帰属意識とは?従業員エンゲージメントを高めるためのポイント

d's JOURNAL編集部

帰属意識は従業員の定着率やモチベーションの向上、組織の生産性などを左右する重要な指標です。高い帰属意識を醸成できる企業では、それだけ人材も生き生きと活躍できるため、高い競争力を維持できるようになります。

この記事では、帰属意識の基本的な意味や重要性、高めるために企業が実践すべきポイントなどを詳しく見ていきましょう。

帰属意識とは


「帰属意識」とは、企業や組織といった集団に所属している意識のことです。ここでは、ビジネスにおける帰属意識の意味合いについて、関連する用語との関係性も含めながら解説します。

帰属意識の定義

帰属意識とは、ある特定のグループに属しているという意識のことであり、もともとは社会心理学や精神分析学などの学術分野で用いられていた言葉です。ビジネスにおいては、「その企業の一員である」という自覚を指す場合が多く、業務へのモチベーションや社内の人間関係向上につながる重要な項目として捉えられています。

従業員エンゲージメントとの関係性

帰属意識と似ている言葉に「従業員エンゲージメント」があります。エンゲージメントとは、英語で約束や契約、雇用、従事といった意味を示す言葉ですが、人事領域においては「従業員の貢献意欲」を表すことも多いです。

従業員エンゲージメントが高いということは、対象の従業員がその企業で働くことに誇りを感じており、企業理念やビジョンにも強く共感している状態を指します。つまり、従業員エンゲージメントを高めることが、帰属意識の向上につながると考えられます。
参考:『エンゲージメント向上は生産性UPや離職防止に効果あり。概念や測定法、高め方を解説』
エンゲージメントと従業員満足度との関係性

ES(従業員満足度)との違い

従業員満足度とは、その名の通り、従業員個人が組織や仕事内容、職場環境などにどの程度満足しているのかを測る指標です。また、企業側が用意する環境に限らず、上司や同僚、部下といった周囲との人間関係に対する満足度も含まれます。

従業員満足度が高い従業員は、自社に対して「働きやすい」「居心地がいい」と感じており、離職のリスクが低いと考えられます。また、従業員満足度が高ければ、業務へのモチベーションや組織への貢献意欲が高まりやすいといえるでしょう。

つまり、従業員満足度は従業員エンゲージメントや帰属意識のベースになる指標ということです。

コロナ禍における帰属意識の変化

企業に対する帰属意識は、その企業固有の要素だけでなく、社会的な動きにも左右されます。たとえば、昨今のコロナ禍の影響で、企業に対する帰属意識は全体的にやや低下傾向に変化したというデータも出ています。

公益財団法人関西生産性本部が460人を対象に行ったアンケート調査 によれば、企業の帰属意識が低くなったと回答した人が、帰属意識が高まったと回答した人をわずかに上回る結果となりました。これには、在宅勤務による人間関係の希薄化や、社会情勢の急激な変化にともなう視野の広がりなど、さまざまな要因が関係していると考えられます。

帰属意識が高いことの4つのメリット


従業員の帰属意識は、企業や組織にさまざまな利点をもたらします。ここでは、帰属意識が高いことでどのようなメリットが得られるのか、4つに分けて見ていきましょう。

離職率の低下につながる

従業員の帰属意識を高く保てる企業では、自然と離職率が低下し、人材の定着率が向上していきます。多くの従業員が、この会社で引き続き働きたいと考えるため、必要な人材が長く定着してくれるようになるのです。

離職率の低下は、「人手不足に陥るリスクを回避できる」「生産性が安定的に向上していく」など、組織にさまざまな恩恵をもたらします。また、人材の流出が少なくなり、職場環境が安定すれば、企業に対する従業員の信頼度はますます高まっていくでしょう。

