IT人材不足の原因とは|人材の獲得方法や採用の取り組み事例を解説

d’s JOURNAL編集部

経済産業省が2030年にはIT人材が最大約79万人不足すると発表しているように、IT人材不足は日本企業にとって深刻な課題といえます。「IT人材不足にはどのようなリスクがあるのか」「どうすればIT人材を確保できるのか」などを知りたい経営者や人事・採用担当者も多いでしょう。

この記事では、IT人材不足の原因や人材獲得方法、IT人材の採用に成功した企業事例などについてを解説します。

日本企業のIT人材不足の現状

経済産業省が外部委託した調査によると、IT人材は2015年時点で約17万人不足しているという結果でした。IT需要は拡大し続けているため、IT人材不足は今後ますます深刻化すると予測されています。2030年には、約41万人~79万人ほどIT人材が不足する見込みです。

IT人材の不足規模に関する予測

(参考:経済産業省『IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果~報告書概要版~』)

IT人材不足の中、多くの企業が懸念しているのが「2025年の崖」です。「2025年の崖」とは、既存システムのブラックボックス状態を解消しつつ、データ活用することができなかった場合、2025年以降、最大12兆円/年の経済損失が生じる可能性があるという課題のこと。迫りくる「2025年の崖」に対応すべく、日本社会全体にとって、IT人材の確保が急務となっています。
(参考:経済産業省『DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~(サマリー)』)

IT人材の定義

IT人材とは、IT関連業務を担う人材のこと。中小企業庁発表の「2021年度版中小企業白書」では、「ITの活用や情報システムの導入を企画、推進、運用する人材のことを総称している」と定義されています。

(参考:『2021年度版中小企業白書|第2章 事業継続力と競争力を高めるデジタル化|第2節 中小企業におけるデジタル化に向けた現状』)

デジタル人材との違い

IT人材と混同されがちなのが、「デジタル人材」です。デジタル人材とは、さまざまなデジタル技術を駆使してビジネスに新たな価値を提供できる人材のこと。企業におけるDX推進に欠かせない人材といわれています。

IT人材とデジタル人材の違いは、その役割です。IT人材はデジタル技術の「実行者・運用者」であるのに対し、デジタル人材はデジタル技術の活用による「価値提供者」であるといえます。ただし、こうした違いはあるものの、実際には同義として扱われることも少なくありません。

(参考:『デジタル人材とは|不足する背景と必要な理由・育成と採用のポイントを解説』)

IT人材が不足する3つの原因

IT人材が不足する原因としては、「少子高齢化による労働者人口の減少」「IT需要の急激な拡大」「IT技術の進歩への対応遅れ」の3つが挙げられます。

少子高齢化による労働者人口の減少

IT人材不足の原因としてまず挙げられるのが、少子高齢化による労働者人口の減少です。労働者人口自体が減っている中で、IT人材を確保するのは容易ではありません。

内閣府発表の「令和5年版高齢社会白書」によると、2022年10月1日時点の日本の総人口は、1億2,495万人。そのうち、65歳以上人口は3,624万人で、総人口に占める割合(高齢化率)は29.0%です。65歳以上人口は増加傾向にある一方で、15~64歳人口は減少傾向にあります。また、2070年には日本の総人口は約8,700万人、高齢化率は38.7%に達すると推計されています。

少子高齢化による労働者人口の減少はしばらく続いていく見込みのため、日本社会全体として、IT人材不足の状況が今後も継続していくでしょう。

高齢化の推移と将来設計

(参考:内閣府『令和5年版高齢社会白書|第1節 高齢化の状況|高齢化の現状と将来像』)

IT需要の急激な拡大

IT需要の急激な拡大も、IT人材が不足する原因の一つです。インターネットの利用が一般的になって以降、インターネットを介したサービスの需要は高まり続けています。また、これまでは製造業やサービス業などでIT活用が進んでいましたが、最近では農業や漁業などの第一次産業でもIT活用の動きが始まりました。加えて、リモートワークの普及により、業務を円滑に進めるための手段としてIT技術の導入が必要になっていることも、IT需要の急拡大に拍車をかけています。

なお今後は、業界や企業規模にかかわらずIT需要がさらに拡大すると予測されているため、IT人材不足はより深刻になるでしょう。

IT技術の進歩への対応遅れ

IT技術の急速な進歩への対応が遅れていることも、IT人材不足の一因です。IT技術の進化のスピードは速く、新しい技術が次から次へと生まれています。先端技術を事業活動に取り入れるためには高度な専門知識・スキルが要求されますが、先端技術を扱える「先端IT人材」は日本社会全体の中で常に不足しているのが現状です。

