【弁護士監修】求人票に最低限必要な項目と記載してはいけない項目

新麻布法律事務所(東京弁護士会所属)

原 崇之(はら たかゆき)弁護士
【監修・寄稿】

プロフィール

求人票に何をどのように記載するかで、応募者の数は大きく変わってきます。そのため「転職希望者に興味を持ってもらえるようなポイントをたくさん記載したい」と考える方も多いのではないでしょうか。とはいうものの、求人票のスペースは限られており、すべてを記載できるわけではありません。また記載する内容にも決まりがあります。

そこで今回は求人票における書いてもよい項目、書いてはいけない項目を、法律的観点からご紹介します。

求人票に記載しなければいけない項目とは?

求人票は自社の一般的な労働条件を求職者に案内するための文書です。そのため、そこに記載した内容が、そのまま雇用時の労働条件となるわけではありません。しかし、転職希望者は求人票に記載された条件を参考に応募するかどうかの判断をしているため、できる限り正確な情報を記載する必要があります。また、ハローワークや人材紹介会社を利用する場合、次の6項目を求人票に記載する必要があると職業安定法5条の3に定められています。

求人票に最低限記載すべき項目

1.労働者の業務内容
2.労働契約の期間
3.就業する場所
4.始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間と休日
5.賃金(賞与などについては別途規定あり)
6.健康保険、厚生年金、労働者災害補償保険及び雇用保険の適用有無など

ハローワークなどを利用せず求人サイトや求人誌などに求人広告を掲載する場合、上記6項目を記載する法律上の必要性はありません。しかし、転職希望者にとって有益な情報を提供するためにも最低限この6項目は掲載しましょう。何らかの理由で掲載できない場合であっても面接の際に呈示するなど、労働条件について正確かつ詳細に伝えておくことで、後々のトラブルを防ぐことができます。また、政府は求人票については次のような指針を示し、その内容について正確性を求めるなどの配慮を求めています。

求人票についての国の指針

1.労働条件等は、虚偽又は誇大な内容としないこと。
2.労働条件等の水準、範囲等を可能な限り限定すること。
3.業務の内容に関しては、職場環境を含め、可能な限り具体的かつ詳細に明示すること。
4.労働時間に関しては、始業・終業の時刻、所定労働時間を超える労働、休憩・休日等について明示すること。
5.賃金に関しては、賃金形態(月給、日給、時給等の区分)、基本給、定額的に支払われる手当、通勤手当、昇給に関する事項等について明示すること。
6.明示する労働条件等の内容が労働契約締結時の労働条件等と異なることとなる可能性がある場合は、その旨を併せて明示するとともに、労働条件等が既に明示した内容と異なることとなった場合には、当該明示を受けた求職者等に速やかに知らせること。
7.労働者の募集を行う者は、労働条件等の明示を行うに当たって労働条件等の事項の一部を別途明示することとするときは、その旨を併せて明示すること。
(職業紹介事業者、労働者の募集を行う者、募集受託者、労働者供給事業者等が均等待遇、労働条件等の明示、求職者等の個人情報の取扱い、職業紹介事業者の責務、募集内容の的確な表示等に関して適切に対処するための指針(平成11年労働省告示第141号) 第3より)

求人票に書いてはいけない項目とは?

求人票に記載してはいけない項目とは?
さきほどは、求人票に記載すべき内容をご紹介しましたが、逆に記載していけない項目はないのでしょうか?本章では求人票に書いてはいけない内容をご紹介します。具体的には下記の3つです。

求人票に記載が禁止されている事項(男女雇用機会均等法、改正雇用対策法)

・性別を限定するような表現
・年齢を限定するような表現(一部、例外あり)
・最低賃金以下の給与

ここは法律に関わる大切なところなので、各々について、より詳しくご紹介します。

性別を限定する表現 ―求人票への記載禁止事項―

男女雇用機会均等法で、募集から採用に至るまで性別にかかわりなく均等な機会を与えなければならないと定められています。(第5条)したがって、求人情報に女性歓迎など、どちらか一方の性別のみを優遇する記載や、「ウェイター」や「看護婦」など名称からいずれかの性別を連想させるような記載も違法であるとされています。

