フィードフォワードとは?人材育成におけるポイントとメリット・デメリット

d’s JOURNAL編集部

フィードフォワードとは、過去や現在よりも未来への働きかけを重視し、目標達成に向けた人材育成の手法の一つです。

中長期的な視点に立って人材育成に取り組んでいく手法であり、目の前の相手に起きている出来事やそれに伴う感情をきちんと受け止めたうえで、目標達成に向けた行動が行えるように促すアプローチ方法を指します。

一方的に部下を指導するのではなく、コミュニケーションを取りながら、お互いに課題解決や目標達成に向けたやりとりを重ねていくことで、自律的な成長を促していけるでしょう。この記事では、フィードフォワードの基本的な捉え方や人材育成への活かし方などを解説します。

フィードフォワードとは


フィードフォワードを正しく実践するには、基本的な考え方を押さえておくことが大切です。フィードバックやコーチングなどとの違いも含めて解説します。

(参考:『ビジネスにおけるフィードバックとは?効果的な手法とポイントを紹介』 )

フィードフォワードの概要

フィードフォワードとは、一般社団法人フィードフォワード協会によれば、以下のように定義されています。

会話により、相手が前向きになるのを促し、自らも前に進むための方法論です。フィードフォワードは、過去や現状にとらわれてしまいがちな人に対して、その人が自分の未来に意識を向けて行動することができるように促す技術のことです。

フィードフォワードの特徴として、過去や現在の状況だけにとらわれるのではなく、未来に向けた行動を促していく点があります。相手へのアプローチとしてフィードバックが挙げられますが、単に欠点や改善点を指摘するのではなく、未来志向で変化を促していくことに重点が置かれているのが特徴です。

前向きで生産的なコミュニケーションの手法を用いることで、本人が自然と自らの課題に気づき、改善を行っていけるようになるため、自主的な成長を促していけるといえるでしょう。

フィードフォワードにおいては、アプローチする側をフォワーダーといい、アプローチを受ける側をレシーバーと呼んでいます。役割は固定化されたものではなく、必要に応じてどちらの役割も果たすことが可能です。

(参照: 『フィードフォワードとは』 )

フィードバックとの違い

フィードバックは過去の行動を振り返り、達成できた点と達成できなかった点を指摘するといった意味合いで使われる言葉です。あくまで過去の出来事に目を向けて、誤りなどを指摘することに焦点が向かってしまいがちです。

未来に視点を向けて考えるフィードフォワードとは、対義語の関係にある言葉だといえるでしょう。

コーチングとの違い

コーチングは、指導される側とコーチ側の立場を分けるのが特徴です。新たな気づきを与えて未来視点で考えるという意味では、フィードフォワードと共通点があるでしょう。

しかし、コーチには相手をゴールに導いていくといった役割が期待されている部分があるため、フィードフォワードとは異なる手法だといえます。

フィードフォワードが注目される理由


フィードフォワードという手法が注目されている理由として、いくつかの点が挙げられます。どのような点に注目が集まっているのかを見ていきましょう。

イノベーションが求められている

新たなテクノロジーの出現や価値観の多様化など、現代においてはさまざまな分野で大きな変化が起こっています。そのため、今まで通用していた手法がいつまでも続くといった保証はなく、企業においては成長を続けていくためのイノベーションが求められているといえるでしょう。

イノベーションを起こすためには、従来のやり方や認識にとらわれず、自ら課題解決能力を備えた自律的な人材が必要です。フィードフォワードの手法は、未来志向の視点に立って前向きな行動を促すものなので注目されているといえます。

双方向にコミュニケーションを取りながら、新たなことに挑戦していく流れをつくっていけるため、安心して物事に取り組める力を引き出していけます。柔軟な思考を持ち、果敢に挑戦していく人材を増やすことで、企業はイノベーションを起こせるはずです。

若手の人材の定着率を高める

企業が持続的に発展していくためには、若手の人材が長く働き続けられる環境を整えていく必要があります。特に1990年代半ばから2010年代あたりに生まれた「Z世代」やそれ以降の世代は、従来の教育とは異なる形で学んできています。

自ら学んでいくことが当たり前となっている世代において、フィードバックやコーチングといった詰め込み型の教育は合わない部分があるでしょう。一つの価値観や認識をむやみに押し付けてしまえば、早期離職につながる可能性もあるため、注意が必要です。

若手の人材の多様的な価値観に寄り添い、未来志向で業務に取り組んでもらうには、フィードフォワードの手法が効果を発揮するはずです。

組織力を強化する

フィードフォワードの手法を取り入れれば、組織がどのような方向を目指して歩んでいるのかが、従業員にも伝わりやすくなります。そのうえで、個々の従業員の意見や考えも取り入れながら進んでいくことになるため、従業員エンゲージメントが高まりやすいといえるでしょう。

働きやすい職場環境が整っていれば、自ずと生産性の向上に結びつきやすいでしょう。組織力を強化するという点でもフィードフォワードは役立ちます。

コ ンプライアンスに沿ったアプローチとなる

フィードフォワードやコーチングは、意図的なものではなかったとしても、アプローチの仕方が独善的になったり、考えを押し付けてしまったりする恐れがあります。一方的な指導は、ハラスメントなどの問題を発生させる可能性があるので注意が必要です。

フィードフォワードの場合は、過去の失敗や改善を促すことよりも、未来に視点を置いてどのように変わっていくかを考えるため、従業員自身の意見や考えも尊重されます。そのため、円滑なコミュニケーションが生まれやすく、自ずとコンプライアンスに沿ったアプローチとなるでしょう。

(参考:『【弁護士監修】コンプライアンスの意味と違反事例。企業が取り組むべきことを簡単解説』 )

