なぜ日テレの中継放送は成功するのか ~理想の連携・箱根駅伝中継チームを解説~【第2回】

青木源太

フリーアナウンサー

1983年5月7日生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。2006年に日本テレビ放送網に入社し、2012年から同局「Oha!4 NEWS LIVE」や「スッキリ!!」のレギュラーを務める。2015年「PON!」、2018年「バゲット」「火曜サプライズ」などのMCに就任。箱根駅伝中継、プロ野球中継などのスポーツ実況も精力的に多数担当。2020年9月末に日本テレビ放送網を退社後、現在はフリーアナウンサーとして活躍中。

箱根駅伝中継チームは最高のチームワークを発揮する
チームビルディングがうまくいかない理由は●●にあった

こんにちは。フリーアナウンサーの青木源太です。

パーソルキャリアが運営するメディア「d’s journal」内にて、連載「フリーアナウンサー青木源太の TALK ON -ここが知りたいHRのハナシ-」を担当しています。

約14年半という局アナ時代に培ったビジネスパーソンとしての経験や知識で、HRにまつわるお話しをさせていただく第2弾は…、最高のチームビルディングとは何か、です。

それではいってみましょう。

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箱根駅伝中継チームは最高のチームワークを発揮する

僕が在籍していた日本テレビ放送網株式会社(本社:東京都港区、代表取締役会長執行役員:大久保好男/以下、日本テレビ)は、最高のチームワークを発揮する組織でもありました。

※詳細は「第1回」にて公開中

チームワーク、つまり連携を一番果たした現場として連想するのは…、何と言っても「箱根駅伝」ですね。

一般に箱根駅伝と呼ばれるこの競技会は、正式名称を「東京箱根間往復大学駅伝競走」といい、1920年から毎年1月2日と翌3日の2日間にかけて行われる、日本人にとってはお正月特番として馴染みの深いスポーツ大会です。ちなみに関東地方の大学駅伝であるため、厳密には地方大会というカテゴリーに分けられています。

現在の箱根駅伝は「新春スポーツスペシャル箱根駅伝」という番組名で、日本テレビによる生中継が行われています。ちなみに第65回(1989年)からは全区間での完全生中継が行われており、毎年高視聴率を上げる日本テレビの看板番組の一つとなっています。

日本テレビとしても「ALL日テレ」で挑む大型番組ですから、その中継チームにはアナウンサーだけでも20名以上が携わります

毎年中継チームを決める際は、社員や番組スタッフみんなの力が入りますし、それに応える良いチームができ上がり、そして成果を上げています。2022年(第98回)も素晴らしい中継でした。長年多くの視聴者に支持されている番組で、そのチーム編成や仕事ぶりに関しても内外からの評価が高いですね。

放送体制は大規模です。まず中央の放送センターに加え、数十の中継ポイントの設置。用いられる機材も、映像カメラをはじめ放送に使われるさまざまなツールが用意され、さらに移動中継車やオートバイ、ヘリコプターといった中継車両も大変な数が導入されます。

そして先述の実況アナウンサーとサブアナウンサーは20名以上で編成され、携わるスタッフの総勢は約1000名という規模に達します。さらに、日本テレビ単体だけではすべての放送や体制を維持できないため、関連会社や系列各局からも機材や人材の協力を受けている状況です。スポーツ中継としては、国際大会に次ぐ最大規模の体制ですね。

そうして編成された中継チームは、区間ごとに担当する実況アナウンサーを添えて、たすきの受け渡しをするようスムーズに実況中継をつないでいくのです。

前置きが長くなってしまいましたが、僕が良い現場、最高のチームワークを発揮した事例として紹介するのは、この箱根駅伝中継チームです。

● 箱根駅伝中継が毎年成功する理由

放送は新年1月2日と3日ですが、前年の夏季前から局内では企画会議を開き、詳細を決めていきます。まずは放送センターに常駐して実況するメインのアナウンサーが決定されます。