こうした好循環によって、組織全体のパフォーマンス向上も期待できるようになります。

社内コミュニケーションが活発化する

帰属意識は「単に所属している」という受動的な意識ではなく、「組織の一員として貢献する」といった能動的な感覚を含んだ概念です。従業員の帰属意識が高まれば、それぞれが主体的に人間関係を構築しようとするため、自然と社内のコミュニケーションは活性化していきます。

コミュニケーションの機会が増えていけば、「仲間のために協力しよう」「力を合わせて乗り越えよう」といった前向きな意識が生まれ、業務の効率化や生産性の向上につながりやすくなります。また、社内の人間関係が良好であれば、新規採用した人材も組織になじみやすくなり、全体としてのチーム力がより早く向上していくでしょう。

採用・教育コストの削減につながる

人材の定着率が向上すれば、採用活動や育成にかかるコスト・工数を削減できるというメリットも生まれます。また、人員が安定していると、突発的な退職による欠員補充などの必要もなくなるため、1人の採用にじっくりと時間をかけられるようになります。

その結果、採用する人材の質も向上するため、ますます組織力が強化されていくのです。さらに、帰属意識が高い従業員は、社外の知人や後輩などに対しても自信を持って自社の存在をアピールしてくれるようになります。

従業員が知人を採用候補者として紹介する「リファラル採用」なども活発になりやすく、採用活動がより効率的になっていくのも大きなメリットです。
参考:『リファラル採用、社員は協力している?20代・30代の本音調査』 )

自律的な企業風土を生み出す

従業員の帰属意識は、自身に対する役割の自覚や、業務に対するモチベーションの向上へとつながります。それぞれが能動的に仕事へ取り組めれば、組織全体としても自律的な雰囲気が促され、さまざまな好循環が生まれていきます。

たとえば、主体的に新たなアイデアを生み出したり、他部署とのコミュニケーションを図ったりなど、従業員自身の判断で価値がある行動を起こせるようになるのです。

帰属意識が低い場合の3つのデメリット


反対に、従業員の帰属意識が低い場合にはどのようなデメリットが生まれるのでしょうか。ここでは3つのポイントから解説します。

離職率が高まる

従業員の帰属意識が薄くなれば、企業に対する愛着がなくなってしまい、離職率の増加につながる可能性があります。企業の一員であるという自覚が保てなくなるため、ちょっとしたことで会社や組織に不満を抱き、離職へとつながってしまうのです。

生産性が低下する

帰属意識が低下すれば、仮に離職にまでは至らなかったとしても、モチベーションには大きな影響が生まれます。日々の業務に対するやりがいを感じられなくなるため、次第に生産性が低下していき、人為的なミスによって大きな損失を生み出してしまうこともあるでしょう。

採用・教育コストが膨らむ

離職率が増加すれば、人材不足を解消するために採用のコストや工数も増加してしまいます。新規採用が増えれば、育成に必要なコストもかさんでしまうため、トータルとしては大きな損失につながる可能性があります。

帰属意識が低くなる原因


これまで見てきたように、従業員の帰属意識は、企業の生産性や人材の安定性を大きく左右する大切な要素です。ここでは、帰属意識が低下してしまう主な要因について見ていきましょう。

終身雇用制の崩壊

現代のビジネス環境においては、そもそも従業員の帰属意識が保たれにくいのも確かです。かつては1つの企業で定年まで勤めあげるのが一般的であり、転職や離職はやむを得ない事情に限られていました。

しかし、現在では終身雇用制度が崩壊し、特定の企業で働き続ける人材の割合は大幅に低下しています。優秀な人材ほど転職を意識する機会も多くなっているため、以前と比べると従業員の帰属意識を醸成させにくい環境に変化しているといえるでしょう。

組織の目標・ビジョンが不明確

企業や組織の方向性が不明瞭であることも、帰属意識が下がってしまう原因の一つとなります。従業員が高いモチベーションを維持するには、同じ方向を目指して努力できるだけの明確なビジョンが必要です。

