タレントアクイジションとは?注目される理由や導入方法を解説

d’s JOURNAL編集部

採用競争の激化や雇用流動性の促進にともない、採用のあり方にもさまざまな変化が生まれています。「タレントアクイジション」も新たに導入され始めた採用手法の一つであり、長期的な経営戦略に基づいた人材獲得を重視しているのが特徴です。

この記事では、タレントアクイジションの概要や注目されている背景、導入するメリットについてご紹介します。また、具体的な取り組み方や成功のポイントもあわせて見ていきましょう。

タレントアクイジションとは


「タレントアクイジション」は、人材採用における考え方の一つであり、才能を意味する「タレント」と、獲得や取得を意味する「アクイジション」を組み合わせた造語です。ここではまず、タレントアクイジションの基本的な意味と注目されている背景についてご紹介します。

タレントアクイジションの意味

「タレントアクイジション(Talent Acquisition)」とは、才能を持った人材を獲得することに重きを置いた採用活動のことを指します。一般的な人材採用は、「不足した人員を補充する」「新規プロジェクトの立ち上げなどに必要な戦力を確保する」といった目的で行われることが多いのが特徴です。

それに対して、タレントアクイジションは「企業や組織の中長期的な発展」を見据えて、長く活躍してもらえる人材の採用を目指すという取り組みです。通常の採用活動では、どちらかといえば「今や少し先の未来」を見据えているのに対して、タレントアクイジションは「中長期的な未来」を視野に入れているのが特徴といえるでしょう。

そのため、通常の採用と比べると、より綿密かつ長期的な視野で戦略を練り、自社の経営戦略や経営ビジョンとも丁寧にすり合わせを行いながら採用を進めていきます。また、自社の成長に貢献してもらう人材を獲得するために、より厳しい観点で質の高い採用活動を行うのもタレントアクイジションの大きな特徴です。

注目されている理由

タレントアクイジションが注目されるのには、近年における採用環境の変化が大きく関係しています。現在の採用市場では、労働人口の減少によって長らく売り手市場化が続いており、人材の獲得競争が激化しています。

さらに、転職の一般化によって人材の流動性も高まっており、現代では必ずしも1つの企業に長くとどまり続けるのが好ましいキャリアにつながるとは限りません。高度なスキルや経験を持った人材が、転職によってキャリアアップを目指すケースも多くなっているのです。

こうした環境下において、単に不足した人材を補充するといった場当たり的な採用活動を行うだけでは、安定した組織運営が難しくなってしまいます。せっかく採用できても、企業と人材のミスマッチによって早期離職に至る可能性もあり、採用費用が膨らんでしまうケースもあるでしょう。

有効性の高い採用を行うためには、中長期的な視点に立って戦略を練り、スキルだけでなくポテンシャルや人柄、企業カルチャーとの相性といった複合的な要素を重視する必要があるのです。また、近年では採用広告を打って応募を受け付ける従来型の「待ちの採用手法」だけでなく、企業が自ら求職者へアプローチする「攻めの採用手法」も普及し始めています。

こうした背景から、より細かく的を絞って採用活動を行うタレントアクイジションに注目が集まっていると考えられます。

タレントアクイジションを取り入れるメリット


タレントアクイジションを導入することで、企業には具体的にどのようなメリットがもたらされるのでしょうか。ここでは、4つの視点に分けて詳しく見ていきましょう。

採用のミスマッチを防ぎやすくなる

タレントアクイジションを導入するメリットの一つは、採用におけるミスマッチの回避にあります。企業と人材のミスマッチはさまざまな要因によって起こり、「スキルに関するもの」だけでなく「社内カルチャー」や「人間関係」のように多くのパターンがあります。

いずれの場合においても、基本的な原因は入社前における認識のズレにあり、十分な情報のすり合わせが行われていればある程度のリスク軽減は可能です。タレントアクイジションでは、自社の採用ブランディングを強化して、積極的かつ中長期的に情報発信を行っていく必要があります。

そのため、自社に強い関心を持つ人材が集まりやすくなり、結果として採用のミスマッチを防ぎやすくなるのです。また、タレントアクイジションでは短期的な採用フローに頼らず、1人の人材に対して中長期的にアプローチを行うため、その過程で企業の魅力や社風、細かな業務内容などを丁寧に知ってもらえるのも特徴です。

獲得までにきめ細やかなプロセスを踏む分、企業と人材の相互理解が深まるため、入社後はミスマッチを心配せずにスムーズな加入が期待できます。なお、採用のミスマッチについて、さらに詳しく調べたい方は以下の記事も参考にしてみてください。

(参考:『ミスマッチとは?新卒・ミスマッチが起こる原因は?企業に与える影響と対応方法を紹介』 )

