エフィカシーの高い人材がもたらすメリットとは?エフィカシーを高める方法・下げる行動も解説

d’s JOURNAL編集部

エフィカシーは心理学の用語であり、日本語では「自己効力感」や「自尊心」などを意味します。ビジネスの場面では、目標を前向きに捉えたり、困難に立ち向かったりする資質として用いることが多いです。

エフィカシーが高いことで企業にとってメリットがある一方で、気をつけておきたい点もあります。

この記事では、エフィカシーの基本的な特徴や重要性、高めるためのポイントなどを解説します。

エフィカシーとは

エフィカシーをビジネスで上手に活用するには、言葉の定義を押さえておく必要があります。また、よく混同されがちな自己肯定感との違いも理解しておきましょう。

エフィカシーに関する基本的なポイントを解説します。

エフィカシーの意味

エフィカシーは、セルフエフィカシーとも呼ばれる心理学の用語です。日本においては、「自己効力感」や「自尊心」などと表現されます。

現代における社会的認知理論の土台を築いたカナダの心理学者アルバート・バンデューラの著書である『激動社会の中の自己効力』で、初めてエフィカシーが提唱されました。ある状況下において、「自分なら達成することができる」「自分なら役に立てる」という意識がある人は、エフィカシーが高いといえます。

一方で、「自分には無理だ」と捉える人はエフィカシーが低い状態にあるという考え方です。エフィカシーはビジネスだけでなく、スポーツの分野においてもメンタルトレーニングの一環として取り入れられています。

エフィカシーと自己肯定感の違い

エフィカシーは日本語訳として自己効力感と訳すため、自己肯定感と似たような概念だと混同されがちです。2つの言葉には違いがあるので、定義をしっかりと把握しておきましょう。

自己肯定感とは、自分のあり方を積極的に評価できる感情を指します。また、自分の存在意義や価値を自ら肯定できる気持ちなどを表しています。

一方で、エフィカシーは特定の状況において、適切な行動がとれるかどうかの認知を表す言葉です。求められた行動を遂行する能力を持ち合わせていることの自信といった意味もあります。

自分に対する肯定や自信を表現する言葉としては共通していますが、どの時点での自分を評価しているかで考え方が異なります。自己肯定感はあくまで過去や現在の自分を対象としているのに対して、エフィカシーは未来の自分に対する考え方です。

したがって、これから自分が取り組むことに対して自信があるか、能力が備わっているかを認識することがエフィカシーといえます。

エフィカシーの3つのタイプ

一口にエフィカシーといっても、大きく分けて3つのタイプがあります。ここでは、それぞれどのように違うのかを解説します。

自己統制的自己効力感

「自己統制的自己効力感」は、自分ならできるはずだという感情であり、エフィカシーのなかでは最もスタンダードなタイプだといえます。一般的にエフィカシーといった場合は、自己統制的自己効力感のことを指します。

大きなことに挑戦するときは、自らをコントロールする力が重要です。挑戦をして、たとえ結果に結びつかなかったとしても、またやり直そうと思える点に特徴があります。

ビジネスにおいては成功と失敗は付き物であり、ステップアップしていくためには、自分自身を成長させる力を持つことが大切です。これまで経験のないことに挑戦するときに、自己統制的自己効力感は重要な意味を持つでしょう。

社会的自己効力感

「社会的自己効力感」は、主に対人関係において役立つエフィカシーです。自分ならきっと仲よくなれるはずだと、前向きに人間関係を築いていこうとする気持ちを表しています。社会的自己効力感は子どものときに育まれるといわれますが、大人になってからも持続するのが特徴です。

家族や友人、近所の人との関わりなどから社会的自己効力感が育まれるようになり、他者に共感して寄り添うことができる力が身についていきます。社会的自己効力感が高い人は、良好な人間関係を築いており、周りとトラブルを起こすことが少ない傾向にあります。

学業的自己効力感

「学業的自己効力感」は、学業に関する自己効力感を限定して捉えたエフィカシーです。学べば理解できるはずだという気持ちを表しており、学習の成果によって育まれるものとされています。

学業においてしっかりと成果を残した人ほど、この感覚が高まる傾向があるでしょう。高い学力を備えていると、自己効力感が高い傾向があり、学習そのものに対する満足度も高くなるというものです。

つまり、学業と自己効力感には相関関係があると考えられています。学業的自己効力感が高ければ、社会人となってからも新しいことを学んだり、スケジュールを管理したりすることに役立つといわれています。

