プロパー社員とは?他の従業員と起こりやすいトラブルと対策を紹介

d’s JOURNAL編集部

人事の領域では、「プロパー社員」という言葉が用いられる場面があります。プロパー社員という用語は、その企業や場面によって異なる意味を持っており、使い方によっては無用な衝突や誤解を生んでしまう可能性もあるので注意が必要です。

この記事では、プロパー社員の具体的な定義や特徴について解説します。そのうえで、非プロパー社員との間で起こりやすいトラブルや対策方法も詳しく見ていきましょう。

プロパー社員とは


プロパー社員とは、主に人材管理や人材育成などの場面で使われることの多い用語です。ここではまず、プロパー社員の基本的な意味について、他の従業員との違いも含めて解説します。

プロパー社員の定義

プロパー(proper)とは、「正当な」「本来の」などの意味を持つ英単語です。日本のビジネスシーンでは、そうしたもともとの意味から派生して、さまざまな和製英語として用いられるケースが多いです。

たとえば、主にアパレル業界などでは正規価格を「プロパー価格」と呼んだり、金融業界では銀行などが直接行う融資を「プロパー融資」として扱ったりしています。そして、人事の領域では、新卒入社の社員や正社員、直接雇用の社員などを意味する言葉として、「プロパー社員」という用語が使われています。

後述するように、企業によって細かな意味合いは異なりますが、一言でいえば「正式な社員」というニュアンスを持っているのが特徴です。

企業によってプロパーの意味は異なる

プロパー社員という言葉は、使われる企業や用いられる場面によって微妙に異なる意味を持ちます。大きく分けると、「新卒入社の社員を指す場合」と「正社員を指す場合」、そして、「自社で雇用している従業員を指す場合」の3パターンが考えられます。

新卒入社の社員を指すパターンは、中途採用の社員と区別する際に用いられることが多いです。たとえば、吸収合併が行われた企業や人材の入れ替わりが激しい組織において、「生え抜きの従業員」をわかりやすく表現するために、プロパー社員という言葉を使うケースがあります。

2つめのパターンは、非正規雇用の従業員と区別する目的で、正社員をプロパー社員と呼ぶケースです。こちらは、給与制度・福利厚生などの仕組みを検討する際や、業務内容を割り振る際に用いられるのが一般的です。

3つめのパターンは、出向社員や派遣社員と区別するために、自社で直接雇用している従業員をプロパー社員と呼ぶケースにあたります。この場合、直接雇用をしていれば、正社員やパートなどの区別をせずにどちらもプロパー社員と表現することが多いです。

本記事では、1つめのパターンである「生え抜きの従業員」という意味に着目し、プロパー社員の特徴や注意点について解説します。

プロパー社員と他の従業員との違いが起こる理由

人材の入れ替わりが激しい業界や企業では、特にプロパー社員とその他の従業員を分けて考えるケースはほとんどありません。しかし、日本企業においては、終身雇用や年功序列という考え方が根強く存在するのも確かです。

給与や待遇が勤続年数に比例して決まる企業も多いことから、長くその企業に在籍していると好待遇につながりやすくなるなど、プロパー社員と中途採用の社員との間に差が生まれてしまうケースも少なくはありません。

プロパー社員の特徴


会社への帰属意識が生まれやすい

プロパー社員は長くその企業に勤めていることから、会社への帰属意識が生まれやすいのが特徴です。自社の理念やビジョンに強く共感し、誇りを持って向き合う従業員が多いため、企業文化を担う中心的な存在となっていきやすいのです。

経営層、マネジメント層から見れば、プロパー社員は自社へのロイヤルティ(忠誠心)が高い重要な人材となります。長期にわたる重要なプロジェクトを立ち上げるときや、何かトラブルが起きたときには、その他の従業員よりも頼りになる存在といえるでしょう。

帰属意識の高め方については、以下の記事で詳しく解説されているので、こちらもあわせて参考にしてみてください。
(参照元:『帰属意識、自社は低い?高い?すぐ実践できる「帰属意識を高める15の施策」-計測シート付-』)

社内での人脈を構築しやすい

新卒入社のプロパー社員は、時間をかけて自社の文化や制度を吸収していくため、社内の事情について自然と詳しくなるのが特徴です。言語化が難しい文化や力関係、組織同士の人間関係なども、研修や日々の業務を通して的確につかんでいくことができます。

