コアタイムとは|意味と目的・制度導入の3つのメリットを解説
d’s JOURNAL編集部
フレックスタイム制の労働時間内において、従業員が必ず出勤すべき時間帯を指す、「コアタイム」。近年、多様な働き方を実現するための方法の一つとして、フレックスタイム制を導入している企業が増えています。「コアタイムは何のために設定するのか」「コアタイムを導入することで、どのような影響があるのか」が気になる担当者もいるのではないでしょうか。
この記事では、コアタイムの意味や設定の目的、導入することによる3つのメリットなどを解説します。
コアタイムはフレックスタイム制の一部
コアタイムは、フレックスタイム制の労働時間内に設定される、必ず勤務すべき時間帯のことです。
そもそも、フレックスタイム制とは、従業員が就業時間帯を自分で決めることができる制度のこと。日本では1987年の労働基準法の改正により、1988年から導入されました。
就業時間帯が固定されている企業では「9時~17時勤務」というように、始業時間と終業時間、1日の労働時間が決まっています。一方、フレックスタイム制では1日の労働時間を固定せず、「清算期間」と呼ばれる一定期間の総労働時間を定めておき、従業員はその総労働時間の範囲で各労働日の就業時間帯、労働時間を自由に決定します。基準となる1日の労働時間はあるものの、清算期間内にあらかじめ定めておいた総労働時間を満たせれば、1日の労働時間が長くても短くても構わない、ということです。
フレックスタイム制を導入している企業では、必ず勤務すべき時間帯である「コアタイム」の他に、自由に出退勤できる「フレキシブルタイム」を設けていることが一般的です。ここからは、それぞれの意味や考え方について詳しく見ていきましょう。
(参考:『フレックスタイム制を簡単解説!調査に基づく84社の実態も紹介』)
コアタイムとは
コアタイムとは、先述の通り、フレックスタイム制を導入している企業において、1日のうち必ず勤務しなければならない時間帯のこと。例として、コアタイムを「10時~15時」とした場合、この5時間は基本的に全ての従業員が働いていることになります。
労使協定で従業員の合意が得られていれば、企業はコアタイムを自由に設定することができます。「曜日によって時間帯を変える」「1日の中で分割する」ことも可能です。実際には、「業務の進めやすさ」や「社内外との連携の取りやすさ」「従業員の実態やニーズ」などを踏まえながら、従業員が集まりやすい中間の時間帯をコアタイムとしている企業が多いようです。
なお、コアタイムへの遅れや早上がりがあった場合、「遅刻」や「早退」扱いにはなるものの、清算期間内の総労働時間を満たしていれば欠勤控除とはなりません。遅刻や早退について何かしらのペナルティーを設けたい場合は、就業規則に別途規定を設ける必要があります。
フレキシブルタイムとは
フレキシブルタイムとは、フレックスタイム制において従業員が自由に就業時間を決定できる時間帯のこと。必ず勤務していなければならない時間帯を指す「コアタイム」とは、逆の意味を持つ言葉です。こちらも労使協定が締結できれば、「出勤・退勤それぞれにフレキシブルタイムを設ける」「コアタイム以外は全てフレキシブルタイムとする」など、内容は企業が自由に決定できます。
例として、「6時~10時」を始業のフレキシブルタイムとしている場合、従業員の出勤時間が7時であっても9時であっても問題はありません。出勤時間を固定する必要もないため、従業員は「通院が必要な水曜日は9時出勤、それ以外の曜日は8時出勤」というように、日によって出勤時間を調整することも可能です。
ただし、従業員には「清算期間の総労働時間を満たすようスケジュール管理をする」「コアタイムが設定されている場合はその時間帯に必ず勤務する」ことが求められます。
フレックスタイム制にコアタイムの設定は自由
フレックスタイム制の導入に際して、コアタイムを設定する義務はありません。そのため、コアタイムを設けず全ての労働時間をフレキシブルタイムとする「スーパーフレックス制」を採用している企業もあります。
なお、コアタイム設定(フレックスタイム制導入)の際、以下に該当する場合は就業時間帯を従業員の意思に委ねているとは言えず、フレックスタイム制とみなされないことがあるため、注意が必要です。
●コアタイムの時間帯が基準となる1日の労働時間とほぼ一致している(フレキシブルタイムが極端に短い)
●始業から8時間の労働を義務付ける
●始業時刻と終業時刻のどちらかしか、従業員に決定権がない
コアタイムが長すぎると、従業員は自由度の高い働き方を実現できなくなります。反対に、コアタイムが短すぎると他の従業員との連携が取りづらくなるでしょう。コアタイムを設定する際は、業務環境や従業員の状況などを踏まえつつ、フレキシブルタイムとのバランスを考えることが大切です。
