【無料テンプレ・例文付き】辞令とは?法的効力や交付方法、書き方を解説

【無料テンプレ・例文付き】辞令とは?法的効力や交付方法、書き方を解説
社会保険労務士法人クラシコ

代表 柴垣 和也(しばがき かずや)【監修】

プロフィール

辞令は、社内の人事異動や昇格・降格などの際に、従業員に交付する文書です。

人事・総務担当者にとっては扱う機会が多いものの「具体的にどのようなシーンで必要になるのか」「何をどのように書けば良いのか」が漠然としている方もいるのではないでしょうか。

そこで本記事では、辞令の例文をシーン別に紹介します。

すぐに使える辞令テンプレート一覧を、下記リンクから無料でダウンロード可能です。人事異動や昇格通知の作成でお悩みの方は、ぜひお役立てください。

辞令のテンプレート【無料】

辞令には記載しなければならない項目がいくつかあり、適切な文言もあるため、都度調べて作成するよりもテンプレートを活用したほうがスムーズに作成できます。

以下のリンクからは、オリジナルのテンプレートをダウンロードいただけます。「昇格」「退職(再雇用あり)」「異動」など、シーンに応じて活用が可能です。

【シーン別】辞令の例文集

ここでは、辞令の例文をシーン別に紹介します。

●昇格の場合の例文
●昇給の場合の例文
●降格の場合の例文
●減給の場合の例文
●入社の場合の例文
●退職(定年退職)で再雇用しない場合の例文
●退職(定年後再雇用)する場合の例文
●部署異動の場合の例文
●他部署兼務の場合の例文
●英語で記載する場合の例文

テンプレートと併せて、貴社の業務にぜひ活用してください。

昇格の場合の例文

社内の等級制度に基づき、従業員が「昇格」する場合は、その結果に至った理由を明記することで従業員のモチベーションの向上につながります

【昇格辞令の例文】
貴殿のこれまでに得た部下からの厚い信頼や功績をたたえ、○○○○年○○月○○日付をもって、第一営業部 部長の任を解き、同日付をもって営業本部 本部長に任命します。
よりいっそう職務に励み、わが社の発展に貢献されることを期待します。

昇給の場合の例文

従業員の給与が上がる場合は、「いつから昇給するのか」「具体的にいくらになるのか」を辞令で明示します。

【昇給辞令の例文】
貴殿のこれまでの功績をたたえ、○○○○年○○月○○日より、以下の通り給与を支給します。

基本給  ●●●,●●●円
◎◎手当  ●●,●●●円

降格の場合の例文

基本的に降格は、就業規則などの条項に基づき、何らかの処分や評価結果によって命じることとなります。昇格や昇給のケースとは異なり、事実のみを簡潔に記載します。

【降格辞令の例文】
貴殿を、○○○○年○○月○○日付をもって、第一営業部 部長の任を解き、同日付をもって第一営業部勤務を命じます。

なお、従業員を降格させる際の手順については、以下の記事をご覧ください。

(関連記事:『【弁護士監修】降格する際、何からどうする?違法にならないために注意したいこと』)

減給の場合の例文

減給の場合も、降格辞令と同様に事実のみを記載します。
ただし「いつからなのか」「減給後の給与はいくらになるのか」は明示しましょう。

【減給辞令の例文】
○○○○年○○月○○日より、以下の通り給与を支給します。

基本給  ●●●,●●●円
◎◎手当  ●●,●●●円

入社の場合の例文

転職希望者に対し、正式に採用を通知するための辞令です。転職希望者のモチベーション向上を目的に、入社後に期待することについても言及しておくと良いでしょう。

【採用辞令の例文】
貴殿を、○○○○年○○月○○日付をもって社員として採用し、(配属先)勤務を命じます。
今後の活躍により、わが社の発展に貢献されることを期待します。


1.入社日 ○○○○年○○月○○日
2.勤務地 ○○○○
3.配属先 第一営業部
4.給与 基本給  ●●●,●●●円
◎◎手当  ●●,●●●円
5.試用期間 ○カ月
6.就業時間 9:00~18:00 実働8時間 週休2日制
7.年次有給休暇 ○月○日より●日付与
8.社会保険等 労災保険、雇用保険、健康保険、厚生年金

