの評価に基づき給与などの処遇に反映させる人事評価制度は、モチベーションや生産性の向上などに寄与するため、多くの企業が取り入れています。

一方で、うまく機能しないと従業員が不満を抱くといった問題が生じる恐れがあるため、企業に合った人事評価制度を導入・運用していくことが重要です。

働き方の多様化など時代の変化にも目を向けた人事評価制度により、企業の強化を図りましょう。

(制作協力/株式会社はたらクリエイト、編集/d’s JOURNAL編集部)

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