売上額は5,500億円超――。“知る人ぞ知る”ソフトバンクグループ企業のSB C&Sが語る「採用」「定着」「DX人材」について

SB C&S株式会社

村尾栄人

プロフィール

ソフトバンクグループ企業のSB C&S株式会社(本社:東京都港区、代表取締役社長 兼 CEO:溝口 泰雄)は、ITの卸売業界をけん引する企業だ。2020年度の売上額は5,559億円。右肩上がりが続いている。同社はITにまつわるありとあらゆる製品・サービスを扱い、圧倒的な規模感を誇るが、エンドユーザー(一般消費者)に同社の社名を知る人は少ない。

今回は、世にあまり知られていないSB C&Sの事業内容や、採用面の実情、人材育成システムについて掘り下げていく。

お話を伺ったのは、コーポレート管理本部の村尾栄人氏だ。人材業界での経験豊かな村尾氏は、SB C&Sの前身であるソフトバンク コマース&サービスに入社し、現在は人事部で新卒・中途社員の採用育成、人材開発に携わっている。

ソフトバンクグループの原点である流通事業を継ぐSB C&S

●まずは、SB C&S株式会社がどんな企業なのかを教えてください。

村尾栄人氏(以下、村尾氏):SB C&Sは、ソフトバンクグループ企業の中でIT流通事業を担う企業です。

今ではソフトバンクといえば、携帯電話や回線のイメージが強いと思いますが、創業当時はパソコン用パッケージソフトウエアの流通の事業からスタートしています。我々は、グループの原点でもある流通事業を継いでいます。

2014年にソフトバンクから独立して「ソフトバンク コマース&サービス株式会社」を設立し、2019年に現在の社名「SB C&S株式会社」に変更しました。

●どのような事業から成り立っているのでしょうか。

村尾氏:主に国内外のIT製品を仕入れて販売パートナーを通して法人に販売する事業と、量販店などを通して一般コンシューマ向けの製品を販売する事業があり、取り扱っている商材の数は40万点以上にのぼります。

また、それ以外にもモバイルアクセサリーやIoT機器の製造・販売、AIやFintechの自社サービスの提供、購買支援事業といったさまざまな事業があります。まさに時代に沿うものを多岐にわたり取り扱う、「ITの総合商社」といった感じでしょうか。

●IT卸売業界の中で大きなシェアを占めておられます。その要因について、お聞かせください。

村尾氏:要因は二つあると思っています。

一つめは海外の市場状況をいち早くキャッチするスピード感です。MDや技術部隊が情報のアンテナを張って海外の動向をつぶさにチェックしています。

海外で流行の気配を感知したら、すぐさま取り扱いに向けて動き、国内導入を目指します。4000社のメーカーとのつながりがありますので、そのネットワークを活かして情報収集をしています。

例えば、コロナ禍で活況を呈したオンライン会議システムの「Zoom」に関しては、コロナ禍の前から取り扱いに向けて動き出し、当社が国内唯一の認定ディストリビューターとなり、販売パートナーを通じてエンドユーザーに拡販しています。

二つめはさまざまなソフトバンクグループ企業との“シナジー”です。SB C&Sの流通力を活かし、世界の最新テクノロジーを国内に展開する役割を担っています。

●卓抜した商品力と流通力があるにもかかわらず、世の中ではあまり社名の認知度は高くありません。どんな理由があると思いますか?

村尾氏:主に法人向けのB to Bのビジネスをしているからだと考えられます。一般消費者向けにも自社名を冠した商品を展開していないので、エンドユーザーが当社社名を目にする機会は少ないでしょう。

SB C&Sの「採用」について

●新卒/中途の採用人数と職種別の構成率について教えてください。

村尾氏:その年によって採用数に変化はあるものの、新卒/中途の採用を合わせて、コンスタントに年間約100名ほどですね。メイン事業である法人向けICT部門の場合は、営業職が6~7割。そのほかには購買、販売推進、技術といった職種があります。

●別の職種を希望した社員が営業職に就くケースもありますか?

村尾氏:中途採用の場合は、ジョブ型の採用を行っているため、採用された職種以外でアサイン(初期配属)されるケースはありません。

新卒に限っては、企画部門を希望する社員にも、ほとんどが最初に営業を経験してもらっています。顧客がどういうものを求めているのか、どんな課題を抱えているのかということを知ってもらうためです。

より良い企画を出すためには、顧客のニーズと向き合う経験が必要だと考えているからです。

●膨大な商材を扱うSB C&Sでの営業は、マーケティングや技術の知識も必要となりそうですね。昨今では物流予測を担うスペシャリストを採用する企業も見られますが、御社ではいかがでしょうか。

村尾氏:将来的には物流のスペシャリストを採用したいのですが、まだ募集・採用には至っていません。データ重視の営業にも必要性を感じています

SB C&Sの「人材育成」とは?