また、高度な専門知識・スキルを習得するためには、専門のスクールに通ったり、独学で学んだりする必要がありますが、それには多くの時間・費用がかかります。しかしながら、「学習時間の確保」や「外部講座受講費の一部補助」といったサポート体制を構築できていない企業は少なくありません。こうした状況も、IT人材不足に拍車をかけているといえるでしょう。

IT人材不足により生じるリスク

IT人材の不足により、「新しい商品・サービス開発が難しくなる」「情報・データ漏洩の発生率が高まる」「既存のIT人材の離職につながる」というリスクが生じます。

新しい商品・サービス開発が難しくなる

IT人材が不足すると、AIやビッグデータ、VR、IoTなどの最新のIT技術を活用した新商品・サービスの開発が困難になります。最新IT技術を活用した商品・サービスに対する市場のニーズは高まり続けているため、こうしたニーズに対応できないと、競合他社に差をつけられてしまう可能性があります。その結果、企業として業績を伸ばしにくくなるでしょう。

情報・データ漏えいの発生率が高まる

企業には、 顧客情報や従業員の個人情報、未発表商品・サービスの企画書など、外部に漏れてはいけない機密情報・データが多くあります。こうした情報・データの保持に長けたIT人材が少ないと、適切に管理するのが難しくなります。また、情報セキュリティ上の課題・脆弱性があっても、誰もそれに気づけないという事態も考えられるでしょう。こうした理由から、情報・データ漏えいの発生率が高まる可能性があります。

たとえ大企業であっても、ひとたび情報・データが漏えいすると、企業に対する信頼が大きく低下し、株価や業績に悪影響が及びます。漏えい事故の規模や漏えい発覚後の対応によっては、最悪の場合、倒産につながることも考えられるでしょう。

既存のIT人材の離職につながる

社内のIT人材が少ないと、既存のIT人材に業務負担が集中します。IT関連業務は増えることはあっても減ることは少ないため、IT人材不足の状況が改善されない限り、既存のIT人材の負担は増していくばかりでしょう。

業務負担が増えることで、「残業や休日出勤を余儀なくされる」「有給を取得しにくい」といったように、労働環境が悪化します。その結果、離職につながるケースが増えてしまう恐れがあります。

IT人材を獲得する3つの方法

IT人材を確保する方法としては、「IT人材の採用強化」「社内での人材育成」「社外のIT人材の活用」の3つがあります。ここでは、それぞれのポイントについてご紹介します。

なお、「IT人材の採用強化」と「社内での人材育成」については、以下の記事も参考になります。

(参考:『デジタル人材とは|不足する背景と必要な理由・育成と採用のポイントを解説』『DX人材とは|職種・求められるスキル例や育成と採用のポイントを解説』)

IT人材の採用強化

IT人材不足が深刻な場合、真っ先に実施すべきなのがIT人材の採用強化です。

具体的にどのような人材を採用する必要があるかは企業によって異なるため、「どのようなスキル・経験をもつ人材が必要か」、採用ターゲットを明確にすることから始めましょう。その上で、配属予定部署とすり合わせをし、具体的な採用基準を定めます。

求人募集の際は、転職市場の動向を確認した上で、相場に見合った適切な待遇(給与・賞与など)を設定しましょう。ワークライフバランスを重視したり、スキルアップ・キャリアアップに関心があったりするIT人材も多いと言われています。そのため、「在宅勤務が可能」「フレックスタイム制を導入している」「有給取得率が高い」「資格取得のためのサポート制度がある」といった点をアピールし、競合他社と差別化すると効果的です。

とは言え、IT人材の獲得競争は激化しているため、応募を待っているだけではなかなか採用につながりません。攻めの採用手法である「ダイレクト・ソーシング(ダイレクト・リクルーティング)」の導入を検討しましょう。具体的には、「企業自ら候補者を選び、スカウトメールを送信する」「従業員に友人・知人を紹介してもらう」といった方法があります。

(参考:『攻めの採用「ダイレクト・ソーシング(ダイレクトリクルーティング)」とは?』『自社に最適な人材採用を。ダイレクト・ソーシングの活用方法』)

社内での人材育成

IT人材の採用強化とともに、社内での人材育成も進めましょう。自社の事業や業務内容を熟知している従業員をIT人材として育成することにより、「IT関連業務・プロジェクトの円滑な実施」や「IT活用によるイノベーション創出」などが期待できます。

人材育成の方法としては、「e-ラーニングや社内研修の実施」「OJTを通じた、スキル習得サポート」「外部講座の受講推奨(受講費用の一部補助)」「IT関連資格の取得推奨(資格手当や報奨金の支給)」などがあります。これらを組み合わせて実施し、従業員の自発的な学習を促すことが、社内での人材育成を成功させるポイントとなります。

