【中途入社者の早期離職を防ぐ】入社3カ月までのフォローに必要な「人事と現場の役割分担」とは

パーソルキャリア株式会社

武田 雄(たけだ・ゆう)

プロフィール

採用環境が厳しさを増す中で、中途入社者の早期離職防止に頭を悩ませている人事・採用担当者も多いのではないでしょうか。

パーソルキャリアが転職経験者を対象に行った調査では、転職後に不安を感じやすい時期として「内定受諾から入社まで」が27.6%、「入社3カ月以内」が65.0% 、「入社3カ月以降」が7.4%という結果が出ており、特に不安を感じやすい3カ月以内の期間にフォローを入れるのが重要であることがわかります。

一方、受け入れ側としては、中途入社者は新卒入社者と比べてフォロー体制が確立されていない企業が多いのも事実。中途入社者の離職を防ぎ、早期活躍につなげていくためには人事と配属先が連携してフォローを進めていく必要があります。実際に人事と配属先が一体となったフォロー体制を構築するためには何が必要なのでしょうか。パーソルキャリアのオンボーディングサービス「HR spanner」(エイチアールスパナー)を担当する武田氏に聞きました。

※オンボーディングとは、企業が新たに採用した従業員を対象として行う教育・フォロープログラム(施策)のことです。

人事も配属先も「面倒を見きれていない」現実

 

——武田さんは多くの企業のオンボーディングを支援しています。中途入社者の早期離職防止や定着に課題を持つ企業は、実際に多いと感じますか?

武田氏:はい。オンボーディングに関するセミナーに登壇する際は参加者へ「中途入社者の6カ月以内の早期離職が発生しているか」を質問しているのですが、約4割を超える企業が「発生している」と回答しています。採用が年々難しくなっている中、せっかく採用した人材が早期離職してしまうことを、大きな問題だと捉える企業は増え続けていると感じます。

——早期離職が起きる企業には、どのような特徴があるのでしょうか。

武田氏:中途入社者のフォローが行き届かないことに尽きると思います。人事は入社後の初期研修までを役割として担い、その後は配属先に委ねる。配属先の現場では誰がフォローするのかが定まっておらず、入社した人の面倒を見られない。そんな企業では早期離職が起きる傾向にあります。

新卒入社者と比べればわかりやすいのではないでしょうか。新卒の場合は明確な教育プログラムがあり、初期研修だけでなく半年後、1年後などのタイミングでもフォロー研修が実施されています。配属先でもメンター制度などを設け、「この間まで学生だったのだから面倒を見なければ」という意識が徹底されていますよね。

——たしかに中途入社者の場合は社会人経験がある前提なので、面倒を見なければいけないという意識は生まれにくいかもしれません。

武田氏:配属先では「他社での経験があるから、この程度の業務はこなせるだろう」といった思い込みが生じることもあります。しかし、企業独自の文化や仕事の進め方(作法)を理解できていない入社初期の段階では、経験のある業務であったとしても戸惑いを感じるもの。思うように成果を出せない中で相談もしづらい状況では、さらにしんどさを感じるようになるでしょう。

特にフォローすべきは最初の1週間、そして3カ月が過ぎるまで

——中途入社者が不安を感じやすいタイミングや時期の傾向は?

武田氏:パーソルキャリアの調査では「内定受諾から入社まで」が27.6%、「入社から3カ月以内」が65.0%、「入社3カ月以降」が7.4%となっていますが、厳密に言えば多くの中途入社者が「入社1週間以内」に最も不安を感じています。その後、徐々に慣れていき、3カ月以降になると不安を感じる人の割合は大きく減っていきます。この比率を見ると、最初の1週間、そして3カ月終了時点までに、どのようなサポートができるかを考えていくべきです。

ただ、人事は配属後のフォローがほとんどできていない現実もあります。配属以降のフォローは配属先任せになっているという企業も多いのではないでしょうか。中途入社者としては配属先しか頼れる環境がなく、その中で十分なサポートが得られない場合は早期離職の可能性が高まってしまうことになります。

 

——主にどんなことをフォローすべきでしょうか。

武田氏:早期離職のよくある原因は「事前の期待と現実のギャップ」になります。

少なからず、中途入社者は前職とのギャップを感じています。このギャップを人事・配属先が解消できないとなると、個人で自己解決をしなければならず、早期離職の大きな原因となります。

そのために人事は、中途入社者がどのようなギャップを感じているのかを把握し、配属先の上長と連携しながらフォロー体制を構築していくことが重要です。そこで、人事と配属先の役割分担が大切だと考えています。

「休憩の取り方」にも戸惑う?人事が教えるべき暗黙ルールとは

——人事と現場でどのように役割分担すべきなのか、詳しく教えてください。

武田氏:人事の役割は、中途入社者が周囲とコミュニケーションを取り、新しい職場でやっていくためのノウハウを身に付け、独り立ちできるようにサポートすることです。一方で現場には、中途入社者の実務面でのサポートが求められます。たとえば、営業として入社した人に商材の知識を教えるのは、基本的には人事の役割ではありません。

——人事が教えるべきノウハウとは。

武田氏:最初の入社手続きのタイミングでは、会社の戦略や方針に加えて、社内の制度や使用するシステム、ハウスルールなどをインストールしてもらうべきです。例えば、「休憩の取り方」などにも企業ごとのカルチャーが現れるので、中途入社者が戸惑わないように伝えてあげるべきでしょう。