コアタイムの目的はフレックスタイム制の弊害対策
コアタイムの設定義務がないにもかかわらず、なぜ多くの企業がコアタイムを設定するのでしょうか。それは、フレックスタイム制の弊害を解決し、業務を円滑に進めるためです。
スーパーフレックス制にしてしまうと、従業員の勤務時間がバラバラになり、業務の進捗状況を把握しにくくなったり、チームでの作業や会議がしづらくなったりする可能性があります。コアタイムを設定して全ての従業員が同時に働く時間帯をつくることで、「プロジェクトの進行状況がわからない」「業務の相談をしたいのに勤務時間が合わない」「全員が揃う時間帯がなく会議を設定できない」という状況を最小限に抑えられます。その結果、社内外のコミュニケーションがスムーズになるでしょう。
また、コアタイムの設定は「管理コストの削減」「リモートワークの労働状況の把握」にも役立ちます。
フレックスタイム制を導入している企業の推移
ここでは、厚生労働省の資料を基に、フレックスタイム制を導入している企業の推移を見てみましょう。
(参考:厚生労働省『平成30年就労条件総合調査 結果の概要』『平成31年就労条件総合調査 結果の概要』『令和2年就労条件総合調査 結果の概要』『令和3年就労条件総合調査 結果の概要』『令和4年就労条件総合調査 結果の概要』『令和5年就労条件総合調査 結果の概要』)
2023年のフレックスタイム制の導入比率は、全体の6.8%でした。前年の2022年の8.2%からは1.4ポイント下がってはいるものの、導入率が最も低い2019年(5.0%)と比べて高いことから、フレックスタイム制を導入している企業は微増傾向にあると捉えてよいでしょう。
(参考:同資料)
一方、フレックスタイム制が適用されている従業員の割合は2023年では10.6%と、2018年の7.8%から2.8ポイント増加しています。働き方改革などで多様な働き方が叫ばれる中、従業員のワークライフバランスを充実させるためにも、今後フレックスタイム制を導入する企業や適用される従業員の割合は増えていくと考えられるでしょう。
コアタイム(フレックスタイム制)導入のメリット
コアタイム(フレックスタイム制)を導入することにより、企業には以下のメリットが期待できます。
●採用活動における強みになる
●社員のストレス・負担を軽減できる
●離職率の改善効果が期待できる
それぞれについて詳しく見ていきましょう。
採用活動における強みになる
ワークライフバランスが重要視される昨今、柔軟な働き方に寄与するフレックスタイム制を導入していることは、採用活動における強みになります。出勤時間や退勤時間の縛りによって自社への応募を躊躇していた求職者が応募できるようになり、求める人材を採用できる可能性が高まります。
加えて、コアタイムを設定しておくことで、求職者は「チームのメンバーときちんとコミュニケーションが取れそうな職場」だと感じ、安心して求人に応募できるようになるでしょう。
社員のストレス・負担を軽減できる
出退勤の時間に融通がきくため、「従業員のストレスや負担を軽減できること」「従業員が時間に余裕を持てるようになること」も、フレックスタイム制のメリットです。コアタイムを通勤ラッシュの時間帯を避けて設定すれば、従業員は出社時間を自由に調整でき、心身のストレスが大幅に減ります。
ストレスの軽減により心に余裕を持つことは、仕事に対するモチベーションや生産性の向上にも寄与するでしょう。
離職率の改善効果が期待できる
フレックスタイム制の導入は、従業員の離職防止にも役立ちます。就業時間が固定されている従来の働き方では、育児や介護との両立が困難であることを理由に離職を余儀なくされた従業員もいたことでしょう。フレックスタイム制は時間に融通が利き、ライフスタイルが変化しても働き続けやすい仕組みであるため、従業員の満足度や定着率の向上が期待できます。
コアタイムを設定していれば、「子どもの行事がコアタイム時間外であれば、遅刻や早退をせずに済む」「コアタイムを避けて、親を病院に連れていける」というように、仕事と育児や介護の両立が可能です。
離職率の低減は、採用コストや教育コストの抑制にもつながるでしょう。
コアタイム(フレックスタイム制)を導入する際の注意点
コアタイム(フレックスタイム制)を導入する際には、「ミーティングが集中する可能性がある」「コミュニケーション不足になることもある」ことに注意が必要です。以下で詳しく紹介します。
ミーティングが集中する可能性がある
コアタイムを設けると、「みんなが出勤している時間帯に会議をしよう」との考えから、その時間帯にミーティングが集中することが想定されます。限られた時間帯の中で予定を組み込むことになるため、「日程調整や会議室確保が難しく、なかなか会議を設定できない」「ミーティングの時間がこれまでよりも短くなってしまう」といったことも想定されるでしょう。