社外のIT人材の活用

「IT人材の採用強化」や「社内での人材育成」に加え、高い専門性や豊富な実務経験を有する社外のIT人材の活用も検討しましょう。具体的には、「フリーランスのIT人材と業務委託契約を結ぶ」「外部の専門会社に、IT関連業務の一部をアウトソーシングする」「派遣会社から、IT人材を派遣してもらう」という方法があります。

IT人材の活用の方向性が定まっており、かつ想定される業務の範囲が限定的な場合、外部人材の活用が有効です。一方で、IT人材に多くの役割を担ってほしい場合には、外部人材を活用するのではなく、「IT人材の採用強化」や「社内での人材育成」を進めましょう。

IT人材の採用取り組み事例

実際、各企業はIT人材の採用に向け、どのようなことに取り組んでいるのでしょうか。IT人材の採用に成功した企業事例をご紹介します。

株式会社エージェントグロー

SES事業やSaaS事業を展開する株式会社エージェントグローは、毎月2名以上のITエンジニアを採用しています。採用成功のポイントは、「独自制度の導入」「個別カスタマイズしたスカウトメールの送信」「人材サービス会社との連携」の3つです。

「案件選択制度」と「単価評価制度」からなる、「フェアネス方式®」という独自制度を導入。「案件選択制度」では、業務内容などの基本情報に加え、単価のように通常は開示されにくい情報についても開示しているため、エンジニア自身が希望に合った案件を選べます。案件参画後は、契約期間ごとにエンジニア自身が参画継続の可否を決定できます。「単価評価制度」とは、クライアントからの単価を基準に、昇給・賞与を決める制度のこと。昇給・賞与の基準や計算方法などは社内システムでいつでも確認でき、高い透明性が保たれています。

スカウトメールについては、転職希望者の経歴や自己PRを徹底的に読み込んだ上で、個別カスタマイズした文面を送信。これは、「一斉送信のような形でスカウトを送っても、ほとんど返信がなかった」との過去の反省を踏まえたものです。スカウトメールでは、「クライアントからのオファー予想」「業務経験を踏まえての推定年収」「入社して欲しい理由」「仕事・キャリアのイメージ」などを明確に伝えています。

人材紹介サービス会社との連携については、担当者からのアドバイスをもとに試行錯誤しながら運用しつつ、より効果的な運用に向けて双方で話し合いを重ねてきました。特に効果的だったのが、スカウトメールを送った方たちのデータ参照・活用です。応募する確率が高い方たちに絞ってメールを送信できるようになり、業務効率化と返信率向上を実現しました。

(参考:『ITエンジニアの処遇やキャリアパスを一変させたSES企業。経験者を中心に毎月2名以上の採用を実現!その秘密に迫る』)

株式会社テラスカイ

クラウドソリューションを提供する株式会社テラスカイは、2018年5月のオフィス移転が、エンジニア採用の成功につながりました。

以前のオフィスは、製品事業部門ごとに拠点を分けていたため、異なる部門のエンジニア同士のコミュニケーションが不足していました。「チームと個の働き方をより柔軟にし、生産性を高めたい」「エンジニア採用競争に打ち勝てるよう、働きたいと思えるようなオフィスにしたい」という課題もあったため、オフィスを刷新しました。

新オフィスは3フロアからなりますが、エンジニア間のコミュニケーションを増やせるよう、中間のフロアに「ホライゾンラウンジ」という共用スペースを設置。それにより、異なるフロアで働くエンジニア同士が、気軽に交流や意見交換ができるようになりました。また、各自の席も用意しつつ、自由に使えるオープンスペースも多く設置。「集中したいときは、自席で」「気分転換したいときは、オープンスペースで」というように、働く場所を自由に選べるようになり、生産性が向上しました。

こうしたオフィス環境の刷新により、採用へのプラス効果もありました。同社では最終面接の際に、応募者に向けてオフィスツアーを行っていますが、応募者が特に関心を示しているのが、ホライゾンラウンジです。自席ではなくラウンジで仕事をしているエンジニアも多いため、この会社で働くイメージが湧きやすいという効果があります。実際、オフィス環境が決め手となり入社したエンジニアも多くいるといいます。

(参考:『IT人材採用激化時代に打ち勝つ。テラスカイが導入したストーリーのあるオフィス戦略』)

まとめ

IT人材不足の背景には、「少子高齢化による労働者人口の減少」「IT需要の急激な拡大」「IT技術の進歩への対応遅れ」があります。IT人材不足の状況が続くと、「新商品・サービス開発が困難になる」「情報・データ漏えいの発生率が高まる」などのリスクが生じるため、なるべく早急にIT人材を確保することが必要です。

「IT人材の採用強化」や「社内での人材育成」「社外のIT人材の活用」により、IT人材の確保に努めましょう。

(制作協力/株式会社mojiwows、編集/d’s JOURNAL編集部)