早期退職制度とは?リストラや希望退職などとの違いやメリット・デメリットを解説

弁護士法人ブライト

弁護士 和氣良浩

プロフィール

従業員が自らの意思で定年前の退職を選択できる、早期退職制度。導入企業の多くが、退職金の割り増しや再就職支援などの優遇措置を設けています。福利厚生の一部として関心が高まっている一方で、従業員の誤った印象を懸念して導入に慎重な企業も少なくありません。

「リストラや希望退職との違い」や「具体的なメリット」「制度の設計方法」を知りたいという経営者や人事・採用担当者の方もいるのではないでしょうか。

この記事では、リストラや希望退職との違い、導入するメリット・デメリットなどについて解説します。

早期退職制度とは

早期退職制度とは、従業員が定年を迎える前に退職を希望できる制度のこと。退職金の割り増し支給や再就職支援など、定年退職よりも手厚い優遇措置が設けられるのが一般的なことから、「早期退職優遇制度」とも呼ばれます。

早期退職制度の特徴は、その目的と退職時の扱いにあります。あくまで退職は従業員自身の意思によるものであるため、制度を利用するか否かは各従業員の判断に委ねられます。

まずは、早期退職制度の目的や、混同されることの多い「リストラ」や「希望退職」との違いを押さえましょう。

早期退職制度の目的

早期退職制度の主な目的は、「人員の循環による組織の活性化」と「従業員の人生の選択肢拡大」です。

早期退職制度では対象者に年齢や勤続年数などの制限を設けるのが一般的なため、退職者は一定の年齢以上になります。人材の入れ替えを円滑に行うことにより、組織の人員構成を整えることが目的の一つです。

もう一つの目的は、従業員の人生の選択肢を広げ、セカンドキャリアを後押しすることにあります。「人生100年時代」ともいわれ、終身雇用・年功序列の前提が崩れつつある昨今、早期退職を利用してもらうことで、従業員の転職・独立・起業の可能性を高められます。また、優遇措置を設ければ、従業員の新たなキャリアを年齢面、資金面からサポートすることもできます。

これらのことから、早期退職制度は従業員側が希望すれば利用できる「福利厚生制度の一部」という位置付けであることが一般的です。会社都合による人員整理を目的としたものではなく、自己実現を目指す従業員を応援する制度と捉えるとよいでしょう。

希望退職制度との違い

希望退職制度も従業員が自らの意思によって定年以前に退職ができる制度ですが、早期退職制度とは目的や募集期間が異なります。

希望退職制度では、業績の悪化や事業の縮小に伴う人員整理を目的として、期間限定で退職者を募集するのが一般的です。後述するリストラの前段階として導入する企業が多く、退職金の割り増しなどを提示した上で臨時的に行われます。

一方、早期退職制度は、組織の新陳代謝促進や従業員のキャリア支援を目的に、福利厚生の一環として恒常的に運用されるのが一般的です。

なお、どちらも従業員の希望により早期退職を募る制度であることから、企業によっては、希望退職制度を早期退職制度の一部として取り扱う場合もあります。

リストラとの違い

いわゆるリストラとは、経営不振などを理由に、人員整理の一環として従業員を解雇すること(整理解雇)。早期退職制度が自己都合による自発的な退職であるのに対し、リストラは会社都合による退職であることが特徴です。

リストラは人件費の削減を目的に行われることが大半であり、解雇という言葉からも、強制力の強い意味合いであることがわかります。ただし、解雇が正当とされる条件は厳格であるため、条件を満たしていない場合には解雇が無効になります。

ポストオフとの違い

ポストオフとは、定年前のタイミングで管理職の任を解く人事制度のこと。管理職の若返りによる組織活性化や若手のキャリア形成といった目的は、早期退職制度と共通しています。しかし、会社としても退職が目的ではなく、ポストオフによって管理職から降りた従業員は一般職として企業に残留することが一般的なことから、退職制度でないことが決定的な違いです。

