「マネジメント慣行」日本は最下位の次。カゴメ×積水ハウスが語る、日本の人事課題の本質とは

カゴメ株式会社

常務執行役員CHO(最高人事責任者)
有沢 正人 氏

プロフィール
積水ハウス株式会社

執行役員 人材開発担当
藤間 美樹 氏

プロフィール

終身雇用・年功序列からジョブ型への移行など、日本企業でも欧米型の人事制度を導入する動きが積極的です。そこでグローバルでの人事制度や施策に詳しいカゴメの有沢正人氏、積水ハウスの藤間美樹氏のお二人を招聘。日本企業が抱える人事課題やグローバルとの差異、ならびにお二人が取り組んできた施策、その意図や理由、そして成果まで。セッション、Q&A、ディスカッションを合わせて2時間、たっぷりとお聞きしました。

「人的資本経営」を目指すカゴメの人事制度と人材育成の実例/カゴメ 有沢正人氏

“経営戦略と人材戦略を連動する”ためにジョブ型人事制度を導入

カゴメでは8年ほど前から「ジョブ型人事制度」を導入しています。大切なのは、ジョブ型人事制度は導入することが目的であってはならないということです。言い方を変えると、ジョブ型人事制度はあくまでツールであり、明確な目的を持つことが重要です。

カゴメでは「経営戦略と人材戦略を連動する」との最重要課題がありました。また、評価と報酬を根本的に考え直すこと、つまり年功序列の是正人的資産経営から人的資本経営「Human Resources」から「Human Capital」への転換も目的でした。

導入フローは、計画から10年後を達成目標に、大きく2つのステージへ分類。第1ステージでは、人的資本を標榜するための基盤を作るべく、以下の3つの施策を行いました。

■ ジョブグレードや評価基準の統一
■ コア人材のサクセッションプランの策定
■ グローバル教育体制の確立

第2ステージでは、人材を経営に活かすための新たな「人材戦略」の展開として、次の施策を行いました。

■ 「どのような質の人材が、いつまでに、どの地域にどれだけ必要なのか」についての見極め
■ 分野ごとの戦略分析をより詳細に行うため、グローバル人材の「見える化」を実現
■「スキルマップ」をグローバルベースに作成し、必要なときに必要な人材を供給できる仕組みの確立

キャリア自律のためのタレントマネジメントシステムについて

タレントマネジメントシステムも導入していますが、先に述べたように同じくツールとしてではなく、人事・経営戦略として使っています。目的は主に以下の通りです。

【会社視点】
・人材情報に基づいた配置の促進
・「適所適材」の配置の実現
・抜てき人事の推進

【個人視点】
・自己申告(異動希望)内容の反映強化
・自律的なキャリア形成支援
・成長目標の可視化による自己研さん促進

適材適所ではなく、適所適材であることがポイントです。また、個人の希望が重要との考えから年に2回、自己申告制度という制度を導入し、本人が望む部署や担当業務をヒアリングする場を設けて詳細を確認。その上で、あくまで自律的な自己研さんを促進します。会社側から画一的に研修を実施するようなことは基本的にありません。

給与システムの刷新、情報の一元管理ならびに見える化も目的ではありましたが、重要なのはあくまで人材配置です。そこで「サクセッションプランの実働と運用」「人材育成のサポート」「人材の有効活用」を実現していきます。

人材配置で重要なポイントは、繰り返しになりますが個人の希望です。そのため公募での異動もありますが、事あるごとに個人の意見を聞くようにしています。

「一人一人の希望を受け入れていたら配置が難しい」という意見を聞くことがありますが、個人と経営のニーズをマッチングするシステムを作れば問題ない、というのがこれまでの経験からの見解です。

人物評価については、担当者で異なる定性的な指標はできるだけ排除。KPIシートをベースにあくまで定量評価を主体として評価していきます。そしてこれらの情報を基にCDP(キャリアデベロップメントプログラム)を作成し、適した部署や業務に配置していきます。

経営人材育成の方向性

「弱みを克服するのではなく強みを伸ばす」――

カゴメにおける、経営人材育成の基本原則です。言い方を変えると、出る杭はどんどん伸ばしてもらう。そうして伸びた杭を別の配置先に持っていき、さらに伸ばしていきます。

自らの意思が重要だと考えていますから、それに適した人材であっても本人に意思がない場合は、アサインしません。経営力を自ら切り開いてもらうことが重要との考えでもあります。

選抜や育成においては、例えば現社長が就任してからすぐに次の社長の候補者を選抜し育成していきます。経営者の育成には相当の時間をかけたいということと、有事が生じてから対応していては遅いとの考えからです。

