出戻り社員が求められる背景と採用のためのアプローチ方法

d's JOURNAL
編集部

出戻り社員とは、自社を退職してから外部の企業などで経験を積んだのち、再び元の企業で雇用される従業員のことを指します。労働人口の減少に伴う企業の人材不足に対して、出戻り社員は有効な解決策となるケースも多いです。

この記事では、出戻り社員が注目されている理由や活用のメリット、再雇用時の注意点などを詳しく解説します。

出戻り社員とは


人材不足の悩みを抱える企業にとって、出戻り社員は問題解決の重要なカギとなる可能性もあります。ここではまず、出戻り社員の基本的な定義について見ていきましょう。

出戻り社員の定義

出戻り社員とは、一度退職してから他の企業で働いたり独立したりしたのちに、元の会社で再び雇用される従業員のことです。基本的に退職の理由やその後の経過は問わず、育児や介護によって退職したのちに雇用されるケースであっても、出戻り社員として認識されます。

ただし、一般的に定年退職後の再雇用によって戻ってくる従業員は、出戻り社員とは呼びません。このことから、出戻り社員は「自社を離れてからある程度のブランクがある」という共通点を持っているといえるでしょう。

出戻り社員の再雇用

厚生労働省の調査によれば、再雇用制度(定年後の再雇用を除く)を設けている企業は全体では16.7%となっています。企業規模別では、従業員1,001人以上の企業で36.4%となっており、大企業で再雇用制度の整備が進んでいる傾向が見られるといえるでしょう。

再雇用時の対応方法としては、雇用形態として「正社員で再雇用する」と「非正社員で再雇用、一定期間後、条件が合った人を正社員に登用する」が、それぞれ4割前後を占めています。配属先の職場としては、「原則、退職時の職場に復帰する」が28.7%、「本人の希望、人員不足の職場等により、調整して配属する」は63.9%となっています。

本人の希望なども踏まえながら、企業ごとの状況に応じて、柔軟に対応しているといえるでしょう。

(参照:厚生労働省『再雇用制度の状況』)

出戻り社員が注目される理由


出戻り社員の再雇用が注目される理由には、近年の社会状況におけるいくつかの要因が関係しています。ここでは、その背景を3つのポイントから見ていきましょう。

働き方に対する意識の多様化

そもそも、出戻り社員という概念が広がりつつあるのには、働き方に対する価値観の多様化が大きく関係しています。現代は年功序列や終身雇用制度といった従来の制度が形骸化しており、必ずしも1つの企業で定年まで勤めあげることが正しい答えであるとは言い切れなくなっています。

むしろ、優秀な人材ほど特定の企業に縛られた働き方にとらわれず、積極的に転職を検討する傾向にあるといえるでしょう。しかし、なかには転職をしても期待していたような環境に恵まれず、元の企業に戻りたいと感じてしまうケースもあります。

このように、人材の流動性が高まる現代にあっては、企業側が出戻り社員に向けた窓口を用意しておくことも大きな意味を持ちます。元の従業員が再び働きたいと考えたときに、きちんと無理なく受け入れられる環境が整備されていれば、企業にとっては人材確保の有効な手段となるのです。

少子高齢化に伴う労働人口の減少

出戻り社員という言葉が一般化しつつある背景には、日本国内における労働人口の減少も大きく関係しています。少子高齢化によって労働人口が全体的に少なくなっている現代では、人材採用においても売り手市場の状態が長く続いています。

大手の企業や官公庁も中途採用に力を入れ始めたように、人材不足は国内の企業・組織が抱える共通の課題といっても過言ではありません。本業でしっかりと利益が出ている企業でも、人材確保に問題を抱えており、思うように規模を拡大できないというケースは決して少なくないのです。

こうした現状にあって、出戻り社員は人材不足の解消に直結する重要な存在となります。

優秀な人材確保の課題

人材不足を抱える企業にあって、一定の経験値を持った従業員の存在はとても大きな価値を持ちます。新しい人材を採用する場合、本当にその人物が期待される活躍をしてくれるかどうかは、実際に働いてもらわなければわかりません。