なお、近年は人的資本経営の潮流を受けて、女性管理職の比率を高めるためにポストオフを行う企業もあります。

(参考:『人的資本経営とは|メリットや実践するためのポイントをくわしく解説』)

早期退職制度のメリット

早期退職制度のメリットとしては、以下の4つが挙げられます。

■早期退職制度のメリット
●組織の新陳代謝を促し事業成長につながる可能性もある
●若手従業員のキャリア形成を促進しうる
●人件費削減効果が期待できる
●従業員にとっては受け取る退職金が増える場合がある

それぞれについて、見ていきましょう。

組織の新陳代謝を促し事業成長につながる可能性もある

早期退職制度によって組織の新陳代謝が促されると、旧態を壊して新たな発想が生まれるなど、事業の成長につながる場合もあります。社内外から人員を補填する場合は、発想の転換やナレッジの増加が見込まれることもあるでしょう。

また、若手従業員の活躍の機会が増えることはモチベーションや生産性の向上にも寄与し、企業の活性化が期待できます。

若手従業員のキャリア形成を促進しうる

若手従業員のキャリア形成につながることも、早期退職制度導入のメリットです。少子高齢化や定年年齢の引き上げを受けて、中高齢の従業員の割合が多い企業も少なくないでしょう。ベテラン従業員のスキルや経験は企業にとっての大きな資産ですので、うまく生かしつつ若手従業員が活躍する機会や若手従業員の昇進が滞るといったことがないような制度設計が必要です。

早期退職制度により、組織内の人事の流動性が高まり、若手従業員の昇進やキャリアアップの機会が創出できるかもしれません。

人件費削減効果が期待できる

勤続年数が長くなると知識経験が生かされてスキルも上がるため、勤続年によって給与が上がる給与テーブルを採用している企業も多いでしょう。早期退職制度は、一般的に、年齢が高い、もしくは勤続年数が長い従業員を対象としています。

そのため、勤続年数が長くなるにつれて給与額が上がる企業にとっては、人件費削減につながるかもしれません。

従業員にとっては受け取る退職金が増える場合がある

従業員にとっても、早期退職制度はメリットがある制度です。早期退職制度では退職金の増額や特別手当の支給などの金銭的なインセンティブが設定されるケースがあります。

早期退職制度のデメリット

早期退職制度の導入にはさまざまなメリットがある一方で、以下のデメリットもあります。

早期退職制度のデメリット
●経験豊富な人材の流出
●一時的なコスト増加
●早期退職者が想定数を超えた場合の人員不足
●従業員の不信感増大やエンゲージメント低下のリスク

それぞれについて、解説します。

経験豊富な人材の流出

早期退職制度は従業員の意思により早期の退職を希望できる制度です。そのため、豊富な経験や優れたスキルを持った従業員が退職してしまうことも考えられます。

属人化している知見を喪失すると生産性の低下を引き起こしかねず、また、自社にとって重要な知識や技術が他社に流出してしまう懸念もあるかもしれません。

一時的なコスト増加

前述の目的を踏まえると、後述するように、早期退職を希望した従業員は「退職金の増額」や「再就職の支援」などのメリットを享受できる制度設計とされることが一般的です。

そのため、企業としては、長期的に捉えれば人件費削減の効果があるが期待できる一方で、一時的にコストが増加することに注意が必要です。また、制度の利用者が重なった場合、資金繰りが難しくなったり、経営を圧迫したりする可能性も否定できません。

早期退職者が想定数を超えた場合の人員不足

特定の時期に早期退職者が企業の想定数を超えてしまった場合、一時的な人員不足に陥ることも想定されます。業務の進行が滞るだけでなく、残った従業員の負担が増え、エンゲージメントの低下や更なる退職者の増加にもつながりかねません。