私自身も転職経験があり、こうした細かな文化の違いで戸惑うことがありました。始業時間は9時だと聞いていましたが、実際には8時50分から部署のミーティングが行われていて、それよりも前に始業していなくてはならないため、転職当初は時間に間に合わないこともあったんです。既存のメンバーとしては当たり前になっている「暗黙のルール」についても漏れなく伝えることで、戸惑いや入社後のギャップを減らしていくことができます。もうひとつ、誰に何を聞いていいかわからないことは大きなストレスになるので、困ったときには誰に聞けばいいのかを整理しておくことも大切です。

 

同時に人事は、配属先の現場で「誰がメンター役になるのか」を確認しておくべきでしょう。配属先に任せているつもりでも、実際の現場では誰もボールを持っていないケースがあるからです。人事の手が離れた後も、面倒を確実に見てもらえる体制をつくっていただきたいですね。

配属先では、1on1や上司・メンターとの同行を通じて「認識のずれ」を埋めるべき

——現場の上司やメンバーは、どんなことを意識すべきでしょうか。

武田氏:入社から1〜2カ月が経つと、仕事の進め方や人間関係、職場の風土などについて、入社前のイメージと乖離を感じ始める人が出てきます。そのため、このタイミングで改めて部署の方針を理解できているか、自身に期待されていることを理解できているかなどを確認することが重要です。部署の他のメンバーにも、中途入社者がどんな人なのかを伝え、相互理解を深められればベストですね。

——そうしたコミュニケーションを図る場として、上司と部下の1on1に力を入れている企業も増えています。

武田氏:上司やメンターとの1on1の場を設け、業務に関すること以外にも深く話せるようにすることはとても大切だと思います。

さらに実践的に考えれば、上司やメンターに「付いて回る」機会をつくることも重要です。たとえば、上司が出るミーティングに全て同席してもらえば、部署がどんな方針で動いているのかを理解しやすくなるでしょう。加えて、関係部署の仕事内容や関わり方なども理解が進むことで、実務を進めやすくなります。

そして、ポイントは認識のずれをなくすこと。中途入社者が最もしんどいと感じるのは、本人と上司との間に認識のギャップが広がっていくことです。本人としては業務過多でしんどい思いをしているのに、それを認識していない上司は新しい仕事を次々に渡してしまうかもしれない。こうした事態を防ぐためにも、1on1や上司・メンターとの同行の機会を重視していただきたいです。

人事は、配属先に馴染んでからも実態を把握し、問題があれば遠慮なく介入する

——入社から1~2カ月が経ち、徐々に職場に馴染み始めていくと思いますが、入社3カ月のタイミングで気を付けるべきポイントがあれば教えてください。

武田氏:このタイミングでは、少しずつ職場に馴染んでいく中で、中途入社者は自分がどのように職場へ貢献していけるかを考えるようになります。そんな時期だからこそ、上司や組織からの期待感を改めて伝えていただきたいと思います。

「○○の業務をリードしてほしい」「チーム内で○○の役割を果たしてほしい」など、一定の経験・スキルを持つ中途入社者だからこそ期待することがあるはずです。そんな期待感をお伝えしつつ、今後の目標設定を一緒に考えることができれば、安心して働くことができるでしょう。

また、この時期は業務で関わることが多い他部署についての理解を深めてもらうことも重要です。実務を進める上で重要な他部署と関わる際にも、企業ごとに独自のやり方や作法があると思います。チームの外に出た際にも戸惑うことがないよう、「自社ならではの立ち回り方」も教えてみてはいかがでしょうか。

こうやって中途入社者がチームに融合し、既存メンバーとの相互理解が深まることで、部署全体に新しい知見や良い影響がもたらされるはず。これこそが中途採用の意義と言えるのではないでしょうか。

——人事・採用担当者として、中途入社者が現場に馴染んでからもサポートし続けていくために心がけておくことはありますか?

武田氏:人事には「実態把握」を強く意識していただきたいですね。私が支援している企業の例では、中途入社者に対しても定期的に人事や経営陣が面談を行っています。

とは言え、採用規模の大きな組織ではリソースの都合上、個別に対応しきれないという悩みも出てくるでしょう。そんなときこそタレントマネジメントシステムやオンボーディングツールなどを活用し、中途入社者の入社後の動向や心・体のコンディションなどの実態把握につなげていくべきです。

困っていることがないか常にアンテナを張り、何らかの問題が起きている際には遠慮なく介入していく。人事にはそんなスタンスが求められています。

取材後記

武田さんが指摘した中途入社者と上司・既存メンバーとの相互理解。社員同士の距離感を近づけるには、“Know how”ではなく“Know who”、つまり「誰に聞けばわかるのか」を明確にすることが大切なのだそうです。書類の作成方法や社内の決裁ルート、問題が起きた際の相談窓口など、中途入社者が戸惑いがちな点は多々あるはず。入社時点で人事が“Know who”を伝えておくだけでも、中途入社者の不安を低減できるのではないでしょうか。

企画・編集/森田大樹(d’s JOURNAL編集部)、野村英之(プレスラボ)、取材・文/多田慎介

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