選抜後は経験してもらいたいポジションをどのように進めていくか、サクセッションプランをスケジューリングしていきます。

選抜・育成に関しては、私も含めた人事の意思決定最高機関である「人材開発委員会」が、先ほど説明したフローで進めていきます。

ただしガバナンスを利かせるために、社外取締役も含めた「報酬・指名諮問委員会」を設け、私たちが作成したプランはもちろん、選抜した人材が適しているのかどうかを直接面談し、確認する場も設けています。候補者においては特定部署に偏らないことも意識しています。

育成においても私たちだけで進めるのではなく、報酬・指名諮問委員会のメンバーにも同席してもらい、実際に経営者になれるのかどうかを判断してもらっています。

具体的な判断指標は、「事業推進」「成果創出」「意思決定」「新規事業構想」「カゴメにないスキル」「チームワーク」「経営基礎知識」。これらのスキルを数値化し、適性を見極めていきます。

中でも、アントレプレナー的な感覚を持っているかどうか、あるいはカゴメにはない、イノベーティブな発想や事業を創出できるかどうかに着目しています。

育成は3年ほどかけて行い、最後に経営を担う覚悟があるかどうかを改めて本人に確認します。また部長、課長クラスの育成も期間は2年ほどになりますが、同じようなプログラムならびにフローで進めており、これら3つが同時に走っていて、適宜、人材の入れ替えも行われています。

人材要件定義書を作成して全社員に開示

当社は、ジョブ型の人事制度を導入していますが、ジョブディスクリプションは特に作成していません。カゴメに限らず、私がこれまで歩んできた他の企業でも同様です。なぜならジョブは毎年のように常に変わるからで、そのたびにジョブディスクリプションを変えることはナンセンスだと考えるからです。

また先ほど説明したように、幅広い視点で経営や事業を捉えることが経営人材には必要だと考えているからです。つまり、ジョブを固定したジョブディスクリプションは、あると逆に邪魔だという考えです。

その代わりというわけではありませんが、各ポジションに必要なスキルや能力を記載した「人材要件定義書」は作成していて、ミッション・アカウンタビリティなどを記載しています。ただし繰り返しになりますが、職務内容は一切書かれていません。また人材要件定義書は、全社員に開示しています。

HRBPについて

カゴメでは2017年から、人材と組織両方がより成長するために、HRBP(HR Business Partner)を導入しています。具体的な活動は主に以下の3つとなります。

■ 個人の自律的キャリア開発支援
■ 現場人事課題の明確化
■ 経営・本部との強固なブリッジ

特に「個人の自律的キャリア開発支援」については、現場に足しげく通い、新入社員から支店長・工場長まで全社員と面談、先のタレントマネジメントシステムを見ながら、改めてキャリアパスについて確認します。

ここで重要なのは、HRBPの方から「○○に向いている、行った方がいい」といった意見は言わないことです。あくまで本人の意向ならびに、自主性を引き出すことに重きを置いています。同時に、両親が高齢で介護が必要といった、プライベートな事情も共有することで、社員が困ってしまうような異動を控えます。

HRBPの一番の役割は経営・本部とのブリッジです。そのため本部の経営戦略を現場に伝えるだけでなく、逆に現場の声を拾い上げ、本部や経営に持ち帰ります。

適している人材は、個人の成長を心から支援できるなど、高い人間性ならびにコミュニケーション能力を備えた社員であり、一言で説明すれば各部署のエースです。実際、カゴメでも各部門のバリバリのエース人材を抜てきしました。

カゴメではグローバルレベルで、今回紹介したプログラムを2013年から導入しています。プログラムが確実に稼働するようになれば異動がグローバルレベルで活発化し、かつ成長も促進していく。人材育成は加速していくと考えています。

日本の現状と人事課題/藤間 美樹 氏

「マネジメント慣行」においては最下位の次の62位

「ジャパン・アズ・ナンバーワン」という書籍は、日本を手本にしようとの目的で、1979年にアメリカで出版された一冊です。ところが40年後の現在では、IMD(国際経営開発研究所:International Institute for Management Development)の世界競争力ランキング2020によれば、日本は総合で63カ国中34位。「マネジメント慣行」においては最下位の次の62位という、不名誉な順位となっています。

熱意あふれる社員の割合を調査した「グローバル・エンゲージメント・サーベイ 2017年」では6%で、139カ国中132位。世界経済フォーラムによるジェンダー・ギャップ指数は121位(2020年)と、いずれも下位に低迷しています。