従業員の不信感増大やエンゲージメント低下のリスク

早期退職制度は、「組織の活性化」と「従業員のキャリア支援」を目的とした前向きな制度です。しかし、リストラや希望退職と混同されやすいことから、説明が不十分だったり、運用が不透明だったりした場合、「業績が悪化しているのではないか」「解雇されるのではないか」というように、従業員の不信感を買う可能性があります。

制度そのもののデメリットではありませんが、周知の仕方を間違えるとエンゲージメントの低下を招くリスクもあるため、注意しましょう。

早期退職制度優遇措置について

早期退職制度の運用にあたっては、「退職金の割り増し」「再就職支援」「休暇や勤務免除」といった優遇措置を設けることがあります。それぞれの詳細をご紹介します。

退職金の割り増し

早期退職制度の優遇措置で最も代表的なのが、退職金の割り増しです。通常の退職金に一定の金額を上乗せして支給します。割り増し部分の金額や計算方法は企業によって異なり、「一律●円」と定める場合もあれば、「月収●カ月分」「勤続年数×●円」とする場合もあります。

なお、厚生労働省が2023年10月に発表した「令和5年就労条件総合調査」によると、勤続20年以上かつ45歳以上の退職者(大学・大学院卒)の退職金の平均額は、定年退職で1,896万円、早期退職で2,266万円となっています。

(参考:厚生労働省『令和5年就労条件総合調査 結果の概要 退職給付(一時金・年金)の支給実態』)

再就職支援

セカンドキャリアの後押しとして、早期退職制度利用者を対象に再就職支援制度を設けている企業もあります。社内の人事はもちろんのこと、人材紹介サービスや再就職支援会社などと連携して、キャリアカウンセリングや再就職先の紹介などを行う制度です。

このような制度があると、転職活動が難航することを懸念して次へのステップをためらう従業員が制度に応募しやすくなり、「次のキャリアを応援する」という企業の目的に資する手段だと言えるでしょう。

休暇や勤務免除

再就職先を探す期間や関係各所への挨拶などにあてる時間として、特別休暇を提供したり勤務を免除したりすることも考えられます。

なお、再就職の時期や引き継ぎなどによって有給休暇の完全消化が難しい従業員については、費用を決めて有給休暇を買い上げる方法もあります。これらの施策により、早期退職者は安心感と余裕を持って、退職後の生活に向けた準備を進められるでしょう。

早期退職制度を自社で実施するには

早期退職制度を効果的に運用するためには、どのような流れで準備を進めるとよいのでしょうか。早期退職制度を導入する際のフローをご紹介します。

早期退職制度の導入フロー

制度の目的や対象・条件の明確化

はじめに、制度を導入する目的や対象となる範囲、早期退職の条件、優遇措置などを明確にします。何のために制度を導入したいのか、目的を達成するために適した制度なのかを検討しましょう。

早期退職の条件については、年齢や勤続年数、職種、実施の規模などを検討します。対象者に制限を設けることで、一斉退職による人員不足や業務遅延、資金繰りの悪化などのリスクを軽減できます。制度導入後の年齢構成や人員配置を想定した上で、慎重に検討しましょう。

従業員との協議・取締役会の決議

制度の大枠が固まったら、アンケートを取ったり、協議を行ったりして、従業員の意見を具体的に反映させましょう。

退職に関する事項は就業規則に必ず示さなければならない絶対的必要記載事項であるとともに、就業規則の変更には労働者の過半数を代表する者の意見書などを作成した上で労働基準監督署に届け出る必要があります。労使間の合議を経て制度を改善することは、従業員の理解を得やすくなることにもつながるでしょう。

なお、早期退職制度の実施は会社法第362条4項の「重要な業務執行」に該当すると考えられるため、協議が終わったら、取締役会設置会社の場合には取締役会にて実施の決議を行う必要があります。