僕が初めて中継チームに編成された時は村山喜彦さん(元日本テレビアナウンサー、現日テレイベンツ取締役および日テレ学院学院長)で、現在では平川健太郎さん(日本テレビアナウンサー)が担当しています。

そうして編成された中継チームの中では、番組のビジョンやコンセプト(方向性)を明確にしていきます。「今年の放送・中継はこんな形でやっていこう」といった具合です。

たとえば、オリンピックイヤーや大災害があったその翌年の開催なら、その年々のテーマやトレンドなどを取り入れて方向性を定めていきます。ここで明確に番組の内容が示されていくわけです。

特徴的なのは入社年次やポジションにかかわらず、関わるスタッフすべてが企画会議に参加して、誰もが闊達(かったつ)に意見を言える場の醸成がされていることです。いわゆる「心理的安全性の確保」です。たとえ入社1年目のスタッフであっても意見を聞いてくれますし、良いアイデアなら採用もされていきます。

次に日本テレビの中継チームは、固められたビジョンやコンセプトを基に、全選手に実施する取材アンケートを作成して送りします。

箱根駅伝には関東学連加盟校のうち、前年大会でシード権を獲得した大学10校と予選を突破した大学10校の計20校、これに関東学生連合チームを加えた21チームが出場して、選手は全員で336名(エントリー16名×21チーム)。取材アンケートはエントリー前に行うため、約400名近い選手に実施しています。

実施された取材アンケートは、携わるアナウンサー全員で共有して、実際の実況中継時に活用されます。すでに中継チーム間で番組のビジョンやコンセプトが共有されていますから、どの選手の取材アンケートを見ても同じクオリティや温度感で実況ができるというわけです。

箱根駅伝は1区間が20kmを超える過酷な大会です。その中ではアクシデントなどでいわゆる「ブレーキ」となってしまう選手などもいます。注目のトップ選手だけにとどまらず、こうした選手についても、詳細に把握して実況していますから、どの選手にもスポットライトが当たる可能性があるのです。

明確なビジョンを固めた上で、完璧な連携が行われるとどうなるのか――。答えは簡単です。いかなる選手に注目が集まっても、即座にクオリティの高い実況が実現できる。移動中継車や中継バイクも連携していますので、たとえばどんどん選手を抜いて順位を上げていく選手がいた場合でも、ちゃんと実況や中継がかぶらないようになっているのです。

その際、実況ネタの譲り合いをする場合もありますので、たとえば「この選手が箱根駅伝へ出場に至るまでの物語は、あえて1号車の中継用に残しておこう」といった判断が現場レベルで行われます。

他にも、中継車内ではこのような現場判断が下されています。たとえば、ある区間で区間賞を取れるかどうかの選手が現れたとき、いわゆる「種まき」が始まります。中継のアナウンサーも言いたいことがあるが、自分の言いたいことだけを発信しても放送に立体感が生まれない――。

そのようなとき、話題の「起こし」だけ自分が発信して、後続のアナウンサーが詳細を伝えていこうといったスタイルに変更するのです。後続のアナウンサーもその空気感を察して、スムーズに中継をつないでいきます。日本テレビのアナウンサーたちが得意とするチームプレーです。

これは番組のビジョンやコンセプトを把握してしっかり言葉で説明できる、それが共有されていることが前提ではありますが、当然、すべてがうまく中継できるとは限らず、長い中継の歴史の中ではそうしたバトンをうまくつなげなかった失敗事例もあります。ですが、たとえ失敗したのが後輩や新人だった場合でもその人を責めない。中継チーム全員で失敗も成功も分かちあうのです。

この風土は、僕が日本テレビに入社した時には醸成されていました。箱根駅伝の放送は、6時間/1日+6時間/1日=12時間/2日間という長い時間の中で行われますから、それぞれがパフォーマンスを最大限発揮して番組を成立させるためには、最高の連携と情報共有が不可欠なのです。