そのため、中途採用の従業員と比べて、社内で幅広い人脈を築きやすいのが強みです。また、同期入社のメンバーと一緒に新人研修を受けるため、早い段階でさまざまな部署に配置される社員と人脈を築けるのも有利な点といえます。

こうした理由から、プロパー社員は幹部候補としての成長を期待できるのがメリットです。

保守的で新しいアイデアが出にくい

プロパー社員の多くは、自社のこれまでの歩みに少なからず共感を覚えているため、会社の方針には素直に従う傾向にあります。一方、会社からの評価も重要視することから、どちらかといえば保守的な考えに偏りがちな面もあります。

たとえば、プロパー社員の割合があまりにも多い組織やチームでは、「前例がない取り組みは認めない」「外部の意見は聞かない」といった極端な排他性が生まれてしまうリスクがあるのです。こうした組織では、プロパー社員の意見によって、イノベーションを起こす環境がなくなってしまうケースもめずらしくありません。

また、組織の自浄作用が機能しなくなれば、より効率的に生産性や利益が上がる方法よりも、プロパー社員にとって居心地のよい環境を保てる方法が優先されてしまうなど、企業としての利益を損なうリスクも高まります。

会社のやり方に疑問を持ちにくい

プロパー社員は、長く1つの会社に勤めていることから、自社の方針や方向性に疑問を抱くのが難しい傾向にあります。ほかの企業の実情を知る機会が少ないため、さまざまな場面において選択肢が狭まり、よりよい方法や対案を検討するきっかけがなくなってしまうのです。

こうした性質は団結力を生みやすいなどのメリットもあり、事業が軌道に乗っているときにはむしろよい影響を及ぼすことが多いです。しかし、外部環境の変化などに対応しなければならない場面では、既存の方式や概念にこだわるあまり、さらに状況を悪化させてしまう可能性もあります。

現代のビジネス環境は、AIをはじめとするさまざまなテクノロジーの進歩により、激しい変化に見舞われています。既存の技術やシステムが通用しない場面も少なくはないため、柔軟性に欠けるプロパー社員がいる場合には、早い段階でフォローする必要があるでしょう。

特に、上下関係が厳しいトップダウン方式をとっている企業は、多様な意見が出にくいため注意が必要です。

プロパー社員と他の従業員との間で起こりやすいトラブル


企業によっては、プロパー社員とその他の従業員との間に溝が生まれてしまい、さまざまなトラブルに発展する場合もあります。ここでは、実際にどのような問題が生じやすいのか、具体的なケースを3つに分けてご紹介します。

評価に対する不公平感が生じやすい

非プロパー社員から見ると、プロパー社員はその会社での勤務年数が長く、自分よりも企業との結びつきが強い存在です。それだけに、状況によっては「プロパー社員との間で評価に差があるのではないか」「教えてもらえていない暗黙のルールがあるのではないか」などと不信感を持ってしまうケースもあります。

表面上は特別な差異が見られなくても、人との結びつきや組織での馴染みやすさなどを通して差を感じている場合、評価制度にも疑いの目を向けてしまう可能性があるでしょう。そのため、公平で客観的な人事評価の仕組みを保つとともに、可能な限り評価基準や待遇の透明性も確保することが大切です。

人間関係で疎外感が生まれやすい

プロパー社員の割合が多い企業やチームでは、非プロパー社員がうまく人間関係を構築できない可能性にも目を向けることが大切です。非プロパー社員のなかには、既存のメンバーの輪にうまく入れず、「仲間だと思ってもらえていない気がする」などと感じてしまうケースもあるのです。

その反対に、非プロパー社員に対して、プロパー社員からは「打ち解けるつもりがない」「自分たちの会社に愛着を持ってくれない」といった不満が出てしまう可能性もあります。そうなれば、従業員同士の溝が深まり、良好な人間関係を築くのは難しくなります。

中途採用に力を入れるであれば、組織全体からプロパーと非プロパーという概念を取り払い、多様な人材が活躍できる土壌を構築することが大切です。

課題の捉え方に認識のズレが生じやすい

プロパー社員と非プロパー社員の間では、さまざまな事柄に対して認識のズレが生じる場合も少なくありません。プロパー社員は、他社の事情を知る機会が限られていることから、自社の課題に気づきにくいという課題を抱えがちです。

たとえば、プロパー社員が過去の成功事例を必要以上に高く評価し、極端な前例主義に陥ってしまうといったケースがあげられます。また、有給休暇を取りにくい雰囲気や目に見えないハラスメントなど、自社の非常識な一面に気づかない面もあります。