エフィカシーが高い人の4つの特徴

エフィカシーを向上させるには、高い人の特徴を押さえておくことが役立つはずです。エフィカシーが高い人にはどのような特徴があるのかを解説します。

高い目標に向かって努力できる

エフィカシーが高い人は、より高い目標を掲げて努力をしていく傾向が見られます。自分はもっとできるはずだという気持ちが強いため、自ら進んで取り組んでいく姿勢です。

実際に行動をする場面でも、自己管理をきちんと行うことができるうえ、困難に直面していても努力を持続することが可能です。大きな障害があっても、それを乗り越えていくだけの努力や行動を続けていけるため、能力を高めていけます。

エフィカシーの高い人は優れた成果を出しやすく、目標を達成することでさらに自己効力感が高まるといったよい循環を生み出しやすいのです。

当事者意識が強い

エフィカシーが高い人の特徴として、当事者意識が強い点が挙げられます。責任感が強く、常に危機感を抱いて意欲的な行動ができるのです。

うまくいかない場面があっても他責することがなく、できないのは力量が不足しているからだと自責の気持ちを抱くことができます。困難を乗り越えることによって自ら進んでスキルを高めることができ、成長へとつなげられます。

前向きでストレスに強い

エフィカシーの高い人は、ストレスに強いといった特徴があります。何かに挑戦をしようとしたときに、達成するまで途中で投げ出すことがありません。

エフィカシーが高い人は、自分にはできるはずだという気持ちが根底にあるため、ストレスに負けることがありません。失敗を恐れずに挑戦していくことができる傾向にあります。

困難に立ち向かえる力が強い

エフィカシーが高い人は、困難な状況においても果敢に取り組んでいくことができます。世の中が不安定な状況にあっても、困難に立ち向かって自ら道を切り拓いていけるのです。

これまでの常識だけにとらわれず、自らの力を信じて取り組むためには、高いエフィカシーが求められるといえます。

エフィカシーの高いメンバーが企業に与える影響

エフィカシーが高い従業員がいる企業は、どのような影響を受けるのかを理解しておくことが大事です。周囲に与える影響について、メリットとデメリットの両面から解説します。

メリット

エフィカシーが高い人が企業にいることで、次の3つのメリットを得られます。

エフィカシーが高いことのメリット
・高い業績をあげることができる
・周囲のモチベーションを高められる
・生産性を向上できる

エフィカシーが高い従業員がいることで、企業は高い業績をあげることにつなげられます。エフィカシーが高い人は、自ら進んで困難な課題や自分の能力を超えることに挑戦していく傾向があります。

そのため、業務において困難にぶつかったとしても、途中で諦めずに最後までやり切ることが可能です。結果として、仕事で高い業績をあげていけます。

また、エフィカシーが高い従業員は周囲にもよい影響を与えます。困難に立ち向かって努力を重ねる姿勢は、周囲のモチベーションを高めることにつながるでしょう。そして、エフィカシーの高い従業員は自ら進んで業務に取り組んでいくため、周囲に無用な手間をかけることが少ないのです。

そのため、生産性の高い仕事を行うことができ、チーム全体としてのパフォーマンスもよくなるでしょう。

デメリット

エフィカシーが高い従業員がもたらすデメリットとしては、次の点が挙げられます。

エフィカシーが高いことのデメリット
・周囲から孤立する恐れがある
・周りとの温度差から、離職するリスクが発生する

エフィカシーが高い人は、仕事に対して高いパフォーマンスを発揮でき、企業としても業績の向上につながるといったメリットがあります。しかし、エフィカシーの高さがかえって企業にマイナスの影響を与えてしまうこともあるため注意が必要です。

エフィカシーの高さがメリット・デメリットのどちらかになるかは、その従業員が社内においてどのような人間関係を築いているかによる部分が大きいでしょう。エフィカシーの高い人物があまり評価されない職場では、周囲から浮いた存在になる恐れがあります。

エフィカシーの高い従業員と、そうではない従業員との間に温度差が生じてしまい、人間関係がギクシャクしたり、エフィカシーそのものが低下したりする懸念があります。そのような状態が長く続くと、最終的には離職につながるリスクも発生するでしょう。

エフィカシーが高い人がチームにいるときは、人間関係などの面でどのようにフォローアップしていくかが重要です。日頃のコミュニケーションや1on1などを通じて、緊密にやりとりを重ねていくことが大事です。

エフィカシーを高める4つの方法

 

従業員のエフィカシーが低いからといって、そうした状態を変えられないわけではありません。エフィカシーを高める4つの方法について解説します。

成功体験を積ませる

エフィカシーを高めるための基本的なポイントとして、まずは成功体験を積ませることが重要です。たとえ小さな成功であっても、困難を乗り越えたり努力が報われたりする印象深い体験は、エフィカシーを高めることにつながっていきます。