●続いて人材育成について伺います。人材育成のプログラムについてお聞かせください。

村尾氏:人事部門と配属部門で、育成の領域を分けています

人事部では、1年間を通じて「コア能力」に合わせた研修コンテンツを、階層別にオンラインで全社員に提供しています。4年間の計画をたてて、現在2年目に入りました。これまでのところ、社員の満足度は極めて高いと自負しています。

一方、部門側の研修については、現場で必要な知識の習得をサポートするために、ITの教養を深めるコンテンツなどを提供しています。

●管理職の育成についてはいかがでしょうか。

村尾氏:組織の目標を達成するだけでなく、メンバーを育成していくことも管理職の仕事の一つです。部長や課長に部下が求めていることを数値化したデータ(管理職サーベイ)を示し、意図を明確した上で研修を提供します。

●これまでの経験で、どのような人材がSB C&Sと相性が良いと感じていますか?

村尾氏:ソフトバンクグループ企業の特性上、変化のスピードはとても早いので、スピード感や変化を楽しめる人には魅力的な会社だと思います。

特にIT業界では、ついこの間まではやっていたものがすぐに古くなる業界です。まだ世の中で認知されていない商材はもちろんのこと、すでに取り扱っている商材も、お客さまにとっては当たり前ではありません。

常に情報収集し、知識レベルをアップデートする柔軟さとバランス感覚を要します。また、常にチャレンジし続けることを重視する職場ですから、「変化の少ない職場で安定して働きたい」という人とはなかなかマッチしにくいかもしれません。

以前よりも入社者の定着率が改善した理由は?

●多くの企業が抱える問題として、早期離職があります。入社前に抱いていたイメージとのかい離で離職するケースを見聞きしますが、SB C&Sでは早期離職の問題に直面したことがありますか?

村尾氏:コロナ前は、一時的に早期離職の割合が増加した時期がありました。業績が右肩上がりに成長しており、事前に定めた採用枠の数を満たすことが目的になっていた側面は否めません。

一方で現在は、入社後の社員が「思っていた仕事と違う」と感じるケースを防ぐために、中途採用の段階で当社の事業や仕事内容についてよく理解してもらい、相手に期待していることをこちらから伝える仕組みをつくっています。

部門間と人事間、部門とエージェント間での人材要件のこまめな擦り合わせも行っています。

また、採用のホームページをリニューアルして職種ごとの詳細を掲載し、我々の求める人物像について、積極的な発信にも努めています

そうした取り組みを経て、社員の早期離職は改善されていきました。

●昨今の企業が抱える新たな問題として、リモートワークの影響で、組織にうまくなじめず離職に至るケースが見られます。入社後の社員が組織になじむために、御社ではどのような対策をとりましたか?

村尾氏:新卒入社者のための「エルダー施策」、中途入社者のための「バディ施策」を通じて、新卒には1年間、中途には試用期間中、入社した社員へ既存社員が寄り添う制度を設けました

既存社員はチームメンバーと連携しながらモチベーションをケアし、業務の進め方を教える役目を務めます。加えて中途採用の社員についてはオンラインで交流会を開き、横のつながりをつくる取り組みも行っています。

IT商社の視点から考える「DX推進」のポイント

●d’s JOURNALでは、DX推進・DX人材について取材を重ねています。IT商社という御社の立場から、DX推進のポイントをお聞かせください。

村尾氏:「モノ」と「サービス」があっても、「人」が使いこなせなければDXは広がりません。私個人の考えとしては、DX推進のネックとなるのは、「人の教育」だと思っています。

●社会のDX推進におけるSB C&Sの役割についてどのように考えていますか?

村尾氏:我々は、ITのライフスタイルをつくっていく存在です。「モノを売る」だけでなく、「お客さまが使えるようにサポートする」というステージまで見届けるのも、DX推進の一助となるでしょう。

当社の技術者「エバンジェリスト(新商品・サービスの導入の専門家)」が、メーカーに代わって販売店様へ研修を行う事もありますし、販売店様の力を借りて、お客さまが商品やサービスを使えるようにサポートすることもあります。

また、当社は「ものづくり」や「プログラミング」などを始めとしたSTEAM教育事業も展開しています。簡易的なプログラミングをつくってみるなど、レッスンに参加した子どもたちは楽しんでいるようです。将来を担う子どもたちが、ITに関心を寄せるきっかけとなればと願っています。

●今後、どのようにして市場に存在感を示していくのかお聞かせください。

村尾氏:我々の会社は、ITの商社として最先端の商材を取り扱っています。技術サービスを「売る」だけではなく、技術導入支援の領域までサポートさせていただくような事業を目指していく所存です。

【取材後記】

SB C&Sが取り扱う商材の数は、40万点以上。キャッシュレス決済サービス、オンライン会議サービス、ソフトウエアなど、日々の暮らしの中で、同社が絡んだ製品やサービスを頻繁に目にしているはず。めくるめくスピード感の中で膨大な商材を扱う同社。豊富な知識だけでなく、世の中のトレンドの風を読む能力こそが、2022年以降のビジネスシーンで必要になりそうだ。

取材・文/鈴政武尊・北川和子、編集/鈴政武尊・d’s journal編集部

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