短時間でも有意義なミーティングにするためには、事前の資料配布や検討事項の共有など、ミーティングを効率的に進めるための工夫が必要です。
コミュニケーション不足になることもある
コアタイムの長さによっては、コミュニケーション不足となることも想定されます。コアタイムが短いと、就業時間がバラバラになるため、従業員同士で顔を合わせる機会が減り、コミュニケーションが取りづらくなる可能性があることに注意が必要です。コミュニケーションが取りにくくなると、「モチベーションや生産性の低下」のほか、連携不足による「情報の遅延」や「業務の停滞」なども生じやすくなるでしょう。
これらのトラブルを防ぐためには、工夫が必要です。具体的には、「文書やオンラインツールを活用して情報を共有する」「ランチミーティングのようなコミュニケーション機会を設ける」などするとよいでしょう。
また、自社のコアタイムと取引先の勤務時間が合わない場合には、社外の関係者と連携が取りにくくなる可能性もあります。「担当者と連絡が取れない」「レスポンスが遅い」という不満や苦情が出たり業務が滞ったりすることのないように、「コアタイムを取引先と共有する」「担当者を複数人にする」などの体制整備も行いましょう。
コアタイム(フレックスタイム制)導入に必要な対応
コアタイム(フレックスタイム制)の導入に当たっては、「就業規則への規定」と「労使協定の締結」が必要です。具体的な注意点を見ていきましょう。
(参考:『フレックスタイム制を簡単解説!調査に基づく84社の実態も紹介』)
就業規則への出退勤時間の明記
フレックスタイム制を導入するためには、就業規則やこれに準ずるものに「始業と終業の時刻を従業員の決定に委ねる旨」、つまり、フレックスタイム制を適用する旨を記載しなければなりません。コアタイムを設定する場合は、その時間帯の明記が必要です。加えて、後述する「労使協定で定めた事項」も記載しましょう。
なお、就業規則を変更した際は、「新たに作成した就業規則」と「就業規則変更届」「労働者の過半数で組織する労働組合か労働者の過半数を代表する者の意見書」の3点を、所轄の労働基準監督署へ届け出る必要があります。
労使協定の締結
前述のように、就業規則には労使協定で決定したフレックスタイム制の基本的な枠組みを記載しなければなりません。労使協定で定める必要があるのは、以下の6項目です。
労使協定で定める必要がある6項目
●対象となる従業員の範囲
●清算期間(上限:3カ月)および清算期間の起算日
●清算期間における総労働時間(清算期間における所定労働時間)
●標準となる1日の労働時間
●【任意】コアタイム
●【任意】フレキシブルタイム
「対象となる従業員の範囲」は、「全従業員」「特定の部署や事業部で働く労働者のみ」「特定の職種の労働者のみ」など、必要に応じたカテゴリで設定することが可能です。誰が対象なのかを労使協定に明記しましよう。
同様に、コアタイムやフレキシブルタイムの時間帯も、労使協定で自由に設定できます。職種や業務の特性などに応じて、企業と従業員双方にとって都合のよい時間帯に設定し、労使協定に記載しましょう。
清算期間については、2019年にフレックスタイム制に関する労働基準法の改正が行われ、それまでの「最長1カ月」から「最長3カ月」にまで延長されました。なお、清算期間が1カ月を超える場合は、「労使協定届(様式第3号の3)」「労使協定の写し」を所定の労働基準監督署に届け出る必要があります。違反をすると30万円以下の罰金が科されることもあるため、注意しましょう。
(参考:厚生労働省『フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き』)
まとめ
コアタイムは、フレックスタイム制の中で従業員が同時に働く時間帯をつくることにより、社内外のコミュニケーション機会を創出し、業務を円滑に進めることを目的として設定するものです。
自社の特質や従業員の事情に即してコアタイムとフレキシブルタイムを設定することで、「採用力の強化」「従業員のストレス・負担の軽減」「離職率の低減」が期待できるでしょう。コアタイム(フレックスタイム制)の導入に際しては、「就業規則への記載」や「労使協定の締結」が必要です。
従業員の多様で柔軟な働き方の実現に向け、コアタイム(フレックスタイム制)の導入を検討してみてはいかがでしょうか。
(制作協力/株式会社mojiwows、編集/d’s JOURNAL編集部)
【Word版】フレックスタイム労使協定書
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