経営戦略や事業計画に沿った人材の採用につながる

短期的な成果を目指す採用と比べて、持続的な成長を支える人材を獲得できるのもタレントアクイジションの重要な効果です。経営戦略や事業計画に基づき、じっくりと採用戦略を練るため、新規事業の創出や事業拡大に向けた戦力の強化につながるのです。

また、採用プロセスにおいては、候補者に対して入社後に期待するポジションなどをしっかりと伝えます。あらかじめ経営戦略に則ったアプローチをかけることで、候補者側にとっても自身の活躍をイメージしやすくなり、入社を前向きに捉えられるのがメリットです。

転職潜在層にアプローチができる

タレントアクイジションでは、企業側から人材に対してアプローチをかけるケースも多いです。自社や人材サービス会社のデータベースに蓄積された人材データをもとに、経営戦略に合うと感じた候補者を発掘し、丁寧にアプローチをしながら入社への意向を醸成していくのです。

そのため、通常の転職市場に顔を出さない「転職潜在層」を獲得できる可能性があるのも大きなメリットといえます。高いスキルや経歴を持つ人材のなかには、積極的に転職活動はしていないものの、「よい縁があれば一歩を踏み出してみたい」と考える人も一定数います。

そうした人材に対しても、タレントアクイジションによる攻めの採用を行えば、自社の存在を的確にアピールすることが可能です。

自社の採用ノウハウの蓄積に結び付く

タレントアクイジションは中長期的な採用戦略であるため、すぐには目に見える成果につながらない場合もあります。しかし、企業の長期期計画に基づいて精密な戦略を立てるため、採用ノウハウはしっかりと蓄積されていきます。

どのような人材を求めているのかをとことんまで掘り下げて明確化し、採用チーム全体で共有できるため、次年度以降の採用戦略にもそのまま活かされていくでしょう。

タレントアクイジションを導入するステップ


タレントアクイジションは、以下のように基本的な採用プロセスを大事にしつつ、中長期的な視点を持って進めていくことが大切です。ここでは、各手順における取り組み方について詳しく見ていきましょう。

タレントアクイジションの進め方
1.自社の現状を分析して強みを見つける
2.求める人材像を明らかにする
3.採用ブランディングに取り組む
4.採用手法を検討して実行する

自社の現状を分析して強みを見つける

採用活動を実施する前に、まずは自社の立ち位置や市場環境などを分析し、強みを見つけ出す必要があります。現状を正確に把握することで、課題や押さえるべきポイントが明確になり、ブレのない採用計画を立てられるようになります。

現状分析の手法としては、「SWOT分析」や「PEST分析」などが代表的です。SWOT分析とは、自社が置かれている状況を「Strength(強み)」「Weakness(弱み)」「Opportunity(機会)」「Threat(脅威)」の4つの次元で捉える手法です。

また、PEST分析では自社の外部環境に目を向け、「Politics(政治)」「Economy(経済)」「Society(社会)」「Technology(技術)」の4つの要素から分析を行います。これらのフレームワークを用い、自社の強みと課題を細かく洗い出すことで、必要な人材像をより具体的に定めやすくなるのです。

そのうえで、採用計画を立てる際には、社内の「ワークフォース分析(労働力分析)」を行って、既存の戦力も細かく分析する必要があります。ワークフォース分析とは、従業員の生産性や離職率、組織への貢献度、個々人の評価などをデータに基づいて調べる手法です。

客観的な指標を通じて自社における人的リソースの傾向をつかむことで、どのような人材が不足しているのかを見極めやすくなります。

求める人材像を明らかにする

現状分析を行ったら、自社が掲げる経営戦略や事業計画などと照らし合わせて、どのような人材が必要であるかを具体的に定義しましょう。タレントアクイジションでは、長期的に活躍してもらえることが重要な条件となるため、参照する経営戦略も中長期的なものである必要があります。

そのため、人事部のみで検討するのではなく、経営層とも積極的にコミュニケーションを図りながら計画を立てることが大切です。そのうえで、求める人材像を明らかにしたら、きちんと言語化・明文化して認識の齟齬が生まれないようにしましょう。

タレントアクイジションは、通常の採用と比べると求める人材の条件が広範囲かつあいまいになりやすい側面があります。例えば、通常の採用において不足している人員を補充する場合であれば、必要な人材の条件やスキル、経歴などは具体化しやすいといえます。

一方、タレントアクイジションではどうしても条件が抽象化しやすくなるため、担当者や部門間で共通認識を持ちにくい部分があるのです。そのため、人材の要件定義は意識的に明確化し、戦略にブレが生じないように注意することが大切です。