しかし私は、40年前と今のビジネスパーソンの能力において、さほど差はないと考えています。では何が原因で、ここまで順位を落としたのか。それは組織開発の失敗だと考えています。

そして以前のようにグローバルで認められる国として復活するためには、経営戦略と人事戦略の連動が必要不可欠であり、このことは「人材版伊藤レポート」でも示されています。

人事戦略で経営、事業に貢献するとの考えは、私が人事業務に携わってきた中で、長きにわたり最も大事にしているところでもあり、人と組織の活性化を追求してきました。

ただ根幹は変わりませんが、アプローチの変化は見られます。以前は勝つ組織を作ることを掲げていましたが、最近ではより伝わりやすい「戦略を実行できる組織づくり」を推し進めているからです。端的に説明すれば「組織風土」です。

いくら素晴らしい戦略と組織であっても相性があります。リーダーとメンバーの相性。植物に置き換えれば種と土壌とも言えます。そのため場合によっては戦略を変えたり、逆に組織風土を変えることも必要です。

なお業績への影響は、組織風土が3~4割、組織風土ではリーダーの存在が7割影響していると言われています。

タレントマネジメントシステム全体をブラッシュアップすることも必要です。年次評価は過去1年の評価結果であり、次の部署でパフォーマンスを約束するとは限らないからです。

にもかかわらず、プロモーションは過去の評価結果で行われている場合が大半。スライドのように評価と配置の間にタレントレビューを挟むなど、次のポジションの役割が担える可能性があるかを確認することが必要です。

HRBPの存在も重要です。特に私は、人事の専門家集団である「CoE(Center of Expertise)」との連携が大事であり、自動車レースにおけるF1チームのような動きと重なると考えています。

HRBPはレーサーであり、各国でレースをするように各事業部を飛び回っている。一方CoEはエンジニアであり、まずはレーシングカー(人事施策や制度)を作成。さらには各国により異なる状況に合わせるために、日々、チューニングしていく。

そしてこれらの作業をフィードバックしながら、繰り返していくことで、より良い成果を出していく。人事部長は、全体をまとめるチームの監督とも言えるでしょう。

日本はやっぱりガラパゴス!?グローバルから学ぶ

私はこれまでのキャリアで、上司が外国人であった期間が14年あります。さらにはグローバルなメンバーとやりとりするなど、マネジメントも含めて日本のビジネスパーソンとの違いを肌身を通じて感じてきており、その差異が今のような状況を作っているとも感じています。

まずは時間に対する感覚です。日本人は正確、海外の人はルーズというイメージがありますが、実際は違っています。日本人は終わりの時間にルーズです。日本人は定時には帰りませんし、会議においても延びることが往々にしてあるからです。

一方、グローバルの場合はスタートこそ遅れる場合はありますが、決められた時間内に確実に成果を出すことにおいては、日本よりはるかに徹底しています。そしてそのようなフローを、皆が当たり前の認識として持っています。

会議での姿勢も大きく異なります。質問をしないと興味がない、コミュニケーションしないと捉えられるからです。議論においても参加者同士が徹底的に行うため、日本人からするとケンカをしているのではないか、と思えるほどです。

ですがそのような熱の入った議論こそ、グローバルではスタンダードであり、評価されます。

スピード感も大きく違います。グローバルではスピードが重要な指標ですから、何を捨てればよいかとの発想になりがちですが、日本の場合は質を求める傾向にあり、捨てることが苦手です。

捨てることこそイノベーションの第一歩ですから、必然的に日本ではイノベーションが生まれづらくなっていると感じています。

マネジメントの意識も大きく異なります。今度は米プロ野球リーグのMLB(Minor League Baseball、MiLB)が参考になります。日本のプロ野球と異なり、MLBではバッターにより特に内野選手の守備位置が大きく変わります。そしてこの位置は、監督が明確に出しています。

一方、日本の場合は選手の判断や頑張りに委ねているところが大きい。ビジネスでも同じことが言えると思います。

経営陣と社員が話し合うタウンホールミーティングの様子も異なります。日本の場合は社長の講演がメインであり、ある意味で質問は忖度した内容が目立ちますが、グローバルは真逆。社長からのメッセージは冒頭少しの時間だけ、後は従業員からの質問攻めに遭います。

そしてこれも日本と大きく異なる点ですが、どのような質問に対しても社長は懸命に答えようとします。

能力においてはもちろん、倫理観や誠実さにおいては日本人の方が勝っているとも思っています。けれどもスライドのような違いがあり、総体として人と組織を動かそうとする「意欲」が欠けていると感じています。