退職(定年退職)で再雇用しない場合の例文

定年退職となる従業員に対しては、再雇用の有無によって辞令の内容が異なります。
再雇用しない場合の例文は以下です。

貴殿は、当社就業規則第*条により、○○○○年○○月○○日付をもって定年退職となることを通知します。
○○○○年入社以降○○年の長きにわたり、わが社の発展に大きく貢献されたことに感謝申し上げます。

長年会社に貢献してくれたことに対し、感謝の気持ちを添えることをお勧めします。

退職(定年後再雇用)する場合の例文

定年退職後、再雇用する従業員に対しては、退職辞令に以下の内容を記載します。

貴殿を、当社就業規則第(定年退職について規定している条項)条により、
○○○○年○○月○○日付をもって定年退職となることを通知します。
なお、定年退職日の翌日より、嘱託社員として再雇用します。

ポイントは「いつから再雇用となるのか」「再雇用時の雇用形態はどのようになるのか」を明記することです。

部署異動の場合の例文

従業員が部署を異動する際は「いつから」「どこに異動するのか」を辞令に明記します。

【異動辞令の例文】
貴殿を、○○○○年○○月○○日付をもって、営業企画部勤務を命じます。

他部署兼務の場合の例文

現在の任務を継続しつつ、ほかの職務も兼ねることになる場合は「追加で何を担うのか」「本務はどうなるのか」を明示します。

【兼務辞令の例文】
貴殿を、○○○○年○○月○○日付をもって、営業企画部部長の任を兼務することを命じます。
なお、本務は第一営業部 部長とします。

英語で記載する場合の例文

英語では、一般的に辞令を「Letter of Appointment」「Appointment Letter」と表現します。詳しくは、先ほどご案内した辞令のテンプレートで確認してください。

ここでは例として、昇格辞令を英語で記載する場合の例文を紹介します。

We are pleased to inform you that you have been appointed for the position of a Sales Manager as of January 1.
(あなたが、1月1日付をもって営業部長に任命されたことを喜んでお知らせします)

We are also confident that your contribution will take us further to the growth of our company, fulfilling the responsibility of a new position and meeting our expectations.
(あなたが、今後も引き続き新しい職の責務や期待に応え、わが社の発展に貢献されることを期待しています)

辞令の基本的な書き方と記載項目

辞令にはさまざまな種類がありますが、いずれの場合でも「いつ、誰から誰に、どのような旨を伝えるのか」を明記する点は共通しています。

なお、辞令を正式に伝える日を「発令日」といい、辞令を発する企業側の責任者を「発令者」、辞令を受け取る従業員を「受令者」といいます。

辞令に記載すべき項目一覧

辞令を作成する際は「何を伝える辞令なのか」を明確にするために、以下の項目を記載します。

●タイトルと発令日付
●受令者・発令者
●変更内容(異動・昇進など)
●発令の理由や背景

タイトルと発令日付

辞令を従業員に正式に伝える日程である、発令日を記載します。

【発令日の記載例】
2026年1月30日

受令者・発令者

役職に就いている従業員が受令者となる場合は役職も記載します。

また、敬称には「殿」を用います。

【受令者の記載例】
第一営業部 部長 ○○○○殿

発令者は、一般的には代表取締役や社長となりますが、人事部門の責任者の名義を用いる場合もあります。

なお、辞令は社内文書となるため基本的に社長印は不要ですが、正式な文書であることを示すためにあえて押印する企業もあるようです。

【発令者の記載例】
株式会社○○○○ 代表取締役社長 ○○○○

変更内容(異動・昇進など)

従業員に伝えるべき内容を簡潔に記載します。具体的な記載内容は発令の理由や目的により異なるため、先ほど紹介した部署異動の場合の例文を参考に作成してください。

発令の理由や背景

昇給や異動などの理由も簡潔に記載しましょう。
ただし、降格や減給の場合は理由を添えず、事実のみを記載することが一般的です。

辞令交付までの流れ

辞令を作成する準備を始めてから、実際に辞令を交付するまでには、1~3カ月程度の期間を要します。具体的な流れについては以下をご覧ください。

1.内示を行う(1~3カ月前)
2.辞令文書を作成する(1カ月前~10日前)
3.辞令を発令する(10日前~当日)
4.辞令を交付する(10日前~当日)