採用ブランディングに取り組む

求める人材像が明らかになったら、「採用ブランディング」を行い、対象となる候補者が興味・関心を抱くような企業ブランドのイメージを構築する必要があります。採用ブランディングとは、自社の社会的な価値や将来的に目指す姿、自社で働く魅力などを正しく知ってもらい、入社への意欲を高めてもらうための活動です。

ブランディングにはさまざまなアプローチが考えられ、「SNSを通じた積極的な情報発信」や「候補者との交流」のほかに、「従業員エンゲージメントの向上」や「労務環境の改善」なども含まれます。採用ブランディングについて、さらに詳しく知りたい方は以下の記事も参考にしてみてください。

(参考:『採用ブランディングとは?目的や方法、メリット、進める際のポイントなどを紹介』 )

採用手法を検討し、実行する

タレントアクイジションでは、採用広告を打って応募者からのアクションを待つという従来の手法だけでなく、企業側から積極的に動く攻めの手法も活用していくことが大切です。具体的なアプローチの方法にはいくつかの選択肢があるので、自社に合ったものを見極めながら活用しましょう。

ここでは、代表的な採用手法について詳しくご紹介します。

ダイレクト・ソーシング

「ダイレクト・ソーシング」とは、人材サービス会社などが保有する人材データベースを活用して、希望の条件に合った人材を発掘する手法です。条件に合う人材を見つけたら、企業側からスカウトメッセージを送信し、積極的にコミュニケーションを図りながら採用へと結び付けていくのが一般的な流れです。

ダイレクト・ソーシングのメリットは、転職潜在層にも企業側からアプローチできるという点にあります。専門の人材サービス会社が持つデータベースには、「とりあえず登録だけして様子を見る」といった転職潜在層のデータも数多く記録されています。

膨大なデータのなかから、スキルや資格、キャリアなどの細かな条件を絞り込んで人材検索が行えるため、マッチ度の高い候補者と出会える確率が高まるのです。また、候補者とは一対一で接点を持つことも可能なため、企業の熱意や期待をダイレクトに伝えられるのも魅力です。

ソーシャルリクルーティング

「ソーシャルリクルーティング」とは、SNSを活用して候補者との関係性を築く採用手法のことです。まずはSNSで継続的に情報発信を行い、自社の認知度や信頼性を高めていくことから始めます。

ソーシャルリクルーティングでは、社外向けの堅い情報だけでなく等身大の働き方やオフィスの雰囲気なども発信し、親しみやすさを覚えてもらうことが重要です。そのうえで、興味を持ってもらえたユーザーにはダイレクトメッセージを送信し、より綿密なコミュニケーションを図りながら採用へとつなげていきます。

リファラル採用

「リファラル採用」とは既存の従業員から知り合いを紹介してもらい、採用へとつなげていく手法のことです。大きな特徴は、すでに自社の業務や社風を理解している従業員が橋渡しをしてくれるという点にあります。

自社と候補者のどちらもきちんと理解したうえで紹介が行われるため、通常の採用と比べてミスマッチが起こりにくく、スムーズに戦力として活躍してもらえるのが利点です。また、転職データベースに登録されていない層にもアプローチできるため、ユニークな人材をピンポイントで採用したい場合などに大きな効果を発揮します。

さらに、候補者側にとっても、あらかじめ従業員に企業の雰囲気や人間関係などを聞ける点は確かな安心感につながるでしょう。一方で、リファラル採用では紹介者に負担がかかる可能性も考慮しなければなりません。

採用がうまくいかなかった場合には、紹介者がリスクを負うこととなるため、十分なフォロー体制を構築することも重要です。例えば、企業によっては、求職者を紹介した従業員に対するインセンティブを用意しておくなどの仕組みを取り入れるケースもあります。

リファラル採用について、さらに詳しく調べたい方は以下の記事も参考にしてみてください。

(参考:『リファラル採用とは?導入のメリット・デメリット、運用のポイントを紹介』 )

インターナルモビリティ

「インターナルモビリティ」とは、社内における人材の可動性・流動性のことであり、具体的には「内部配置転換」のことを指します。タレントアクイジションの目的を達成するうえでは、必ずしも外部からの採用にこだわるのが最適解とは限りません。

長期的な経営戦略に基づいて人材戦略を考え直し、企業内部で最適な配置転換を行うことで、より合理的に目標へ近づける可能性も十分にあり得ます。最適な人員配置が行われれば、個人のパフォーマンスが向上するとともに、企業の長期的な成長にも大きな価値をもたらします。

外部から採用するのに比べて、「採用費用を削減できる」「ミスマッチの可能性が低い」といったメリットもあるため、タレントアクイジションの一つの選択肢として念頭に置いておくことが大切です。