なお、過去の経緯等から男女の労働者割合に格差がある場合には、女性を優遇して採用することも認められています。(ポジティブ・アクション制度 男女雇用機会均等法第8条)

年齢を制限する表現 ―求人票への記載禁止事項―

2007年の雇用対策法改正により年齢制限は、原則禁止となりました。この年齢制限の禁止は、ハローワークや人材紹介会社のみならず、事業主が直接募集する場合も含め、全てのケースで年齢制限は禁止であるとされています。ただし、次の6項目については例外的に年齢を制限することが認められています。

1. 65歳が定年の会社が、64歳以下の者に限定して募集するケース(期間の定めなし)
2. 18歳以下は働いてはならない業種など、労働基準法などで年齢制限が設けられている場合
3. 長期勤続によるキャリア形成のため若年者などを期間の定めなく募集・採用する場合
4. 技能・ノウハウの継承のため、労働者数の少ない特定職種・特定年齢層を対象に、期間の定めなく募集・採用する場合
5. 子役が必要な場合など、芸術・芸能における表現の真実性が要請される場合
6. 60歳以上の高年齢層または特定年齢層の雇用を促進する施策の対象者に限定して、募集採用する場合

年齢制限に関しても、イメージ写真などをターゲット年齢にあわせることで、調整を図るという方法はありえます。年齢を重ねている方は、なかなか若い人の集団の中に飛び込もうとはしないものですので、この方法でも一定以上の効果はあげられるものと思います。

最低賃金以下の給与 -求人票への記載禁止事項-

最低賃金は、その名のとおり使用者が払うべき給与の最低額を指します。この最低賃金以下の給与しか支払っていない場合は、差額を支払う必要があります。支払わない場合には、罰金をうけることになりますので、求人票に賃金の額を記載する際にも注意が必要です。(最低賃金法40条による罰則の場合は、50万円以下の罰金)なお、最低賃金は時間ごとで計算をすることとなり、その雇用形態(アルバイト、パート、嘱託、正社員等)に関わらず、全ての労働者が対象となります。(参考:平成29年10月1日に東京都の最低賃金は958円に値上がりしています。)

法律に反した表記をしてしまった場合のリスクや対応方法

冒頭でご紹介したとおり、求人票は自社の一般的な労働条件を転職希望者に案内するための文書なので誤った記載をしてしまった場合でも、基本的には罰則規定にあたる条文はありません。しかし、求人票に故意に虚偽の記載を行った場合は6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金刑(65条8号)が科せられる可能性があります。
またインターネットやSNSが発達し、誰もが発信者になれる現代において、求人票の内容と実際の労働条件が明らかに違うようなケースは、労働者自身がその事実をインターネット上に意見や口コミとして記載する可能性もあります。仮にこのような状況となった場合、今後の採用活動に深刻な影響を与える可能性もあります。
したがって、企業側が、正しい情報を提供することは、転職希望者はもちろん結果的に自社を守ることにつながります。
万が一、求人票に誤った内容を掲載してしまった場合には、直ちに応募者へその旨を伝え、応募者の意向を確認する必要があるといえるでしょう。

【まとめ】

今回は求人票には何を書くべきなのかという視点から、記載すべき事項と、記載してはいけないことをご紹介させていただきました。

正しい情報を提供しないと採用後のトラブルの原因となります。せっかく人材を確保したとしても、トラブルとなり辞職されてしまったら元も子もありません。まずは最低限の法律を理解したうえで、より効果的な施策を実施することが重要あると言えます。これにより求めていた人材を採用することができるでしょう。一方、罰則規定など落とし穴も潜んでいますので、困ったときは躊躇せずに弁護士へ相談するとよいでしょう。

(監修協力/unite株式会社、編集/d’s JOURNAL編集部)

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