1.内示を行う(1~3カ月前)

正式に辞令を出す前に、従業員本人にあらかじめ内容を伝える「内示」を行います。

なぜ、辞令を出す際に初めて伝えるのではなく内示が必要なのかというと、従業員に異議を唱える機会を与えるためです。辞令は業務命令であるため、仮に従業員に異議を唱えられても、取り下げる必要はありません。

しかし、無理に強行してしまうと従業員が退職するリスクもあります。そのような事態を避けるため、十分な期間を設けて従業員を適切にフォローする目的で内示を行うのです。

また、内示を行う理由はもう一つあります。それは、転勤や異動などの場合は、業務の引き継ぎや引っ越しの準備なども必要となる都合上、準備期間を設けるためです。

なお、内示の方法に決まりはないため、「口頭」「メール」「文書」など、自社が最適だと思う手段で構いません。ただし、内示の段階ではまだ正式な発令ではないため、口頭の場合は個室で伝えるなど、内容がほかの従業員に漏れないように気を付ける必要があります。

例:内示文書(書面通知の場合)

書面で内示を行う場合は、以下の例文を参考にしてください。

【内示文書の例文】
○○○殿
 貴殿を、○月○日付をもって、下記の通り発令見込みにつき通知する。
 異議がある場合は、○日以内に申し出ること。

2.辞令文書を作成する(1カ月前~10日前)

内示を終えたら、正式に辞令を発令するため、文書を作成します。なお、文書で交付することに法的な義務はないため、必ずしも作成しなければならないわけではありません。

文書で辞令を交付する場合は、本記事で紹介したテンプレートや例文を参考に作成してください。また「誤字脱字はないか」「役職名や日付は間違っていないか」を複数人で確認しましょう。

3.辞令を発令する(10日前~当日)

辞令の内容を、当事者以外の従業員や取引先などの関係者にも向けて公表することを「辞令の発令」といいます。発令の方法には「定例会議の場で伝える」「社内に掲示する」「グループウエアを通じて発信する」などがあります。

これによって、組織全体が新しい体制を認識できるようになるため、発令のタイミングや方法は非常に重要です。

4.辞令を交付する(10日前~当日)

最後に、辞令の内容を文書で受令者本人に渡します。企業によっては、「辞令交付式」として社内でセレモニーを実施するケースもあるようです。

辞令交付式は、社長や代表取締役、上司などから辞令書を授与し、受令者は感謝の気持ちや今後の仕事への意欲などを発表することで、全体の士気を上げるという式典です。

辞令交付に必要な文書をスムーズに作成できる、シーン別のテンプレートを下記より無料でダウンロードいただけます。実務でそのまま使える内容なので、ぜひご活用ください。

辞令の交付方法

作成した辞令は、具体的にどのようなかたちで従業員に交付すれば良いのでしょうか。

【辞令を交付する手段】
●対面
●メール
●郵送
●社内掲示

以下では、主要なシーンごとに交付する方法を解説します。

対面での辞令交付

辞令の交付方法として最も一般的なのは対面です。役員や直属の上司から従業員に対し、直接辞令を伝えることで、辞令の重要性を示し、従業員一人ひとりと真摯に向き合う会社の姿勢を伝えることができます。

ただし、対面故に書面だけでなく「表情」「口調」といった非言語情報も伝わることになるため、場合によっては、伝え方に十分注意する必要があります。

特に、異動や降格など、従業員自身への影響が大きなものについては、内示であらかじめ伝えているとは言え、丁寧にフォローすることが大切です。

メールでの辞令交付

リモートワークが中心となっている場合など、対面での交付が難しい場合はメールで辞令を交付するという選択肢もあります。基本的には、書面でなくともメールの文面上で双方の意思表示が明確であれば問題ありません。

ただし、辞令の証拠性を担保した上でトラブルを回避するためには「内示は対面や電話で行う」などの工夫が必要です。文面をPDFデータで添付する方法もお勧めです。

なお、誤送信などのミスを防ぐため、送信前に必ず確認しましょう。

郵送での辞令交付

メールの場合と同様に、リモートワークが中心となっている場合などでは書面を郵送して辞令を交付するという方法もあります。ただし、こちらも内示の方法を工夫するなどの対応は必要です。