世界一幸せな会社にする

「『わが家』を世界一幸せな場所にする」――

積水ハウスのグローバルビジョンです。人事戦略においても同ビジョンをベースに「『積水ハウス』を世界一幸せな会社にする」と掲げ、各種チャレンジを続けています。

具体的には、「働き方改革」「D&I」「キャリア自立」の3本柱で進めていますが、根幹になるのは先ほどグローバルの事例で説明したような、上司とメンバーの充実したコミュニケーションだと考えています。

そのために1on1を行い、メンバーの話を聞く機会を創出しています。またその場では有沢さんがご説明されたように、その場では自発と内省を促すとともに、メンバーがリラックスして話せるように心理的安全性も意識しています。

どちらが部下・上司かわからないようなフラットな関係性を、1人でも多くの部下と構築することが、結果として組織全体の心理的安全性を醸成していくと考えています。

評価制度においても業績評価だけでは行動変容がなく、組織風土が変わりづらいとの考えから、コンピテンシー評価も導入しています。

Q&Aおよびディスカッション

――異動希望を個人から集めるタイミングと頻度について。

有沢氏:家族の事情も考慮し、一般的な異動の時期である4月と10月の年2回行っています。ですので正確には約3カ月前の1月と6月ごろに希望を集めています。HRBPが現場に行き、なぜその部署に行きたいのか、何をしたいのか、次の部署でやりたいことなどを聞きます。意思決定をより自発的に深めてもらう狙いもあります。

希望が経営のニーズとマッチングしないケースは、人材開発委員会で議論します。経営のニーズを通す場合もありますが、おおよそ7対3の割合で個人の意見がとおっています。

藤間氏:年1回行っています。ただ、今年の8月から先ほど紹介したキャリア面談を3カ月ごとに進めていく予定ですので、これからはその場でも個人の意見をヒアリングして、得た情報をタレントマネジメントシステムに反映していこうと考えています。

――セッションで紹介した「人材要件定義書」は誰が作成しているのか。

有沢氏:基本的には現場の部長クラスが本部長と相談しながら作成していて、でき上がった書面は他の部長ならびに、人材開発委員会、報酬指名諮問委員会でもチェックして承認するとの流れです。ミッションはもちろん、どのような能力を備えた人物を求めているかは現場が知っていますよね。そのため経営、人事主導と言っていますが、意見は現場が第一だと考えています。

藤間氏:当社はジョブディスクリプションを作成しています(笑)。ただ、有沢さんのおっしゃっている要件定義書とまったく同じ内容です。実際、タスクを書くのはナンセンスだと考えていて、ミッションと期待・役割を書き、横に必要な要件を書いています。

作り方ですが、コンサルタントの力も借りながら、人事で基本アイデアを作り、部門に見てもらう方向で進めていました。しかしいざ始めてみると部門の参加が積極的で、作る過程そのものが組織風土改革、行動変容につながっていると手応えを感じています。

有沢氏:同意です。現場を巻き込み意思決定を行うことが重要であり、絶対に必要だと私も思います。

――個人の資産価値とは具体的に何を指すか。

有沢氏:転職したときに他所でどれだけ働けるか、そして貢献できるか。マーケットを見たときにこれまでいた業界に限らず、他業界でも通用するのかどうか。本来であれば金額的に表すのがベストだと考えています。

――HRBPは自部署の人材を同部署に囲い込むのではないか。

有沢氏:むしろ、逆です。というのも当社では他部門への異動が重要であり、多くの業務を経験することが望ましいキャリアパスだと、アナウンスしています。そのため何人を他部門に出せるのかが、逆にHRBPの評価ともなっています。

実際、人事部にも工場業務、研究部門で土壌開発などをしていた人材などが働いています。そしてこのような異動による人材の多様化こそ、本当の意味でダイバーシティーであり、イノベーションが生まれると考えています。つまり、他部門でも活躍できる人材を輩出するような雰囲気が醸成されているとも言えます。

――現場が決めた評価制度や人材配置から人事部主導にするにはどのような工夫が必要か。

藤間氏:人事制度を変えるのは事業に貢献することが本質です。そのため現在どのような課題があり、それを解決するために人事部主導にする必要があることを、現場や経営層と話し合うことがまずは大切だと思います。