フィードフォワードを導入することの効果


フィードフォワードを導入することで、企業は多くのメリットを得られます。具体的なメリットを解説します。

自律的に行動できる人材の育成

人材育成の手法の一つとして、フィードフォワードを導入すれば、従業員自らが主体的に物事を考え、自律的に行動できる人材の育成に役立ちます。従業員の意見やアイデアを尊重し、将来に向けた前向きなコミュニケーションが取れる場を整えることで、新たな気づきや困難なことにも挑戦していく姿勢を身につけられるでしょう。

チーム力の強化

フィードフォワードは上司と部下といった関係性だけでなく、従業員同士が前向きに意見を出し合う手法としても活用できます。活発なコミュニケーションを通じて、それぞれの考えに共通認識が生まれることで、チーム全体のまとまりが強化されるでしょう。

個々の従業員が抱える課題をチームの課題として捉えられるようになれば、困っているときには従業員同士が支え合うといった雰囲気も高まりやすいはずです。フィードフォワードがしっかりと定着している組織においては、上司はチーム全体のモチベーションの維持や意思決定、目標管理などに力を入れることができ、マネジメントの強化にもつながっていきます。

ハラスメントの防止対策

フィードバックの場合は、言葉遣いや振る舞い方に気をつけていたとしても、一方的な指導になりがちであるため、ハラスメントの原因となる可能性があります。そのため、フィードフォワードを導入することで、お互いの意見を尊重しやすい環境が生まれ、自ずとハラスメントを防止する企業風土が培われていくでしょう。

ハラスメントによる諸問題を発生させないために、管理職に対してフィードフォワードをマネジメント手法として取り入れていくことが大切です。

フィードフォワードを導入するときの注意点


フィードフォワードの手法を活用することで多くのメリットを得られますが、あらかじめ把握しておきたい注意点もあります。どのような注意点があるのかを解説します。

マネージャーの教育が必要

フィードフォワードを導入する際は、管理職向けの研修を行い、前提となる知識や部下との接し方を教育していく必要があります。経験豊富な管理職であっても、従来の育成方法を変えていく認識を持ってもらわなければ、フィードフォワードを導入する目的が達成できないでしょう。

ただし、人材育成に関するマネジメント手法を定着させるには、それなりに時間がかかる部分があります。なぜ導入する必要があるのかの目的を丁寧に伝えて、理解を得ながら管理職への教育を行ってみましょう。

1on1の見直し

上司と部下が直接面談をして、課題点などを共有する1on1ミーティングを導入している企業は増えています。フィードフォワードの導入にあたっては、1on1ミーティングの進め方も再構築していく必要があるでしょう。

フィードフォワードはあくまで、双方向のコミュニケーションに基づき、未来志向での取り組みを考えていく手法です。また、目に見えた成果が出るまでには一定の時間がかかるので、無理のないスケジュールや目標設定を行うことも大切になります。

(参考:『1on1ミーティングとは|目的や得られる効果と導入・実施方法を解説』 )

人事評価制度の再構築

フィードフォワードは過去の経験や実績などを基にゴールを決める手法ではないため、これまでの人材育成の手法や人事評価制度がそのままでは機能しなくなる可能性があります。定量的な部分だけで評価をするのではなく、従業員のポテンシャルや定性的な部分も加味した人事制度に見直していくことが必要です。

一部の部署だけで導入すると、従業員のモチベーションが低下する恐れがあるので、全社的な取り組みとして推進していきましょう。経営層や従業員にヒアリングを行いながら、新たな人事評価制度を形づくっていくことが大切です。

フィードフォワードを実施するときのポイント


フィードフォワードを実施する際は、いくつかポイントを押さえておくとスムーズに定着しやすくなります。ここでは、3つの点について解説します。

従来の取り組みにとらわれない

フィードフォワードの手法を浸透させるには、さまざまな考えや意見に対して肯定的な捉え方をしていくことが重要です。頭ごなしに否定をしてしまっては、コミュニケーションが希薄化し、未来志向の考えを持つことが難しくなるでしょう。

あくまで、「どうすれば実現できるか」という視点で、取り組みを進めていくことが大事だといえます。

助け合える雰囲気をつくる

フィードフォワードでは前述の通り、相手を否定したり、むやみにダメ出しを行ったりしないことが肝心です。上司が一方的な指導を行うのではなく、従業員同士が支え合える雰囲気を整えていくほうが、結果としてよい流れをつくっていけるでしょう。

困ったときは他のメンバーに相談できる環境を生み出すことで、安心して新たなことに挑戦していく気持ちが従業員のなかに湧いてくるはずです。

フィードバックと組み合わせる

フィードフォワードは将来に向けた変化を促すものですが、実際の業務においては直面する課題と日々向き合っていく必要があります。そのため、上司や先輩従業員が指導役となり、部下や後輩従業員に必要な知識や技術を習得させていくことが欠かせません。

特に重大なミスを防ぐためのフィードバックは、「OJT(On the Job Training)」においては大切な要素です。フィードバックで短期的な課題をクリアしやすくしたうえで、中長期的な部分についてはフィードフォワードを取り入れていくとうまくいきやすいでしょう。

まとめ

フィードフォワードは過去の経験や出来事にとらわれず、未来志向の考えで変化を促していくためのアプローチの方法です。人材育成の手法としても活用できるものであり、組織の活性化や自律的な考えを持った従業員を育てることにつなげられるでしょう。

フィードフォワードを定着させるには管理職への教育も必要であるため、自ずと全社的な取り組みになるはずです。変化の激しい時代だからこそ、フィードフォワードを積極的に取り入れて、強い組織を形づくっていくことが大切だといえます。

(制作協力/株式会社STSデジタル、編集/d’s JOURNAL編集部)

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