例えば、郵送の場合は、配送中の紛失リスクもあるため、「配達証明」や「簡易書留」など、記録が残る方法を選択すると良いでしょう。

また、メールと異なり、辞令を発送してから従業員が受け取るまでに一定の日数を要するため、発送がギリギリとならないよう、余裕を持って動かなければなりません。

社内掲示での辞令交付

辞令を社内掲示という形で公表する場合、発令日の10日前~当日に掲示を開始します。内容は、辞令文書と同等で構いません。同日に複数の従業員が辞令を受ける場合には、表形式の一覧にしても良いでしょう。

掲示する方法には、従業員の目に付きやすい掲示板に貼り出すほか、Web上にデータをアップロードできる社内ポータルサイト内で公表するなどがあります。いずれにしても、辞令を掲示する場所は一元管理をして、常に同じ場所で確認できる状態が望ましいです。

また、掲示しておく期間も決まりはなく、企業によってさまざまです。Webの場合は、過去の辞令も含めて半永久的に同じ場所に保管している場合もあります。

辞令の種類

本記事冒頭でさまざまな例文を紹介したことからもわかる通り、一口に「辞令」といっても、多様な種類があります。

【辞令の種類】
1.昇給辞令
2.昇進辞令
3.異動辞令
4.転籍辞令
5.出向辞令
6.出張辞令
7.採用辞令
8.退職辞令

1.昇給辞令

従業員の給与を引き上げる旨を通知する辞令を、昇給辞令といいます。一般的に、企業では定期的な人事評価に基づいて昇給を決定し、昇給辞令によって新しい給与額やその適用開始日を従業員に通知します。

なお、基本的には昇給の理由は辞令に記載しませんが、就業規則の内容などを根拠として記載しているケースもあるようです。

2.昇進辞令

従業員が昇進する旨を通知する辞令が、昇進辞令です。昇給辞令と似ていますが、あくまでも「給与が上がること」のみを伝える昇給辞令に対し、昇進辞令では「新しい職位や役職に昇進すること」を伝えます。

そして、昇進に伴って起きる変化として新しい給与や職務内容を通達します。また、昇進と同時に配置転換も命じる場合は、昇進辞令にその旨を併記することが一般的です。

3.異動辞令

異動辞令は、従業員が社内の別の部署や、現在勤務している場所とは異なる拠点に配置される際に発行する辞令です。

基本的には、異動の旨とともにその理由や新しい職務内容、配置場所や、開始の日付などを記載します。

4.転籍辞令

異動辞令と似ているものの異なる辞令としては、転籍辞令が挙げられます。

転籍辞令は、従業員が子会社など別の企業に勤務先を変える「転籍」を伝える辞令です。転籍では、異動と異なり、雇用主自体が変わることとなります。

そのため、転籍辞令の発令には、受令者の同意が必要です。なお、転籍辞令には、転籍となる理由や転籍先企業での職務内容、配置場所や適用開始となる日付などを記載します。

5.出向辞令

異動や転籍ではなく、従業員があくまでも一時的に、ほかの企業やプロジェクトに出向く旨を通達する辞令が、出向辞令です。出向辞令には、出向の目的や期間、給与の取り決めなどを記載します。

なお、出向辞令を発令するにあたっては、自社の就業規則や労使協約、出向規程などに出向に関する規定が明示されている必要があります。規定にその旨が記されていない場合は、従業員本人から同意を得なければならない点に注意してください。

6.出張辞令

所属企業や部署は変わらないまま、従業員が一時的にほかの場所で業務にあたる「出張」を行う際に発行される辞令を、出張辞令といいます。出張辞令には、出張の目的のほかに期間や経費の扱い、業務の報告先などを記載します。

出張が長期間に及ぶ場合や、海外への出張など大規模な移動を伴う場合は、準備期間が必要となるため早めに発令するよう心がけましょう。

7.採用辞令

採用が決まった転職希望者にその旨を通知する際は、採用辞令を交付します。採用辞令は労働条件通知書の役割を兼ねる場合もあるため、労働基準法第15条に基づき、記載内容に法的義務が発生するケースがあります。