チームビルディングがうまくいかない理由は●●にあった

さて、最高のチームワークを発揮するチームビルディングについてこれまでお伝えしてきましたが、残念ながらチーム編成がうまくいかなかった事例もたくさんあります。僕が在籍していたテレビ局の環境を例に出してお伝えしましょう。

ただし、この事例はあくまでたとえですので、実際に起こった出来事や特定の人物のことを指しているわけではありません。あくまで一般例としてお聞きください。あしからず――。

● チームが一枚岩でないと起こる不幸とは

一般にテレビ局が制作する番組は、制作全体を統括するプロデューサー番組の内容を定めていく総責任者である総合演出というツートップ体制で進められます。

プロデューサーは誰を使ってどのような番組を作るかなどの方向性を決めたり、ディレクター含む現場スタッフのアサインやコンプライアンス、労務管理を行う立場にいます。一方、総合演出はいかにその番組を面白くするか、どのような構成をするかを考えるいわば表舞台の監督です。

言うなれば、プロデューサーは1を2や3にするなどといった、数値を効果最大化する人。そして総合演出は0から1というように、何もないところからクリエイティブを生み出していく人、そのような認識でしょうか。とてもざっくりと説明しましたがそんなところです。

両ポジションの立場は一般的に同等ですので、良い番組作りを目指すために時に意見がぶつかることもあるわけです

たとえば、世間的に面白いと思われる内容だからやりたい、だけれども営業NGであるとか。あるいは昨今のコンプライアンスに当てはめて考え、企画自体を見送ろうだとか。他にも、このような出演者を起用したいがコスト面が折り合わないから別の方にオファーしようなど――。

意見のぶつかり合い自体は歓迎されるものです。ところが不幸は、このツートップの息が合わなければ番組進行が危うくなるということです。

総合演出の人がギャランティーに口出しをしていたり、事細かにプロデューサーが現場に介入してきたりするなど、ケースはさまざまですが、要はプロデューサーと総合演出が一枚岩でなければ番組は成功する確率が低いのです。

● チームビルディングを考える

こうした事例は、一般の企業や組織でもよくあることではありませんか?

推進力の高いプロジェクトであっても、マネジメント層や経営層の意見が食い違っているため、現場が混乱する、そうして指揮系統を見失ったプロジェクトは静かに終わりを迎えていくといったことです。

「チームのまとまりがなく仕事が進まない」
「各メンバーの能力が発揮しきれておらず結果が出ない」
「さまざまな思惑が重なりプロジェクトがカタチにならない」

――など、こうした不幸な課題は、組織のチームビルディングがうまくいっていないために起こるのです。

個人の力を最大限に活用すると、チームの力は数倍にも膨れ上がります。チームには、連携力や団結力、意識の共有などが求められますが、それは「目標達成を目指していく」という大前提が存在しているからです。目標無きチームに成果は生まれません。

チームビルディングとは、ただ人を集めることではありません。さまざまなスキルや経験を持つメンバーが目的達成に向け、それぞれが主体的に能力を発揮できるような組織を組むことです。

先にお伝えした日本テレビの箱根駅伝中継チームには、確かな団結と共有するビジョンやコンセプトがあります。こうしたことを踏まえてチームビルディングを考えていくと、おのずと理想のチーム像が浮かんでくるのではないでしょうか。


■ 次回 ■

第3回「何かを育てていくとは――。理想の上司、成長する後輩、そして自分のキャリアプラン」

次回もお楽しみに!

企画・編集/鈴政武尊・d’s JOURNAL編集部、撮影/西村法正、制作協力/株式会社レプロエンタテインメント

【青木源太の連載一覧】

■ 連載「フリーアナウンサー青木源太の TALK ON -ここが知りたいHRのハナシ-
・第1回「現場はこんな人と働きたい ~日本テレビという組織の強さ~
・第2回「なぜ日テレの中継放送は成功するのか ~理想の連携・箱根駅伝中継チームを解説~
・第3回「面接や育成で人材を見極める観点 ~なぜ優秀な人材が集まってくるのか~