従業員向け説明会の実施

取締役会によって早期退職制度の導入が決定したら、リーフレットの作成や従業員向けの説明会を行い、従業員に制度の内容や意義、手続きの方法などを周知します。

説明が不足すると、正しく運用されなかったり、リストラと誤解され従業員の不安をあおったりする懸念があります。制度が適切に運用されるとともに、思わぬ人材流出を防ぐためにも、制度導入の目的を明確に伝え、従業員から疑問点や不安が出た場合には、真摯な対応を心掛けることが重要です。

このステップを丁寧に行うことが、制度のスムーズな運用につながるでしょう。

運用開始

従業員からの理解が得られ、早期退職制度の導入が現実的になったら、就業規則を改定し、制度の適用開始日を定めた上で運用をスタートします。

制度を運用する中で新たな課題点が見つかる可能性もあるため、定期的に制度の利用状況の確認や従業員へのヒアリングを実施し、PDCAサイクルを回すことも大切です。企業と従業員双方にメリットがある制度となるよう、対象者の条件や優遇措置の内容などを見直し、制度をブラッシュアップしていきましょう。

早期退職制度の実施にあたっての注意点

早期退職制度は、正しく運用しないと予期せぬトラブルにつながりかねません。ここでは早期退職制度を運用する際の注意点を解説します。

退職希望者と個別に面談を行うなど詳細な説明を行う

実際に早期退職希望者が現れたら、個別に面談を行います。退職日や退職金の支給額、優遇措置の詳細(再就職支援の有無や業務の免除、有給休暇の消費など)について認識を共有し、双方の理解にずれがないようにしましょう。

早期退職制度は自己都合による退職のため、失業手当の給付条件も会社都合の場合とは異なります。また、厚生年金の加入期間が短くなると早期退職者が将来受け取れる額も少なくなるため、これらのデメリットも踏まえて話し合いを進めることがポイントです。

守秘義務の徹底を行う

退職した従業員が競合他社に転職したり、起業したりするケースも考えられるでしょう。万が一他社に機密情報やノウハウが漏えいされてしまうと、自社の社会的信用の低下や顧客離れ、業績・株価の悪化といった不利益を被る可能性があります。

退職前には自社で得た機密情報の流出を禁ずる「守秘義務」の認識の徹底と、必要に応じ、競合他社への入社などを禁止する「競業避止義務」について、必ず書面で取り決めておくことが大切です。

退職する従業員の担当業務の引き継ぎを行う

事業の継続性を保つために、退職する従業員が担当している業務の知識やノウハウをきちんと引き継げるような体制も整備しておきましょう。退職者がマニュアルの整備や対面での引き継ぎなどに十分な時間を取れることが望ましいでしょう。

退職者の公平性を持たせたプロセス設計を行う

場合によっては、一定時期に早期退職希望者が集中するなど、想定していた人数を上回ることもあるでしょう。そのような事態を想定し、早期退職制度が適用される従業員の条件は念入りに検討し、従業員らが公平に制度を利用できるようにする必要があります。

また、「早期退職制度の利用時には会社の承諾を要する」といったルールを設けることも可能です。ただし、民法第627条第1項には「無期雇用契約を結んだ従業員はいつでも退職の申し入れができる」「申し入れから2週間で雇用契約が終了する」といった旨が定められています。慰留する場合でも、過度な引き止めはしないようにしましょう。

まとめ

早期退職制度には、組織の新陳代謝促進や人件費の削減などのメリットがある一方で、制度設計や運用方法を誤ると、経験豊富な人材の流出や想定数を超えた場合の人員不足などが懸念されます。制度を運用する際には、目的を明確にした上で丁寧な説明を行う、退職者に守秘義務の徹底を依頼するなどの対応が必要です。

近年は福利厚生制度の一部として、早期退職制度を導入する企業が増加しています。自社の事業成長や従業員のセカンドキャリア支援のためにも、早期退職制度の導入を検討してみてはいかがでしょうか。

(企画・編集/d’s JOURNAL編集部、制作協力/株式会社mojiwows

原因から見直せる対策を紹介!離職防止の施策・手法まとめ

資料をダウンロード