基本的な考えとして、人事が「こうしよう」でとするのではなく、社長や経営層がお金を出してでも欲しいと思う人事制度を考案し、提案することがポイントです。

有沢氏:制度と仕組みをつくることが人事の仕事だと思っている人がいますが、社員が気持ちよく働くための風土を作ることが本質です。制度や仕組みはあくまでハードの部分だけであり、藤間さんが説明した心理的安全性を担保することが重要です。

――お二人は信頼やリーダーシップをどのように獲得・発揮してきたか。

藤間氏:意見が食い違ったときに謙虚になること。けんかにならず、建設的な議論を重ねていくことが重要だと思います。武田薬品工業に転職して数日後のことでした。「あなたのやり方は間違っている」と指摘されました。その際も「では、何が正しいのですか?」と応えると同時に、できるだけ武田薬品工業にフィットする人事施策で貢献するよう努めました。

この考えは転職に限りません。部下が自分とは異なる考えを提言したときにも当てはまります。否定せず、なぜそのような考えなのかを傾聴するアプローチが、心理的安全性や信頼の醸成につながると考えます。

明石家さんまさんが参考になります。さんまさんは「どうしたん?」「そいで?」「うん?」「どないすんの?」と4つの言葉でコミュニケーションを取っているからです。最後の言葉は、自発性を促す効果もあります。

有沢氏:会社のDNA、伝統、お客さまへの対応などは絶対に壊してはいけないと考えています。一方で、現場の不満やおかしいと思う箇所を見つけるために、まず現場に行き、メンバーに直接聞いて回ります。そうしてファクトを集め、解決策と併せてトップに提示します。

一方で、トップダウンが全てではないと考えています。4年前に副業制度を導入したケースでは、組合に話しをまとめた上でトップに持っていきました。すると副業制度は組合の同意を先に取り付けたこととなり、お互いの信頼関係が生まれる。その橋渡し、ブリッジをした人事も信頼される、というわけです。

ただし、現場の課題を聞くためには、事業はもちろん各部門の業務内容をしっかりと理解する必要がありますから、勉強は必須です。実際、私もカゴメに入社してから3年間ほどは、営業や工場の現場を徹底的に勉強しました。また課題や案件があれば、まずトップ・現場どちらに話を持っていくのか、バランス感覚も重要です。

――とはいっても、人事施策主導で進めがちな人事も未だにいる。どうすればよいのか。

藤間氏:あまりよろしくはない対応ですが、人事がどう思われているのかを陰ながら聞き、現実を知るのがいいと思います。

有沢氏:カゴメではまさに、ヒアリング自体は私が入社する前から行われていたと聞いています。ただ聞いていただけで、基本的にはあまり施策に反映していませんでした。そのため当時の人事異動に対する満足度は28%。ところが本日ご紹介したような各種施策を、人事が主導するのではなく現場の意見を聞き、経営にブリッジする役割に徹した結果、去年は人事異動に対する満足度は88%にまで高まりました。

――どこから手を付けたらいいのか。

藤間氏:セッションでご紹介したような、タレントマネジメントの体系図のようなものを作成し、全体を整理することが重要だと思います。グランドビジョン、とも言えるでしょう。自分だけでなく経営層も含め共通の意識を持つために、イラストや図でわかりやすくまとめるといいと思います。

その体系図を基に、各種施策がどういった結果を生み出すのか。同時に、一つの施策を実行しただけでは結果が出ないことも、理解してもらえると思うからです。

有沢氏:繰り返しになりますが、現場に行き、課題を明確にすることだと思います。補足するとすれば、現場に行く前に仮説を立てていくといいでしょう。現場では、その仮説の根拠を見つけるようにします。

特に、現場をよく知っている、支店長や工場長、工場のキーマンである製造課長とのコミュニケーションが重要です。コミュニケーションはフォーマルなものだけでなく、いわゆる飲みニケーションも大事だと私は思っていますし、実際に現場の人とはよく飲みに行きます。そうして課題が明確化したら、現在の施策や制度が合っているかどうかを確認。合っていなければ変える。とてもシンプルです。

まとめ

先行きが不透明、かつ将来の予測が困難なVUCAの時代。人事領域では、終身雇用の限界が叫ばれ、これまでの日本的人事制度から欧米的人事制度への転換を図る事例も聞こえてきています。一方で、変化が激しい中、自社がどのように適応していくべきか、その方向性を指示してくれたのが、有沢氏と藤間氏であったのではないでしょうか。タレントマネジメントはあくまで人が主体。ジョブディスクリプションにおける考え方もそれぞれであることが分かります。自社の風土に合った人事改革。その進め方の参考になれば幸いです。

取材・文/杉山忠義、編集/鈴政武尊・d’s journal編集部

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