企業理念が明確であり、なおかつ個々の従業員にきちんと浸透している組織は、それぞれのメンバーが高い貢献意欲を持ちやすいといえます。一方、ビジョンがあいまいであったり、従業員からの納得が得られなかったりする状態では、どうしても企業に所属している意味を見出せなくなってしまいやすいのです。

コミュニケーション不足

帰属意識が低下してしまうもう一つの要因は、社内のコミュニケーション不足です。コミュニケーションは業務を円滑に進めるためだけでなく、良好な人間関係を保ち、団結力や組織への愛着を醸成するためにも重要な役割を果たします。

それだけにコミュニケーションが希薄化すれば、それぞれのメンバーが組織でのつながりを見失い、帰属意識が保たれにくくなってしまうのです。特にテレワークが普及している昨今では、対面でのコミュニケーションの機会が限られてしまうことによる帰属意識の低下が懸念される面もあります。

帰属意識を高めるための4つのステップ


それでは、社内で帰属意識を醸成するためにはどのような取り組みをすべきなのでしょうか。ここでは4つのステップに分けて、具体的なフローをご紹介します。

自社の現状を把握する

まずは自社に対する帰属意識のレベルについて、しっかりと現状をリサーチする必要があります。「従業員満足度調査」や「従業員エンゲージメント調査」などを用いて、帰属意識のレベルを客観的に測るとよいでしょう。

従業員満足度調査とは、仕事内容や労働条件、環境に対してどの程度満足しているのかを確認するための調査です。具体的には、以下のような項目例をもとに調査を進めていきます。

従業員満足度調査の質問項目例
1.あなたの職場には、業務を遂行するための十分な設備が整っていますか
2.現在の業務量は、あなたにとって適切だと思いますか
3.現在の業務内容は、あなたに合っていると感じますか
4.あなたの職場は、困ったことがあると相談しやすい雰囲気ですか
5.評価制度と給与について、納得感がありますか

また、従業員エンゲージメント調査では、従業員の働きがいについて客観的にリサーチします。主な測定方法としては、米ギャラップ社が実施している通称「Q12(キュートゥエルブ)」があげられます。

これは、以下の12個の質問に対して1~5段階で回答してもらい、数値として働きがいの度合いを測る方法です。

エンゲージメントの質問項目「Q12(キュートゥエルブ)」

1.私は仕事のうえで、自分が何を期待されているかがわかっている
2.私は自分の仕事を正確に遂行するために必要な設備や資源を持っている
3.私は仕事をするうえで、自分のもっとも得意とすることを行う機会を毎日持っている
4.直近一週間で、よい仕事をしていることを褒められたり、認められたりした
5.上司または職場の誰かが、自分を一人の人間として気遣ってくれている
6.仕事上で、自分の成長を励ましてくれる人がいる
7.仕事上で、自分の意見が考慮されているように思える
8.自分の会社の使命/目標は、自分の仕事を重要なものと感じさせてくれる
9.自分の同僚は、質の高い仕事をすることに専念している
10.仕事上で、誰か最高の友人と呼べる人がいる
11.この半年の間に、職場の誰かが自分の進歩について、自分に話してくれた
12.私はこの一年の間に、仕事上で学び、成長する機会を持った

なお、調査の実施においては、独自でアンケートを作成する方法のほかに、外部のコンサルティング会社や調査会社を利用する方法もあります。
(参考:経済産業省主催 経営競争力強化に向けた人材マネジメント研究会『平成30年度産業経済研究委託事業(企業の戦略的人事機能の強化に関する調査)』
(参考:『エンゲージメント向上は生産性UPや離職防止に効果あり。概念や測定法、高め方を解説』

課題点を洗い出す

調査の結果を集計できたら、次に帰属意識の低下につながっている原因を調べ、自社の課題を明らかにしていく必要があります。たとえば、人間関係に関する調査結果が優れない場合は、「コミュニケーションの機会や質」「第三者に相談できる仕組みの有無」などをチェックし、具体的な課題として洗い出していくことが大切です。