具体的には、以下の内容を採用辞令の書面で明示する必要があります。

(1)労働契約の期間に関する事項
(2)期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項
(3)就業の場所及び従業すべき業務に関する事項
(4)始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項
(5)賃金(退職手当及び臨時に支払われる賃金等を除く。)の決定、計算及び支払いの方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
(6)退職に関する事項(解雇の事由を含む。)

(引用:厚生労働省『採用時に労働条件を明示しなければならないと聞きました。具体的には何を明示すればよいのでしょうか。』)

(※(5)のうち、昇給に関する事項は除きます。)

ほかの辞令よりも記載事項が多いため、抜け漏れや誤りのないように注意しましょう。

8.退職辞令

退職辞令は、従業員が自社を退職する際に発行する辞令です。

ただし、退職者に対しては基本的に「退職証明書」「離職証明書」と呼ばれるものを発行するため、退職辞令は作成しないという企業も多くあります。

その上で、なぜ退職辞令を出すケースがあるのかというと、再雇用を前提として従業員を定年退職させる場合は、退職証明書や離職証明書を発行しないためです。

そのようなケースでは、退職辞令を発行し、定年を理由とする退職である旨や退職日、給与の精算などを明示し、再雇用後の雇用形態についても通達します。

退職証明書について詳しく知りたい方は、下記の記事もチェックしてみてください。
(関連記事:『【無料テンプレート付】退職証明書とは?記載項目と書き方、発行手順を解説

辞令を出す際の注意点

企業が従業員に辞令を交付するにあたっては、いくつか押さえておくべき注意点があります。

●辞令に法的拘束力はない
●一度出した辞令は取り消すのは困難
●従業員が辞令に従わずに懲戒解雇となる可能性がある

後のトラブルを回避するためにも、あらかじめ確認しておきましょう。

辞令に法的拘束力はない

「辞令」は法律で義務付けられたものではないため、辞令そのものに法的拘束力はありません。ただし、辞令の内容(異動・転勤など)は、労働契約や就業規則に基づく企業の業務命令権により発せられるため、合理的な範囲であれば従業員は従う義務があります。

この業務命令権は、労働契約法第7条で定める「就業規則の合理的な規定に基づく労働契約の効力」や判例に基づいて認められています。正当な命令を拒否した場合、就業規則に基づき懲戒処分となる可能性があります。

ただし、命令が合理性を欠く場合や権利濫用に該当する場合は無効となり、従業員が拒否しても法的責任を負わないケースもあります。

(参照:法令検索e-Gov『労働契約法 第7条』、『労働契約法 第15条』)

一度出した辞令は取り消すのは困難

企業都合による辞令の変更・撤回は、法的には可能とされていますが、一度正式に発令した辞令を変更・撤回することは、実務上は非常に困難です。

例えば、異動辞令を出した後に取り消すと、従業員がすでに住居変更や家族の転校などの手続きを行っているケースもあり、取り消しによって金銭的・精神的な損害が発生するリスクがあります。

つまり、企業側の都合だけでは簡単に取り消せないため、辞令を出す前(内示の段階)で「正式な発令後は原則として取り消せない」旨を、あらかじめ従業員に説明しておくことが重要です。

従業員が辞令に従わずに懲戒解雇となる可能性がある

以下の2つの条件を満たした上で、従業員が辞令に従わなかった場合、懲戒解雇の可能性があります。

1.業務命令について、就業規則などに規定されている
2.辞令の内容が合理的なものである

とは言え、懲戒解雇は従業員にとって社会的・経済的ダメージが大きいため、必ずしも「これらの条件を満たせば懲戒解雇して良い」というわけではありません。企業が従業員に対して無理な辞令を出せば、訴訟問題にまで発展するケースもあるでしょう。

辞令の内容が従業員にとって著しく不利益なものと判断された場合には、「人事権の乱用」として辞令自体が無効になる可能性もあります。

(参照:法令検索e-Gov『労働契約法 第15条』)