タレントアクイジションにおける注意点


タレントアクイジションに取り組むうえでは、デメリットについても目を向けておく必要があります。ここでは、2つの注意点に分けて見ていきましょう。

短期的な人材採用に結び付きにくい

タレントアクイジションは、あくまで中長期的に企業を成長させるための人材採用を目的とするため、短期的なスパンでの人材確保には適していません。特に転職潜在層へのアプローチも行う場合は、候補者とより時間をかけてコミュニケーションを図る必要があるため、採用プロセスが長期化しやすいといえます。

そのため、急な欠員対応や目前に迫った新規プロジェクトの人員確保などを目的とする場合は、タレントアクイジションとは別枠で通常の採用計画を立てる必要があります。

事例が少ないので手間がかかる

タレントアクイジションは比較的に新しい概念であるため、活用事例が少なく、自社に合った取り組み方を見つけるのが難しい面もあります。既存のノウハウを活用するというよりも、ある程度は手探りで進めなければならない部分があるため、必要な時間や費用の計算を行いにくいのが難点です。

また、長期的なプランで採用を行うため、短期的な採用と比べて成果の振り返りも行いにくい側面があります。どの段階における結果を基準にするのかによって、成功と見るか失敗と見るかの判断も大きく変わってくるでしょう。

そのため、長期サイクルでPDCAを回していくことを前提にして、スケジュールや費用にはゆとりを持たせておくことが大切です。

タレントアクイジションを成功に導くポイント


タレントアクイジションを成功させるには、焦って具体的な施策に着手するのではなく、じっくりと計画を練ったうえで実行に移すことが大切です。ここでは、成功させるための具体的なポイントを3つに分けて見ていきましょう。

実施する体制を構築する

タレントアクイジションは長いスパンでの取り組みとなるため、継続的に実施していける社内体制を構築する必要があります。既存の採用活動と並行して実行する場合は、より多くの人的リソースを確保する必要があるため、実施の必要性やタイミングを慎重に見極めましょう。

また、通常の採用活動とは戦略の立て方が異なるため、成功のためには高度な専門性を持った人材を確保することがカギとなります。社内に適切なメンバーが見当たらない場合は、外部からタレントアクイジションに関する専門性を有した人材を採用したり、専門のサービスを扱う機関にアドバイスを受けたりするのも一つの方法です。

経営戦略などと絡めて人材戦略を捉える

タレントアクイジションで重要となるのは、単に能力の高い人材を獲得することではなく、経営戦略や事業計画の実現につながる人材を確保することです。そのためには、経営戦略と人材戦略を連動させていく「戦略人事」の考え方が欠かせません。

戦略人事の重要性は、経済産業省が取りまとめた『人材版伊藤レポート 』でも強く訴えられている一方、多くの企業で取り組みを実施できていないのが現状です。戦略人事の具体的な施策としては、例えば経営幹部として「CHRO (Chief Human Resources Officer)」を設置するという方法が挙げられます。

CHROは従来の人事部長と比べて、より経営者に近い立場で意思決定を行うポジションであり、経営戦略と人事戦略の連携を担う役割を果たします。社内や社外から適任者を選出することができれば、タレントアクイジションの旗振り役として成功への原動力となるでしょう。

人材の定着にも力を入れる

採用した人材に長く活躍してもらうためには、採用活動だけに力を入れるのではなく、定着率の向上にも気を配る必要があります。まずはスムーズに合流してもらうためにも、入社段階でのサポートに力を入れ、事前研修やオンボーディングを丁寧に行いましょう。

そのうえで、既存の従業員との関係づくりや入社後のキャリアサポート、適切な人事評価制度の構築などを実行し、活躍してもらいやすい環境を整えることが大切です。人材の定着については、以下の記事で詳しく解説されているのでそちらも参考にしてみてください。

(参考:『リファラル採用とは?導入のメリット・デメリット、運用のポイントを紹介』 )

まとめ

タレントアクイジションは経営戦略と連動させて綿密に採用計画を練り、ときには企業側から主体的にスカウトをしながら、ピンポイントで才能ある人材を獲得するという手法です。通常の人材採用と比べて、より長期的な活躍を見据えて取り組むのが特徴であり、結果によって企業の将来性が大きく左右される可能性もあります。

長期的なプランニングが求められるだけに、タレントアクイジションでは十分な運営体制と丁寧な下準備が必要となります。まずはさまざまな角度から自社の分析を行い、将来にわたってどのような人材が必要なのかをじっくりと探っていきましょう。

(制作協力/株式会社STSデジタル、編集/d’s JOURNAL編集部)

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