それに対して、出戻り社員であれば、過去のパフォーマンスから入社後の活躍を見込める人材かどうかを判断できます。また、状況によっては、新入社員を教育する側に回ってもらうことも可能です。

このように、より優秀な人材を確保するという観点からも、出戻り社員の重要性が注目される機会が増えています。

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出戻り社員を再雇用するメリット


それでは、実際に出戻り社員を迎えることにはどのようなメリットがあるのでしょうか。ここでは、3つのポイントに整理して見ていきましょう。

即戦力となることへの期待

出戻り社員は、即戦力として計算できる点が大きなメリットです。すでに自社の社風や業務内容を理解している人材であるため、多少の研修などは必要だとしても、通常の採用よりははるかに短い期間で戦力になってもらえます。

そのうえで、特に重要な意味を持つのが、「自社の労働環境や人間関係をきちんと理解している」という点です。厚生労働省が行った令和5年の調査によれば、転職者が直前の勤め先を離職した主な理由として、「労働条件がよくなかった」「満足のいく仕事内容ではなかった」「賃金が低かった」などがあげられています。

これらはいずれも、入社時に期待していたような待遇や労働環境に恵まれなかったことが原因とも考えられます。出戻り社員の場合は、すでに自社での就業を経験しているため、こうしたミスマッチが起こる心配は少ないです。

新たな人材を確保するよりも、再雇用後の定着を期待しやすいのも出戻り社員の大きな利点といえるでしょう。

採用コストの軽減

出戻り社員を再雇用するもう一つのメリットは、採用コストの軽減にあります。すでに自社で働いていた人材であることから、人格や特性、スキルについてはすでに把握できており、採用プロセスが短くて済むのです。

また、業務を担当してもらうまでの教育コストも少なく抑えられるため、コストパフォーマンスはゼロから新たな従業員を採用するよりも高いと考えられます。さらに、他社での業務経験を通じて、過去に在籍したときよりもパフォーマンスが向上している可能性にも期待できます。

周囲のモデルケースとなる

人材育成という観点で考えれば、出戻り社員にしか担えない役割も存在します。それは、転職経験に基づいた後輩・部下へのアドバイス業務です。

出戻り社員は転職をした結果、自社のほうがよいと判断して帰ってくるケースがほとんどといえます。そのため、自身の経験をもとに転職を考えるメンバーのメンターとなり、広い視野でキャリアプランのアドバイスを行えるのが強みです。

また、生え抜きの従業員が多い企業では、他社の文化や業務を経験したメンバーが異色の存在となり、新たな視点をもたらすキーパーソンになるケースも少なくありません。幅広い知識やノウハウ、技術によって、組織やチーム内に前向きな変化をもたらしてくれる可能性にも期待できます。

出戻り社員を再雇用するデメリット


一方、出戻り社員を再雇用する際には、いくつかの注意点も意識しておく必要があります。ここでは、主なデメリットについて解説します。

過去のやり方にこだわる可能性がある

一口に出戻りといっても、それぞれ離職していた事情や期間はバラバラです。長期にわたって自社から離れていた人材は、現在の風土や業務の進め方などに大きなギャップを感じ、戸惑いを覚えてしまうケースもあります。

過去の方法にこだわるあまり、現在の従業員とぶつかってしまったり、組織全体の生産性を下げてしまったりする可能性もあります。そのため、相手に合わせて事前の説明を行い、必要があれば研修を受けさせるなどの措置を取ることも重要です。

また、役職や給与などについては、必ずしも離職前と同等の条件を提示できるとは限りません。その点についてもきちんと事前説明を行い、誤解や行き違いがないように努める必要があります。

既存社員のモチベーションの低下

社内の現状や出戻り社員の性質によっては、再雇用をすることで、既存の従業員に悪影響を及ぼしてしまうリスクもあります。特に「離職期間が長い」「既存の人材の就業歴が浅い」など、出戻り社員と既存社員に直接的な接点がない場合は、トラブルに発展しやすいので注意が必要です。