辞令を従業員が拒否できるケース

先ほど「辞令は企業から従業員への命令となるため、基本的には拒否できない」と伝えましたが、例外となるケースも存在します。

例えば、入社時の条件と辞令の内容に相違があり、企業による「契約違反」と判断できる場合は従業員が辞令を拒否できる可能性があります。

また、人事権の乱用に該当する場合も同様です。
具体的な例は以下をご覧ください。

【辞令の内容が人事権の乱用に該当するケース】
●業務上の必要がない
●従業員側の不利益が大きい
●不当な動機や目的である

辞令の内容が上記の内容に該当してしまうことのないよう、企業側は雇用契約を確認した上で、正当な理由を明確にしておく必要があります。

従業員に辞令を拒否された場合の企業の対応方法

先ほど「注意点」の章でお伝えしたように、辞令に法的拘束力はないため、従業員に拒否されてしまう可能性もあります。

【辞令を拒否された場合の対応】
●ヒアリングして従業員の状況を確認する
●会社が従業員に期待していることを伝える
●辞令に伴う条件(給与や手当)を見直す

そのような事態となった場合の対応方法を以下で解説します。

ヒアリングして従業員の状況を確認する

拒否する理由には、介護を行っている、小さい子どもがいる…などといった個別事情の可能性があります。まずは拒否する理由を把握することが大事です。その上で、代替案を模索する必要があります。

会社が従業員に期待していることを伝える

「今回の辞令がなぜ行われたのか」「従業員にどのような期待を寄せているのか」など、会社側の背景をきちんと伝えることも大事です。従業員も理由に納得できれば、受け入れてくれる可能性も大いにあります。

辞令に伴う条件(給与や手当)を見直す

個人事情の理解を示した上で、給与や手当といった雇用条件の見直しを行うことは有効です。転居を伴う異動辞令の場合、引っ越し代の補助や住居支援などのサポートを行っている企業も多いです。従業員の状況に合わせたサポートを提供することで、辞令への抵抗感を拭うことができるかもしれません。

それでも辞令を拒否されるようであれば、就業規則にのっとって懲戒処分を検討することになるかもしれません。会社の状況を踏まえて慎重に対処する必要があります。

また、自主退職につながる可能性もありますが、その場合も人事・総務担当者はフォローを徹底するべきです。辞令の持つ重さを考え、慎重に対処するようにしましょう。

(参考:厚生労働省『モデル就業規則について』)

辞令に関するよくある質問

最後に、辞令の作成・交付に関して人事・総務担当者からよく寄せられる質問に回答します。

●社印の押印は必要ですか?
●パート・アルバイトにも辞令は必要ですか?
●辞令を出すなら時期やタイミングはいつが適切ですか?
●内示なしの辞令交付は違法?

社印の押印は必要ですか?

いいえ、辞令に社印を押す義務はありません。

しかし、辞令の内容が会社の正式な意思決定に基づくものであることを証明するために、社印を押すという考えもあります。

そのため、一般的には特別な理由がない限りは押印することが多いでしょう。

パート・アルバイトにも辞令は必要ですか?

はい。特に勤務地や職務内容、役職といった労働条件に変更がある場合は、雇用形態にかかわらず、辞令あるいはそれに準ずる通知書を交付することをお勧めします。

なぜなら、変更点を明確にして書面という形で共有することで、会社と従業員双方の認識のずれを解消し、万が一のトラブルを防止できるためです。

辞令を出すなら時期やタイミングはいつが適切ですか?

一般的には、多くの企業が決算期などを避けた7月や10月に辞令を出しているようです。とは言え、基本的には、自社の動きに合うタイミングで出して問題ありません。

受令者となる従業員の人事評価や健康状態、家庭環境などの背景も考慮して決めると良いでしょう。

内示なしの辞令交付は違法?

辞令自体に法的拘束力がない以上、内示を経ずに辞令を交付することに違法性はありません。内示とは「従業員に状況を受け入れ、断る機会を与える場」です。

従業員にとって利益となる内容(昇給など)であれば、内示がなくてもトラブルにはなりにくいでしょう。

しかし、降格や減給など、従業員にとって不利益となる内容の辞令の場合は、従業員とのトラブルを避けるため、内示を行うほうが安心です。

まとめ

企業が成長を続けていくために「辞令」は非常に重要なものです。

辞令を交付することに敬意を払い、誠実な対応を心がけることが大切です。ぜひテンプレートをご活用いただき、スムーズな辞令交付に役立ててください。

(制作協力/株式会社eclore、編集/d’s JOURNAL編集部)

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