改善につながる施策を立てる

課題が明らかになったら、原因の解消につながる施策を立てていきます。施策はなるべく複数用意し、比較検討しながらもっとも効果的なものを絞り込んでいくのが理想です。

たとえば、社内コミュニケーションの活性化を課題とするのであれば、次のようにいくつかの施策をあげて効果を見比べるのが有効です。

社内コミュニケーション活性化に向けた施策例

・コーヒーブレイクの導入
・フリーアドレス席の導入
・チャットツールの活用
・社内部活動などの実施

効果測定を行う

施策が固まったら、実際に導入しながら効果測定を行いましょう。一つずつの施策について簡単なアンケートを実施し、従業員の実際の声を聞いてみるのも効果的です。

また、分析結果は可能な限り従業員にも公開するとよいでしょう。そうすることで、「単に調査が行われているだけでなく、自らの回答が経営にも反映されている」という信頼を構築できます。

帰属意識を高める企業の取り組み事例


帰属意識を高めるために、企業ではどのような取り組みを行っているのでしょうか。帰属意識を高めた事例を3つご紹介します。

リモートワークのコミュニケーション円滑化|株式会社クレオフーガ

ストックミュージックサービスなどの開発運営を行う株式会社クレオフーガは、リモートワークにおけるコミュニケーションを円滑にする取り組みを積極的に取り入れています。同社は、岡山本社と東京支社の2拠点があり、それぞれの拠点でリモートワークをしている従業員がいます。

円滑なコミュニケーションを行う取り組みとして、全社テレビ会議や日報などの定例的な報告に加え、チャットでのコミュニケーションを頻繁に図っているそうです。また社内ラジオを活用して、企業方針や業務報告を従業員へ情報共有するとともに、従業員同士の情報交換の場を提供しています。

コミュニケーションの質と回数を上げることで、帰属意識の向上を目指しています。

(参考:『社内コミュニケーションは質と量。岡山と東京を結ぶ、リモートワークへのスタンスとは 』

会社課題のディスカッション定例実施|株式会社アトラエ

求人メディアやAIビジネスマッチングアプリなどを展開する株式会社アトラエは、従業員の帰属意識を高めるために、定期的に会社の課題についてディスカッションする場を設けています。企業ビジョンの共有や創業者に対して抱いている疑問を発信できる機会を持つことで、従業員に「この会社は自分たちの会社だ」という当事者意識や責任感を持ってもらい、意識改革に取り組んでいるそうです。
(参考:『「労働時間を短くするよりエンゲージメントを高める」アトラエの考える働き方改革 』

コミュニケーション不足|パーソルキャリア株式会社

転職サイトやエージェントサービス、転職イベントなど、多彩なサービスを展開するパーソルキャリア株式会社では、「よい組織をつくる」ことを従業員に「自分ごと化」させることで、帰属意識の向上を目指しています。同社のIT部門組織では、エンジニアを対象に企業が掲げるミッション・バリューのほかに、グループごとにスローガン(行動指針)を設定する取り組みを行ったそうです。

そうすることで「自分たちで決めたスローガンは守り抜く」と主体的に行動するようになり、組織活性化につながったといいます。メンバーの力を最大限に発揮するというマネジメントにより、主体性を図るための組織スコアを大きく向上させることにつながりました。
(参考:『「受け身型 IT部門」からの脱却。エンゲージメントが高い自律型組織のつくり方』

まとめ

企業への帰属意識は、モチベーションの維持や人材定着率の向上につながる重要な指標です。現代は終身雇用制度の崩壊などにより、帰属意識の低下に陥りやすく、必要な人材の定着に悩みを抱える企業も決して少なくはありません。

しかし、企業が適切な取り組みを実施すれば、従業員の帰属意識を高めることも可能です。まずは「従業員満足度調査」や「エンゲージメント調査」を通じて現状の課題を客観的に分析し、自社に必要な施策を見極めたうえで実行に移してみてはいかがでしょうか。

(制作協力/株式会社アクロスソリューションズ、編集/d’s JOURNAL編集部)

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