こうした自社の課題について、プロパー社員は非プロパー社員よりも過小評価してしまう傾向にあるため、価値観のズレが生じやすいのです。一方、非プロパー社員は、自社の戦略ビジョンをハッキリ理解できていないという理由で、プロパー社員との間で衝突をしてしまう可能性があります。

たとえば、顧客との長期的な関係構築を重視するフェーズであるにもかかわらず、非プロパー社員が短期的な利益を追求してしまい、足並みがそろわないといったケースです。これらのすれ違いを解消するためには、両者に自分の課題を認識させ、じっくりとコミュニケーションを図っていく必要があります。

従業員間の摩擦を生まないための具体的な施策

プロパー社員と非プロパー社員の摩擦を防止するためには、企業側が主体となって仕組みづくりを行う必要があります。ここでは、企業が取り組める具体的な施策を4つご紹介します。


人事評価制度の見直し

まずは、公平性と透明性の高い人事評価制度を整え、見えない不満が生まれないようにすることが大切です。評価基準を明らかにすれば、企業として大事にすべき資質も明確に伝わるため、ビジョンや方向性も理解してもらいやすくなります。

また、評価のプロセスに「360°評価」を導入するのも一つの方法です。360°評価とは、対象者について、上司だけでなく同僚や部下、他部門の関係者、顧客といったあらゆる方面からの評価を行う手法です。

単一方向で行われる評価と比べて、客観性や公平性が生まれやすいのが特徴であり、非プロパー社員が抱く不公平感の解消につながるでしょう。

人事評価制度の種類や特徴については、以下の記事で詳しく解説されているので、参考にしてみてください。
(参照:『人事評価制度の種類と特徴を押さえて、自社に適した制度の導入へ【図で理解】』

給与制度の細分化

評価制度とともに、給与制度も見直しを行うことが大切です。特に、年功序列制度が強く反映されている企業で中途採用に力を入れる場合には、先に給与制度の見直しを行うほうがよいでしょう。

そのままでは、「能力が高くても中途社員の給与は低い」「実力に応じた昇給が見込めない」などの理由で、優秀な人材を定着させることが難しくなります。そのため、慣例的な給与テーブルを見直したり、技能給や資格手当などに細分化したりするなど、給与制度の柔軟性を高めることが大切です。

社内コミュニケーションを活性化させる

制度や仕組みといったハード面が整ったら、社内の人間関係にも気を配ることが大切です。具体的には、「プロパー社員と非プロパー社員のバランスのよい人材配置を心がける」「社内レクリエーションや懇親会などの交流企画を持つ」などの取り組みがあげられます。

また、社内SNSやチャットツールなどを導入して、従業員同士が気軽にコミュニケーションを図れるように環境整備を行うのも一つの方法です。

中途社員や非正規社員向けの研修を充実させる

非プロパー社員に対しては、自社での業務をスタートしてもらう段階で、丁寧に研修を行うことも大切です。具体的な取り組みとしては、社内研修を通じて経営理念やミッションを学んでもらったり、チームへのスムーズな合流を実現するためのOJTを導入したりなど、中途社員向けの制度を充実させるなどの方法があげられます。

また、中途採用に力を入れている企業では、職場にいち早く慣れて即戦力として活躍してもらうことに特化した「オンボーディング」が導入されるケースも増えています。実務を通じて業務の進め方などを教えるOJTに対して、オンボーディングは企業文化や人間関係なども含め、環境全般に馴染むためのサポートを行うのが特徴です。

OJTの詳しい内容については、以下の記事で詳しく解説されているので、気になる方は参考にしてみてください。
(参照:『OJTとは?目的とメリット、取り組みの具体例を解説』

まとめ

プロパー社員は企業によって異なる意味を持つこともありますが、多くの場合は、新卒採用を行った生え抜きの従業員を指します。プロパー社員は自社の理念やビジョンを深く理解し、高いロイヤルティを持っているのが強みである一方、保守的で柔軟性に欠けやすい面もあります。

中途採用者とは認識のズレが起こりやすく、コミュニケーションの溝が生まれてしまうこともあるため、両者が良好な関係を構築できるような仕組みを整えることが大切です。

プロパー社員が多い組織で中途社員を採用する際には、人事評価制度や給与体系を見直したり、OJT、オンボーディングに力を入れたりするなど、自社に合った施策を見つけて取り組んでみましょう。

(制作協力/株式会社アクロスソリューションズ、編集/d’s JOURNAL編集部)

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