場合によっては、「人間関係を築いてもまた辞めてしまうのではないか」「会社に甘えているのではないか」などの不満が出てしまうケースもあるでしょう。また、一度離職したにもかかわらず再雇用が実現されることで、ほかの従業員の離職に対する心理的なハードルが不要に下がってしまう可能性もあります。

そのため、既存の従業員へのケアやフォローにも気配りが必要です。

人事評価に対する影響

出戻り社員の人事評価をどのように考えるかによって、組織全体のモチベーションや信頼関係も大きく変わってしまいます。たとえば、出戻り社員が十分な経験と実績を持っている場合、実力面で見れば既存の従業員よりも厚い待遇で迎えようと考えるのが普通です。

しかし、社外での経験をどのように捉えるべきかは判断が難しく、ましてや全従業員に正しく理解してもらうことは期待できません。その結果、既存の従業員から不平や不満の声があがってしまう可能性もあります。

このように、社外での経験によって、給与面で既存社員とのバランスが取りにくいのも難点の一つです。

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出戻り社員を再雇用するときのポイント


出戻り社員を迎える際には、既存の従業員との摩擦や組織への刺激をできるだけ抑えるために、仕組みの面から丁寧に準備しておく必要があります。ここでは、出戻り社員の再雇用において意識しておきたいポイントをご紹介します。

再雇用する仕組みを整える

これまで解説したように、出戻り社員の再雇用にはさまざまなメリットがあります。しかし、上手に活用するためには、再雇用に関する制度を明確にしておかなければなりません。

「どのような基準で再雇用するかどうかを判断するのか」「どのくらいの人数を再雇用するのか」など、あらかじめルールを明確にしておくことで、社内の混乱を抑えられるようになります。また、再雇用に至った理由や自社にもたらす恩恵などを明確にして、ほかの従業員に共有しておくことも大切です。

再雇用時の待遇面の見直し

再雇用する際は、給与や役職といった待遇面の設定を丁寧に行う必要があります。以前と同じような待遇で迎えるのか、あるいは社外の経験を踏まえて高く評価するのかなど、基本的な方針を決めておくことが大切です。

また、ブランクが長い場合には、離職前よりも給与やポジションを下げなければならないケースもあります。この場合、本人にはその理由や昇給・昇格の目安などを伝えておくと、復帰後のモチベーションを下げずに済みます。

さらに、出戻り社員の待遇については、本人の能力や経歴だけでなく、既存の従業員とのバランスも考慮しながら検討しなければなりません。組織全体のモチベーションや信頼関係にも関わる重要な部分であるため、特に時間をかけて丁寧に取り組むことが大切です。

アルムナイ制度の導入を検討する

「アルムナイ制度」とは、何らかの事情で自主的に退社した人材を再び雇用すること、あるいはそのために特化した制度のことです。たとえば、一度会社を退職しても、社内の状況がわかるようなサイトやSNS、イベントを用意しておくといった取り組みがあげられます。

退職後も従来と同じように交流が結べる機会を用意することで、復帰を検討したときには心理的なハードルが下がりやすくなります。また、社内の細かな事情や雰囲気も把握できるため、スムーズな復帰を実現しやすくなるでしょう。

アルムナイ制度については、以下の記事でも詳しく解説されているので、ぜひ参考にしてみてください。

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まとめ

現代の経営環境において、人材不足は多くの企業が共通して抱える悩みです。一度自社を離れてから再び入社を希望する「出戻り社員」は、人材不足を解消する特効薬となる場合もあります。

「即戦力としての活躍が期待できる」「他社で培った経験や視点を活かせる」など、出戻り社員にはさまざまなメリットがあります。一方、既存の従業員との摩擦が生まれたり、組織内に混乱をもたらしたりするリスクがある点にも目を向けなければなりません。

人事評価や待遇については十分に検討し、スムーズな再雇用を実現するための仕組みを整え、出戻り社員の活用を人事戦略の一つとして取り入れてみてはいかがでしょうか。

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