効果的なアプローチとしては、人材育成を担当する上司が部下のエフィカシーを高めるために、成功体験を積める環境を整えてあげることです。部下の能力などを踏まえたうえで、少し高めの目標や課題を設定しましょう。

ゴールにたどり着くまでのプロセスを明示し、途中経過を報告してもらうなどして見守る姿勢をとることが大切です。

本人が納得できる難易度の目標を設定する

ある程度、小さな成功体験を積ませたら、次は本人に目標を設定させてみるのも効果的です。本人が定めた目標を上司がチェックし、双方が納得できるゴールを設定してみるとよいでしょう。

難易度が高すぎると挑戦しようという気持ちがしぼんでしまいますが、低すぎても意欲が湧いてこないでしょう。他の従業員の取り組みなどと比較しながら、適正なラインを設定することが重要です。

知識や情報を常に取り入れる

新しい知識や情報を手に入れられる環境を整えることも、エフィカシーを高めることにつながります。これまで知らなかったことを知る機会を得れば、自分自身の成長を実感しやすいでしょう。

また、インプットだけでなく、その知識や情報を発表する機会を設けてアウトプットさせてあげると、よい循環を生み出していくはずです。インプットとアウトプットを繰り返す流れのなかで、エフィカシーを高めることにつながるでしょう。

お手本となる人材と触れ合える機会をつくる

エフィカシーを高める効果的な方法としては、すでにエフィカシーが高い人物との接点を増やすことが挙げられます。従業員のエフィカシーが思うように高まらない原因の一つとして、エフィカシーの高い状態というのがどのようなものなのか、イメージが湧かないといったことがあるでしょう。

そのため、エフィカシーが高い人物と引き合わせることによってきっかけをつくっていくことが大事です。社内に適切な人材が見当たらないときは、外部の人材も活用してみましょう。

そして、1on1ミーティングなどの定期的な面談を通じて、エフィカシーが高まるように背中を押してあげることも大切です。本人の頑張りを認め、さらに新たな気づきを与えていくことがエフィカシーの向上につなげられます。

エフィカシーを低下させてしまうNG行動

エフィカシーを高めるための取り組みを行うときには、うっかりエフィカシーを下げてしまうような行動は避けたほうが無難です。エフィカシーを下げる行動としては、大勢の前でネガティブなフィードバックを行ったり、不適切な目標設定を行ったりすることが挙げられます。

それぞれの問題点について、詳しく見ていきましょう。

大勢の前でのネガティブフィードバック

従業員のエフィカシーを高めるには、ポジティブな後押しが重要です。自分の努力や成果が評価されていると感じることで、前向きな行動を促すことにつながります。

逆にいえば、ネガティブなフィードバックばかりを行ってしまうと、エフィカシーを高めるどころか、かえって低下させる原因となります。特に大勢の前でネガティブなフィードバックをしてしまうと、エフィカシーを大きく低下させる恐れがあるため注意が必要です。

多くの人が見ているなかでネガティブな評価を受けることは、本人の自尊心が傷つくことになり、エフィカシーが著しく低下することもあります。そのため、むやみに恥をかかせる行動は避けるほうがよいといえます。

フィードバックを行うときは1on1で実施するのがよく、できるだけポジティブな評価を伝えることが大事です。上司が承認してくれているという心理的な安全性は、新たなことに挑戦していくきっかけにもなるでしょう。

従業員の状況をよく見極めたうえで、どのような形でフィードバックを行うかを決めていくことが大事です。

(参考:『【シート付】1on1で話す内容は?会話例や1on1を成功させるポイントを解説』)

不適切な目標設定

エフィカシーが高い人は、困難なことにも立ち向かっていく姿勢が見られますが、高すぎる目標設定はかえってエフィカシーを低下させる恐れがあります。達成不可能な目標でも挑戦してくれるだろうと安易に考えずに、きめ細かなアプローチを行うことが大切です。

目標に挑むことばかりを重視して、到底達成できない目標設定を行っても、モチベーションが下がってしまうだけだといえます。上司と部下の間で緊密なコミュニケーションをとり、現実的な目標を設定するようにしましょう。

まとめ

エフィカシーとは、自己効力感や自尊心を意味する言葉です。未来の自分に対する自信であることから、自己肯定感とは異なる意味を持っています。

エフィカシーが高い人は困難な課題に挑戦していき、自ら進んで能力やスキルを高めていけます。また、適切に目標管理を行い、従業員の取り組みをポジティブに評価することで、エフィカシーを高めていくことが可能です。

日頃からコミュニケーションを緊密に行い、状況をよく把握しながら適切なアプローチを考えてみましょう。

(制作協力/株式会社アクロスソリューションズ、編集/d’s JOURNAL編集部)

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